ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか   作:TouA(とーあ)

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前回や少し前に言ったように『チキン革命』さんとコラボ小説です。

『ロキ・ファミリアの団長は胃潰瘍になりそうなようです』
https://syosetu.org/novel/114793/

この一話はifなので本編とは全く関係ありません。
ですが、とても気持ち良く書けて、ボリューミーな一話になりました。笑っていただけると嬉しいな、と。


ではどうぞ!!





ダンジョンに天然パーマが二人居るのは間違っているだろうか【コラボ】

 

 

 僕の名前はフィン・ディムナ。

 オラリオという都市で最強と名高い【ロキ・ファミリア】の団長を務めており、良くも悪くも暇しない毎日を過ごしている。

 

 僕達のファミリアは知名度さながら実力がある故に“オラリオ”という都市の一種の顔となっている。無論、それに沿うように態度や振る舞いが求められることは必然で、オラリオ(この都市)で最も自由な職業である“冒険者”だから、という言い訳は【ロキ・ファミリア】に所属している以上、通用しないのだ。

 

 だがしかし────。

 どの高名高尚なファミリアとて汚点はあるもので。

 このファミリアには汚点…というよりはウ○コみたいな奴が二人所属している。ウサギのウ○コぐらいなら可愛いものだが、ゾウのウ○コまでなると巨大過ぎて周囲に多大な迷惑を掛けるわけで。

 

 

 一人は【白夜叉】と呼ばれる銀髪天パの(主人公)

 一人は【自由(フリーダム)】と呼ばれる赤髪天パの阿呆(主人公)

 

 僕は暇しない毎日を過ごすと同時に頭を抱える…いや、腹を抱える毎日を過ごしているのだ。

 

 

 つまり、僕はストレスのあまり胃潰瘍になりかけなのである。

 

 

 毎日毎日スッキリしない毎日を……いや別に便秘な訳ではないのだけれど、胃の痛い毎日を過ごしている。薬や治療のファミリアである【ディアンケヒト・ファミリア】から胃薬を貰うのは日課であり、団長の“アミッド”からは可哀想な視線を送られる毎日だ。

 

 

 この話は僕が迷惑千万の彼等にちょっとした復讐をする、そんな物語。

 では僕のプチ復讐譚を御観覧あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻《【ロキ・ファミリア】in『黄昏の館』》

 

 

「あ〜〜疲れた疲れた」

 

 

 カレーライスの器をお盆に乗せ、ぶつくさ呟く男が一人。

 赤眼・赤髪天パで名を────“スザク”という。線も細く、白蝋(はくろう)めいた肌を持っているため、パット見では男性か女性か見分けがつかない。

 時刻は夕刻、夕飯時である。スザクは食堂の空いたスペースを探し、練り歩く。

 

 

「銀さん、隣いい?」

 

「ん」

 

 

 メープルシロップの掛かったトンカツを頬張る男の隣に座るスザク。

 銀さんと呼ばれた男────“サカタ銀時”は銀髪天パに死んだ魚の眼をしている。スザクとは違い一発で男だとわかる風貌をしている。

 二人が共通しているのは天然パーマである事と、この目の上(ファミリア)()()()()であること。味覚がズレていること、すけこましであること…挙げると枚挙に(いとま)がない。

 全ての食材に感謝を込めて、いただきます。なんて何処かで聞いたことのある口上を述べた上でスザクはカレーライスを口に運ぶ。

 

 

「トンカツにメープルシロップって…本当に糖尿病になるよ、銀さん」

 

「トンカツにメープルシロップはハンバーガーにピクルス、カレーライスに紅生姜、ムスカにバルスと同じくらい運命共同体なんだよ一蓮托生なんだよ。それにカレーライスに“カルーアミルク”飲む奴に言われたかねェよ」

 

「うっせ。まぁ、俺の献立で糖分調整するからいいけどよ。少しは自分で気をつけろよな」

 

「へェへェ」

 

 

