合宿から帰ってすぐ
春信の端末に連絡が入っていた。
『敵の生き残りを確認。
次の新月より四十日の間で襲来。
勇者部にも端末を戻す。』
(生き残り?
12体以外になぜ?
もう復活した?
いや、早すぎる。。。)
(お役目を終えて回収した勇者部の端末をわざわざ戻すとは。。。)
「ちっ、まだ僕だけじゃ信頼されてないってのか。」
海の向こう、壁を見つめてつぶやく。
「いいさ、何体来ようが僕一人で潰してやる。。。」
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夏休みも終わり、それぞれの気持ちが緊張を保てなくなった頃
樹海化は始まった。
「敵は1体、後数分で森を抜けます。」
東郷が端末のレーダーで位置を確認する。
「1体だけなら!」
「今回の敵で延長戦も終わり、ゲームセットにしましょう。」
「いくわよ!」
「「「はい!」」」
変身する勇者部の面々。
その満開ゲージは全員がフルに溜まっていた。
「たった一匹の敵、私の満開でババっとやっつけちゃうわよ!」
「風先輩!負けませんよ!」
「あんまり張り切りすぎて無茶しないで…」
「…風先輩」
「ん?東郷どうしたの?」
「今回、満開を使うのは控えませんか?」
「ふぇっ!なんで?!」
「前回、春信さんの満開で樹海を傷つけた際、山が半壊したそうです。」
「えぇっ、ホントに?!」
「ええ、友奈ちゃん。」
「満開は強力ですが、その力が樹海に及ぶと被害は計り知れません。」
「敵は1体だけですし、無理して使う必要はないかと…」
「ええ~、私もあのバーンって変身、してみたかったな~」
「今回が最後だもんね…」
「でもまあ、東郷さんが言うなら仕方ないか。」
「ごめんなさい、水をさすような事を言ってしまって。」
「わわっ、東郷さんは悪くないよ!」
「ちゃんと周りの事も考えて言ってくれてるんだし!」
「そうね、よぉーし!」
「じゃあまた、アレやりましょうか!」
「了解です。」
円陣を組む勇者部の面々。
「敵さんをキッチリ昇天させてあげましょう!」
「勇者部、ファイトー!」
「「「「オー!」」」」
「おー」
一人円陣に入らず、軽く拳を上げて小さく叫ぶ声。
今回、春信は初めから勇者部に同行していた。
(みんながいきなり『満開』しようとしたらどうしようかと、そばに居たんだが。。。)
(お嬢ちゃんのおかげで免れそうだな。)
視認できる距離まで近づくバーテックス。
決戦のとき、素早い動きで翻弄してきた双子座だ。
「さあ、皆、散開よ!」
「「「はい!」」」
風の号令で自分達の戦闘距離へ移動する4人。
(ああは言ったけど、ピンチになれば誰かが満開する可能性もある。)
(早めに決着をつけないと…)
「他に敵影はなし。」
「あいつさえ倒せばこの延長戦も終わり…」
ライフルの引き金を絞り込む東郷。
双子座の足元を打ち抜き、バランスを崩させる。
そこへ飛び掛る友奈。
「勇者パーンチ!」
「おおっと!させないぜ!」
割り込む春信。
しかし友奈も止まらない。
「ちっ、しょうがねぇ!」
「ロイヤル。。。」
「スカーッシュッ!!」
友奈の拳にタイミングを合わせ、自分の拳を突き出す春信。
二つの拳が炸裂し、倒れこむ双子座。
「やった!」
が、すぐに起き上がり動き出す。
「逃がすかよ!」
「ゴルディオンハンマー!」
叫び声と共に春信の手に大槌が現れる。
満開によって得た新たな武器だ。
「うおりゃ!」
力任せに振り下ろすその大槌を、ヒラリとかわす双子座。
「なに?!ぐあっ!」
その一瞬で春信は敵を見失い、左腕に敵の蹴りを受けていた。
(やはり…)
「逃がしません!」
東郷が再び引き金を絞る。
今度は頭部と思われる部位を打ち抜く。
堪らず転倒する双子座。
そこへ風、樹が追いつく。
「よし、封印の儀!」
友奈と共に3人で封印の儀を始める。
光を巻き上げ、双子座は腰のパーツを開き、御魂たちをさらけ出す。
たち…そう、御魂は一つではなかった。
それどころか湯水のように溢れ帰り、樹海を侵食していく。
「なに?この数ぅ~!」
「ひ~か~り~に~」
「「「えっ?」」」
声に3人が見上げると、すでに右手で大槌を振りかぶった春信が敵の真上に跳び上がっていた。
「なれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
体ごと振り下ろされた大槌が光を放ち、溢れかえった全ての御魂を包み込む。
御魂たちは光となって昇天し、本体は砂となって崩れ落ちた。
「ふう。。。」
「春信!」
「春信くん!」
「三好さん!」
駆け寄る3人。
そこへ東郷も駆けつける。
「…」
パチンッ
小さな音が右耳から聞こえ、反射的にそちらを向く春信。
しかしそちらには何もない。
(しまった!)
