あの日、四国を大きな自然災害が襲った。
死亡者二名、負傷者十二名。
犠牲者は僕を助けてくれた犬吠埼さんとその奥さん。
最後まで避難誘導に立ち、逃げ遅れたのだそうだ。
僕が怪我人を一人で運べていたら。。。
そんな考えがよぎる。
犬吠埼さんはもっと早く奥さんと合流して
瓦礫の下敷きになる前に避難できたんじゃないか?
起こってしまった事実に対して、たら・れば は無意味だ。
でも考えずにはいられない。。。
うっかりそんな話をチーフに漏らした。
「自惚れんじゃないよ!」
尻を蹴飛ばされた。
「自分ひとりが頑張れば死んだ人が死なずに済んだなんて!」
「アンタはあそこで怪我人一人、自分だけじゃ運べなかった!」
「アンタにはあれが限界だった!」
「運べていたら、なんて考える暇があったら!」
「次には運べる自分になりな!」
何度も何度も蹴られた。
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ」
僕は泣きながら謝った。
チーフは知っていたんだ。
僕が犬吠埼さんの死に涙も流せていなかった事を。
泣くきっかけが必要だった事を。
泣く事で前に進めるときもあるって事を。
だから過去に対しての たら・れば じゃない。
この先もし同じような事が起きたら。
その時の為に動こう。
そうしないと犬吠埼さんも浮かばれない。
だから。。。この体を鍛えよう。
少しでも人の役にたてる身体にしよう。
その日から僕は自室でこっそりと筋トレを始めた。
最初は腕立ても腹筋も1回すら数えられなかった。
それでも毎日続けた。
まずは1回できるように。
休憩を入れて何回かできるように。
休憩をできるだけ減らすように。
食堂の復興作業に疲れていてもできるだけやった。
食堂が再開できるようになった頃、
なんとか10回くらいは数えられるようになった。
昔のスポーツ少年時代を考えるとまだまだだが、それでも少しの進歩だ。
食堂が再開されるとまた大赦中から人が集まるようになった。
人が集まるところでは情報も集まる。
「自然災害はバーテックスとの決戦で被害を受けた樹海の影響らしい」
「瀬戸大橋が破壊され、外ではその無残な姿に皆泣いたらしい」
「二人の勇者は複数のバーテックスを退け、敵に大打撃を与えたらしい」
「その戦闘で勇者二人は深手を負い、特に乃木園子は戦闘終了時、五体満足ではなかったらしい」
「巫女の神託によると敵も深手を負い、1・2年は襲ってこないらしい」
「次の襲来には更なる勇者を召喚するらしい」
「敵の弱点がわかり、撃退ではなく討伐できるようになるらしい」
そんな中でもおかしな情報は混じってくる。
「勇者は敵に傷だらけにされたが、精霊の力で命は救われたらしい」
「勇者の傷は敵にやられたものではなく、精霊に奪われたらしい」
まるで相反する話だ。
後者の話にはまるで信憑性がない。
なのになぜこんなに広まっているんだろう。。。
「勇者システムの開発に携わった中に自殺未遂に及んだ者がいる」
「開発者は不死身の勇者システムを作るつもりだったが」
「出来たのは人身御供のシステムだった」
「死なない代わりに身体を供物にささげるシステム」
「そんな物を作った自分は許されないと言っていた」
日を追うと、こんな尾ひれまで付いて話は広まっていった。
まるでそんなオカルトを裏付けるかのように、
「乃木園子に回復の見込みはない」
そんな噂も流れていた。
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確かめる必要がある。
僕はミッションルームのモニター前にいた。
バーテックスが暫く来ないという話だったが、
ここにはいつも通り作戦中のような張り詰めた雰囲気があった。
「二人の勇者の戦闘記録を見せて下さい。」
コッソリ見れない以上、正攻法で頼むしかなかった。
あの黒服の男がオペレーターに声をかける。
「見せてやれ。」
あっさりと許可された事に僕は驚いた。
(噂はあくまで噂ってことか?)
(記録を見せても問題ないって?)
