僕は悩んでいた。
ミッションルームで勇者たちの戦いを見た。
2度目の襲来。
今度のバーテックスは天秤のような奴だった。
青い子(鷲尾須美というらしい)の弓攻撃は通じてないようだった。
銀の斧攻撃は、体を竜巻のように回転させる敵に弾かれていた。
紫の子(こちらは乃木園子、大赦でも四国経済でも絶大な権力を持つ乃木家の娘らしい)
の槍攻撃も同様だ。
責めあぐねている中、銀だけが突出して何度も回転に弾かれる。
何やってんだ、あの子は。。。
銀ではない。
鷲尾須美を見て僕はイライラしていた。
最初の攻撃が敵に吸い取られ、自分たちに返されてからは全然手出ししていない。
まるでオロオロとうろたえているだけのようだった。
前線で戦う銀のフォローすら出来ていないじゃないか。
大体、ああやって回転する敵への攻撃手段なんてお約束がある。
回転の中心への攻撃。
足元の軸か、上空からの攻撃だ。
昔やったゲームで上空に矢を放って敵に雨霰と降らせる攻撃があった。
例え最初のように返されても、遠距離からなら避けるのも容易い。
まずは様子見で弓を持つあの子がガンガン責めるべきなのに。。。
そうこうしている内に乃木園子と何か話した銀が上空に跳び上がる。
回転の中心へ自ら飛び込んでいったのだ。
バカッ、それは最後の手段だ!どういう反撃があるかもわからないのに。。。!
近接戦闘は攻撃力が高い分、敵の攻撃も受けやすい。
ここぞという隙と追い詰められた時以外、相手の出方を待つもんだ。
その隙を作るのが遠距離・中距離の役目なのに。。。!
自分ではなく、銀を飛び込ませた乃木園子にもイラつき、見つめていた。
すると視線の端で敵の動きが止まっていた。
「あっ!」
銀の斧が敵の頭の天辺に突き刺さっていた。
しかし銀も何かの攻撃を受けたらしく、血まみれになっていた。
銀。。。!
それを待っていたかのように2人が近づき、攻撃を仕掛ける。
銀も血だらけのまま斧を振るい、敵を刻む。
3人の攻撃は敵が撤退するまで続けられ、再び回転させる余裕を与えなかった。
時間としてはものの数分だった。
しかし、休む間もなく攻撃し続けている少女たちの姿を見ていたら数十分も戦っているように思えた。
当人たちはもっと長く感じていたかもしれない。
敵が去った後、3人は橋の上でグッタリと倒れこんでいた。
映像はまだ続いているようだったが、僕は部屋を後にした。
イライラする。
確かにあの勇者たちの力は人知を超えたものがある。
どれだけ体を鍛えても、人間にアレが出来るようになるとは思えない。
でも。。。
それが神樹様から与えられた力だっていうなら
例えば、僕が力を授かって勇者と同じように動けたなら
もっと上手に戦えるに違いない。
ああ、そうか。。。
あの部屋にいる人たちはみんなこう思っているんだ
自分が勇者なら。。。
小学生なんかを戦いに赴かせたりしないのに。。。
わかっている。
これは持たざる者のわがままだ。
皆はそう思った上で自分が最大限に出来る事を選び、あそこにいるのだろう。
何もしていないくせに文句だけ頭に浮かぶ自分に対するイラつきでもあるのだ。
だからって僕に何ができるって言うんだ。
ここで何をすればいいのか、まるで思いつかない。
何をしてもいい、三食昼寝つきのネット三昧がいまは苦痛だ。
これがゲームやラノベならなぁ。。。
昔やったゲームには、少女たちが戦うストーリーなんて腐るほどあった。
プレイヤーは人当たりのいいイケメンで、
隊長や司令になって彼女たちを心身ともにサポートするんだ。
ラノベにも似たようなのはたくさんあった。
主人公は朴念仁のイケメンで、
なぜか自分も戦う側になれて、彼女たちを護って世界も救う。
どっちもヒロインたちとウハウハなハーレム状態になるわけだが。。。
デブヲタニートの僕には縁のない世界だ。
もはや口を開くとヲタ的知識しか出てこない。
女の子をサポートなんて、選択肢が出ないリアルじゃ会話もできやしない。
ましてや小学生とウハウハなんて犯罪じみた光景、想像するのも嫌だ。
小学生。。。
三ノ輪銀。。。
赤い勇者服を自分の血で赤黒く染めながら戦う銀の姿が思い出される。
もし、他の2人がわざと銀に辛い戦いを強いていたら。。。
そうじゃなくても、力不足で銀だけが頑張りすぎたり。。。
わかっている。
これは単なる贔屓目だ。
他の2人に会っていないから、
銀の笑顔を見てしまったから、
銀に肩入れしているんだ。
でも。。。
もやもやする。。。
日課のネット巡回にも身が入らない。
いや、それはむしろ良い傾向なのか?
やっぱり。。。
もやもやする。。。
一体、僕に何ができるんだろう。。。
僕は何がしたいんだろう。。。
僕は悩んでいた。
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・
数日後
3度目のバーテックス襲来。
色も形もなんか大地系、見るからに地属性の角つき。
地面を揺らす攻撃、やっぱり地属性だ。
鷲尾須美の弓攻撃はここでも通用していない。
僕は内心、舌打ちしていた。
ふわっと体を浮かせるバーテックス。
次は角を突き出して突進とかか?
そう思った瞬間、敵は急上昇していた。
まさかっ?!あの巨体で?
そうか!急降下攻撃!
