三好春信は『元』勇者である   作:mototwo

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このお話には原作アニメのネタバレ、おかしな改変が含まれます。



第15回 神樹様に仕える勇者

勇者適合検査。。。

四国全土に手広くやっただけの事はある。。。

正直、ただの健康診断・身体検査と言われても誰も疑問視しないだろう。。。

そんなもので僕のなにが分かるっていうんだ。。。

なんで勇者になれないって決めつけられるんだ。。。

 

あの日受けた勇者適合検査で

僕は『不適合』の烙印を押された。

 

一度不適合となった者は、もう二度と検査を受ける事は出来ない。

そんな奴の相手などしていられない。

そんなに大赦は暇じゃない。

 

僕はもう。。。

勇者になれない。。。

夏凜ちゃんを救えない。

鷲尾須美を守れない。

犬吠埼さんの娘達を助けられない。

新しい勇者の子も。。。

乃木園子の。。。

銀の敵も。。。

討てない。。。!

 

何日経ったんだろう。。。

自室に篭って泣き明かした。

疲れて眠ると『不適合』の烙印を押された夢に目覚める。

でももうこれは夢じゃない。

また涙がこぼれた。

夢遊病のように大赦内をふらついた。

不思議と誰とも会わなかった。

足が自然とその場所へ向かって行った。

 

神樹の間、まことしやかに囁かれる大赦の中心部。

 

三好家は大赦に仕えるといっても末席、乃木や鷲尾のような格式があるわけではない。

本来ならこの場所に来る事さえ許されないのだ。

 

なのに僕はここにいる。

もちろん許可なんてもらってないし、やるべき禊の儀式もしてはいない。

もしかしたら自室で寝込んで見ている夢なのかもしれない。

 

(そうでもなきゃ、この場所は僕なんかが入っていい場所では。。。いや、入れないようになっている筈の場所なんだ。)

 

神樹様。。。神樹。。。

神の樹と言うだけあって見た目は樹木だ。

西暦の終わり、神世紀の始まり。

人類を世界中に蔓延する死のウィルスから守るために、いくつもの土着の神様があわさってこの木になった。

そう伝えられている。

 

(つまり見た目は樹木でも神様そのものということ。。。らしい。)

 

いま、僕の心は(すさ)んでいる。。。

この2年の思いを、神樹にぶつけたくてここにいるのだ。

怒り

憎しみ

悲しみ

疑問

神様への敬愛や感謝とは程遠い

そんな感情を持った人間が来てよい所ではない。

大赦の者が知ったら即座に排除すら考える、(おそ)れ多い事だ。

 

(神罰でも下そうっていうのか。。。それでもいい。)

 

「なあ。。。神樹様。。。神様よぉ!」

 

ガッ

神樹の幹に叩きつけた拳が痛い。。。

夢では。。。ないのか。。。?

 

「なんでアンタは清らかな乙女ばかり選ぶんだ!」

 

段々と語気を荒げ、拳と共に感情をぶつけていった。

 

「あんな過酷な戦いになんで少女ばかりを!」

「なんで体を供物にしなきゃならない!」

「なんで鷲尾須美から記憶を奪った!」

「なんで乃木園子をあんな体にした!」

「なんで三ノ輪銀を殺した!」

 

銀の名前を口にすると心が痛む。。。

拳を止め、神樹にすがりつくようにもたれかかった。

拳から血が流れ、言葉は力なく震えていく。

 

「なんで。。。夏凜ちゃんなんだよう。。。」

「なんで僕じゃないんだ。。。」

 

涙が溢れ、零れ落ちていた。

 

「僕ならいくらでも体を供物に奉げるから。。。」

「どれだけボロボロになっても戦い続けるから。。。」

 

ドンッ

 

「俺に戦わせろぉっ!」

 

両拳を神樹を叩きつけ、涙ながらに叫んだ。

その声は空しく虚空に消えてゆく。

僕には。。。

嗚咽を漏らし泣き伏せることしかできなかった。

『面白いな、お前』

 

「えっ?」

 

『ワシらがこの場所に立ってから300年、お前みたいなのは初めてだ』

 

春信はキョロキョロと周りを見渡すが、声の主の姿はない。

それどころか、さっきまで目の前にあった神樹がなく、何もない空間に体を漂わせていた。

 

『ああ、気にすんな、精神世界って奴だ』

 

(精神世界?まさかこれって)

 

『そう、ワシ、神樹』

 

(声に出してないのに?!)

