子供を殺す気分はどうです。
それがカウンセラーの部屋に入って、最初に先生が言った言葉だった。
こざっぱりした部屋。
私は椅子に座らされている。先生はデスクに座っていて、肘をつき、私の精神分析結果であろう書類を片手に持ち、それと私を交互に見ていた。
私はなんともないと答える。
「本当ですか?」
「本当だ」
「質問を変えましょう。あなたはなぜアレに乗り続けるのですか」
「家族を守るためだ」
「家族ですか?」
「そうだ」
「家族は何人ですか?」
「四人だ」
「あなたと奥様と...」
「私の息子と娘だ」
「なぜ家族を守りたいのですか?」
「そりゃ...家族を愛してるからだ」
「では、家族のために命を投げ出せる?」
「当たり前だ。軍に入った時から、覚悟はしている」
「覚悟のことを聞いているのではありません。あなたは家族に対して自分の命を賭けられるほどの価値を感じているのかを聞いているのです」
「当然だ。私の家族をなんだと思っている」
私は声を荒げた。だが先生は落ち着いた声で続ける。
「良い傾向ですね。いや、失礼。ではあなたは家族のために命を投げ出すのですね」
「そうだ」
「そうですか。ではあなたの家族と見知らぬ幸せそうな一家がいたとしましょう。今、この二組は銃殺されようとしています。ですが、あなたはどちらか一方を助けられる権限を持っています。どちらを助けますか?」
「私の家族だ」
「なるほど。そうでしょう。家族とは何よりも大切にするべきです」
「そうだ」
「あなたの家族にはあなたが選んだ妻、そしてあなた方の産んだ大切な子がいます。見知らぬ一家を犠牲にしてでも守らなければ、もう二度と会えない」
「ああ」
「それが、あなたの戦う理由?」
「そう言っている」
「では最後に聞かせてください。正義とはなんですか。あなたの考えで構いません」
「同じだ。家族を守ることが私の正義だ」
「敵を倒すといったことや、軍規や法、命令を守ることではなく?」
「それは方法だ。家族を守るために私はそれにしたがっている」
「どんな命令にも従い、忠実に任務をこなすことで、家族を守るということですか」
「そうだ」
「わかりました」
先生はデスクに書類をバサッと置き、立ち上がる。
「特に問題はないようですから、今日はこの辺にしておきましょう、マルティンさん。お疲れさまでした」
私は部屋を出る。
心理カウンセリングはパイロットの業務に含まれていた。
定期的に行い、クリアしなければパイロット失格になる。
子供を殺した上に機体をつかって敵兵をも殺さなければいけない仕事なのだから当然と言えば当然だった。
だが、いいかげんめんどうになる。
もうすっかりこの仕事には慣れ切った。
最初はもちろん心は痛んだ。
だがそれもしばらくすれば割り切れるようになった。
家族のため、愛する妻や息子のため、見知らぬ子を殺す。
もう、なんとも思わなくなった。
お前は極悪人だ、そう私に言う人もいるだろう。
だが違う。
悪ではない。
いや、世の中に善悪はない。
物事が自分に都合が悪いこと、嫌悪感を感じること、それを悪と認識しているだけだ。
本質的な悪など、この世にはない。
そして、善も。
例えば人々は日常を法を犯すことなく何も悪いことをすることなく生活していると思っている。
だが実際には、そういった生活を享受するために膨大な犠牲を払っている。
スーパーやデパートで売られている食品や家具は、輸入元の国で低賃金で食事もまともに与えられない子供が加工、製造したものだというのはよくある話だ。
全ての人は無自覚に他者を犠牲にしている。
だから今更、子供を殺すことも大人を殺すことも、もう関係ない。
それで私の大切なものを守れるのなら、いくらでもやれる。そう思う。
だからもうなんとも思わない。
子を殺すことは、日常業務のようなものだ。
私の愛する家族を守るための。
「マルティン中尉、整備班長より伝言です!」
伝令が私のところへやってくる。
「あぁ、準備ができたんだな?わかった」
伝令は敬礼をして去っていく。
整備所に着く。
班長が笑顔でいつものようにこう言った。
「ようマルティン!今日のも活きがいいぞ!」
私はじたばた暴れる男の子を見る。
「ああ、そうらしいな」
私は拳銃を抜く。