その予想も外れていた。
敵は光る何かを雨霰と降らしていた。
そんな上空からの攻撃、あの子達なら避けるくらい!
しかし真下にいた銀が取った行動は僕には理解できないものだった。
敵の攻撃を打ち返してやがる。。。
打ち返したところで、上空の敵にぶつけられるわけもない。
四散して消えていくだけだった。
なんで避けないんだ?アイツ本当にバカなのか?
そんな事を考えているときにモニターから声が聞こえた。
「銀、大きいのがくるわよ!」
どうやら鷲尾須美が叫んだらしい。
その瞬間、銀が光に包まれていた。
いや、なんとか斧を重ねて盾代わりとして防いでいた。
ビーム。。。だって?
ビーム、そう表現するしかないような光を放つ敵の攻撃。
あんなのどうすれば。。。
そう思う間もなく、今度は乃木園子の声が響く。
「ミノさん、その光線どれくらい受け止められる~?」
なんとも戦いの場にそぐわない、のんびりした声だ。
「あ、あとじゅう…」
銀が答えるが、ビームを受ける音でかき消されてモニター越しではよく聞き取れない。
が、乃木園子はすでに上空へ飛び上がっていた。
鷲尾須美もすぐに後に続く。
その弓から放たれる極太の矢。
それはビームの発射口を的確に狙い、大爆発を起こす。
体勢を崩すバーテックスにすかさず追い討ちをかける乃木園子。
その苛烈な攻めはこの間の銀に勝るとも劣らない。
ふらふらと落ちていく敵にその手を休めない乃木園子。
鷲尾須美も矢を放ち、援護している。
バーテックスは遂に堪えきれず、壁の外へ逃げていく。
その後も壁を睨み、構えを解かない2人。
数分後、背景が光を放つように崩れていき、映像は終わった。
勝ったのだ。
ふう。。。
息をするのも忘れて、見入っていた。
気がつくと僕と同時にふう、と溜息をつく声がそこかしこで聞こえた。
斧を盾にできる銀がタンクになって敵の動きを止め
その隙に遠距離から鷲尾須美が敵の弱点を攻め
さらに乃木園子が槍で追い討ちをかける。
連携としては完璧だ。
この間とは雲泥の差と言える。
でも。。。
いくつか疑問が出てくる戦いだった。
なんとしても聞いておかなくてはいけない気がした。
あの男。。。は声かけるのが怖い。
オペレーターのお姉さん。。。はもっと怖い。
綺麗なお姉さんにこっちから声をかけるとか無理。
キョロキョロしていると、何かのデータを運ぶよう言われた若い男性が部屋から出て行く。
僕はこっそり付いて行って話しかけた。
「あ、あのう。。。す、すみません。。。」
やはり女性にしなくて正解だった。
僕は自分でも驚くほど挙動不審なオドオドした態度で声をかけていた。
そんな僕に対して、男性は嫌な顔一つせず、質問に答えてくれた。
いい人だ。。。一生ついていこう。。。
名前も聞けずにいた人に対してそんな事を思いつつ、僕は部屋へ帰った。
いい人だったなぁ。。。
そう思って思い出すが、顔がぼんやりとしか浮かばない。
ああ、無意識に目を逸らして喋ってたから、顔をよく見てないんだった。。。
自分の行動に更に落ち込んだが、情報は得られた。
・疑問の一つはバーテックスについて
バーテックスのビームについては大赦でもよく分かっていないらしい。
おそらく機械ではないと思うが、ろくにサンプルも取れないから調べられないのだ。
だから今後もどんな攻撃をしてくるのか予想がつかないってことだ。
・もう一つは銀の行動について
避けられる攻撃をわざわざ打ち返したり、受け止めたり
どう考えてもおかしい。
誰も気づいてないなら忠告すべきだと。
しかしそれは間違いだった。
樹海化。。。あの背景の世界を樹海と呼ぶらしい。
あの空間は別に異空間というわけではない。
現実世界を神樹様の力で変革しているのだ。
そうすることで現実世界を護っているのだそうだ。
といっても、それも完全じゃない。
樹海の木々にダメージを受ければそれは現実世界にもある程度は返ってくる。
出来うる限り、樹海化した大地へのダメージも少なくする。
勇者の戦いにはそんな事も含まれていたのだ。
バカは僕だった。。。
何も知らないで。。。
今回の攻撃を銀が避けなかったのは樹海を守るため。
前回の敵に鷲尾須美が攻撃できなかったのは、跳ね返された攻撃で樹海が傷つくから。
銀のピンチを見て、僕がうろたえている間に
鷲尾須美は、ものの数秒で敵の弱点を射抜いていた。
乃木園子は、更に早く敵に迫っていた。
岡目八目
この言葉の意味を考えれば、現場で僕より早く判断、行動できた二人の実力はとんでもないものだ。
前の戦いを見たときの自分のイラつきが恥ずかしい。
何より嫌なのは。。。
皆の前で偉そうな事を言わなくて良かった。
余計な恥をかかずにすんだ。
そんな事を考えてしまう自分だった。
あのミッションルームで僕にできることがあるとは思えない。。。
僕は悩んでいた。
さあ過去編その3です。
春信が悩んでいる間に勇者たちは3度目の実戦を経験、その実力を示しました。
何もできない自分
何をしたいのかも分らない自分
そんなものと正面から向き合わなくてはならなくなりました。
…なんか、読んでる人がツマンナイ話になってませんかね?
じ、次回はちょっとはマシな春信くんが見せられると思うので、見捨てないでくださいね~。