戦場の音が遠くから聞こえる。
ここは前線から一歩引いた場所。
私たちの戦闘によって破壊された町。
その瓦礫の山と化した町中に、私たちの前線拠点がある。
そこに歩兵、砲兵、衛生兵、整備兵などというやつらが大勢たむろし、各々の作業をし、更にそこの周りを囲んでいる銃撃で穴ぼこだらけになったビル群には、友軍スナイパーやら監視兵やらがいた。
ここにはさらに戦車や歩兵戦闘車といった車両や迫撃砲などが配備され、常に出撃しては整備と補給を繰り返していた。
そういった兵器の中に、人型のロボット兵器がいる。
全高5メートル。
私はこれのパイロットだった。
これは二足の足で軽快に走り、両腕のチェーンガンと小型のロケット砲で敵を薙ぎ、背中の迫撃砲で砲撃ができた。
今までの兵器とは全く違う機体であり、地形を選ばない踏破性能を持ち、歩兵以上の強力な火器を携行でき、市街地や山岳地など遮蔽物の多い地形でなら、戦車とだって互角以上の戦いができる。
まさに地上の王者と呼ぶにふさわしい夢のような兵器だ。
ある一点を除けば。
「マルティン中尉、整備班長より伝言です!用意が整ったとのことです!至急整備所までおこしください!」
若い伝令が私のところにやってきてそういった。
私は、ああわかった、と言って整備所へ向かう。
また、あの儀式をやるのだ。
儀式。
あの機体を動かすための。
整備所のほうからは馬鹿でかい子供の泣き声が聞こえた。
またアレをやるのか。
整備所につく。
三方を建物で囲われた場所だった。
そこには機体が一機だけ、しゃがんだ姿勢で置いてあった。私の機体だ。
整備兵が数名、警備兵が2名、そして整備班長がいた。
「ようマルティン!今日のはこないだのと違って活きがいいぞ!」
彼は右手で6歳ほどの男の子の腕をしっかり掴んで、私に笑顔を向けてそう言った。
男の子は泣き叫んでいた。
手足をじたばたさせ、必死に逃れようともがき、抵抗していた。
班長がリングを私に手渡す。
そのリングからはケーブルが伸びていて、小さいディスプレイのついたボウリングピンほどの大きさのカプセルに繋がっている。
「なるほど、活きがいい」
私はそう言って、男の子の首にリングを装着した。
「そうだろう。こないだの子は暴れもしなかったし声も上げなかったからな。おい、この子をくくりつけろ」
班長が整備兵の一人に命令する。
整備兵は、わかりましたと言って、暴れる男の子を力づくで押さえつけるようにすぐそこにあった柱に括り付け、リングとカプセルを操作した。
ピピ!という電子音がカプセルから鳴る。カプセルのディスプレイには、赤い色で「CONNECTED」の表示が出ている。
「OKです」
整備兵が言った。
「あとはお前の仕事だ。マルティン。俺達は他の機体の整備に行く」
班長がそう言って私の肩を叩き、整備兵たちを連れて出て行った。
私はそれを見届けた後、男の子に視線を向ける。
腰のホルスターから拳銃を抜く。
ゆっくりと男の子に向ける。
男の子は涙を流し、鼻水をたらしながら、私をじっと見ていた。
もう男の子は暴れることも叫ぶこともしなかった。
「ごめんな」
私はそう懺悔したあと、男の子の眉間を撃ちぬいた。
銃声が響く。
男の子の首ががくんと垂れた。
血が流れる。
カプセルから、ピピピ!という電子音がした。
ディスプレイは緑色で「STAND BY」の表示になっていた。
私は場に残っていた警備兵に、死体を片付けておけと言い、カプセルを抱える。
男の子の亡骸を一瞥し、銃をホルスターに戻し、カプセルを持って私の機体の背へ歩み寄った。
そして機体の人間で言う腰に当たるのところの小さなハッチを開く。
カプセルのケーブルを取り外し、そこに収め、ハッチを閉じる。
そして、数歩下がり、私は言った。
「N-403、起動」
機械的な駆動音とともに、機体が立ち上がる。
私は自分の機体を見上げる。
機体の背中。
頼もしさと力強さがある。
それは、何人もの子供を殺して奪い取った魂によるものだ。