 

『わかるよ、これはお前の心の中の出来事だから』

 

「へ?」

 

(夢。。。ってことか?いつの間にか寝ちゃったのか?)

 

『そうとも言えるし、そうじゃないとも言える』

 

「また心を!」

 

『読んだとか言うなよ、お前の心の中なんだ、話すのも考るのも同じようなもんさ』

 

「嘘や言い訳はきかないって事か。。。」

 

『そ、物分りがいいねぇ』

 

「ふうっ」

 

春信は溜息をついて頭が整理できていないまま言葉をつむいだ。

 

「神樹様が人と話せるなんて聞いてない。」

「2年前に鷲尾須美に語り掛けた時も星が降ってくるようなイメージでバーテックスの大襲来を告げたって。」

 

『そりゃワシに触れる奴らがみ~んな神様に畏怖していたからさ』

『神様は特別な存在だ、自分と同じ言葉なんて話さない』

『心のどこかにそういう思いがあるとワシらの声は言葉として認識できなくなる』

 

「僕には神様への敬意が足りないって事?」

 

『っていうか、言いたい事言って、泣き疲れて、何にも考えてなかったんじゃろうな』

 

嫌味のつもりで言った春信の言葉は、簡単な説明で受け流されてしまった。

 

『そもそも、敵意や邪念を持っている時点でワシらの声を感じる事すらできんのよ』

『神への敬意がなく、それでいて無心』

『その状態でワシらに触れていたという偶然が言語として認識できる接触を生んだんじゃ』

 

「ふ~ん、なるほど。。。」

「でも、なんでそんな。。。車掌さんみたいな声でそんな変な喋り方なの?」

 

『銀河鉄道999か』

 

目の前に999の車掌さんの姿が現れ、話し出した

 

「なぜわかった!」

 

『言っとるじゃろ、お前の心の中じゃと』

『お前の記憶は全て共有しておるし、そうでなくとも神様はなんでも知っとるもんじゃ』

 

『さっきお前が東郷美森を引き合いに出したであろう』

『繋がった者のイメージがワシらの声として現れる』

『人は神の映し身、故に神が姿は己の心にある』

 

『お主は先程まで神の姿など思いもせなんだ、だから何も見えなかった』

『話し方がおかしいのもお前がそうイメージしているだけじゃ、ワシらの声をそう感じとるんじゃよ』

 

車掌さんの姿がスッと消える。

 

「なるほど、この話し方は僕が色んな物語で知った、神仏のように達観したキャラをイメージしているわけか。。。」

 

『らしいの』

 

「で、なんで神様は僕と話そうとおもったわけ?」

 

『別に』

 

「おいィ?」

 

『だから言っておるじゃろう、偶然話せる状態が出来ただけじゃと』

 

「それでもそのまま放置する選択だってあったでしょう!」

 

『ただの気まぐれじゃよ』

『こんな機会はそうそうないからな、久々に人と話すか、そう思っただけじゃ』

 

「きま。。。ぐれ。。。」

 

『そう、お前が考えているような、心からの声に答えたとか、神託を下そうとしたとか、そんな事はぜ~んぜんない』

 

「いちいち引っかかる言い方を。。。」

 

『それもお前がワシをそう見ておるという証拠でしかない』

 

(ワシの言葉は心の鏡ってか。。。?)