 この二人の関係は銀時が一応の先輩でスザクが少し後に入った後輩である。とはいえ殆ど同期の為、大変仲が良い。それはもう周りに迷惑が流星群並みに降り掛かるレベルで。

 加えると、銀時は【Lv.6】に対して、スザクは【Lv.2】。力量差こそ歴然だが地頭はスザクに軍配が上がる。何せ、団長であるフィンに匹敵するほどだからだ。

 

 

「そういやァスザク、ガレスに呼ばれてたな?何やらかしたんだ」

 

「やらかした前提かよ。まぁアレだ、酔った勢いで壊した木製の椅子を一から作ってたんだよ。フィンの命令でガレス(おっさん)に教えてもらいながらな。(のこぎり)で木をゴリゴリ切って組み立てて(ヤスリ)掛けて…マジで疲れた」

 

「………そりゃあご苦労なこった」

 

「何その間?銀さんは?」

 

「俺ァ別に。いつものお店に期間限定パフェ(最終日)を食べに行って…っておい!」

 

 

 パフェという単語を出した瞬間、スザクは銀時の皿を取り上げた。

 

 

「糖分の過剰摂取!今日はダメだ!ラップに包んで明日食べろ!」

 

「そんなもん美味しさ半減するだろうが!今食べなけりゃいつ食べんだよ!俺は甘いもんに関しては真っ直ぐなの!ストレートファイターなの!!」

 

「頭に波動拳でも貰ったか!もう直ぐ三十路のくせしてワガママばかりいいやがって!」

 

「いいだろ別に!糖分はなァ…取れば取るほど天に上る程の幸せな気持ちになんの!俺の人生で一番の楽しみなの!天に向かって昇龍拳なの!」

 

「そのままおっ()んでも知らねぇかんな!腹壊すぞ!」

 

「んだとこちとら糖分切ら………ッッ!!」

 

 

 ガタンッッ、と立ち上がった銀時は一目散に駆けていった。

 あまりの一瞬の出来事にスザクや他の団員は目を丸くする。『本当に腹壊してたの…』というスザクの呟きがかなりの範囲に届くレベルで、沈黙がその場を支配した。

 

 

「ほれ見たこと………ッッ!!」

 

 

 食事を再開しようとしたスザクもガタンッ、と立ち上がり一目散に駆けていった。

 その異様な光景にぽかんとする団員たち。ほくそ笑むのはただ一人────団長のフィン・ディムナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《『黄昏の館』食堂・トイレ》

 

 

「「ぐぉぉぉぉおおおおおおお!!」」

 

 

 ブリブリブリッと不快な音を響かせながら、それに負けず劣らずの苦悶の声を漏らす銀時とスザク。

 ここは食堂近くのトイレ。だが食堂直ぐのトイレではなく、一つ離れた場所にあるトイレだ。何せ食堂直ぐのトイレは『清掃中』の看板が置かれていたからである。

 

 

「はぁはぁ…誰だよ下剤盛った奴ァ」

 

「少なくとも俺と銀さんが互いに互いを盛った訳ではないから…」

 

「そうだな。今日の配膳は確か、アイズとレフィーヤ…後はベートと」

 

「うぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

 

 二人の便意が落ち着いた頃、新たに駆け込んで来た男が一人。

 バンッと扉を開け、バンッと閉め、サッと下ろして、ブリュッと出す。銀時らと同じ様に苦悶の声を上げながら一気に出し切った。

 

 

「その声…ベートか?」

 

「あ゛ァ!?」

 

「何だワンワンか」

 

「殺すぞゴラァ!」

 

 

 新たに入って来た男───狼人(ウェアウルフ)の“ベート・ローガ”はカリカリしながら返答する。

 同時に銀時とスザクは下剤を盛った犯人にベートを外した。ベートも被害者(こっち側)だからである。

 

 

「やァ三人共。お腹の調子はどうだい?」

 

「「「フィンッ!?」」」

 

 

 扉で仕切られている為、顔こそ見えないものの、聞こえてくる声で団長の“フィン・ディムナ”と判断した三人。

 いつにも増して声が揚々なフィンは扉越しに三人に話し掛ける。

 

 

「もう気付いているだろうけど、ここのトイレには“紙”が無い。君達には僕の痛みを少し味わって貰おうと思ってね」

 

