「いらっしゃーい!」
「ありがとうございましたー!」
「春信、時間空いたから奥で食ってきな。」
「はい!」
厨房の奥の部屋でまかないに箸をつける。
食べ始めるとまた涙がこぼれた。
「銀。。。」
体を動かしている間は何も考えなくてすむのに。。。
ふとした瞬間に考えてしまう。。。
銀はもういない。
死んでしまった。
たった一度話しただけの、小さな女の子。
彼女の笑顔を見てしまった。
彼女の頑張りを見てしまった。
彼女の最期を。。。
「うぐっ、うえぇっ、銀。。。」
嗚咽が止まらない。。。
「ウジウジしてんじゃないよ!」
チーフの蹴りが尻に炸裂した。
「さっさと食って、戻んな!仕事はいくらでもあるんだよ!」
いつもと同じように接してくれる事がありがたかった。
体を動かして、疲れ切るまで働いて、
部屋に帰ったらまた泣いて、
すぐに泣き疲れて寝てしまって。。。
働きだしていて良かった。
働いていなければ、きっと一日中泣いていただろう。
何もせずに、そのまま朽ち果てる気になっていたかもしれない。
一度決めたんだ。
勇者たちのサポートをするって。
小さなことでもできる事をやるって。
だから続けなきゃ。。。
でも。。。
銀はもういないのに、僕はここで何を続けるんだ。。。
考えはループする。
決めた事だ、やり遂げよう。
そのきっかけの少女はもういないのに?
思考は終わりがない。
だから働く。
考えなくてすむように
力一杯体を動かす。
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あれからミッションルームには行っていない。
銀にすがるように泣いていた2人の少女の事は気にかかるが
その戦いを見届ける気にはとてもなれない。
彼女たちの戦いは、始まってしまえば僕たちに出来ることはない。
始まった事すら気付けない。
終わった後で知って、その戦闘データを次に活かすだけだ。
みんなそれでも出来る事をやっている。
だから僕も働く。
考えちゃダメだ。
体を動かすんだ。
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日常に身を置くって凄い。
あれだけ悲しかった事が、
考えるだけで立ち止まってた足が。
押し潰されそうな感情が。
日常に埋もれて薄れていく。
あれから季節が変わってもう秋を迎える。
バーテックスはあの後、一度だけ出現したらしい事。
勇者のパワーアップがなされている事。
夏の間の2人の少女の頑張り。
食堂にいるといろいろな事を耳にする。
未だに僕の行為が彼女たちの役に立っているのか
自信はもてない。。。
他に何かできることがあるんじゃないか
そう考える事もある。
でも答えは出ない。
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ある日から大赦内が騒然としていた。
「鷲尾須美に神託が下ったそうだ。」
「近日中にまた複数のバーテックスが襲ってくるらしいぞ。」
「複数って、まさかあのときみたいに…」
「大丈夫さ、新しい勇者の力があれば、きっと撃退してくれる。」
「なんたって今度は神樹様の使い、精霊が付いてるらしいからな。」
「勇者に必殺技も出来たって聞くぜ」
「次の戦いが決戦になるかもしれないな。」
日を追うごとに氾濫する情報。
だそうだ。。。らしい。。。きっと。。。かも。。。
大赦内部でも情報が交錯しているのか、あやふやな言葉が飛び交う。
(なんだよ、精霊って。。。必殺技って。。。)
勇者や神樹様、バーテックスといった言葉に慣れていても違和感を感じずにはいられない。
(アニメやゲームじゃあるまいし、そんなものが。。。)
(大体そんなものがあるなら、もっと早く。。。)
考えて頭を振った。
(いけない、また銀のことでマイナスに考えるとこだった。。。)
(精霊や必殺技も本当かもしれないのに)
(技術部の人たちの開発や、少女たちが特訓であみ出したのかもしれない)
(そうだ、少なくとも複数の敵が来ても皆が大丈夫って思える要素があるんだ!)
(ひょっとしたら今度は撃退なんかじゃなく、敵を倒す事だって。。。)
その時だった
地響きと共に大地が揺れる。
棚にあった食器が落ちる。
立っているのがやっと。。。いや
さらに増す揺れに立っている事すらできず、テーブルの下に必死で潜り込んだ。
(四国で地震なんて!)
神樹様が根を張り、護られている四国では地震など起きない。
幼い頃からそう伝え聞いていた。
しかしこれは尋常な揺れではない。
食堂の天井が抜け落ち、瓦礫がテーブルの上に降り注いでいた。
「ひっ!」
目の前に血まみれの男性が倒れこむ。
瓦礫が頭に当たったんだ。。。
「う…ううっ」
かろうじて意識はあるようだが、すぐにも手当てをしないと死んでしまうかも。。。
。。。死ぬ?
。。。僕の目の前で人が?
。。。また?
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!」
咄嗟にその人の肩を抱き、持ち上げるが、重くてとても走る事など出来ない。
「誰か!誰か助けてください!怪我をした人がいるんです!」
必死に声をあげて助けを呼ぶ。
「春信!そこにいるのかい!?」
瓦礫のせいで土煙が上がり、まるで視界が利かないが、チーフの声が聞こえた。
「チーフ!います!ここにいます!怪我をした人が!血まみれで!」
泣きじゃくるようにチーフに助けを求めた。
「待ってな!いま…」
チーフの声がする方向から人影が近づいて来る。
が、チーフじゃない。。。
「大丈夫か、君!」
その人はそのまま怪我人の反対側の肩を抱き上げ、一緒に運び出してくれた。
「春信!無事かい!」
「ごほっ!は、はい。。。」
思い切り叫んだせいで土煙を吸い込み、喉が痛い。
「チーフはそのまま彼らを医療ブロックへお願いします。」
「あそこなら此処ほど脆くはないはずです。」
「アンタはどうすんだい?」
「ウチの女子力高いカミさんが、まだ奥で人助けしてるんですよ。」
ニカッと笑って話す。
「避難させたら二人でそっちに行きます。」
言うや否や、駆け出す男性。
「犬吠埼!」
チーフがそう呼んだ男性は土煙の中に再び飛び込んでいった。
「…くっ春信、立てるかい?」
「あ、はい。。。」
「じゃ、そっち抱えてくんな」
チーフは心配そうにしながら僕と怪我した人を医療ブロックまで運んでくれた。
医療室に着いた頃には揺れは収まっていたが、何人かは大怪我をして呻き声を上げていた。
僕も軽い怪我をしていたので、そのまま処置してもらっていた。
そんな中だった。
若い女性の金切り声が聞こえたのは。
「助けて!助けてください!私を逃がそうとした男性と女性が!瓦礫に!」
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過去編その7です。
銀の死を中途半端に引きずったまま、春信は日々を過ごしています。
そんな中、いきなり襲う自然災害。
そこでの出会いと別れは春信に何を残すのか。
それではまた。