三好春信は『元』勇者である   作:mototwo

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このお話には原作アニメのネタバレ、おかしな改変が含まれます。



第22回 心の痛み

ある日以来、トレーニングルームで春信の姿が頻繁に見られるようになった

 

(体を動かしていれば余計な事を考えずに済む)

(とにかく動くんだ)

(疲れ切ってしまえばゆっくり眠れる)

 

しかし勇者として鍛え上げたその体は容易に疲労に倒れる事はなかった

肉体的余裕は皮肉な事に心に考える余裕も与える

 

(記憶の欠如はやはり3つ)

(満開の影響と考えるのが妥当か)

(でもなぜ?)

(僕が神樹様に選ばれずに勇者になったからなのか?)

(次に満開したら何を忘れる?)

(忘れたくない。。。)

(忘れたくない。。。忘れたくない。。。)

 

「忘れるっ、もんかぁっ!」

 

トレーニングルームでは連日、春信の叫び声が響いていた

壁の向こうにはウィルスのはびこる大地など存在しなかった

光に包まれた神樹の大樹

根付く大地はコロナの吹き上がるような火炎地獄

そしてその空には正に星の数ほどの小型バーテックス

だが、小型といってもその体積は優に人の数倍はある

その小型バーテックスが何箇所かに集まり、巨大バーテックスを形取ろうとしていた

 

「ザコどもが。。。お前らが集まって奴らを再生させているわけか。。。」

 

「パーフェクトモード!」

 

掛け声と共に春信の肩に大筒が現れる

満開によって得られた、刀・大槌に続く3つ目の武器だ

 

「ターゲットスコープオープン!」

 

実際にはスコープなど出てはいないが、叫びと共に大筒の発射口に光が集まっていく

 

「パーフェクトキャノンッ発射ぁっ!」

 

溜め込んだエネルギーを射出する攻撃は

春信がザコと称した小型バーテックス達を次々と光へと帰す

攻撃に反応した小型バーテックス達は群れを成して春信に向って行った

 

「そうだ!来い!来い!ドンドン来い!」

「電光雷鳴剣!」

 

右手に現れた刀を両手で持ち、上段に振りかざす

 

「電光っ!雷鳴崩しぃっ!!」

 

刀から放たれた雷鳴が天を突くように逆昇っていく

その雷鳴ごと振り下ろす刀の一撃は春信に集中していくバーテックス達を一網打尽にする

満開による4つ目の武器、雷の召喚である

 

「酷いもんだ…」

 

ミッションルームであの男が呟く

 

「でも、凄いですよ、予定通り満開することなく、バーテックスを倒していってます」

「繰り返せば巨大バーテックスの出現を抑えられるのでは?」

 

「だからこそ壁の向こうへの迎撃を許可したんだ」

「樹海化が始まらなければ我々も同じ時間を共有できるしな」

「しかし…ここまで酷い有様とは…」

 

「確かに、壁の向こうがこんなに酷い状況とは…想像以上です」

 

オペレーターは素直な感想を述べていたが、男の考えはまるで別にあった

 

(春信の奴、様子がおかしいとは思っていたが…)

(こんな状態では次に来る決戦どころか、この戦いですらも…)

 

巫女におりた神託では、次の敵の攻勢は本当の総力戦になる、というものだった

これまでに現れた13体全てが来る事も想定しなければならない

そう考えた大赦は春信の提案を呑み、壁の向こうへの迎撃を許可したのだ

 

小型バーテックスが集まる事で巨大バーテックスが再生される

ならば13体が出揃うまでに、小さいまま倒してしまおうという考えだ

 

あわよくば再生中の巨大バーテックスを撃破、鹵獲も考えたが

残念ながら満開しない勇者は飛ぶ事が出来ない

そのため再生中の巨大バーテックスには攻撃の手が届かなかった

 

モニターではリアルタイムで春信の戦いが映されている

ザコと称するだけあって、敵の攻撃は春信には届いていない

すべて精霊のバリアで防がれているのだ

 

春信はまるで回避も防御も忘れたかのように小型バーテックスを蹂躙している

数時間も叫び続け、戦い続ける勇者の姿に

ミッションルームは異様な空気に包まれていた

何の計画性もなく、ただただ武器を(ふる)い、敵を倒す姿は

皆の思う勇者とは、かけ離れた何かに見えた

 

「もういい、戻って来い、春信」

 

「うるさい!まだだ!まだやれる!」

 

モニター越しでもその疲労は明らかだが、手を休めようとはしない

 