「んだと!?」

 

「そう喚くなよ銀時ィ。説明している途中じゃないかァ」

 

「くッ…!」

 

「いいかい?僕は今まで君達のケツを拭きまくった。もうそれは数え切れない程にね。君達が奇行を起こす度に関係各所に頭を下げ、憐れみの視線を頭頂部に感じながら悶々と過ごす日々。時には賠償額と家計簿をにらめっこしながら過ごしたよ」

 

「……」

 

「それなのに君達は反省の色は無色透明。僕に胃薬(相棒)が出来るくらい迷惑を掛けたくせになーんの反省もしない。謝罪もない。酒を飲めば直ぐに忘れる」

 

「「……っ」」

 

「待てよフィン!」

 

 

 二人がフィンの言葉に黙っているとベートは憤慨した様にフィンに言葉を投げ掛ける。いや、投げつけるの方が正しいだろうか。

 

 

「何だいベート」

 

「俺は加害者(そっち側)の筈だッ!?コイツらを嵌める為に同盟を結んだはずだろうが!なんで反故にしやがったッ!」

 

「君を味方に引き入れる事は必須だったからね。なんせ嗅覚で下剤が入ってるのを判ってしまう」

 

「だからどうして……!」

 

「連日連夜の『マヨネーズ紛失事件』。アレは君の犯行だろう?ベート」

 

「…」

 

「沈黙は肯定。この二人だけに復讐するつもりだったけれど、君にもお灸を据えなくちゃと思ってね。納得したかい?納得したら、ワンッて鳴きなよ」

 

「…………わん」

 

「よく出来ました。それでもって後の二人は言わなくてもわかるよね?」

 

「………へい」

 

「………はい」

 

「まぁ忘れている可能性があるから挙げてくよ。まずは銀時」

 

 

 ○居酒屋のツケ(【ロキ・ファミリア】名義)

 ○遠征の遅刻

 ○うら若き団員を夜の街に連れ出す

 ○魔石換金のちょろまかし

 ○確定申告の未提出

 

 

「おい確定申告(そ れ)はやめろ。読者や作者(あ っ ち 側)にもダメージが行くからやめろ」

 

「最近の蛮行はこのくらいか。後はスザクと一緒に椅子を作れという命令を出したのに今日逃げたね?それくらいか」

 

「なっ銀さん逃げたのか!だからあの時、間があったのかよ!!」

 

「しゃあねェだろ!期間限定パフェの最終日だったんだから!椅子作りくらい明日にでも出来んだろ!」

 

「はいはいそこまで。じゃあ続いてスザク」

 

 

 ○他ファミリアの女性を泣かせる(※間接的)

 ○遠征での独断専行

 ○クソコラ写真をばら撒く

 ○団員の歯磨き粉に辛子やら山葵やらを入れる

 ○過度なメタ発言

 

 

「因みに歯磨き粉トラップに引っ掛ったのはベートだけだね」

 

「だってベートしか狙ってないもん」

 

「テメェこのド畜生がッ!!」

 

 

 クソコラ写真についてはティオナの写真の顔から下をティオネに変えるという、怒っていいかどうか微妙な線のイタズラだ。

 鼻の効くベートが歯磨き粉トラップに引っ掛ったのは、ベートが食事にニンニクたっぷりラーメンを食べたからに過ぎない。それもまたスザクの策の一つだったのだが。

 

 

「以上の事から君達には『自分のケツは自分で拭く(物理)ことを学ぼう』という復讐に至った訳だ。君達は波動拳を放つリュウでもなく、昇龍拳を繰り出すリュウでもない。()()()()()()だ」

 

「「「上手いこと言ってんじゃねェ!!」」」

 

「最初にトイレから出て来た者を許す事にするよ。ただし、()()()()()()()()()()()()。僕も少しだけ、あくまで少しだけ罪悪感があるからね。トイレの前には“清掃中”の看板を置いておくから外部からの助けは無いと思ってくれていい。ここのトイレは一番使われていないトイレだしね」

 

 