反対側を向こうと首をひねったその瞬間、
パアァァァンッ!
「「「?!」」」
3人は何が起きたか、わからなかった。
突然、東郷が春信の左頬を平手で打ったのだ。
「痛ってぇな。。。」
「東郷、なんで?!」
詰め寄ろうとする風たちを無視して話し出す。
「どうして今のが避けられなかったんです?」
「。。。さっきの戦いでちょっと疲れが」
「さっきの戦いでも避けられる攻撃をなぜ受けてしまったんです?」
「それは。。。」
(気づかれた?)
「どうして左側で鳴らした指の音を聞いて右を向いたんです?」
「。。。っ」
(勘のいいガキは嫌いだ。。。)
「どうして決戦のとき、途中から目を閉じていたんです?!」
「。。。」
(見られてたのか。。。)
「どういうことなの…東郷?」
黙ってしまった春信の様子に風が問いただす。
「…いま、その人の左…」
「俺から話す。」
複雑な面持ちで語ろうとする東郷を制止するように言葉をはさんだ。
(頃合か。。。いずれは話しておくつもりだったしな。)
「『満開』の後遺症だ。俺の左目と左耳の機能は失われている。」
「やっぱり…」
「え…?」
「満開…の?」
「そんな、どうして…」
「満開のってどういうことよ!ちゃんと説明しなさいよ!」
風が掴みかかりそうな勢いで聞いてくる。
「そのまんま、そういうことだよ。」
「『満開』は単なるレベルアップやパワーアップじゃない。」
「咲き誇った花は必ず散る。」
「『満開』には『散華』という隠された機能があるんだ。」
「『満開』と『散華』で、その身を供物として神樹様に奉げる。」
「そうする事で神様の力をお借りする儀式って事だ。」
「華一つ咲けば一つ散る。」
「華二つ咲けば二つ散る。」
「結果として奉げた身体のどこかの機能が失われるのさ。」
「これがお前たちの知らなかった勇者システムの秘密だ。」
「散華…」
「供物…」
「儀式…」
「バカいわないでよ!」
皆が放心しているなか、風が叫んだ。
「そんな事…そんな事、私聞いてない!」
「勇者が満開でそんな目に遭うなんて、誰からも…!」
そこまで言うと樹の方を見て脱力したように膝を落とした。
もし妹がそんな目に遭っていたら、と想像してしまったのだろう。
「で、でも!」
友奈が口を開く。
「供物ってお供え物の事でしょ?だったら供えた後は返してもらえるんじゃ…」
「満開の後遺症は治らない。」
ビクンッ
春信の言葉に友奈が固まる。
「先代の勇者が今も生きている。」
「何度も『満開』と『散華』を繰り返して体中の機能を失って」
「ベッドからまともに起き上がることも出来ない状態で」
「2年もの間、そのままだ。」
徐々に春信の語気が荒くなっていく
「何も聞かされていないだって?当たり前だ!」
「誰が年端も行かない女の子に!」
「『世界を護るための生贄になってくれ』なんて言うんだ!?」
「いけ…にえ…」
「そうだ、生贄だ!」
「供え物の饅頭じゃねぇ、生贄の若い娘なんだよ、勇者ってのは!」
「でも…だったら、あなたは一体なんなんですか?」
東郷が静かに問いかける。
「三好春信、あなたは勇者の秘密を知っていた。」
「若い娘でもないあなたが勇者の適性を持って」
「その上で秘密を知らされたって言うんですか。」
(ショックは大きい筈だが。。。)
「どうしてあなたはそんな事実を知った上で戦い、満開する事が出来たんですか!」
(流石は先代勇者、記憶を失っていても鷲尾須美ってことか。。。)
