ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか   作:TouA(とーあ)

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前回の感想欄。

わざわざ好きな曲をいっぱいあげてくれた方、ご苦労さまでした。みなさんの意見が聞けて嬉しかったです。

ではどうぞ!


師匠と弟子

 

 

 「顎引け。足止めんな。集中切らすんじゃねェ」

 

 「ハァハァ・・・はい!」

 

 

 深夜。都市の北西にある市壁の上部。

 月明かりに照らされながら木刀とナイフが幾度とぶつかり合い、銀髪と白髪が風になびく。

 

 

 「ブヘラッ!」

 

 「あーあ。気ィ失ってらァ・・・」

 

 

 銀時は1週間前から白髪の少年の師事を請け負っていた。

 

 少年の名は『ベル・クラネル』

 

 冒険者に成りたてであり、銀時からしてみればひよっこ同然の人物である。

 

 

(なんでこんな事してんのかねェ俺は・・・)

 

 

 そんな人物をなぜ師事しているのかを一番疑問に思っているのは他でもない銀時だった。

 

 銀時がベルに初めて出逢った時は『豊穣の女主人』だった。とは言ってもすれ違っただが。それから暫くして、ダンジョンで魔法の過剰使用による精神疲労(マインドダウン)で倒れ、モンスターに囲まれているベルを救った。ただの偶然であるし、ベルの『弟子にして下さい!』の一言を鼻で笑い一蹴する事も出来たのだが、どうしてもしなかった。

 

 それから1週間。銀時はベルの師事をしていた。 わざわざ深夜に、である。銀時なりの目論見があると言えばあるのだが、全て失敗に終わっている。

 

 

(パシっても嫌な顔一つしねェ。かなり強めに叩いても諦めずに向かってきやがる。少し褒めたら満面の笑顔。テメェは何かの主人公かコノヤロー・・・)

 

 

 日に日に強く綺麗に輝くベルの深紅(ルベライト)の瞳に比べて、銀時の目は日に日に腐っていた。

 理由は簡単。ベルの自分にない純真で素直な心が銀時にとって毒であるからだ。それともう一つ。

 

 

(()()()()()()・・・。この上からの視線は間違いなく美神(アイツ)だろうが・・・)

 

 

 銀時は刺さる視線に自身の目を合わせる様に視線の方向へ首を向けた。

 瞬間、クスッと微笑まれた様な感覚を覚え、更に目を腐らせた。ベルを取り巻く環境に嫌気がさした為だ。

 

 

 「・・・んんっ。いてて・・・」

 

 「起きたかベル」

 

 「はい師匠。もう一本お願いします!」

 

 

 ベルは身を屈めて低姿勢になる。

 銀時は木刀を握りしめ、ベルを見る。どう来るかを予測するためだ。

 ベルはじりじりと足を滑らせる。シッ!と空気を吐き出すと同時に地面を蹴った。

 

 

 「ハアァッ!」

 

(いい(もん)はもってる。呑み込みもアイズほどじゃねェが早ェ・・・)

 

 

 ベルの得物はナイフ。つまり一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)が基本だ。その為に必要な足を持っている事を銀時は見抜いていた。

 ベルのLv.に合わせる様に銀時は木刀を振っている。だが1週間前よりもかなり力を入れている事は事実だった。

 

 

 「ウォォオッ!!」

 

 「思考捨ててヤケクソになんじゃねェ。んなもんはゴブリンにでも喰わせとけ!」

 

 「フギャッ!」

 

 

 一段階上がった剣戟に思考が追い付かなくなったベルは銀時に特攻。あっさりと逆襲に遭った。

 ぶっ飛ばされたベルは何度か回転し市壁に激突。目を回して気絶する。

 そんな弟子の姿を見た銀時はふっと息を吐き、事前に持って来ていた飲み物を口に入れる。

 

 

 「ほんと、俺ァコイツのどこに惹かれたのかねェ・・・」

 

 

