三好春信は『元』勇者である   作:mototwo

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このお話には原作アニメのネタバレ、原作そのままの台詞、おかしな改変が含まれます。


第16回 明日へのプロローグ

(目が覚めると知らない天井が目に映った。)

(白い天井、きっと大赦の息のかかった病院、その病室だろう。)

 

そんな事を考えながら春信は病院のベッドで目を覚ました。

右手に違和感を感じ、そちらを見てギョッとする。

そこには春信の手を握り、眠っている少女がいた。

 

(少女は特徴的なツインテールのとびっきりの美少女だった。)

 

勝手なモノローグで状況説明をしつつ、春信は少女の額から前髪のラインを指でなぞる。

 

(夏凜ちゃん。。。)

 

そう、三好夏凜。

勇者になったあの時、罵声を浴びせ、去っていった春信の妹だ。

 

「大変だったんですよ」

 

「え?」

 

声に振り向く春信。

そこには勇者部の4人がいた。

 

「傷だらけの三好さんの姿を見て、『お兄ちゃん、お兄ちゃん』って」

 

「私たちが春信さんに近づくのも許してくれなくって。」

 

「泣き疲れて寝ちゃったみたいだけど。」

 

「あんた、ホントに妹がいたんだね。」

 

「春信くんに似て、可愛い子だね。」

 

いろいろといきなり話されて戸惑っている春信が、最初に反応したのはこの言葉だった。

 

「そうだろう、ウチの夏凜ちゃんは可愛いだろう。」

「世界で一番の妹といっても過言ではないね!」

 

それに風も反応する。

 

「ほっほう、私を前にして世界一とは言ってくれるわね。」

「可愛さならウチの樹だって引けは取らないわよ!」

 

春信は更にノリノリだ。

 

「ふふん、樹ちゃんの妹としての可愛さは俺も認めるところではあるが。。。」

「残念ながら夏凜ちゃんの足元にも及ばないね!」

 

「はあぁ~?どこが及ばないのか言ってみなさいよ!」

 

「たとえば!さっき俺がなぞった、おでこのライン!」

「あれ一つとっても夏凜ちゃんのそれは黄金比を奏でている!」

 

寝ている夏凜の額を指差す春信。

 

「何言ってんのよ!おでこの綺麗さなら樹だって負けちゃいないわよ!」

 

樹の頭を抱えて額をぺしぺし叩く風。

 

「い、痛いよ…お姉ちゃん…」

 

「おでこの出し方が半端なんだよ!髪を短くしてお猿さんポイ可愛さアピールとか!」

「夏凜ちゃんのを見てみろ!」

「有り余る前髪をあえて真ん中分けで晒す、おでこの見せ方を知り尽くしている!」

 

「髪を短くしてんのは自信の表れよ!」

「前髪残すなんて、いつでも隠せるっていう逃げなのよ!」

 

「別に自信なんて…」

 

「なんだと!」

 

「何よ!」

 

どんどんヒートアップしていく二人とそれに挟まれる樹。

友奈と東郷も二人のわけのわからない勢いに何もできないでいた。

そこに…

 

「うっさ~い!」

「人が寝てる横でなに大声出してんのよ!」

「病室で騒いでんじゃないわよ!」

「少しは周りの迷惑も考えなさいよ!」

「大体、なんでおでこ談義になってんのよ!」

「私は別におでこを自慢してこの髪型にしてる訳でも」

「隠そうと前髪残してるわけでもないわよ!」

 

夏凜が起き上がり、怒鳴り散らす。

当然であるが、もう随分前に目は覚めていた。

ただ、兄に対してどんな態度で接するか、どんな顔で起きればいいのか分らず

そのまま伏せっていると二人が大声でおでこ談義を始めてしまっていたのだ。

 

ハアハアハア…

静寂に包まれた病室に夏凜の荒い息だけが響いていた。

微妙な空気に誰も第一声を上げられない。そのとき

 

「さっすが、春信くんの妹さん、突っ込み方がそっくりだね!」

 

結城友奈である。

こういうとき、友奈の空気を読まない、

ある意味、読みすぎる反応は春信にとってありがたかった。

 

「な…何言ってんのよ!」

 

夏凜が叫ぶ。

 

「あんた達が頼りないから、おにいちゃ…兄貴がこんなとこで寝込んでるんでしょうが!」

 

