ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか   作:TouA(とーあ)

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前回の投稿が遅れたので、お詫びとばかりに投稿。


ではどうぞ!


※この前、ベルは着物を着ていましたがアレはプライベート様にしています。ダンジョンでは何時も通りの軽装備です。





中層の冒険

 

《ダンジョン 15階層》

 

 

 「リリ!ヴェルフ!」

 

 「わ、私は大丈夫ですが・・・ヴェルフ様が」

 

 「俺も歩くに支障はないが・・・戦闘は厳しいかもな」

 

 「・・・・・・」

 

 

 ベルは己を取り巻く現状に顔を歪めた。

 リリは平気だというが顔からは疲労が見て取れる。ヴェルフは13階層での落石に巻き込まれ左足を駄目にしていた。

 

 ベル、リリ、ヴェルフは中層にアタックしていた。十分な警戒と装備を整えていた筈なのだが、イレギュラーや別のパーティーからの怪物進呈(パス・パレード)により窮地に追い込まれていた。ポーションも少ない。

 

 

 「ベル様、ヴェルフ様、13階層から縦穴に落ちておそらくここは15階層です。進むも地獄、帰るも地獄です・・・・・・どう、しますか?」

 

 「俺はお前の選択肢に任せる。絶対に恨んだりしねェ」

 

 「────進もう。ヴェルフとリリは気力を持たせる為に互いを支えあっていて欲しい。僕は大丈夫だから」

 

 

 ベルはそう言って微笑んだ。

 リリとヴェルフは目を丸くする。と、同時にこういう人であったのだと改めて認識した。

 

 

 「僕はただ壊すだけだ。目の前に広がる圧倒的なまでの絶望を」

 

 

 ベルは背中で語る。

 リリとヴェルフはその姿に畏敬の念まで抱きそうになった。それ程までに頼りがいのある背中であり、心を掴む言葉であり、希望を抱かざるを得ない人望だった。

 

 

(僕がもっと強ければ・・・・・・!)

 

 

 ただ、ベル自身の胸の中にある想いはそれだけだった。

 溢れそうになる激情を理性で抑えつける。目の前にある絶望という“壁”が最優先で壊さねばならぬ物であったからだ。

 

 

 「ヘルハウンド・・・!」

 

 

 リリは諦念を滲ませた声を上げる。

 ヘルハウンドとは13階層でベルたちを襲った犬型のモンスターである。口から火炎攻撃を放つ、上層にはない厄介極まりないモンスターだ。

 

 

 「大丈夫だよ、リリ。もう────」

 

 

 ヘルハウンドは二体。

 ベルはヴェルフが打ってくれたミノタウロスの角で作られた“牛若丸”を握り、地を蹴った。

 

 

 「────見飽きたから」

 

 

 ベルは縮地の如く一体のヘルハウンドへ近付くと、滑らかな動作で魔石だけを斬った。

 灰に還る仲間を見たヘルハウンドは反応が少し遅れた。直ぐ様、火炎を放とうと口を開いた────が。

 

 

 「遅いよ」

 

『ガアッ!』

 

 

 ベルの右手がヘルハウンドの口を塞ぐ様に口内へ突っ込まれた。有り得ない行動にリリやヴェルフさえ目を見開いた。

 

 

 「────【ファイアボルト】」

 

 

 爆砕。

 体内から零距離で直接撃ち込まれた砲撃で、ヘルハウンドは断末魔を上げることもなく木っ端微塵に砕け散った。

 

 

 「進もう────ん?どうしたの?」

 

 

 向けられた無邪気な顔がリリやヴェルフに末恐ろしさを感じさせ、表情を凍てつかせたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン 18階層》

 

 

 「あー暇だ」

 

 「それでも安静にしといて下さいっす。銀さんが一番重傷なんすから」

 

 

 銀時は簡易ベッドに寝かされていた。全身の至るところに包帯が巻かれてある。

 59階層の激戦を終えた銀時は意識を手放した後にリヴェリアによる回復魔法とエリクサーで治療された。だが内蔵までいっていたのもあり、絶対安静をリヴェリアに言い渡された事もあり、こうして安静にしているのである。

