(樹海に一人で立つと、あのときの事を思い出すな。。。)
初めての戦闘、勇者部の少女達との邂逅
(無理して嫌われようって頑張ったんだっけ。。。)
少女達はもういない
誰も自分を助けてはくれない
(僕が望んだんだ。。。)
戦い続ければいずれ満開する
(望むところだ。。。)
満開すれば体の一部と
(。。。)
記憶を失う
(それがどうした。。。!)
全てを失えば
(この体がバラバラになるまで)
戦えなくなる
(戦い抜く。。。!)
「奴らも道連れだ。。。」
吐き捨てるように呟く春信だった。
・
・
・
レーダーに映る敵の数は5体
「舐められたもんだ」
「乙女達がいなけりゃ」
「俺ごとき5体で十分ってことか。。。」
「奴らに思考や感情があるなら」
「後悔させてやる」
「チェイング!!」
変身し、戦闘体勢に入る春信
バーテックス5体の内、1体だけが突出してくる
「また。。。同じ手か」
「いいよ、乗ってやる」
「太陽電撃剣!」
叫びと共に現れた刀を地面に突き刺すと、雷撃が大地を伝う
先頭を進む牡羊座のバーテックスに雷撃が炸裂し、その足を止める
「イーグル回転斬りぃ!」
飛び掛りつつ前方宙返りした春信の刀は敵を真っ二つに切り裂き、そのまま封印の儀を開始する
現れる御魂
それが高速回転しつつ春信に襲い掛かる
「飛羽っ!返しぃっ!」
襲い掛かる御魂の攻撃をその刀の連撃で打ち返し続け、回転の止まった瞬間に滅多斬りにする
光を放ち消えていく御魂
『浅ハカサハ愚カシイ』
精霊が端末を取り出し、春信に見せる
レーダー上の春信のマーカーに山羊座が重なっている
「上かっ!?」
上空にたたずむ巨大な角つき
その体の中心が光を収束させる
(ビームかっ!ならば!)
「バクリュウカノン!」
左肩に現れた大筒の一撃は、的確に山羊座の攻撃口を貫く
内部からの爆発に耐え切れず、落下していく山羊座
それを下で待ち構える春信
その左右から双子座が高速で突撃してくる
「?!」
避けることも出来ず、挟み撃ちの体当たりが春信に激突する
「人間を。。。舐めるなぁっ!」
しかし春信は刀と大筒でそれを受けていた
そのまま両側から圧力を増し、押し潰しにかかる双子座
「ぐっ、ぐぐぐぐぐぅ。。。」
上からは山羊座も降ってくる
「バスタァ。。。」
「コレダアアアアアァァァァァッ!!」
両手の武器を通して双子座に叩き込んだ雷撃が更に真上の山羊座まで巻き込む
双子座たちは爆発し、その場に倒れこむ
直上から落下する山羊座を避け、ジャンプしたそのままの体勢で刀を放つ春信
「臨!、兵!、闘!、者!、皆!、陣!、列!、在!、前!」
投げ付けられた9本の刀は3体のバーテックスを取り囲み
「縛っ!!」
叫びと共に封印の陣が展開される
御魂を露わにした3体は
それでも本体を動かし、抵抗してくる
「なにぃっ?!」
(僕の力じゃ3体同時の封印は無理があるってのか!)
「それでも!」
「ゴッドスラッシュ!」
両手に刀を構え
「ゴッドォ。。。」
「スラッシュ。。。」
「タイッフーン!!」
溜めを作って放たれた独楽のような回転が3体に襲い掛かる
その回転は3体の本体を切り刻み、そのまま御魂も打ち砕く
最後まで抵抗していた本体が砂となって崩れ落ちた
「これで。。。あと1体。。。」
息を切らして回転をやめ
「見たか!」
「大赦の仲間の思いと!」
「銀の遺志と魂の込められた」
「この赤き装束を纏う俺が!」
「その程度の攻撃で屈すると思うなよ!!」
振り向きざまに蟹座に刀を向けた春信の右目にそれは映った
「9。。。体。。。」
そう、そこには蟹座だけでなく、残りの星座全てのバーテックスが勢揃いしていた
敵は初めから4体を犠牲にして勇者を消耗させ、残り全てで総攻撃する作戦だったのだ
先程の双子座の爆発で半分炭化している両腕を見て、自嘲気味に笑う春信
「ふ、ふふふ。。。」
「あははは。。。ははははは!」
「はあぁぁぁぁっはっはっはぁっ!」
その笑いは高笑いに変わっていた
「バカめ!ひっかかったな!」
「お前らが姑息な手を使うのは百も承知だぁ!」
「だからあえて『満開』もせずにお前らの手に乗ってやったんだ!」
「一度姿を現してしまえば、こちらからはレーダーで捕捉できる!」
「何匹いようが、『満開』ならお前らを蹂躙できる!」
「例え途中で『散華』しても!」
「お前らの攻撃でも俺の攻撃でもゲージは溜まる!」
「精霊がいる限り、お前らの攻撃で俺を殺す事は出来ないからな!」
(必勝パターンだ!『散華』を恐れない僕だからこそ出来る戦い!)