疑問は残るが、とにかく見せてもらえるなら見よう。
そして確かめよう。
5度目のバーテックスの襲来。
少女たちが2人だけで戦う最初の戦闘。
「それがどうしたっ!」
「はぁぁああぁああああ!!!!」
「いくよ~~~!!!!」
「敵増援なし。援護開始!!!」
「勇者は根性よ!」
「そうだね、勇者は根性~!!!」
一人欠けた事による明らかな戦力低下。
それを無理やり補う気迫と粘り。
数時間に及ぶ戦闘後、2人とも精も根も尽き果てた様子だった。
「ふう。。。」
思わず溜息が出る。
2対1でこれだけの苦戦、複数の敵が来たという決戦はどうなったのか。。。
「次も続けて見ますか?」
オペレーターから心配そうに声をかけられる。
「お願いします。」
不安に駆られるが、ここまで来て見届けないわけにはいかない。
6度目の襲来、決戦の記録映像が再生された。
「装備が。。。!」
最初に気付いたのは鷲尾須美の武器が弓から銃に変わっていた事だった。
そしてやはり敵は2体。
話に聞いたとおりだった。
「強いっ!?」
先頭を突き進むバーテックスに鷲尾須美が与えた一撃。
それはあっさりと敵の突進を止めた。
さらに敵を切り裂く乃木園子。
見た目は変わっていないが、その槍も明らかにパワーアップしていた。
「あっ。。。!」
敵の攻撃で吹っ飛ぶ乃木園子。
だが。。。
「わぁ~これが精霊のバリア…凄いよ~。なんともないよ?」
そう、バリアだ。
小さな烏天狗が乃木園子の被弾直前にバリアを張り、助けた。
そうとしか見えなかったのだ。
精霊?本当にいたんだ。。。
2人の火力はそのまま1体目を壁の向こうにたやすく追いやる。
だが、感心している暇もなくもう1体の敵が動き出す。
大橋沿いを近づく巨大なバーテックス。
そのとき、海中からもう1体が飛び跳ねて乃木園子に向かって行った。
「3体目?!」
だが、僕の驚きを余所に鷲尾須美の射撃がそいつを迎え撃っていた。
ひるんだ敵に斬りかかる乃木園子。
その刹那、モニター上を光の帯が横切る。
ビームだ。巨大バーテックスのビームが神樹様本体を狙ったのだ。
しかし射程が短いのか、神樹様には届かない。
そのまま突き進む巨大バーテックス。
「ここで使う!満開!!」
モニターに響く鷲尾須美の声。
光を放ち変身する鷲尾須美。
その姿は艤装。。。とでも言えばいいのか?
いくつもの砲台を供えた装置が鷲尾須美の周囲に展開している。
「マンカイ。。。?!」
2段変身を遂げたその姿はゆっくりと宙に舞い、敵を砲撃の中に晒させる。
その身を削られ、海へ沈む巨大バーテックス。
しかし樹海化は解除されない。
まだ海の中で機会をうかがっているのか。。。
静かになった大橋で鷲尾須美の2段変身が解ける。
「長時間は満開していられないようね。」
「でも凄かった~!後でサイン頂戴。」
「そのっちも満開使えば…!?」
「ど、どうしたの、わっしー?」
二人の会話の様子がおかしい。
見ると鷲尾須美がへたりこんでいた。
「…?足が、足が、動かない。」
「え、どうして~?敵にやられたの?」
「バーテックスが動いてる!」
端末を見て叫ぶ鷲尾須美。
相変わらず海は静かだが、端末にレーダーでもあるのか。。。
再び姿を現し前進を始める巨大バーテックス。
にわかに海がざわつき、3体目の敵が飛び掛ってくる。
それを槍で迎撃する乃木園子。
「溜まった!満開~!!」
やはりマンカイって言った?
溜まったって何かエネルギーを溜めて変身するのか?