 

『そそ、そういうこと』

 

「くっ」

 

わかってはいても、心で思ったことすべてに返事をされるのは気持ちのいいものではなかった。

 

(それなら。。。)

 

『ん?』

 

「それなら気まぐれでいい!答えてよ!」

 

『神はなんでも知っていても、なんでも出来るわけじゃない』

『特に相手が同じ神であるならな』

『人が人の世界を守るには自ら戦う必要があるのだ』

『無垢なる少女が選ばれるのではない、それ以外の人間がワシらとの繋がりを拒絶しておるのだ』

『なんの代償もなしに人が神の力を手に入れた結果をワシらは何度も見てきておる』

『供物のシステムは変えられぬ』

『鷲尾。。。』

 

「ちょっ、ちょっと待った、ちょっと待った!」

 

淡々と語られる神の言葉に思わずストップをかける。

まさか本当にあっさりと教えてくれるとは思っていなかったのだ。

 

『わがままじゃのう、せっかく全て答えてやろうというのに』

 

「いや、まさかこんなに一気に教えてくれるとは。。。」

 

『言葉としてはそうかも知れんが、ワシらの声は既に情報としてお前の中にある、待ったをかけたところで同じじゃぞ』

 

神樹の言うように

一気に話されて、まるで整理できないと思っていた内容は、すべて把握できていた。

それどころか、ストップをかけて聞かなかった筈の事柄まで頭に入っていた。

まるで世界の真実を叩きつけられたかのような錯覚すら起こす。

 

「酷い。。。話ですね。。。」

 

『世界の状況はもっと酷い』

 

「少女たちは戦い続けなければならない。。。」

 

『人の世界を守るのであればな』

 

「夏凜ちゃんには適性があって、僕にはない。。。」

 

『数値にでておる』

 

「夏凜ちゃんも乃木園子のように、体の機能を失っていく。。。」

 

『他の勇者も同じじゃ』

 

(言葉が。。。でない。。。)

 

神樹の言葉は春信の求めに的確で、それゆえに神の慈悲をいうものを感じられなかった。

 

(無慈悲な。。。)

 

『それもお前の勝手な思いじゃ』

 

「それでも!」

 

「それでも何か僕に出来る事があったっていいじゃないですか!」

 

(そうだ、こうやって神樹様と話すことだって出来たんだ、偶然だってなんだって。。。)

 

(偶然。。。?)

 

『気付いたか』

 

「いちいち考えてる事にまで干渉しないでくれ。」

 

「人にとって思いを口にするってのは、それだけでも意味があるんだよ。」

 

『ならば聞かせろお前の声を』

 

「神様の力を授かるのは無垢なる乙女」

「それは人が無意識に神様と繋がる事に畏れを抱いているから」

「無垢なる乙女しか神様と繋がれないから」

「逆に言えば」

「神様と繋がれるなら乙女かどうかは問題じゃない」

「偶然でもなんでも、いま僕は神様と繋がっている」

「だったら」

「いまの僕なら勇者システムを使う資格があるんじゃないのか?」

 

『は~い正解、おめでと~』

『褒美にジュースを奢ってやろう』

 

「9本でいい」

 

「『はあぁっはっはっはっはっはぁ!』」

 

春信はまるで顔を突き合わせているかのように神樹様と声を合わせて笑った。

 

(なるほど自分の心の映し身か。)

(なら対応は簡単だ。)

(一人でボケてノリツッコミをやるつもりで話せば気が楽だ。)

(そうだ、勇者になれるのなら)

 

『なにか希望があるか?』

 

「勇者のシンボルが花だっていうなら」

 

『ふむ』

 

「花はなんでもいい」

 

『ほう』

 

「薔薇でも椿でもカーネーションでも」

 

『なるほど』

 

「ただし、色は赤にしてくれ」

 

『またどうして?』

 

「赤は主人公の色だし」

 

『スーパー戦隊ね』

 

「。。。」

 

『…』

 

「な、名だたる武将たちも赤備えで戦場に出たっていう」

 

『例えば?』

 

「武田信玄や」

 

『天と地とか』

 

「島津豊久」

 

『DRIFTERSかいな』

 

「さ、真田幸村」

 

『戦国BASARAって』

 

「井伊。。直政。。。」

 

『戦国無双ときたか』

 

「。。。」

「いちいち突っ込みがマイナーだな、アンタは!」

 

『お前の知識がマイナーなんじゃ』

『大体、最後の二人が武田の赤備えを引き継いだことも知らんとかどういう偏り方じゃ』

 

(そ、そうだったのか。。。)

 