 

 

 「らっつぁん、なんか面白い話してくれ」

 

 「ハードル高いっす」

 

 「ハードルは高けりゃ高いほどくぐりやすいもんさ。ほれ、話してみろ」

 

 「それを妥協って言うんすよ。現実見てください」

 

 「面白くねぇ男だな。だから童貞なんだよ」

 

 「ど、どどどどどど童貞ちゃうわ!・・・はぁ、わかったっす、話しますよ」

 

 「いよっさすが【超童貞(ハイ・ノービス) 】!!」

 

 「ルビはきちんと振れよコラ」

 

 

 素のツッコミを入れるラウル。銀時は今か今かとニヤニヤする。

 

 

 「学区に居た時の話なんすけど」

 

 「ほぉ?」

 

 「カラーコンタクトを付けて来た女子生徒が居たんすよ。クラスの中心人物だったんすけどね」

 

 「ふーん」

 

 「その女子生徒がこう訊いてきたんすよ『私、可愛い?』って。上目遣いで甘ったるい声を出しながら。それでこう答えたんです」

 

 「・・・ゴクリ」

 

 

 

 「色目使うんじゃねぇよ────カラコンだけに」

 

 

 

 ラウルの渾身のドヤ顔と面白い話は、銀時の外出したいという欲求を加速させるだけであった。

 

 

 

 「いやちょっ布団もぐんないで反応してェェェェェェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン 16階層》

 

 

 「ミノタウロス・・・・・・」

 

『ヴォオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 抗戦は不可能だった。普通ならば。

 三人を見下ろす牛人型のモンスターは二体。三人一組(スリーマンセル)であったとしても、ミノタウロスというLv.2でも逃げ出す様な怪物の出現には膝を折りたくなるのは必然だろう────だが。

 

 

 「ヴェルフ、リリ、少し待ってて」

 

 

 絶望に向かい一歩踏み出す【小鬼】が一匹。

 ヴェルフとリリをその場で待機させ、ベルはミノタウロスらに一歩踏み出したのだ。リリもヴェルフも無茶だと叫びたいのは山々だったのだが、有無も言わせぬ静かな威圧がベルから滲み出ていた為、何も言えなかった。

 

 

 「────小太刀(ナイフ)二刀流」

 

 

 ベルは息を吐き出すと共に“牛若丸”と“ヘスティアナイフ”を握り、地を蹴った。

 ミノタウロスは肉薄してくるベルに向かって天然武器である斧を振り下ろす。

 

 

 「────遅い」

 

 

 爆発的に高まったベルのスピードにミノタウロスらは反応出来ない。四方八方から起こる剣嵐はミノタウロスの判断力を奪うには最適であった。

 

 

 「────単純だね」

 

 

 トップギアのスピードを、足の筋肉を上手く使い急停止させミノタウロスを翻弄する。

 予測して振り下ろした斧が地面を抉るだけで終わる。流水の如き極端に緩急のついたベルの攻撃をミノタウロスは防ぐ術など持ち得ていなかった。

 

 

 

 「────アバンストラッシュ・肆連(しれん)

 

 

 

 スキル補正がついた必殺技。

 それが二刀で二回ずつ、つまり四度繰り返され、ミノタウロスの四肢を胴体と斬り離した。

 

 

 「────次」

 

 

 芋虫の様になったミノタウロスを一瞥する事なく、ベルはもう一体との戦闘を開始する。

 だが先程とは違いスローペースでの戦闘。ベルは駆け引きとしてスピードをわざと殺した。

 

 

 「ほら」

 

『ブモッ?』

 

 

 ベルは“牛若丸”をミノタウロスの眼前へ行く様に()()()()()

 有り得ない行動にミノタウロスは疑問の様な唸り声を出した。そして目線はその放り投げられたナイフに釘付けになる。

 

 

 

 「────ももパーン」

 

 

 

 目線をナイフに集める、つまり自身から目線を逸らさせるとミノタウロスの(もも)に強烈な廻し蹴りを放った。

 

