三好春信は『元』勇者である   作:mototwo

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このお話には原作のネタバレ、原作そのままの台詞、おかしな改変が含まれます。



第6回 大赦の勇者

昔からなんでも人並み以上に出来た。

三好家は大赦の末席に就く家系で、生活は割と裕福だった。

勉強を苦にしたこともない。少し習っただけで大抵の事は理解できた。

スポーツも音楽も、美術も、それなりに楽しむ程度で人から褒められた。

 

「このまま育ってくれれば、大赦で重要なポストに就くことも夢じゃないぞ。」

 

そう言う父や母の期待に応えられるのも嬉しかった。

ただ、妹の夏凜ちゃん、彼女だけはあまり喜んではくれなかった。

僕が何度目かの絵画の賞を取ったとき、両親は喜んでその絵も家に飾ってくれた。

子供の描いた絵を額縁に入れて飾るなんて、今考えるとなんて親バカなんだろう。

でもその時の僕は素直に喜んでくれる両親を嬉しく感じていたんだ。

なのに。。。

 

 

 

ある日、夏凜ちゃんが幼稚園で絵を描いて持って帰ってきた。

先生に褒められたと嬉しそうに見せに来た絵は、とても大きな赤い花が描かれていた。

夏凜ちゃんの笑顔のような、明るい、とても良い気持ちにさせてくれる絵だった。

それを一緒に見た両親も

 

「あら、綺麗に描けたのね。」

 

「夏凜は絵が上手だね。」

 

と褒めていたのに、それを飾ろうとはしなかった。

てっきり飾ってもらえると思っていたのだろう、さっきまではしゃいでいた夏凜ちゃんは黙って俯いてしまった。

 

「ねえ、夏凜ちゃんの絵も飾らないの?」

 

僕が聞くと

 

「だって、別に賞を取ったわけでもないでしょ?」

 

その言葉を聴いた夏凜ちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。だから

 

「夏凜ちゃん、僕は好きだよ、この絵。とっても綺麗に描けてる。きっと僕より上手に描けるようになるよ。」

 

本気でそう思っていた。でも

 

「うん、ありがと、お兄ちゃん…」

 

夏凜ちゃんはそう言って涙を溜めたまま無理に笑顔を作っていた。

そのまま絵を持って部屋に戻る夏凜ちゃんに僕はそれ以上何も言えなかった。

 

思えばその時からなんだろう、両親に違和感を持ったのは。

僕が何かで優勝したり最優秀賞を取ったりすると、ものすごく喜んでくれる両親。

でも夏凜ちゃんが頑張って取った準優勝などにはあまりにも興味を示さなかったのだ。

それでも夏凜ちゃんは努力を怠らなかった。

あの日のように目に涙を溜める事もなくなっていた。

 

 

大した努力をしなくても出来てしまう自分、努力に努力を重ねている夏凜ちゃん。

でも両親が褒めるのはいつも僕の方。

そう、努力の過程ではなく、結果を褒めているのだ、この人たちは。

僕は段々と努力する事が空しく思えていった。

 

それでも絵を描くのは楽しかったし、部活のサッカーも面白かった。

その程度の気持ちで続けていても評価されてしまう自分を、僕は嫌悪するようになった。

 

それなら何もしなくていい。

何の評価もいらない。

 

そう思って部屋に引き篭もるようになった。

部屋に運ばれる食事を食べ、ネットで娯楽を漁る日々。

いつしか体はだらしなく太り、髪もボサボサでも気にならなくなっていった。

そんな中でハマっていったのは、神世紀以前の漫画・アニメ・ゲーム・ラノベといった

所謂(いわゆる)オタク文化というやつだ。

 

もちろん現代にもそういう娯楽は存在する。

しかし、どれも綺麗に纏まっていて、昔のものと比べると、世界の名作だけを扱っているかのような思いさえするのだ。

 

おそらく、そういう情操教育に良いものを選択して世に出しているのだろう、神世紀以前のものなど初めはネット上でも見ることはなかった。

しかし、長年ネットに依存していると、なんとなく立ち寄ったサイトでそういうものを目にする機会も出てくるのだ。

そして慣れてくると、そういうもの隠されているサイトや、隠し方などにも精通してくる。

 

結果、今の娯楽とは比べ物にならないくらい、ジャンクで情操教育に悪そうな、ある意味頭の悪い、でも面白くて仕方ない、そんなものにまみれる生活を送っていた。

 

 

もう両親や夏凜ちゃんと何ヶ月も口をきいていない。

そんなある日、いつものように薄暗い部屋でネット巡回をしていると、部屋の鍵を壊して数名の黒服を着た男たちが入ってきた。

 

「えっ?なに?」

 

慌てふためく僕に、大きな袋をかぶせて男たちは担ぎ上げた。

何も見えず、ろくに抵抗も出来ないまま運ばれる僕の耳に

 

「よろしく…お願いします」

 

という両親の声がかすかに聞こえた気がした。

車に放り込まれたのだろう、エンジン音と移動する振動を感じながら

 