光を放ち大輪の花が咲く。
乃木園子の2段変身、満開が姿を現した。
乃木園子と鷲尾須美の攻撃でみるみる削られ、海に沈む巨大バーテックス。
3体目も海に潜ってまた静かになる。
「これ海の中に追いかけちゃおうか~?」
「いえ、海中には魚座がいるわ…名前の通りおそらく水の中は強いはず、危険よ。」
「よ~し、今度こそ諦めたかな?」
「でもレーダーを見るに2体とも動いてないわね、しぶとい…」
「えーと、レーダー…あれ…?」
「どうしたの?」
「目が…片っぽの目が見えない~」
「え?」
「もしかして、敵の攻撃…?やられる事で呪詛を送り込むとか」
「神樹様の力を持ってる私達にそんなの効くかな…精霊だって守ってくれているのに~」
「じゃあ、どうして…」
また敵が動き出したらしい。
「私は獅子座を!満開!!」
「あっ!わっしー!」
「どうしたの?」
「ううん、私は魚座でゲージ溜めてるね~」
獅子座と呼ばれた巨大バーテックスと正面から撃ち合う鷲尾須美。
火力の差は歴然だ。
攻撃を届かせる事もできず、どんどん獅子座は削られていく。
「おおおぉおおお!!!!!」
削られた獅子座から何か光が見える。
急所。。。?
その急所らしき光から攻撃を受け、吹っ飛ばされる鷲尾須美。
「わっしー!!」
呼び声に鷲尾須美は反応していない。
精霊ガードはどうしたんだっ。。。
大橋が大きく揺れている。
海中から敵が橋を攻撃しているのか。。。?
鷲尾須美を抱えて橋から陸地へ跳躍する乃木園子。
「わっしーが、獅子座を痛めつけてくれたおかげで、私一人でもなんとかなるよ~」
「満開!!」
「勇者は根性、だよね~ミノさん!」
ふいに乃木園子の口から出た名に胸が痛む。
乃木園子は2体のバーテックスに真正面から飛び込んで行った。
その後の戦いは。。。
戦いと呼んでいいのか。。。?
敵を斬り刻み、蹂躙する乃木園子。
敵は不利になると海に逃げる。
再び姿を現す敵を斬りつけ、満開する。
十回以上もそんな事を繰り返し、敵を壁の向こうまで追いやる。
察しの悪い僕が見てもハッキリわかる。。。
満開とその解除を繰り返すたびに身体のどこかに不調を抱えた様子。
あれは敵の呪いなんかじゃない。。。
満開、それ自体の呪いだ。。。!
(「人身御供のシステム…」)
食堂で聞いた噂が頭をよぎる。
「どうして。。。」
あの男に問いかける。
相変わらずこちらを向こうともせず
「勇者を死なせない為だ。」
「あの子達は知っていたんですか。。。?」
「ご両親には伝えてある。本人には言わないようにと付け加えてな。」
「どの両親も涙を流して承知したそうだ。」
「なんでっ。。。」
「お前なら言えるのか?」
「愛する家族に『人身御供になれ』と。」
「。。。!」
夏凜ちゃんの顔が思い浮かぶ。
「それでも。。。!他に方法が。。。!」
「あるなら言ってくれ。」
男が初めてこちらを向いて話す。
「他に世界を、彼女たちの命を守る方法があるなら教えてくれ。」
「俺たち男には、大人にはサポートしかできない。」
「自分が戦う事すら出来ないんだ。」
相変わらず抑揚無く、淡々とした言い方だった。
「くっ。。。!」
僕は部屋を飛び出していた。
(こんな事って。。。あんな事が。。。!)
廊下を泣きながら走る僕の耳に懐かしい声が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
三好夏凜。。。そう、僕の最愛の妹だ。
「夏凜ちゃん、どうしてこんなとこに。」
汗を拭くようにして涙をごまかした僕に夏凜ちゃんは
「私、勇者になったのよ!」
(え。。。)
「ここに来てるんだから知ってるよね、お兄ちゃんも」
(何を言っているんだ。。。)
「私たちの世界を守る勇者がいるって事!」
(やめてくれ。。。)
「私はその適性を持った」
(銀が。。。)
「神樹様に選ばれた勇者だったのよ!」
(鷲尾須美が。。。)
「まだ勇者になった事はないんだけど」
(乃木園子が。。。)
「これからここの奥に住んで、勇者としての教育と訓練を受けるの!」
(どんな目に遭ったか。。。)
(「どの両親も涙を流して承知したそうだ。」)
あの男の言葉。。。
あの両親が、今度は夏凜ちゃんを大赦に売ったんだ。。。!