『それに赤に拘るのはちゃんとした理由があるんじゃろう?』

 

「うっ。。。」

「っていうか、心が見えるんだから言わなくてもわかってるんだろ。」

 

『思いを口にすることに意味があるんじゃろう』

 

先程の自分の言葉を返され、言葉に詰まる春信。

そう、赤に拘る本当の理由は別にあるのだ。

だが、軽々しくその名を口に出すことは彼女の行為を侮辱する気がしていた。

 

「。。」

 

『そうだな、軽々しく扱ってはいかん』

 

「。。。」

 

『貴様の決意を込め、その名に誓ってこそ意味がある』

 

「。。。。」

 

すうっ

春信は深く息を吸い込み、言葉を紡いだ。

 

「赤は。。。」

「赤は三ノ輪銀がまとった勇者の色だ。」

 

銀の名を口にするとその最期が思い出される。

 

「三ノ輪銀は正に命をかけて、友と。。。この世界を守った。」

 

涙が出そうになった。

 

「僕は。。。」

 

声の震えを押さえ、腹に気合いを込めて叫んだ。

 

「三好春信は!」

「三ノ輪銀と同じ赤をまとい、彼女が守ったものの為に戦う!」

 

『決して後悔しないと誓えるか』

 

「誓う!」

 

『誓いを破れば、すべてを失うことになってもか』

 

「応!」

 

『ならば受け取れ、勇者の力を、そしてその身を守る精霊を』

 

神樹様の言葉に腕を広げ、待ち構える春信。

 

「。。。?」

「あの」

 

『うむ』

 

「何か実際に受け取ったり、儀式があったりは。。。」

 

『ないよ』

 

「ないのかよ!」

 

『あえて言うなら、今の誓いが儀式じゃ』

 

「はあ」

 

なんとなく肩透かしを食らったようでスッキリしない。

 

『あとは注意事項くらいかの』

 

「注意事項?」

 

『あくまでお主の勇者適性はゼロ』

『たまたま、偶然、お情けで、力を手に入れるようなもんじゃ』

 

「適性ゼロ。。。ってか、言い方。。。」

 

『それ故、勇者への変身、能力の顕現には、他の勇者よりも強い意志が必要となる』

 

「なるほど、でもそれってどうやれば。。。」

 

『叫ぶんじゃ』

 

「叫ぶ?」

 

『今の誓いでもわかったであろう、人の声にはそれだけでも力がある』

『その言葉に意味があり、心を乗せることで更なる力が込められる』

『逆に力ある声を発することで心に力を込めることも出来るわけじゃ』

 

「意味ある言葉に力を込めて発する。。。」

 

『結城友奈の戦いを思い出せ』

 

春信の肩がビクンッと震える。

 

(結城友奈。。。最高の勇者適性値を持った、おそらく史上最強の勇者。。。)

 

『あやつのように阿呆になればいいんじゃ』

 

「は?」

 

『阿呆じゃよ』

 

「最強の勇者を神樹様が阿呆って。。。」

 

『中学2年生にもなった女子が勇者パンチとか、阿呆でなければ叫ぶまい』

 

「あ~」

 

思わず納得してしまう春信。

 

『アレの強さはそこにある』

『ワシらの力が使える勇者に選ばれた』

『大切な友達が目の前で怯えている』

『ただそれだけで己の中の恐怖を乗り越え』

『何の迷いもなく力を振るい、必殺技を叫んだのじゃ』

『一度信じたものはとことんまで信じ抜く』

『その心の強さが適性値の高さ、勇者としての強さなんじゃ』

 

先日見た結城友奈の戦いを思い出す。

 

(勇者に変身する前からその力を(ふる)っているみたいだった。)

(でもそんなこと、わかっていても僕に出来るんだろうか。。。)

 

『なあに、簡単じゃよ』

 

「え?」

 

『中二病じゃ』

 

「ブフゥッ!」

 

春信は思わず吹き出していた。

神様の口からとんでもない単語を聞いた気がしたのだ。

 

『厨二病と言った方がよかったか?』

 

「いらねーよ!」

「言葉だけじゃ違いわかんねーよ!」

「なのに文字がイメージされてビビルわ!」

 

『ぬしの頭ん中じゃからな、ここは』

 

(そうだったぁ~!)