 食堂は『黄昏の館』内部では少し外れたところにある。

 銀時ら三人が使っているトイレは食堂からはほど近いものの、【ロキ・ファミリア】の団員たちが使うトイレは自室に近いところだ。つまり、ここのトイレは全くと言っていいほど人が来ない。それらも含めてフィンの策略だった。

 

 

「ケツを拭くという事がどれだけ困難かを味わうといいよ。じゃあ健闘を祈ってる。フフフ…ハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 

 高らかに笑いながらフィンはトイレを後にする。

 三人は暫しポケェと虚空を見上げ、そして脳をフル回転させこのトイレからの脱出を試みる。

 

 ここに、第一次トイレ戦争が勃発する!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは状況確認だ。つってもフィンが言ったことをなぞるだけだが」

 

 

 先頭切って話すのは銀時だ。

 三人は|銀時|スザク|ベート|空室|というように個室トイレに入っている。トイレの扉はスザクの個室の左斜め前だ。

 

 

「ここのトイレは『黄昏の館』の中でも離れの位置、加えて誰か来ても『清掃中』の看板で入って来ない。つまり外部からの援軍は見込めねェってこった。だから、ここはまず協力しねェか」

 

「協力、か…妥当だな」

 

「チッ…しょうがねぇなぁ」

 

 

 銀時、スザク、ベートは協力の体制を敷く。取り敢えず、ではあるが。

 

 

「よし。オメェらの中に紙を持ってる奴はいるか?俺はもってねェ」

 

「持ってない」

 

「もってねェよ」

 

(まぁ持ってても言わねェよな)

 

(誰が敵に塩を送るかよ。持ってないけど)

 

(クソが…何もねェ)

 

 

 お互いに腹の中を探るように会話する。

 それぞれの所持物はこうだ。

 

 銀時…衣類・木刀

 スザク…衣類

 ベート…衣類・自分の体毛

 

 ここで仕掛けるのはベートだ。ベートは他の面々とは違い、何も持っていない事を分かっている為、行動を起こすのが速い。

 

 

「おい腐れ天パ」

 

「「何だとコノヤロー」」

 

「…銀髪の方だ。協力って言うが、何か手はあんのか?」

 

「ねェよ。だが大人三人が集まりゃ何かしらいい案が出んだろ」

 

「銀さん、案つっても俺達ケツにウ○コ付いてるんだぞ?ウ○コ付いた大人に何が出来んだよ」

 

「いいかお前ら。男はどんな時でも自分を卑下するんじゃねェ。こういう時こそ精神を高潔に保つんだ。どんなになっても品性を失っちゃあいけねェ」

 

「いい事言ってるがウ○コ付いてるからな?俺もお前ら天パ二人も」

 

「取り敢えず持ってるもん全部出せ。話はそれからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《inベート》

 

 

「持ってるもん全部出せ。話はそれからだ」

 

(ねェよだから)

 

 

 ベートはあまり着込まない。即ち、何か紙的なものが入っているとしたら一枚だけの上着がスパッツの中だけとなる。既に衣類の中は確認済みだ。

 

 

(ケツを拭かずにダッシュで近くのトイレに駆け込むって手もあるが、扉の前にフィンが居る可能性もある。拭かずに出たらファミリアに広められる可能性があるし……チッ、居るかどうかトイレの芳香剤が邪魔して確認できねェ)

 

 

 自慢の嗅覚もトイレの芳香剤に邪魔されて言う事を聞かない。

 ベートは少しだけ目を閉じて思案する。そして何気なく()()()()()から一枚の写真を取り出した。

 

 

(アイズ…アイツだけにはバレたくねェ。どうすりゃいいんだよ…考えろ考えろ考え………ん?)

 

 

 写真には偶然撮れたアイズの微笑み。

 ベートはそれを見ながら一つの事実に気付いた。手をワナワナ震わせ心の中で絶叫する。

 

 

  (これ“紙”じゃねェかァァァァあああああ!!)