(怖くないの?)
(え。。。?!)
(散華すれば記憶を失うのに?)
(な。。。?)
(次の散華では何を忘れるのかな?)
(なんだこれは。。。)
(きっと戦う理由も忘れちゃうよ?)
(僕の。。。声)
(大赦の仲間のことも)
(違う。。。)
(勇者部のことも)
(僕はこんなこと。。。)
(乃木園子のことも)
(考えてない。。。)
(夏凜ちゃんのことも)
(やめろ。。。)
(銀のことも)
「やめろぉぉおぉぉぉぉぉっ!」
頭を抱え、うずくまる春信
その目からは戦う意思が消えていた。
ゆっくりと近づくバーテックス
しかし、バーテックスは攻撃もせず、
春信の横を悠々と通り過ぎていこうとする
そう、バーテックスにとって勇者は戦う相手ではないのだ
バーテックスの目的は神樹の破壊
それを邪魔する勇者の相手もしていただけなのだ
神樹への距離をつめ、獅子座のバーテックスが巨大な火球を放とうとした
そのとき
いきなりの爆風に吹き飛ばされ、春信は意識を取り戻す
「?!」
それは獅子座の火球が発射前に暴発した爆風だった
「春信くん!」
(この声は。。。)
「春信さん!」
(そんな。。。)
「三好さん!」
(彼女達が。。。)
「春信!」
(ここにいるわけが。。。)
「助っ人に来たわよ!勇者部一同が!!」
そこには確かに勇者部の4人がいた
先程の暴発は東郷が発射直前の火球を狙撃したのだ
9体のバーテックスが攻撃対象を勇者達に変え、進んでくる
「皆!各個撃破よ!散って!」
「「「はい!」」」
風の号令で4人はいつものように、それぞれの距離に散開する
春信も黒焦げのその手で敵に斬りかかりつつ、大声を出す
「なんでここにいる!大赦は端末を回収したはずだ!」
「確かに回収されました!でもまた返してくれたんです!」
友奈が乙女座に殴りかかりながら話す
「三好さんには内緒で、そのときが来るまでは体を休めていてくれって!」
樹は射手座の矢のような攻撃をワイヤーで迎撃している
(「休めるときに休むのも戦士『たち』の仕事だ。」)
「そういう意味だったのかアレはっ。。。!」
「アンタ一人じゃ…心配だって!」
風は蟹座の鋏と
「意外と信望がないですね、春信さんも」
その蟹座を狙撃した東郷のクスリと笑う声が端末から聞こえる
「馬鹿っ!冗談言ってる場合か!」
「俺があの時話したことがわからない筈がないだろ!」
「なんでまた戻ってきたんだ!!」
叫ぶ春信に友奈が答える
「確かに私達は自分以外の誰かが傷つくのを見守るなんて出来ない!」
「そして勇者として戦えばいつか満開するときが来る!」
「だったらなんで。。。!」
「だから!」
「みんなで痛みを分かち合う事にしたんです!」
「誰かが失った分は他の誰かが補って生きて行こうって!」
「4人皆で」
「いいえ、5人皆で一緒に生きていこうって!」
思わず手を止めた春信を蠍座の尾が薙ぎ払う
「春信くん!」
しかし精霊ガードで受けた攻撃はほとんど春信に効いていない
飛ばされたまま、着地して勇者部の4人に語りかける
「やめてくれ、こんな。。。」
「こんな事に付き合う必要はないんだ。。。」
「お前達が。。。」
「こんな戦いにぃっ!!」
「満っっ!!」
「開っっっ!!!」
叫ぶ春信の声に応え、2対の腕が現われる
勇者服は白装束に変わり、炭化していた腕も見る見る治癒していく
(奴らを。。。僕一人で倒さなければ。。。!)