 

『ブモッ!?』

 

 「行くよ────小太刀二刀流」

 

 

 強烈な一撃に体勢が崩れたミノタウロス。立て直そうにも急所を決められ力が咄嗟に入らない。

 ベルは放り投げ、落ちてきたナイフを掴み、トップスピードで回転する。周囲の風を巻き込み、空間さえも裂傷させる。

 

 

 

 「────回天剣舞・六連」

 

 

 

 刹那の一瞬に六度の斬撃の嵐。

 先程までと一線を画する速度と斬撃の重さはミノタウロスの反撃を許さず、強靭な体躯をぶつ切りの肉塊へと変えた。

 

 

 「うわっ!!」

 

『ブオォォォォオオオオ!!』

 

 

 凄まじい倦怠感がベルを襲う中、背後からもう一体のミノタウロスがヴェルフ達に迫る光景が視界に飛び込んできた。

 

 

 「クッ!!」

 

 「うわぁっ!」

 

 

 ミノタウロスは二人を一度で屠ろうと天然武器である斧を横薙ぎする。

 ヴェルフとリリは前方へ倒れ込む事によりそれを回避。だが次の一撃は絶対に躱せない、死を意味することはす地に出すまでもなかった。

 

 

(ふざ、け・・・ろッ!!)

 

 

 ベルは斧を振り上げるミノタウロスに向かって人差し指の先を向ける。指先の照準はミノタウロスの魔石の位置。

 

 

 

 「────【デスビーム(フ ァ イ ア ボ ル ト)】」

 

 

 

 人差し指の指先から射出された【ファイアボルト】はミノタウロスの強靭な体躯を貫通し、魔石を破壊し、灰へと還した。

 

 ベルの魔法【ファイアボルト】は超短文詠唱で発動できる魔法であるが、威力が弱いという欠点があった。だがそれを克服する為にベルがイメージしていたものがある。

 

 水道のホースの様に魔法の射出の範囲を狭めれば、貫通力や威力が上がるのではないか、というものである。

 

 ベルの狙い通り、それは可能だった。ベルだけの唯一のスキルである【破壊衝動(ラグナロク)】がそれを可能にしたという事実に気付くのはもっと先の話ではあるが。

 

 

 「ベルッ!」

 

 「ベル様ッ!」

 

 

 倒れるベルを二人が地を滑空するようにして支える。意識が飛びそうになるところをどうにか耐えた。

 

 

 「あと少し、持ってくれ・・・僕の体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン 18階層》

 

 

 「リリ、ヴェルフ!?」

 

 

 飛び上がる様に僕は起きた。泥のような倦怠感に呑み込まれるが意識をどうにかハッキリと持ち、ヴェルフとリリを探した。

 

 

 「い、居ない・・・」

 

 

 軋む体を強引に従わせ立ち上がる。ようやくそれで僕が布地の天井のテントにいることを知った。誰かが助けてくれたのだろうか。

 僕の記憶は17階層まで降りて階層主であるゴライアスと遭遇したところで途絶えている。誰かが僕を救ってくれたのは明白だけど今はそれどころじゃない。

 

 

 「リリ・・・ヴェルフ・・・」

 

 

 二人を探すためにテントの外へ出た。まず強烈な光が僕の目に飛び込んでくる。

 次に視界に広がったのは大規模な野営風景だった。物資運搬用のカーゴや僕が寝かされていた物と同じ様な天幕が設置されている。

 

 

 「起きたかベル」

 

 「し、師匠・・・師匠オォォオオオ!!」

 

 

 師匠は困った様に笑った。

 師匠はいつもと変わらない銀髪と死んだ魚の様な目をしているけど全身が包帯で巻かれていた。()()()()()()()。僕も巻かれているけれど師匠の五分の一ぐらいで明らかに僕より重傷だった────でも、それよりも。

 

 

 「ヴェルフは!リリは!ぶ、無事────」

 

 「無事だ。今は俺の仲間と飯食ってらァ」

 