「どうやら限界まで体を苛め抜くつもりの様だが」

「本当に限界が来れば無意識に満開するやもしれんぞ」

「そんなザコ相手に使ってしまっていいのか?」

 

刀を振るう春信の手がピタリと止まる

この機にとばかりにバーテックス達は群がるが

精霊のバリアで攻撃は届かない

 

「わかった。。。今から帰還する」

 

そのまま壁の内側に入ると、バーテックス達は結界に阻まれ、壁の外側へ取り残された

 

「彼は…大丈夫なんですか?」

 

オペレーター達もさすがに春信の様子に気付き、心配している

 

「奴次第だ」

「対策は取っているが…」

「春信は怒るだろうな…」

 

オペレーターは不思議そうな顔をしたが、男はそれ以上語らなかった

今回の戦闘記録から様々なデータが算出された

春信の倒した小型バーテックスの数

91465体

巨大バーテックス1体を形成する小型バーテックスの数

およそ数百万~数千万

その他諸々…

精霊の守りのおかげでほとんど無傷とはいえ、

勇者の疲労度と、かかった時間を考えると、あまにりも効率が悪かった

 

誰が見ても焼け石に水であるのは明らかだが

春信はこの作戦の続行を希望

次に来る巨大バーテックスの時期・数・種類の調査にもなるということで

上層部からは限定的に続行の許可が出た

 

次の戦闘までに少なくとも1日は勇者を休めること

巨大バーテックスが来る1週間前には中断、戦闘に備えること

 

これはミッションルームからの要望がいくつか通った結果でもあった

「余計な事を。。。」

 

二日ぶりに結界を越えて春信は独り()ちていた

 

(戦っていれば何も考えずに済むのに。。。)

 

春信は戦った

戦って戦って戦い抜いた

 

しかしその戦果は(かんば)しくはなかった

 

その撃破数

2度目の出撃

89964体

3度目の出撃

50154体

4度目の出撃

29848体

 

出撃する度に減る戦果

元々、戦果自体を期待していなかったとはいえ、

この数値には上層部もストップをかけざるを得なかった

結界の外での長時間の活動が勇者の力に悪影響を及ぼしている可能性も考慮されたのだ

 

また、巨大バーテックスの出現時期もおおよその予測がついたので調査の意味も薄れてしまったということもある

 

決戦まで1ヶ月

それまで大事を取って、勇者は戦闘を禁じられた

疲労困憊で十二星座の名を冠するバーテックスと戦うことなど許される筈もない

 

春信は体を休める事を命じられた

もちろん、戦闘力の低下を防ぐ為のトレーニングは許されたが

 

「…き」

 

「兄貴!」

 

トレーニング中に突然声をかけられ、驚く春信

 

「え?あぁ、夏凜ちゃんか。。。」

 

「ああ、夏凜ちゃんか、じゃないわよ。何度も呼んでるのに!」

 

「どうしたの。。。何か用?」

 

「用ってほどの事じゃないけど…」

「なによ、可愛い妹に久し振りに会えたのに嬉しくないの?!」

 

「いや。。。そんなことないよ。。。」

「嬉しいさ。。。」

 

「元気ないわね」

「折角の休みをトレーニングで潰してるって聞いたから誘いに来たのに」

 

「誘いにって。。。なんの?」

 

「忘れたの?」

 

ガタッ

 

「忘れてないよ!」

 

急に立ち上がり、大声で答える春信

 

「あ。。。」

 

「どうしたの?本当に…」

 

「なんでもない。。。」

 

ふう、と溜息をついて夏凜は

 

「前に言ったでしょ、彼女が出来るまで仮想デートに付き合ってあげるって…」

 

「あ、ああ、そうか、そうだよね、覚えてる、憶えてるよ、ちゃんと。」

「憶えてる、憶えてるんだ。。。」

 

「ちょっと、なに、汗臭いわよ!」

 

兄にいきなり抱きつかれ、思わず声を上げる

 

「忘れてない、忘れないよ。。。」

「忘れるわけ。。。ないよ。。。夏凜ちゃんとの。。。思い出だもん。。。」

 

「え?兄貴?どうしたのよ!?」

 

抱きついたまま涙声で呟く兄に戸惑う夏凜

彼女には春信が落ち着くまで、そのままジッとしている事しかできなかった

「落ち着いた?」

 

「うん。。。ごめん。。。」

 

「何があったのか知らないけど…」

 

「なにも。。。ないよ。。。」

 

はあ、と溜息混じりにやれやれと首を振る

 

「何があったかは聞かないわ」

「そのかわり、1ヵ月後に穴埋めをしてもらうわよ」

 

「1ヵ月後?」

 