「ギィガァッ!」
左右2本の刀をクロスさせる
「ドリルゥゥッ!」
更に残り2本の刀も重ねる
「ブゥレイクゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
腕を組み、仁王立ちした春信を中心に、4本の腕が回りだす
その刀の切先は正にドリルのごとく、敵に向かって突き進んでいった
「む、無茶苦茶ね、相変わらず…」
「ドリル…いいなぁ…」
呆れる風と羨ましそうな友奈
(全部だ。。。全部倒すんだ。。。)
その気合と共に敵をなぎ倒していく春信
だが、4体目を貫いた時点で満開が解けてしまう
「ぐあっ!」
4体目の蟹座は御魂に攻撃が届いていなかったのか、体の大穴を回復しつつ鋏で春信を掴み、地面に叩きつけてきた
「三好さん!」
だが、その攻撃も精霊が防いでいた
(バカめ。。。攻撃を受ければそれだけゲージも溜まる!)
ギリギリと春信の首を狙ってくる鋏を精霊がバリアで受け続ける
攻撃自体は届いていないが、地面に押し潰されるダメージは確実にゲージを上げていった
(溜まった!満開!)
そう叫んだ春信は
2段変身できていない自分に気付く
(?!)
蟹座の鋏がバリアを越えんばかりの勢いでぶつかってくる
「春信っ!」
春信のピンチに
遂に風の満開ゲージが輝き
大輪の花を咲かせる
神々しいまでの輝きを放ち
その背に大輪を背負った姿
(『満開』。。。してしまった。。。)
呆然とする春信
「これが…満開…」
自分の姿に驚くように両手を見つめる風
そこへ蟹座の鋏が襲い掛かる
それをヒラリとかわした風が体当たりで蟹座を横転させる
「お姉ちゃん、すごい…」
それに呼応するかのように樹のゲージも花を咲かせる
後方では東郷も
「これが…私の満開…」
(なぜ…初めての筈なのになんだか…?)
春信が地面を叩き、睨みつける
(なんで?!なんでみんな『満開』してしまうんだ!)
そう声を上げたつもりだったが、口からは何の音も発していなかった
口をパクパクさせて戸惑う春信のそばに
友奈がすっと立ち
「私も、いくよ、皆!」
「満開!!」
大きな桜の花が見えた
その輝きの中に少女がいた
(バカッやめろぉっ!)
春信はその光を見ながら気付いた
(僕は声を失ったのか。。。)
絶望的だった
声を、叫びを力の源としていた春信にとって
声を失った今、刀一本出す事すらできない
満開も出来なかった
(みんなが。。。満開している。。。散華してしまう。。。)
(あの明るかった少女達が。。。)
(笑顔が失われてしまう。。。)
春信は友奈たちの戦いを見ながら涙した
(僕が。。。僕が弱かったから。。。)
(僕の心が弱かったから。。。)
(一体どうしたらよかった。。。?)
(どうすれば。。。)
(こんな事なら。。。)
(最初から戦わなければ。。。)
『諸行無常』
(え。。。?)
いつもと雰囲気の違う精霊の声と共に
目の前が真っ暗になる。
例えではない
満開のせいでもない
そのとき、春信の目の前が真っ暗になった
バーテックスや少女達、樹海すらも存在しない無の世界
そこに響く声
『届かなんだか』
(神樹様?!)
『あれほど言うたのに』
『後悔の涙でその勇者服を濡らしてしもうたか』
(待って、待って下さい!)
『約束を違えれば全て失う』
(僕はまだ。。。まだ戦えます。。。!)
『無駄じゃ。既に折れた心はすぐには戻せん』
(そんな。。。ことは!)
『それにこれ以上待てば間に合わなくなる』
(間に。。。?)
『最後のサービスじゃ』
『娘たちの散華が始まる前に全てを終わらせる』
『いや、始まりへ戻すのじゃ』
『お前の全てと引き換えに…』
声が聞こえなくなる
視界が戻り、その右目に樹海で戦う、満開した4人とバーテックスが映る
そのとき、神樹様本体から光が放たれ、あたりを包み込む。
春信も、友奈たちも、バーテックスも
全て包み込み光は光と認識できないほどに強くなり
・
・
・
・
・
春信は拳の痛みに目を覚ました。
神樹の間。。。
気がつくと春信は神樹様の前、樹木である神樹様の前に突っ伏していた。
手からは血がジワリと溢れる。
神樹を殴った感覚と痛みが、ほとんど時間の経っていない事を知らせていた。
(「夢。。。?泣き寝入りしてた?」)
そう言おうと口を動かすが声は出ない。
(『始まりへ戻すのじゃ』)
(『お前の全てと引き換えに…』)
神樹様の声が思い出される。
起き上がると春信は自分の異変にすぐに気付いた。
(左の目と耳が。。。!)