 

 

 外ポケットは確認したが内ポケットは確認を忘れていたという間抜けな事実。だがその“紙”の発見は新たな苦悩の始まりに過ぎなかった。

 

 ベート…衣類・自分の体毛・アイズの写真(New!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《inスザク》

 

 

「持ってるもん全部出せ。話はそれからだ」

 

(無いんだよなぁこれが)

 

 

 スザクは衣類を確認するが内ポケットも外ポケットも何一つとして紙らしきものは見つからなかった。

 だがスザクには最終手段が一つ残っている。スザク唯一の《スキル》である【おもちゃ箱(トゥーンボックス)】だ。

 

 

(よっしゃ…腹に力入れて)

 

 

「オープン」

 

 

 ブリブリブリブリッ!!

 

 

 自身のウ○コと同時に小声でスキルを発動させる。

 スザクの掌の上に小さな魔法陣が発動する。

 このスキルは、その小さな魔法陣の中に好きなものを好きなだけ収納出来るのだ。制約(縛り)として『自分のもの』と『自分が借りているもの』しか収納出来ない。然し、そのルールさえ守れば、質も量も問わずに、好きなだけ収納できる。中身も完全に把握できる上に、少し意識するだけで好きなものを好きなだけ取り出すこともできる。

 

 

(トイレットペーパー…ティッシュ…その他の使えそうな紙類は無し、と………ん?)

 

 

 目に止まったその項目。

 それは先程まで木製の椅子を作る為に使っていた道具。その道具は間違いなく素材は“紙”と言える。

 

 

((ヤスリ)ね……これ“紙”じゃねェかァァァァあああああああ!!!)

 

 スザク…衣類・ヤスリ(New!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《in銀時》

 

「持ってるもんは全部出せ。話はそれからだ」

 

(とは言ったが有ったとしても何も言わねェだろうし、俺も何も持ってねェんだよなぁ…)

 

 

 銀時もほか二人と同様、手当り次第にポケットをまさぐるが何も出てこない。

 木刀こそあるもののこの場、この時には何の意味ももたない。木刀でケツを拭くことなどできる筈もない。

 

 

(あーなんかねェかなぁ………お?)

 

 

 ポケットではなく、着物の袖に突っ込んだ手が紙らしきものに触れると、銀時は音を立てないようにゆっくり取り出した。

 

 

(えーっと“確定申告”と“給与明細”ねぇ。これがフィンが言ってたやつか。トイレを抜け出せたらギルドに出しに………ん?)

 

 

 グシャッとなった“確定申告”と“給与明細”の書類をマジマジと見つめ、銀時は目をひん剥くと同時に、その紙をギュッと握りしめた。

 

 

(これ“紙”じゃねェかァァァァあああああああ!!)

 

 

 銀時…衣服・木刀・確定申告と給与明細の書類(New!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《再び全員》

 

 

「お前ら確認終わったか〜?」

 

「おうよ」

 

「あぁ」

 

「じゃあ恨みっこ無し、せーの!っで言うぞ」

 

「「「せーの!っ」」」

 

「「「無いッ!!」」」

 

(そりゃそうだ)

 

(まぁまず言わないよな)

 

(言わねェよなぁ)

 

 

 三人の思惑が絡み合い、心理戦へと突入する。

 ただでは転ばない三人は脳をフル回転させ、この状況を打破する手段を探す。だがどうしてもこの結論に辿り着くのだ。

 

 

((((これ)どうしよう)))

 

 

 銀時、スザク、ベート。それぞれがそれぞれの紙を持っている。

 しかしその紙を使えば、各々に色々な形でぶり返しがくる。

 

 

(この紙を使えァトイレからは出れる。だがフィンに今までの分を許して貰えたとして、書類(これら)が提出できなけりゃ絞られるに違いねェ……だァァァァ!どうすりゃいい!?)

 

(ヤスリ、ヤスリ…しかも両面…無理じゃね!?こんなので肛門拭いたら血だらけになるわ!!だが違う手もないのも事実……ぐぉぉぉぉ!!)

 

(アイズの写真、これは紛うことなき紙だ。だがこれでケツを拭いてしまえば俺は…!俺は……!帰れなくなる!そんな気がする。所詮、写真だから良いかもとは少し思うが…駄目だ。俺のプライドがそれを許さねェ!うぉぉぉぉおおおおお!!)