「少し違うな。」
「俺は勇者の適性なんて持ってない。」
「え?」
「だから先代の戦いを見て、満開の事は知っていた。」
「本来なら、その事を知った上で勇者たちをサポートする側の人間だったんだ。」
「ただ、たまたま偶然、勇者になる機会を得られた、それだけだ。」
「だったら尚更!そんな事を知った上でどうして勇者に…」
「男子にとってぇっ!!」
春信は東郷の言葉を遮る様に叫んだ。
腕を組み、仁王立ちになって4人全員を正眼に睨みつける。
4人は周りの空気を大きく震わせる声に気圧された。
「
「
「国ば護るは誇りじゃあ!」
「おまんらは
「ひとたび
「生き残っても腕や脚を失って、一生かたわで過ごさにゃあならんこともある!」
「ワシは初めからその覚悟を持って勇者になった、それだけの事じゃ。」
「護国の誇り…」
「私達を…守る…」
「傷が…勲章なんて…」
「なんで方言…?」
春信の勢いに乗った口上に押し切られそうな4人
だが、東郷はなおも食い下がる
「でも!覚悟なら私たちだって!」
「出来るのか?」
「満開…ぐらい…!」
「東郷美森、自分がじゃない。」
「え?」
「お前は結城友奈が明日から走れなくなったり、目が見えなくなるとわかっていて」
「満開するのを見届けられるのか?」
「友奈ちゃんがっ…?!」
東郷の顔色が見る間に青くなる。
「犬吠埼風、犬吠埼樹、結城友奈、そして東郷美森、お前たちは仲が良すぎるんだ。」
「誰か一人でも戦うなら、他の奴は放ってはおけないだろう。」
「そして自分以外の誰かが、一生傷を負って生きる事にも耐えられないだろう。」
「それは満開という切り札が、そのままお前たちの足枷になることに他ならない。」
しん…と静まり返っていた。
「出来れば、このことは知らせないままでいたかった。」
「俺がそう思えるんだから、大赦の人間も同じ思いだったのかも知れない。」
「だから。。。」
「怒ってもいいから。。。」
「恨まないでやってくれ。」
「でも、それじゃ…」
「もういいじゃないか。」
友奈の言葉を待たず、諭すように話す春信。
「12体のバーテックス、そしてそのおまけのふたご座の片割れ。」
「すべて倒したんだ。俺たちの戦いは終わったんだよ。」
「失ったものは取り戻せないが、これ以上失う事もない。」
ザアァッ
「。。。」
樹海化が解除されつつあった。
(そろそろお別れか。。。)
(これだけは伝えておこう。)
「犬吠埼さん、ありがとう。」
風と樹がキョトンとした顔で見ている。
「何よ、いきなり。気持ち悪いわね。」
「別にお前たちに言ったわけじゃない、気にすんな。」
(あの日、彼女たちの父親に会わなかったら、今の僕はないだろう。)
「はあ?頭でも打ったんじゃないの?」
「そうかもしれないな。」
(だから、ありがとうを伝えたかった。その娘二人に。)
「さあ。。。お互い日常に戻って普通の人生を謳歌しよう。」
春信は別れの言葉を切り出している。
「陰ながら応援してるぜ、勇者部の活動。」
もう彼女たちと会う気はないのだろう。
「お前らがいたから俺もここまで頑張れたんだと思う。」
その顔は晴れ晴れとしていた。
「お前らは間違いなく、最強の。。。」
最後の声は現実世界の雑踏にかき消され、4人の耳には届かなかった。
いつもの学校屋上。
いつもの4人。
春信はいなかった。
(バーテックスとの戦いは終わったんだ。)
4人の心にポッカリ穴が空いたような気がした。