(声も出せない。。。!)
満開の後遺症。
その事実だけが春信の体に残っていた。
混乱する中、神樹の間から逃げるように自分の部屋へ戻り、頭の中を整理する。
部屋の諸々の日付が指し示すのは…
今日は『三好春信が勇者となった日』
しかし春信の記憶には今でもハッキリと戦いの日々が残っている。
逆に失った記憶はそのまま思い出せない。
(樹海化で時間停止をなす神樹様の奇跡)
(時間を戻す事も出来るって言うのか。。。)
(『なんの代償もなしに人が神の力を…』)
(神樹様の言葉。。。)
(代償は。。。僕の全て。。。)
春信は確信した。
(全てを失うとは。。。)
(命を失うという事ではなかった。。。)
(戦う
(戦ってきた日々が。。。)
(失われてしまった。。。)
力ある声を発せなくなった自分が勇者になる
春信は泣いた。
声も出せずに泣いた。
これから起こるであろう
少女たちの地獄を思い泣いた。
何もできない自分の無力を泣いた。
泣きつかれて眠るまで泣き続けた。
遂に勇者としての力そのものを失った春信
彼にはもう
何もできないのか
何もかも取り戻す事を諦め
泣いて過ごすしかないのか
次回
「三好春信は勇者である」
あたらめ
「三好春信は『元』勇者である」
最終回
春信の涙
お楽しみに
<番外編12>
「9。。。体。。。」
そう、そこには蟹座だけでなく、残りの星座全てが勢揃いしていた
敵は初めから4体を犠牲にして勇者を消耗させ、残り全てで総攻撃する作戦だったのだ
「お姉ちゃん、そろそろ出ないとまずいよ…」
「ちょっと待ちなさい」
「おかしいわね、前まではちゃんと着れたのに」
「お腹のポッコリ、まずいことになってますよ、先輩」
「ついに溢れる女子力がお姉ちゃんのお腹に脂肪を…」
「そんな事ない!私は太ってない!」
「そうだよ!風先輩は私たちと一緒に、私たちの3倍うどん食べまくっただけだもん」
「一人だけ太るとか、あるわけないよ!」
「友奈…それは慰めてるつもりなの…?」
「ふぇっ?慰める?なんでですか?」
「そうね…アンタはそういう子だったわよね…」
「ああっ、なんだかわからないけど、三好さんがうずくまってる!」
「これはもう、非常手段に訴えるしかないですね」
「友奈ちゃん、樹ちゃん」
「「(こくっ)」」
頷いた二人が東郷と同時に動く
「え?なに?なに?」
キョロキョロと3人を見る風の
腕を東郷と樹が抱え
勇者服の裾を掴む
「ゆうぅしゃあぁぁぁぁあ」
「え?ちょっと!まさか!?」
「パアァァァァンチ!」
躊躇ない友奈の勇者パンチが風のボディに炸裂!
その拳圧で凹んだ隙に勇者服の裾を一気に上げる樹と東郷!
「~~~~~~~~~~!」
風の声にならない叫びは樹海中に響いていたが
精神攻撃を受ける春信の耳には届いていなかったそうな
<番外編13>
叫ぶ春信に友奈が答える
友奈「確かに私達は自分以外の誰かが傷つくのを見守るなんて出来ない!」
ドガァッ!
風「そし…」
友奈「そして勇者として戦えばいつか満開するときが来る!」
風「あら?友奈、そこ私の台詞…」
ドドドドドドド
風「あら~、乙女座、滅多打ちだわ」
春信「だったらなんで。。。!」
友奈「だから!」
ティキーン!
風「あ、封印した。喋りながら器用に戦うわね、あの子…」
友奈「みんなで痛みを分かち合う事にしたんです!
誰かが失った分は他の誰かが補って生きて行こうって!」
ピカァァァァァァァ
風「御魂までいっちゃったわ、会話中に…」
友奈「4人皆で
いいえ、5人皆で一緒に生きていこうって!」
ビシィッ!
風「そして決めポーズ…もうあの子一人でいいんじゃないかしら」
東郷「友奈ちゃん、カッコいい…」
風「東郷、わざわざ端末使って伝えなくていいわよ、それ」