 銀時の中で渦巻いているのはやはりその疑問だった。

 銀時の様な第一級冒険者が他のファミリアの団員の師事を受け持つなど御法度であることは言われずともわかっていた。

 それでも初めて言葉を交わし、パシった日から数日経つ。銀時の中でもどうしてベルを鍛えているのか自身を理解出来てなかった。

 

 

(まさか・・・ベルと自分(テメェ)自身を重ねちまってんのか。()()()()()・・・もとより救う気はねェが。)

 

 

 自身が至った一つの答えに自分自身が呆れた。

 暫く呆然としていると、気絶していたベルが目を覚まし、銀時に質問を投げかけた。

 

 

 「師匠、その飲み物?容器?なんですか?見たことないんですが・・・」

 

 「ん?あァこれは万能者(友人)に作ってもらってな。飲み(もん)を冷えたたまま保存できる優れもんだ」

 

 「わぁ便利ですね!中身は何です?」

 

 「“いちご牛乳”だ」

 

 「“いちご牛乳”?ってあの“いちご牛乳”ですか?」

 

 「その“いちご牛乳”だ。言っとくが俺が【デメテル・ファミリア】に打診して売り出したもんだからな」

 

 「えぇっ!?!?」

 

 

 銀時の言う【デメテル・ファミリア】とは麦や野菜、果物などの農業を営む商業系の派閥である。

 銀時はそのファミリアの主神であるデメテルと繋がりがあり、ファミリアに訪れた際にデメテルの偶然の産物で出来た“いちご牛乳”をご馳走になったのだ。そして一口でハマった銀時がデメテルに打診し世に売り出したのだった。ひたすら美辞麗句を並べ立てて踏み切った商売だったが大当たり。結果【デメテル・ファミリア】の名を売る事にもなった。加えて銀時の財布事情を()()()()()一つの事業でもある。

 

 

 「そして俺は生粋の“いちごぎゅーにゃー”だッ!!」

 

 「“いちごぎゅーにゃー”!?」

 

 「そう!己の名誉を掛けてひたすら“いちご牛乳”を飲み続ける男の事を指す言葉だ!」

 

 「は、はぁ・・・」

 

 

 “いちご牛乳”の良さを力説する銀時に苦笑いを浮かべるベル。

 数分後、興奮が収まった銀時は明日のベルの修行内容について語った。

 

 

 「そんでもって明日は早朝から【デメテル・ファミリア】の所へいけ」

 

 「そ、早朝ですか?」

 

 

 今現在、深夜だけあってベルは身体の疲労を懸念した。だが心配は杞憂に終わる。

 

 

 「8時半に行ってもらう」

 

 「あ、あれ?意外と遅いですね。5時とか言われるのかと思いました。」

 

 「バカヤロー!8時半はまだおネムの時間だろうが!十分早いんだよ!」

 

 「は、はぁ・・・」

 

 

 何度目か分からない苦笑いを浮かべるベル。

 二人が解散したのはそれから十分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《【デメテル・ファミリア】本拠(ホーム)・麦の館》

 

 

 「待っていたわ。あなたが銀さんの言っていた子ね」

 

 「は、はい!」

 

 

 指定された時間より十分ほど早い8時20分。

 ベルは銀時の指示通り【デメテル・ファミリア】を訪れていた。

 迎えてくれたのは主神であるデメテルである。

 蜂蜜色のふわふわとした長髪に、服の上からでもわかるほどの双丘。優しげな垂れ目はベルを温かく迎えてくれた。

 

 

 「えっとデメテル様。何をすればいいんでしょう?」

 

 「うふふ、こっちよ。新しく作る畑を耕してもらうわ」

 

 「は、はい!」

 

 

 デメテルから案内された場所はまだ手入れされていない畑だった。

 だがベルはオラリオに来る前はこのような仕事をよく手伝っていたので自信があった。

 

 

 「えっと・・・ベルだったかしら?銀さんから手紙を預かっているわ。はい」

 

 「なんでしょう?・・・・・・・・・え!?」

 

 

 銀時からの手紙というより指令は、畑を鍬を使わずに()()()()()()というものだった。追記で5キロほど重みのあるバンドを両手両足に付けろとも。

 