「うおっし!」
突然、自分の顔を両手で叩き、友奈が叫んだ。
「友奈ちゃん?」
「友奈?」
「友奈さん?」
驚く3人に向かって熱く語る友奈。
「頑張りますよ!勇者部活動!」
「まずは文化祭でやる演劇の練習!」
「毎日の活動だってこれまで以上に頑張ります!」
それはまるで今別れた戦友へ語っているかのようだった。
その様子を見て心に踏ん切りをつける3人。
「そうね、勇者部活動はまだまだ終わりがないしね!」
「三好さんも応援してるって言ってましたし。」
「戦友に恥じるような行動は取れませんね。」
「でも文化祭の劇って?」
「いつ決まったんですか?」
「え?あれれ?」
東郷、樹に聞かれ、逆に戸惑う友奈。
「もしかして私の中の勝手なアイディアを口走っちゃってただけかも…」
「いいねぇ…演劇。」
「「え?」」
風の言葉に今度は樹と東郷が戸惑う。
「決まり!今年の文化祭の出し物は演劇で行きましょう!」
「あいかわらずだね、お姉ちゃんは…」
「良かったね、友奈ちゃん。」
「うん!」
夕日に染まる讃州中学。
グラウンドでは運動部が練習をし、校舎では吹奏楽部の奏でる曲が聞こえる。
自分たちが、そして戦友が守った日常。
友が言ったように、日常を謳歌しよう。そう思う勇者部4人だった。
いい最終回だった。
ええ、ここで終わればきっと綺麗な最終回なんでしょうね。
だが、これは「ゆゆゆ」
絶望はここからだ。
ではまた次回。
<番外編4>
(戦闘前)
視認できる距離まで近づくバーテックス。
決戦で素早い動きで翻弄してきた双子座だ。
「あの変質者ってさ、その春信が浮かれて調子に乗って不必要に大被害出した攻撃で倒したんじゃなかったっけ?」
「今の、わざとだよね。」
「言う必要ない単語、いくつかあったよね。」
「暗に責めてるよね、俺の事。」
『想像ヲ絶スル悲シミガブロントヲ襲ッタ』
「誰がブロントだ!」
「元々2体いるのが特徴のバーテックスかも知れません。」
「なるほど。。。って俺のはスルー?」
「2体でワンセット、ふたごって事?」
「あっれ~?友奈さんも~?」
「レーダーにも双子座ってあるし、名は体を表すってことかも…」
「おやおやぁ、樹さんまで~?」
「だとしたら、東郷の射撃でも止められなかった奴の片割れよ。油断しないで、皆!」
「あんまり無視しすぎると、お兄さん泣いちゃうからね。。。」
「はいはい、アンタはまた満開で山壊さないように考えて動きなさい。」
「合宿の最後から俺、嘗められてない。。。?」
(戦闘後)
3人が駆け寄り、口々に話す。
「結局、おいしいとこ持っていっちゃうんだから」
「戦闘前にアレだけ落ち込んでたのにね~!」
「やっぱり頼れるお兄さん、です…」
『中心人物デヌードメーカー』
「いやいや、脱がないから」
「まさか、三好さんが私達を脱がせる?」
「エッチなんだぁ~!」
「春信はエロス!」
「エロス、エロス~!」
「身の危険を…感じます…」
「妹好きって事は確実にロリコンだしね」
「(挙手!)夏凜ちゃん、私や東郷さんと同い年だって言ってました!」
「私は…対象外ですね…(ホッ)」
「何言ってんの、シスコンでロリコンなんだから、樹なんてドンピシャよ!」
「えぇ~!?(泣)」
「これは事案が発生しそうですね!」
『人工的ニ淘汰サレルノガ目ニ見エテイル』
「お前ら。。。実は俺をいじめて楽しんでるだろ。。。」
東郷が来るまで、散々いじられまくった春信であった。