(ああ。。。三好家の恥に成り下がった僕を両親は見捨てたのか。。。)

(まあ、しょうがないか。。。)

 

そう思うと、抵抗する気も失せていた。

ただ、あの日の夏凜ちゃんの泣きそうな笑顔だけが心の隅でチクリと刺さっていた。

 

しばらくすると車が止まり、僕が抵抗しないからか、腰から下は袋から開放され、

 

「自分で歩け」

 

といわれた。

どうなるんだろう。。。殺されるのかなぁ、更生施設とかで叩き直されるのかなぁ、まあ、抵抗しない代わりに何かしてやったりもしないけど。

そんな風に考えながら歩いていると、どこかに通され、後ろで電車のドアが閉まるような音がした。

 

(なんで電車に?電車の駅にこの格好で連れられたってのか?)

 

そう思っていると上半身の袋も外され、目にまぶしい光が差し込んだ。思わず目を逸らすと、

 

「ちゃんと見ろ」

 

と促がされた。

ゆっくりと光のほうを見ると

 

大きなモニターだった。

周りはまるで昔の特撮の秘密基地のようなメカが並び、

いかにもオペレーターって感じの人たちが席について何かをしていた。

だが、その大きなモニターに映っているものは。。。

 

「特撮映画。。。?」

 

そこには大きな異形の怪物が映っていた。

よく見るとそれに攻撃を仕掛けている物がある。

小さくてよく見えないけど

 

「人間?!」

 

怪物を遠距離から写しているせいでかろうじて人型とわかる程度にしか映っていない。

それがピョンピョンとノミみたいに跳ねながら攻撃している。

 

「見せてやれ」

 

後ろで誰かがそう言うと、モニターの一部が拡大表示された。

 

「赤い。。。あ、こっちは紫、それに青。。。」

 

どうやら3人で攻撃しているらしい。

赤の攻撃で怪物の一部が切り裂かれるが、すぐに再生する。

怪物からも攻撃を仕掛けてくる。

 

「あ、捕まった!おお、ナイスフォロー!なんだあの槍、竜巻起こした?!」

 

などと言っている内に怪物は向きを反転させ、ゆっくりと去っていった。

 

「あ、あれ?終わり?倒さないの?」

 

怪物が姿を見せなくなるまで3人はそれを見守っているようだった。そして

 

「「「やったー!!!」」」

 

3人が喜び、抱きあう姿がアップになる。

 

「女の子。。。?」

 

そう、それは年端も行かない少女3人だった。

3人が喜び合う中、背景の不思議な風景が光を放ち消えていく途中で映像は終わった。

 

「ふう。。。」

 

溜息をついた僕にさっき後ろで聞こえた声の主が話しかける。

 

「どう思った。」

 

「え。。。?」

 

どう、と聞かれても。。。

 

「まあ、凄い技術ですよね、まるで怪物も戦いも本当にあったみたいにリアルで。」

「最後に怪物が去るのをただ見守っていたり」

「背景が光って消えていったみたいなのも、なにか伏線になってるのかな?」

「続きが気になりますね。ただ。。。」

「3人組で赤、青ときたら残りは普通黄色なんじゃないですか?」

「そういう王道はあんまり外して欲しくないなぁ。。。こういうのって奇をてらっても。。。」

 

通ぶって今見た特撮映画の感想をベラベラ述べる僕に彼はつかつかと近づいて

 

ゴツンッ!

 

いきなり脳天に拳骨を振り下ろしてきた。

声も出せずに痛がる僕に

 

「そーかそーか、まるで本当にあるみたいにリアルに見えたか。」

 

冗談めかした言い方の割りに抑揚のない言葉を発し

男は僕の襟首を(つか)んで、ドスの効いた低い声で

 

「そりゃそうだろう、本当にあった出来事だからな。」

 

そう言って手を離し、僕を見下ろす。

 

「本当にあった?ノンフィクション?あんなことが昔あったって?そんなバカな。。。」

 

もう一度襟首を掴み、僕を持ち上げ

 

「昔話のノンフィクションじゃない、あの映像は現代のドキュメントだ。」

 

「え?え?」

 

毎日ネット巡回してる僕が、あんな怪物が出たなんてニュースを見逃すはずがない。

大体、あの映像のバックはどうみても異世界かなにか、訳のわからないカラフルな背景だった。

混乱している僕に

 

「あの怪物はバーテックス、人類の天敵だ。」

「そしてそれと戦う少女たちが神樹様に選ばれた勇者。」

「俺たちはそれをサポートする大赦の特別班だ。」

 

僕の頭はまるで整理できない情報に混乱するばかりだった。

時は神世紀298年。

そのとき僕が勇者になるなんて誰も思いもしなかった。

そう、きっと神樹様でさえ。。。

 




さて、過去編です。
イケメン完璧超人の春信くんが100行を待たず一転、デブクズニートになってます。
ここからあのバカ勇者になるにはどれだけかかるのか…
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