 

 

 そんな時、バタンッッ!と。

 まるで希望がそちらから迷い込んで来るかのように、トイレの扉が開いた音がした。

 三人は一斉に思考を止め、その人物が誰かを推測する。

 

 

「おぅ?殆ど使われとるじゃないか。あ、一つは空いておった…」

 

「「「ガレスううううううう!!!」」」

 

「お、おう!?びっくりした…なんじゃいお前ら。仲良く揃って連れションならぬ連れ便か。仲良いのぉ」

 

「違ェんだよ!そうじゃなくて」「おっさんん!それどころじゃねェ」「おいジジイ!!話聞きやがれっ!」

 

「一斉に喋るな。そんでもって大便くらい静かにさせてくれい。トイレはこの館の中じゃあ一番静謐な空間じゃろうが…よいしょっと」

 

「「「おぃいいいいいいい!!!」」」

 

 

 …………。

 

 

「おぅ?紙がないのぉ。お前さんら、誰か持っとらんか」

 

「「「終わったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「そりゃ快便じゃったが、誰か持っとらんのか?」

 

「「「そっちじゃねェ!!!」」」

 

 

 ただのウ○コで被害者となった“ガレス・ランドロック”。

 今トイレは|銀時|スザク|ベート|ガレス|という状況になった。状況が改善するどころか悪化しているのは言うまでもない。

 一縷の望みであったガレスでさえ、このザマである。酷い言い様かもしれないが、三人からしてみればこの状況、ストレスがマッハに加速中なのだ。非常にカリカリしている。

 

 

「ん〜〜〜おっ紙あったぞい」

 

「「「ホントか!」」」

 

「さっきまで椅子作りに使っておった“紙ヤスリ”」

 

(((紙ヤスリぃぃぃいいいいいい!?!?)))

 

(アホか!肛門が血だらけになるわ!しかし今はその“紙ヤスリ”は保湿成分を配合したローションティッシュの“スコッティ”に見えるぅぅぅ!!)

 

(また“紙ヤスリ”かと思ったが、ガレスのおっさんが持ってる“紙ヤスリ”は片面だけの可能性がある……!欲しい!)

 

(アイズの写真で拭くよりマシだが…“紙ヤスリ”、ヤスリか……だが片面の可能性がある。ここは手に入れねェと……!)

 

 

「おいふざけんなガレス。そんなもんでケツ拭いたら血だらけになんだろうが」

 

 

(銀さんんんん!?何だと、“紙ヤスリ”が要らないとでも言うのか!?)

 

(ふざけんな腐れ銀髪天パ!ヤスリは今じゃ保湿成分を配合したローションティッシュの“スコッティ”に匹敵するだろうがッ!早まっ……いや待て、この言葉は陽動か?裏を読め…奴の裏を……マヨネーズ足りねェから頭回んねェ!)

 

 

「何じゃい銀の字、お前さん要らんのか?この状況で“紙ヤスリ”は保湿成分を配合したローションティッシュの“スコッティ”に匹敵する代物じゃろうが」

 

「おいおいガレス、よく考えろよ。人って……どうして腕が二本あるか知ってるか?」

 

 

((早まるなぁぁぁぁ!!無理に決まってんだろうがぁぁぁぁぁ!!!))

 

 

(待て、銀さんのこの考えは最終の中の最終手段だ。考えておくぐらいなら良いだろう…だがどうして銀さんは“紙ヤスリ”を拒絶する?何か理由があるのか?まさか…紙を持っているのか?いやそれならば当の昔に個室から開放されている筈だ。読め読むのだスザク!………そうか!)

 

(ふぅ…あの銀髪天パの考えなんざ読めねェ。読めねェなら読めねェなりに言葉から推測しろ!今“スコッティ”を拒絶する理由は!?今勝負を長期戦に持ち込ませようとしている理由は!……そうか!)

 

 

((本当は欲している事を俺達に気付かせないため!!))