厳しい意見に場が凍りつく。

春信がそれは違う!と切り出そうとする瞬間。

 

「そうなんよだよねぇ、春信くんすっごく強くって」

 

頭をかきながら友奈が苦笑いで語る。

 

「満開っていう必殺技で、バッタバッタと敵をなぎ倒したんだよ!」

「すっごくカッコよかったんだから!」

「おっきな腕をこうやって…」

 

大きな身振り手振りで兄の活躍を語る友奈に、気圧される夏凜。

 

「あ、当たり前じゃない!」

「私の…兄貴なんだから…カッコいいに決まってるじゃない…」

 

頬を染めて目を逸らす。

 

「いいなぁ、夏凜ちゃん、あんなお兄さんがいて。」

 

「ちょ、夏凜ちゃんっていきなり下の名前、それにちゃん付け?」

 

「え、嫌だった?三好ちゃんだと春信くんと被っちゃうし。」

 

「ちゃん付けは決定なのね…別に呼び方なんてどうでもいいわよ。」

 

「うん、よろしくね、夏凜ちゃん!」

 

「だからなんでよろしくなのよ!私がさっき言った…」

 

「ふっ、プッ。。。」

 

いきなり吹き出す春信。

 

「な、何笑ってんのよ、おに…兄貴!」

 

「鬼兄貴…?」

 

「鬼じゃないわよ!」

 

(あの時と。。。部室で僕が話したときと、おんなじだ。)

(やっぱり結城友奈には敵わない!)

 

「あはははははははは」

 

春信の笑い声は病室にいつまでも響いていた。

 

そのあと、大笑いしている春信の病室に大赦のあの男がやってきた。

春信の意識が戻ったということで、5人はとりあえず戻るように言い渡された。

帰り際に春信が語りかける。

 

「夏凜ちゃん。」

 

振り向く夏凜。

 

「寝ている間に夢を見たんだ。」

「2年前からいろんなことがあって、」

「夏凜ちゃんに嫌われたと思ったあの時の夢。」

 

「あ…」

 

何か言おうとする夏凜の言葉を待たず続ける春信。

 

「目が覚めたとき、夏凜ちゃんの顔が見れて」

「安心した。」

 

「そう…」

 

優しく微笑みかける妹に明るく言う春信。

 

「でも今度からは『お兄ちゃん』って呼んでくれたらもっと安心するかも!」

 

「馬鹿…」

「ま、またね!おにいちゃん!」

 

背を向けたまま、勢いよく病室を出る夏凜。

振り向きもせずに放たれたその言葉に、春信は小躍りする勢いで喜んでいた。

5人が出た後、病室は再び静まり返っていた。

 

真剣な面持ちで話が切り出される。

 

「今回の戦闘での被害だが…」

 

「え。。。?」

 

「奇跡的に死者は0だ。」

 

「それってなんの。。。」

 

「バーテックスの攻撃で工事中の高架道路が落下したりもしたんだが…」

 

「はあ。。。」

 

「戦闘記録を見たぞ。」

「なんだぁ?あの『ニードルミサイル』ってのは?」

 

「え?マジンガーZの必殺技で。。。」

 

「だれが・そんな事を・聞いている。」

「忘れたのか、樹海を破壊すれば現実世界にも被害が出る。」

「あの・攻撃で・どれだけの・面積が・やられたと・思ってるんだ」

 

ファイルで春信の頭をバンバン叩きながら言う。

 

「ふえぇ?」

 

「山が一つ、半壊したんだぞ。」

「幸い、崩れた方面には人がいなかったから良かったが。」

「それを差し引いても大惨事だ!」

 

「え。。。あれ?」

 

「大方、その前の攻撃が四散したから」

「『勇者の攻撃では樹海は壊れない~』とか思ったんだろうが」

「どうやらそれが通用するのは神樹様本体だけらしい。」

 

「マジで?!」

 

「大マジだ。」

 

(なんてこった。。。)

 

あの日の災害と同じ事が。

そう思うとゾッとする春信だった。

 

「まあ、今回は人的被害もなかったし」

「アレ以外にあの素早い敵を捕まえる手段も思い付かなかったろう。」

「そういうことでお咎めはない、安心しろ。」

 

「なんだ、それならそうと。。。」

 

「お前はこうやって一度ビビらせとかんと、同じ事をやりかねん。」

 

(否定できない。。。)

 

反省して静かになった春信。

 