 

 「よいしょっと・・・じゃあ頑張ってね、ウフフ。」

 

 「は、はい・・・」

 

 

 デメテルが運んで来た5キロの重りを両手両足に付けたベルはくよくよしても仕方ないので早々に作業を開始した。

 

 

 

 + + +二時間後+ + +

 

 

 

 「お、終わった・・・よし!!」

 

 「お疲れさん。初めてにしちゃ意外と早かったじゃねェの」

 

 「し、師匠!おはようございます!今まで何してたんですか?」

 

 「あん?9時半に起きて、ここで朝飯食べてたんだよ。美味しいんだよなぁこれが」

 

 「えぇ・・・」

 

 

 いつもの死んだ魚のような目をした銀時にベルは心の中で嘆息する。

 銀時は椅子から立ち上がるとベルを少し離れた所まで連れ出した。その場所は果実の木々に囲まれている場所だった。

 

 

 「ベル、ナイフ構えろ」

 

 「わかりました!」

 

 

 痛む手を強引に無視して、ベルはナイフを握る。銀時はそれを確認すると木刀を抜刀した。

 

 

 「これが終わったら今日はおしまいな」

 

 「はい!それでどんなことを?」

 

 「ちょっと待ってろ。」

 

 

 銀時はベルではなく一つの木に向いた。

 少しキョロキョロした後、木刀を思いっきり木に向かって振り抜いた。

 

 

 「すべて斬れ!!」

 

 「へ?」

 

 

 銀時はそれだけ言うと脱兎の如く走り去った。

 ベルがポカンとしているとブゥゥンとあまり聞きたくない羽音がした。

 

 

 「もしかして・・・蜂!?!?」

 

 

 何十匹という数の蜂がベルに向かって殺到する。勿論、ベルはそんな数を対処できる訳がなく・・・。

 

 

 「師匠ォォォォォォォオオ!!」

 

 

 ベルは銀時と同じくひたすら逃げ回ることになった。この時、ベルはナイフを二刀扱うことを覚えたのであった。

 

 

 

 + + +30分後+ + +

 

 

 

 「お・・・終わったぁ・・・・・・」

 

 「随分と時間掛かったじゃねェか」

 

 

 ベルは二刀で全ての蜂を斬り終わるとその場に倒れ込んだ。

 銀時は事前に持って来ていた万能薬(エリクサー)を、全身が腫れ上がっているベルに向かってぶっかける。

 みるみる元の姿に戻ったベルを銀時は引っ張り、蜂の巣まで連れていく。事前に聞かされていたベルの魔法である『ファイアボルト』で蜂の巣を焼却した。

 その後、銀時は【デメテル・ファミリア】のホームである『麦の館』を訪れた。

 

 

 「少し早いけどお昼ご飯食べていきなさい」

 

 「あ、ありがとうございます!いただきます!」

 

 

 ある一室に入った銀時とベルはテーブルの上に置かれてある見た目から美味だとわかる食べ物に涎を垂らす。

 デメテルが優しく二人にそう言うとベルは用意してくれていた昼食にかぶりつく。

 途端、ベルの深紅(ルベライト)の瞳から滴がポロポロ流れ出る。

 

 

 「お、おぃじぃよぉ・・・う゛ぅ・・・えぐっ・・・」

 

 「よしよし。銀さん、少しやり過ぎではなくて?」

 

 「・・・・・・すんません」

 

 

 デメテルはベルの頭を優しく撫でる。そして銀時を軽くたしなめた。

 豊穣の女神だけあって豊かな作物をふんだんに使ったこの昼食はベルにとっても銀時にとってもほっぺが落ちる程美味であった。

 

 

 「ねぇベル。あなたはどうしてそんなに頑張るのかしら?」

 

 「グズッ・・・どうしても追い付きたい人がいるからです。その人を必死に追い掛けているから・・・」

 

(ハハーン・・・なるほどね)

 

(もぅ悪い顔。(はた)から見れば兄弟みたいなのに)

 

 

 ベルの振り絞った声に何かを感じ取った銀時。その銀時の浮かべている笑みを見てデメテルは少しだけ顔をしかめた。

 