(僕の知識レベルに近い話し方に脳内変換されてるようなもんだったんだ)

(すごく。。。恥ずかしい!)

 

そう考えている事も読まれている事実に半ば諦めながら問いただす。

 

「。。。それで?」

 

『ん?』

 

(心が読めてるくせに、こういう”やりとり”をするのはわざとなんだろうか)

 

「だから、中二病をどうするっていうのさ。」

 

『ふふふ、幸い、ぬしの頭の中には様々なヒーロー像が蓄積されておる』

『そのヒーローの必殺技でも変身ワードでもなんでもいい』

『本気で叫べば頭の中のヒーローがワシらの力の顕現を助けてくれるじゃろうて』

 

「なるほど、いい歳した男が本気で必殺技を叫ぶんですか。」

「これは恥ずかしい話ですね。」

 

『だったらそんなに嬉しそうにするな』

 

(そりゃあ嬉しいに決まってるさ)

(自分が勇者としてヒーロー達のように戦える!)

(鷲尾須美や犬吠埼姉妹たちを守ることが出来る!)

(そしてなにより、夏凜ちゃんを戦わせずにすむ。。。)

 

『本当に妹が好きなんじゃな、お前は』

 

「ああ、そうだよ。悪いか?」

 

どうせ心は見透かされてるんだと開き直る。

 

『いいや、家族を愛する事はとてもすばらしい』

『ワシらが人間という種族を愛した気持ちと似ている気がする』

『彼らにもそれがわかってもらえたなら、このような世界にはならなんだのだがな…』

 

そのとき春信は、初めて神樹様の声をちゃんと聞いた気がした。

言葉遣いこそ変わらないが、今まで自分の映し身として話していた神樹様が

神樹様自身の心を言葉にもらしたような気がした。

 

『まあ、お主はお主で頑張れ』

『チュートリアルはここで終いじゃ』

『そうそう、あと一つだけサービスサービスしてやるぞい』

 

(またわざとらしく、わかりやすい言葉を。。。)

「サービスって一体。。。」

 

『ゆめゆめ忘れるでないぞ』

『力ある声とさきほどの誓いを』

『なにものにも負けぬ心を…』

 

神樹様の声が遠のいていく。

 

(名残惜しい気もするけど。。。)

「僕は前に進むよ!」

 

春信は力強い声で神樹様に別れを告げた。

気がつくと僕は神樹様の、樹木である神樹様の前に突っ伏していた。

手からは血がジワリと溢れる。

神樹を殴った感覚と痛みが、ほとんど時間の経っていない事を知らせていた。

 

「夢。。。?泣き寝入りしてた?」

 

(『そうとも言えるし、そうじゃないとも言える』)

 

さきほどの神樹様の言葉が脳裏によみがえる。

夢とも現実ともつかないまま、ここにい続ける事はまずいと思い、そそくさと立ち去る。

コソコソと自室を目指していると

仮面をつけた大赦の烏帽子が、(おごそ)かに何か小さな箱を運んでいるのを見つけた。

本来なら見つからないよう自分が離れていかなければならない状況だが、

なぜか僕はその仮面男に声をかけてしまった。

 

「やあ。それは。。。?」

 

「き、貴様は三好の!」

 

仮面をしていてもギョッとしているのがわかる。

寝不足の上、泣きはらした顔が酷い人相だったのは確かだ。

普通ならその顔を見ただけでも驚くのは無理ないと考える。

でも、僕はなぜか確信していた。

 

彼は僕に会いたくなかったのだ。

 

更に近づき、箱の中を覗く。

箱には携帯端末が1つ置かれていた。

まるで神器を扱うかのような木箱に、似つかわしくない最新型の機器。

 

「それが三好夏凜に渡す端末か。」

 

「貴様には関係ない!」

 

手を伸ばそうとすると、明らかに警戒心をあらわにしている。

 

「関係なくはないだろう。」

「大事な大事な大赦の勇者様。」

「しかも僕の妹だ。」

「おかしなものを渡されちゃ適わない。」

 