 

 

(ふっもう読めたよ銀さん。そうやって欲している事を巧妙に隠し、演じきる事でガレスのおっさんから“紙ヤスリ”の興味を削ぎ、そして手に入れる気だね!……ならば!)

 

(そうか…!長期戦と見せ掛けて短期戦に持ち込む気だな?流石だと認めざるを得ねェな…咄嗟の機転や言葉巧みな話術は、地頭はフィンに匹敵するスザク(クソヤロウ)より優れてやがる…!だが判ったからこそ俺は!)

 

 

((言葉に乗っかる!!思い通りにはさせねェ!!))

 

 

「そうだよガレスのおっさん。“紙ヤスリ”なんてこの状況じゃ毛ほども役に立たねェよ。肛門削る前に脳味噌削ってもらったらどうだ?」

 

「ハンッ!ジジイ、遂にボケたか?そんな“紙ヤスリ”より俺の毛皮の方がよっぽど使えるぜ!」

 

「お前らも揃ってなんじゃ!要らんというのか“紙ヤスリ”!!」

 

 

「お前ら言い過ぎだろ?まァ使い道があるかもしれねェから、ちょっと見せてみろよガレス」

 

 

 

((ツ、ツンデレだとぉぉぉおおおおお!?!?!?))

 

 

 

(ここまでが全部、陽動だったんだね。負けた、負けたよ…完敗だ銀さん。俺はまんまと乗せられた訳だ)

 

(最初から最後まで見据えてやがったあの腐れ銀髪天パ……!クソッ、勝ち目なんざもう無ェ………)

 

 

「しょうがないのぉ…ほれ。儂のはあるからな」

 

 

 スッスッスッとトイレの下からガレスの個室から流れてくる“紙ヤスリ”。

 スザクとベートはそれらを見て、心の中で張り叫ぶ。

 

 

((全員分あるんかいぃぃぃぃぃぃ!!))

 

 

(今までのやり取りは何!?ただの銀さんの本音に惑わされてたってこと!?どんだけ打たれ弱いんだあの人!)

 

(考え過ぎたぞクソがッ!もっと冷静に考えれりゃ判ったのに……!)

 

 

 今までの時間の無駄さに頭を抱える二人。

 すると両方向からゾリゾリゾリゾリと何かを削る音が響き、二人はギョッとその音の方向へ顔を向ける。

 

 

「おーこれ、いいなガレス。すげー粗いじゃん。効くわぁ〜」

 

「じゃろう?銀時。偶にはこんなトイレットペーパーでも良かろうて」

 

 

((“紙ヤスリ”でケツを拭いてるぅぅぅうううう!? ))

 

 

(いや、そんなバカな!ガレスのおっさんならまだしも銀さんまで!?でもこの音はそうだよな…てか、おっさんの“紙ヤスリ”も両面じゃねェかぁぁぁぁ!俺のと何も変わんねェ!こうなったら……!)

 

(いやマジで!?ジジイだけじゃなく腐れ銀髪天パも!?無理無理、でもこの音は拭いてるよね!?拭いてるよね!?拭かなきゃならねェ雰囲気になってるよね!?こうしちゃいられねェ……!)

 

 

「【再誕せよ(リバース)】」

 

 

(腐れ赤髪天パのヤロー、魔法使いやがったな!?勝負を仕掛ける気か!?俺は俺は…ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ)

 

 

 スザクの魔法【フライハイト・フランメ】。

 ・炎属性。

 ・形状はイメージ依存、ただし変更および更新可能。

 ・規模及び火力は魔力依存。

 ・模倣推奨。

 ・詠唱式【再誕せよ(リバース)

 

 

 つまり自身のコピーや人の模倣を炎で作れるのである。

 この魔法を使えば、他のトイレからトイレットペーパーを取ってくるなり何なり出来ただろう。しかし、フィンの『本人の力でケツを拭け』というルールに抵触する可能性があった。だから使えなかったのである。

 だが四の五を言っている場合では無い。スザクは魔法で自身の分身体を作り出し、その分身体にケツを突き出した。

 

 

「肛門に付いたウ○コだけ燃やせぇぇぇえええええ!!!」

 

「うぉぉおおおおおおお!!!」

 

 

 スザクとベートは喉が張り裂けんばかりに声を上げ、苦難に挑む。そして────。

 

 

 ジャアアアア……………バタンッバタンッッッ!!