「…」

「全部で3回か」

 

「え?」

 

「満開は3回だけか?」

 

「見たんでしょ、3回。間違いないですよ。」

 

「どこだ?」

 

左の目と耳を指差す春信。

 

「。。。もう一つはまだ、わかりません。」

 

「すまんな、お前にばかり…」

 

「言わないで下さい。」

 

言おうとしているところに言葉をかぶせる。

 

「ここは病院です。どこで誰が聞いているかわかりません。」

「それに。。。」

 

キッと見つめて言葉をつなぐ。

 

「貴方がもし僕の立場だったら、仲間に謝って欲しいですか?」

 

男は一旦顔を歪め、何か考えた後、口を開いた。

 

「よく…やったな、少女たちは護られた。」

「その傷は…」

「その傷はお前の勲章だ。」

「ありがとう。」

 

男の言葉に春信も

 

「ありがとう。」

 

爽やかな笑顔で応えるのだった。

 

暫くは戦いもない、ゆっくり療養しろ。

妹や少女たちへの礼や見舞いも忘れるな。

 

そういってあの男は帰っていった。

 

見舞いの果物の盛り合わせは後でゆっくり食べよう。

 

戦いの終わりに安堵して春信はゆっくりと眠りについた。

目が覚めると食事も出来ないまま、すぐに検査で一日が終わった。

腹ペコで病室に戻ると病院食が既に用意されていた。

 

「熱っ!」

 

あわてて食べたお粥が口にしみる。

 

モグモグモグ

 

「3回かぁ。。。」

 

クチャクチャクチャ

 

「今日は簡単な検査だから目と耳しかわからなかったけど。。。」

 

ムシャムシャムシャ

 

「調子に乗りすぎかなぁ。。。」

 

『病院デ栄養食ヲ食ベル事ニナル』

 

いきなり精霊が現れて忠告する。

 

「もう食ってるよ。」

 

クッチャクッチャクッチャクッチャ

 

「しっかし、ホント不味いな、病院食ってのは。」

「聞いてはいたけど、薄味過ぎて、」

「噛んでも噛んでも、味がし。。。」

 

味がしない、そう言いかけて春信は固まった。

見舞いの籠からリンゴを取り出し、噛り付く。

 

(味が。。。しない)

 

左目、左耳、そして味覚。

春信は改めて自分から失われたものを実感した。

 

(覚悟はしていた。)

(それに、これくらいなら軽いもんだ。)

(満開しなくってもまだ普通に戦える。)

(乃木園子に比べれば。。。)

 

「!?」

 

涙が出ていた。

2年前の戦いで満開を繰り返し、寝たきりになった先代勇者。

今、彼女は自分で立つ事はおろか、体を起こす事すらできない。

見て、聞いて、話す、それ以外なにも出来ずにベッドに括り付けられている。

 

いずれそうなる、自分への涙なのか

そうなると薄々気付きながらそこまで戦った少女への涙なのか

 

涙を流しながら春信は食事をガツガツと食らい、飲み込んでいった。

 




やっと長い過去編も終わり、決戦後の幸せな時間。
この後のことを考えると一時の幸せでしかありませんが
それでも春信は安らぎを手に入れました。

<番外編>
春信が目覚めた翌日

男がまた病室へやってきた。
その手土産の包みを開いた春信は固まっていた。

(見舞いってコレは。。。)
「黒い眼帯。。。」

「アイパッチだ。ちゃんと髑髏のマークも入ってる。」

男はあいかわらず無表情だ。

(そういえば以前、讃州中の制服を用意したのもこの男だった。。。)

ワナワナと拳を振るわせた春信が一気にまくし立てる。

「アンタ、真面目なくせに時々バカだな!」
「俺があの子等に満開の事、隠してんの分かってんだろ!」
「こんな目立つモンつけてアピールしてどうすんだよ!」
「オマケにこのデザインは何だよ!?」
「髑髏マークのアイパッチとかどこでどうやって手に入れたんだよ!」

『持ッテル人憧レチャウナー』

「お前は黙ってろ!」

精霊のボケとツッコミ混じりの説教は小一時間続いたそうな。

ちなみにアイパッチはイネスにわざわざ寄って探してきたものです。
そのことを後から知った春信君は、一旦床に叩きつけたアイパッチを拾い、大事にしまい込んでいるそうです。
使う事はないでしょうが…
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