「それを判断するのは貴様の仕事ではない!」

 

語気を荒げ、端末を守ろうとする仮面男に後ろから声がかかった。

 

「構わん、触らせてやれ。」

 

その言葉に仮面男が振り向いた隙に端末を取り上げた。

 

「あっ、貴様!」

 

「いいから好きにさせてやれ。」

 

あの男だ。

屈強な体にいつもの黒服を纏ってそこに立っている。

 

「よろしいのですか?」

「あ奴はついこの間、勇者の資格なしと判断された男。」

「三好夏凜の身内で満開の秘密も知っているんですぞ。」

「妹可愛さに端末を壊そうとするやも…」

 

「人の手で壊れるようなものでは使いものにならん。」

 

「それはそうでございますが…」

「そもそも男には勇者になる資格など初めから無いと決まっているもの。」

「それを未練がましくあのような…」

 

「未練か…未練なら俺にも…ん?」

 

「えっ?」

 

二人が話している間、夢の事を思い出していた。

 

あの夢を見た、すぐ後に僕の手に端末が。。。

こんな偶然があるのか。。。?

 

(『そうそう、あと一つだけサービスサービスしてやるぞい』)

 

この偶然こそが神樹様の導きなら。。。!

 

「僕が大赦の勇者に。。。」

 

呟いた後、また思い出す

 

(『力ある言葉と誓いを…』)

 

今なら。。。信じられる!

 

「おい!貴様!何を!」

 

僕の指が端末の画面に触れると、仮面男が静止しようとする。

 

「大赦の勇者に!俺はなる!!」

 

裂帛の気合を込めた言葉に答えるように端末が光り、突然現れた花びらは僕の身を包み込む。

 

「変身…した…」

 

「ひっ、このような!まさか!お知らせせねば!」

 

驚いて尻餅をついた仮面男は、引きずる裾を捲くり上げて慌てて駆けていった。

僕は。。。

自分の手を、足を、肩を見回し、その装束の赤さに見入った。

そして正眼に構える。

 

「どういう事だ、一体…」

 

今まで、この人には動揺という言葉があるのか、とさえ思っていた。

その男が自分の姿を見て呆れたように呟いている。

 

「まるでこうなることがわかってたみたいに迷いがなかった…」

「一体どういう事なんだ!三好春信!」

 

再び問いただす男に

 

『見事ナ仕事ダト関心ハスルガドコモオカシクハナイ』

 

いきなり現れた赤い鎧武者のような精霊が話す。

 

(神樹様と同じ声。。。)

(大昔の恥ずかしいネットスラング。。。)

(お前は中二病なんだってことか。。。)

 

そう思うと、ついさっきの事なのに懐かしさを感じ、クスリと笑ってしまった。

 

「フフッ、多分。。。神樹様のご神託ってやつなんじゃないですか。」

 

「多分ってそんなお前…」

「いや、そんな場合じゃない!」

「いくぞ!春信!」

 

男が腕を掴んで歩き出す。

 

「え?行くってどこへ?」

 

戸惑う僕を引っ張りながら、まくし立てる

 

「色んな所にだ!」

「初めて男が勇者になったんだ、まずはその事を上層部に認めさせる!」

「認めさせたら調整とトレーニングだ!」

「一刻も早く戦えるよう、今までの戦闘データを叩き込んでシミュレーションもやるぞ!」

 

振り向いて両肩をガッシリと掴んできた。

 

「お前が世界を守るんだ、少女たちを二度と満開させるな。」

 

両肩に乗せられた手が熱かった。

まるで男の情熱がそのまま伝わってくるかのような熱さだった。

心が震える、そんな気持ちが溢れてきた。

 

「僕が。。。」

「いや、俺が世界を守る!やぁってやるぜえぇっっっっ!」

 

気合を込めた言葉は心を鼓舞させる。

今ならなんでも出来る、そう思った。

大赦の皆もきっと喜んでくれる。

僕が皆の想いを背負って少女達を救うんだ!