「か、夏凜ちゃん。。。」
話そう、全てを。そう思ったとき
「三好夏凜さん。」
隣で立っていた女性が口をはさむ。
「勇者にはあまり時間的余裕はありませんよ、だから親元を離れてここへ来たんでしょう?」
女性に声をかけられ、ハッとした表情で夏凜ちゃんは
「そうだったわね」
「これからは私が皆の期待を背負って世界を守るわ、もちろん”兄貴”の分もね!」
「お兄さんも、申し訳ありませんが。」
そして僕に囁いた。
「まさか
「勇者に選ばれたからには戦わない訳にはいきません。」
「その上で愛する家族にその事を話せるのですか?」
そう言うと、黙ってしまった僕にニッコリと微笑み
「では、妹さんは、大事に預からせていただきますね。」
あ。。。
行ってしまう。。。
夏凜ちゃんが。。。
勇者になる為に。。。
・
・
・
・
・
僕は。。。何もできなかった。。。
止める事も、全てを明かす事も。。。
「ああ。。。」
「ああああぁあああああっ!」
叫びながら僕はミッションルームへ駆け込んだ。
あの男がいる!
「僕を勇者にしてくれ!」
男は一瞥もくれず応える。
「無駄だ」
「前例が無いのはわかってる!」
「でも、だったら僕が最初の前例になればいい!」
「世界を守る為に満開だって何だってしてやる!」
「僕を鍛えてくれ!」
男が近づき。。。
「甘えるな!」
僕を殴り飛ばした。
「鍛えてくれだと?」
「勇者候補になりたいと言うなら」
「まず、そのだらしなく太った身体を、人並み以上に戦える身体にして来い!」
「そうすれば師匠でもなんでもつけてやる!」
「言ったな。。。」
殴られて恫喝されたくらいで、今の僕は止められない。
「必ず約束は守ってもらうぞ!」
僕は駆け出した。
まずはトレーニングルームだ。
今までは恥ずかしくて自室でやっていた筋トレも
周りから笑われたって続けてみせる!
おデブが勇者などと笑わば笑え!
決意を固めて飛び込んだトレーニングルーム。
しかしそんな事は杞憂だった。
そこは他に目もくれずトレーニングする人たちで溢れかえっていた。
「俺がっ勇者にっなるっ」
「少女たちはっ俺がっ守るっ」
「満開っなんぞっさせるかっ」
そこかしこでそんな事をつぶやきながら筋トレしている。
記録映像を隠さないわけだ。
何のことはない、あの男はこれを狙っていたのだ。
男だから勇者にはなれない。
そういう前提がここの皆に諦めを根付かせていた。
でも、前例がないからと言って本当に男が勇者になれないのかはわからない。
そして勇者になって戦うからにはその覚悟と能力が必要になる。
「あの乃木園子の戦いを見れば、奮起しない男はいないか。。。」
よく見ると女性職員もそこかしこにいた。
子供にばかり戦わせられない、そういう思いがここをこんなに溢れさせたのだ。
妹の事になるまでその考えに至らなかった自分を少し恥じた。
そんな心までおデブの僕は皆より勇者の適性は低いかもしれない。
「それでも。。。少女たちの護った世界を守るために」
「そして夏凜ちゃんを戦わせない為に」
「僕が勇者になるんだ!」
時は神世紀298年
次のバーテックスの襲来まで
大赦は静かにそのときを待つ
過去編その8
神樹暦298年の話はここまでです。
「僕の理由」が決まり、やっと勇者となる為に動き出した春信。
次は神樹暦300年、友奈たち4人が勇者部として活動している時期へ
勿論、その間、春信は必死の努力をします。
しかしそんなことで前例のない男の勇者適性者となれるのでしょうか?
それでは次回まで。