「聞いてるわよ、1ヵ月後に大赦の大きなまつり事があるって」

「兄貴もそれに(たずさ)わるから、ナーバスになってるって」

 

「あ。。。」

 

「ホントは少しでもリラックスできたらと思って誘いに来たんだけど」

「思ったより重症みたいだから」

 

「ごめん。。。」

 

「謝んないでよ…」

「だから、それが終わったらご褒美に…」

 

「え。。。?」

 

「ご褒美に、デ、デートしてあげるわよ…」

「オニイチャンと…」

 

「夏凜ちゃん。。。」

 

「だから元気出して頑張んなさい!」

「じゃーね!」

 

恥ずかしさに背を向け、駆け出す夏凜

春信はその背中が見えなくなるまで見守っていた。

 

「忘れないよ。。。他の何を忘れても夏凜ちゃんの事だけは。。。」

 




記憶の欠如、それに伴う戦えなくなるのでは?という不安
春信の心は追い詰められます

遂に決戦の日を迎える春信
その胸中に浮かぶは仲間?少女たち?妹?銀?
巨大な敵を相手に男のドリルが炸裂する!

次回『三好春信は勇者である』
「決戦!樹海の大地に春信は跪く!!」
お楽しみに



<番外編10>

「忘れるっ、もんかぁっ!」

トレーニングルームでは連日、春信の叫び声が響いていた

「なあ、三好のアレって…」
「お前もそう思ったか?」
「あ、お前らも?」
「実は俺も!」

「何とかしてやりたいよな」
「奴は俺たち」
「勇者になれなかった者達の」
「代表みたいなもんだからな」

「みんなで行ってみようぜ!」
「そうするか!」
「やれるだけの事はやっとかないとな!」
「よし!行こう!」



ミッションルーム
男は相変わらず無表情だ

「どういうことだ?これは」

「これは我々」
「勇者を目指し」
「共に鍛えた者達の」
「共通の思いです」

皆の手から男の手に手渡される(ふみ)
男は黙ってその(ふみ)を開き、目を通した

『たんがんしょ
さいきん、みよしくんのようすが、おかしいです
「わすれない、わすれない」といってばかりです
たしかに、みよしくんはシスコン(しすこん)だし、
無職(むしょく)ニート(にいと)でしたが、
いまではがんばっています
わすれものぐらいで
あまり、しからないでやってほしいです
おねがいします』

読み終えた男は
無表情のまま、
一筋の汗を頬に伝え、
虚空を見つめて呟いた

「どういうことだ?コレは…」



<番外編11>

「パーフェクトキャノンッ発射ぁっ!」

「電光っ!雷鳴崩しぃっ!!」

「オプティックブラスト!」

「ティロフィナーレ!」

「ムーンヒーリングエスカレーション!」


オペ子「三好君って…」

男「うん?」

オペ子「結構、カッコいいのに、なんで変な単語叫びながら戦ってるんでしょうね?」

男「ああ、本人に聞いたんだが、何やらヒーローの必殺技を叫ばないと力が顕現されないらしい」

メガネ「ほほう、しかしそれで西暦時代のヒーローを選択するとは、三好くんもマニアックですなぁ」

男「そうなのか?」

メガネ「はい、ワタクシが覚えているだけでも、」
「グレートマジンガーにるろうに剣心、」
「ダンクーガにサイボーグ009、」
「ジョジョに仮面ライダー、」
「Gダンガイオーにマイトガイン、」
「ゲッターロボにマジンガーZ、」
「ガンダムにストリートライター、」
「テニプリにワタル、」
「デビルマンにギンガイザー、」
「コンバトラーVにバスタード、」
「マクロス7にGガンダム、」
「ラムネにガオガイガーやダイオージャと…」
「西暦時代でも特に日本のヒーロー、それも昭和時代が結構多いように感じられますな」

男「く、詳しいんだな…」

メガネ「いやいや、それほどでもありません。」
「ワタクシにもわからないヒーローがいくつかありましたし」
「それに…」

男「なんだ?」

メガネ「初陣の時はヒーローらしくない、割と普通の叫びでしたよね?」

男「それについては既に報告にあった。あれもヒーローの台詞らしい」

オペ子「報告書に書いたんですか、彼は…」

男「ちょっとした小説並みに、不必要な事までタップリ書いてあった。律儀な奴だ」

メガネ「で、なんと?」

男「『昔見たアニメで妹に似た女の子が初登場した時の台詞を採用しました』とか」

メガネ「それはまさか…」

男「たしか報告書の最後には略称が『ゆゆ…』」

メガネ「それ以上いけない」
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