三好夏凜、僕の最愛の妹。

三好夏凜、5人目の勇者候補。

三好夏凜、勇者になることを自ら望み、望まれた少女。

その三好夏凜が今、僕の目の前にいる。

 

「夏凜ち。。。」

 

「兄貴はズルい!」

 

声をかけようとする僕に詰め寄る夏凜ちゃん。

 

「いつもいつも、なんでも出来て、なんでも手に入れて!」

「父さん、母さんが褒めるのもいつも、兄貴ばかり!」

「私が何をしても敵わない、何をやっても届かない!」

「そんな兄貴をやっと越えられたと思ったのに…」

「なんでよ!」

「なんで私の勇者システムが兄貴の物になってるのよ!」

「それは私のものよ!」

「私にはそれしかないのよ!」

「返してよ!」

「私がやっと、自分の力で手に入れたものなのよ!」

「返してよ」

「返してよ…」

「お願いだから…」

 

夏凜ちゃんは声を震わせ、泣き崩れていた。

僕は夏凜ちゃんが泣くのが嫌で勇者となることを決めたのに。

夏凜ちゃんの笑顔を守りたくて勇者になったのに。

互いの心はこんなに離れていたのか。。。

 

。。。当たり前だ、僕が皆を拒絶したんだ。

世界を拒絶して、引き篭もって、夏凜ちゃんを泣かせたんだ。

 

今さら夏凜ちゃんを護ろうとしたなんて

理解してもらおうだなんて

そんなムシのいい話、あるわけがない。

 

だから。。。

 

「そうやって手に入らなかった物を泣いて懇願する。」

「それがお前の弱さだ、夏凜。」

 

「え…?」

 

「勇者の務めはそんなに甘いものじゃない。」

「そんな脆弱な心で戦っても死ぬだけだ。」

 

「あに…き?」

 

「だから、勇者システムは僕を。。。」

「俺を選んだんだ。」

 

夏凜ちゃんは困惑していた。

僕が夏凜ちゃんに厳しい事を言うなんて、今までなかったから。

 

「大体、あんな親父やお袋に褒められたいなんて、小せえんだよ。」

「欲しけりゃくれてやる、ノシ付けてな。」

「三好の家もお前が継げばいい。」

 

(だから。。。)

「手に入れたいものがあるなら」

 

(泣かないで。。。)

「泣いてんじゃねえ」

 

(いつも頑張る夏凜ちゃんが僕は好きだから)

「必死で努力しろ」

 

(こんな事で挫けないで)

「奪い取って見せろ」

 

(夏凜ちゃんのいる世界は僕が守るから)

「お前如きに後れを取る俺じゃあないがな」

 

僕は夏凜ちゃんに背を向け、目線だけで睨みつけて別れを告げた。

 

(さよなら、夏凜ちゃん)

「わかったら、去れ。」

 

そのまま離れていく僕の背中に夏凜ちゃんの声が響いていた。

 

「ちくしょう」

「ちくしょう…」

「アンタなんか…」

「アンタなんかぁっ!」

 

泣いていた。

夏凜ちゃんも僕も。

でも後悔はしない。

そう約束したんだ。

誓ったんだ。

夏凜ちゃんを地獄のような運命から救う為なら

どれだけ嫌われようが構わない。

この体が粉々になるまで戦い抜いてやる。

 

でも、それでも。。。

夏凜ちゃんの泣き顔を思い出すと

心がチクリと痛むんだ。

それくらいは

許してください

神樹様。

目が覚めると知らない天井が目に映った。

 




過去編その10、一旦終了です。
この後、春信はトレーニングとシミュレーションを終え、初陣を飾ります。
ちなみにTV第2話の時点で3体の敵が襲来しますが、
夏凜ちゃんはまだ調整中
春信は自室で引き篭もり中
であります。
第1話の翌日なんで、しょうがないですね。

分りにくいと思いますが、今までの過去編は春信が決戦後に入院したベッドで見た夢でもあります。
夢の中なので基本、ナレーションは春信の一人語りです。
神樹様とのやりとりは別ですが。
だから本文最後の1行も夢から覚めた春信のモノローグとなっています。

次回からは時系列を戻し、決戦後の話になります。
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