 

 

 心地よい水流の音と同時に二つの扉が一斉に開く。

 飛び出したのはスザクとベート。二人は向かい合い一瞥すると、四肢が爆ぜるように動き出した。

 

 

「「うぉぉおおおおおおおおお!!!」」

 

 

 二人が交錯し、立ち位置が入れ替わる。

 二人の目にはトイレのタイルしか写していない。だが、その顔は何かを成し遂げた爽快感に満ちていた。

 

 

「クソッ…俺の負けか」

 

「【Lv.2】のお前が俺に勝てる訳ねェだろ」

 

「フッ…誰か、軟膏を俺の、ケツ…に……」

 

「だがアッパレ、だった…ぜ」

 

 

 ブシュゥゥウウウウウ……!

 

 

 スザクは衣類のケツの部分から煙を上げながら。

 ベートはケツから血を噴射しながら。

 両者はトイレでバタンとうつ伏せで倒れ伏した。その音を聞き届けたのか、ジャアアアアと二つの個室から心地よい水流の音がした。

 

 

「ホントに“紙ヤスリ”でケツ拭きやがったのかこのワンコロ」

 

「スザクはスザクでケツから黒煙立てとるしのぉ…ん?銀時、お前さんケツを“紙ヤスリ”で拭いとらんのか?」

 

「拭くわけねェだろ。あの音は壁を削ってた音だっつうの。え?拭いたの?」

 

「何も無かったし拭いたに決まっとるじゃろ。【Lv.6】の【耐久値】最大の儂の肛門が“紙ヤスリ”なぞに負けるわけなかろう!?ワッハッハッハッ!!」

 

「【豪傑】の二つ名は伊達じゃねェな…確定申告と給与明細の書類で二枚拭きした俺が恥ずかしいや」

 

 

 よっこいせっと二人を担ぐ銀時とガレス。

 こうして第一次トイレ戦争は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうだっただろうか、僕のプチ復讐譚は。

 

 答え合わせのようなものだが、下剤を盛った先はメイプルシロップ・カルーアミルク・昨晩の冷蔵庫にあるマヨネーズだ。

 

 メイプルシロップに関しては言わずもがな、カルーアミルクはスザク専用に作られたもので、それに盛り、マヨネーズはどうせ奪るだろうと(あらかじ)めにマヨネーズに仕込んでおいた。彼ら三人以外は下りリュウに見舞われてはいない。

 

 銀時?あぁ、勿論こってり絞ってやったよ。

 幾つもの冒険者依頼(ク エ ス ト)に行かせて、世のため人のために尽くし、報酬でツケを支払わせた。確定申告をトイレに流した罰もこれに含めてある。

 

 スザクもベートも奇異な行動を差し控えるようになった。

 

 

 三人は『自分のケツの穴は自分で拭く』という行為をきちんとわかってくれたようだ。とてもいい変化だ。これからは胃薬(あいぼう)の出番も少しは減る事だろう。

 

 

 二度とトイレ戦争が起きない事を願う。ではまた。

 

 

【ロキ・ファミリア】団長 フィン・ディムナ

 

 

 

 

 

 

 





ifの話はウ○コばかりだな、と。
食事中の方、申し訳ありません。特にカレーライスの方、申し訳ありません。

責任は全部、フィンが請け負ってくれます。

以後謝辞。
『チキン革命』さん。
コラボするにあたり、かなり時間がかかってしまいました。その分、かなり面白い一話に仕上がりました。本当にありがとう御座います。
この1話ができたのも、ひとえにスザクのキャラの造形深さによるものが大きいです。素直に脱帽です。

私は一からキャラを作っていませんから。本当に。

本当にありがとう御座いました。又の機会があれば、と。
そしてコラボしたい方がいれば、メール下さい。この作品ではなくても。

感想や評価、お待ちしてます。
ではまた本編で!

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