 

 「師匠はその・・・僕みたいに憧憬を抱いている人はいるんですか?」

 

 「・・・いる。どこまでも強く在り、優しく在った人だ」

 

 「へぇ・・・その人は今どこにいらっしゃるんです?」

 

 「・・・さぁな。どこかで子供に物事を教えてるんじゃねぇの?」

 

 「そうなんですね!どんな人だったんです?」

 

(嘘ね・・・)

 

 

 デメテルはそう思うも口には出さなかった。銀時が哀愁を漂わせることは全くなかったからだ。

 銀時は出された“いちご牛乳”を喉に流すと、少しだけ自分の過去を語りだした。

 

 

 「まぁなんつうの。どこまでも底がしれねェ人だったよ。俺ァ物心ついた時から刀握ってたんだが、一度も勝てなかった」

 

 「師匠でさえ勝てないなんて・・・」

 

 「正直、目の前に蔓延る無数の敵よりも恐ろしく感じたな。その人は或る隊の隊長だったんだが、誰一人として勝てなかった」

 

 

 少しだけ過去を懐かしむ銀時の声は温かくも寂しくも感じた。ベルもデメテルも聞き入っていた。

 

 

 「では銀さんは小さな頃から戦場を渡り歩いていたの?」

 

 「あぁ、そうだな。あの人に教えを説いてもらった後でも戦争、戦闘の繰り返しだった。あの人の指揮下で動いたよ」

 

 

 銀時の過去の話がひと段落すると、次はベルの過去の話をすることになった。

 結局、二人が【デメテル・ファミリア】をお暇したのは正午を過ぎた時間帯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「野菜、いっぱいもらっちゃったなぁ・・・神様喜んでくれるかなぁ・・・」

 

 

 ベルはホームである廃教会を目指してメインストリートを歩いていた。両手で抱えている袋には採りたての野菜が溢れ返っている。

 

 

 「師匠の話、どこかで聞いたことがある気がするんだよなぁ・・・」

 

 

 銀時はベルとデメテルに自身のちょっとした過去と渡り歩いてきた戦場について語った。

 その戦場や戦闘をベルはどこかで聞いたことがあると思ったのだ。

 

 

 「おじいちゃんが聞かせてくれた英雄譚の中にあったのかな?でもあまり覚えてないって事は僕はあまり好きじゃなかった話なんだろうな」

 

 

 ベルは必死に記憶を探る。

 そしてたどたどしいが記憶の断片を引き当てた。

 

 

 「確か結構新しい本だったはず。国の為に滅私奉公して、最後には国から裏切られ、全ての責任を押し付けられた部隊。確か名前は────」

 

 

 隊長の名まで思い出しはしなかったが、ベルは確かな確信を持って部隊の名を思い出した。そして銀時のことがよりわからなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部隊の名は────赤報隊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい終わりました。いかがでしたか?

多分、誤字多いので気づいたら直します。寝る十五分前ぐらいにいつも書くので。


『追記』
デメテルに労力を提供する代わりに他の神たちには銀時たちの事を内緒にしてもらってます。団員たちにも同じくです。


今回は結構掘り下げてみました。次からは三巻の内容ですね。頑張ります。


毎度恒例謝辞。

『現実逃避の神様』さん、『やなか』さん、『ラーク』さん、『イベリコ豚29』さん、『アオン』さん、最高評価ありがとうございます!!

『薬袋水瀬』さん、『岬サナ』さん、『えれきあ』さん、『ブブゼラ』さん、『長信』さん、高評価ありがとうございます!!


皆様の応援は私のやる気に直結してます!がんばります!


あとベル=パクヤサって感想欄に書かれていたのですが、半分正解半分不正解です。もう少ししたらわかると思います。はい。


今回は好きな篇を語りましょうか。
私は『四天王篇』や『将軍暗殺篇』が好きですね。泣ける話が好きです。あと沖田の姉のミツバさんが出る話も。


ではまた次回!少々遅れます!感想評価お待ちしてます!

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