 「よ、良かったぁ・・・」

 

 

 一気に力が抜ける。その場でへなへなと膝を折ってしまった。

 師匠は頭をガシガシ掻くと僕に手を差し伸べてくれた。

 

 

 「・・・ったく、泣き虫は直ってないらしいな」

 

 「・・・へ?あ、あれ・・・なんで」

 

 

 僕の目頭から涙がポロポロ零れていた。拭っても拭っても零れる。

 

 

 「ほら、行くぞ。仲間のもとに」

 

 「は、はい・・・ありがとうございます、師しょ────」

 

 「銀時ィィィィィイイイイイ!!」

 

 

 師匠の手をとろうとした瞬間、間違いなく怒っているエルフの女性がズカズカと足音をわざと鳴らしながら迫って来た。

 

 

 「絶対安静だと言っただろが!」

 

 「お、俺ァ散歩しか────」

 

 「散歩しか!?お前、腰に下げている木刀はなんだ!包帯についている()()()はなんだ!この大バカ者!!」

 

 「か、返り血・・・?」

 

 

 てっきり師匠の傷跡から滲み出た血だと思っていたんだけど、どうやら違うらしい。

 エルフの女性は怒髪天をつく勢いで怒ってる。証拠に頬をピクピクさせてる・・・何したんですか師匠。

 

 

 「んだよ、リヴェリア。大バカ者って────」

 

 「大バカ者だろう!!誰よりも重傷のくせに、散歩ついでに17階層のゴライアスを倒してくるなんてバカ以外に誰がやる!?このバカバカバカ!!バカという言葉がこれ以上似合う奴なんて世界中に居ないだろうな!!」

 

 「ええっ!?師匠が助けてくれたんですか!!」

 

 「あー・・・・・・・・・散歩ついでにな」

 

 

 師匠は視線を明後日の方向へ向け、頬をポリポリ掻いた。困った時の師匠の仕草だ。

 

 

 「いい加減にし────」

 

『────着いたァァァァ!!』

 

 

 師匠にリヴェリアと呼ばれたエルフの女性。僕も知っているぐらいオラリオでは有名だ。だって師匠やヴァレンシュタインさんが在籍しているファミリアの副団長だから。

 そのリヴェリアさんが爆発しそうになった時、18階層の入口であろうところから聞き覚えのある、でも聞こえてくる筈のない声が届いてきた。

 

 

 「────か、神様?」

 

 

 ふらふらとした足取りでその声の元へ歩く。

 続々と集まってくる人だかりをくぐり抜け、目線が僕と合った神様が双眸を真ん丸にして転がるように走り出した。

 

 

 「ベェルゥくぅぅぅん!!」

 

 「か、神様ぁぁぁ!」

 

 

 どうしてか。なぜなのか。

 おじいちゃんが聞かせてくれたド定番のシチュエーションを神様としている僕。

 歩きながら両手を広げ、走ってくる神様を迎える準備ができた僕は────。

 

 

 「ベェェェルゥゥゥくぅぅ────グヘッ!!」

 

 「神様ァァァ────うおっ!?」

 

 

 

────疾風が。

 

 

 

 思わず目を瞑ってしまうほどの疾風が、神様を吹き飛ばし僕を吹き飛ばした。その風を目で追ってみると、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

 

 

 

 「が、あ、ぁあ傷口がァァァ!」

 

 

 

 疾風が。人垣を割り師匠の腹に直撃していたのだった。

 師匠はボサっとしていたのか受け止めきれずに体が倒れ、どさっと尻餅をついてしまっていた。

 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・へ?」

 

 

 

 師匠がおずおずと口を開く。

 師匠の腹に直撃した疾風、いや鮮やかな緑のフードをかぶった覆面の冒険者は師匠の背中まで腕を回して抱き締めている。

 

 

 

 「お、おい、お前まさか」

 

 

 

 師匠がフードを脱がせようと頭に手を置いた瞬間。

 覆面の冒険者はガバッと顔を上げ、プルプル震え始めた。

 

 

 

 「わ、わ、私に触るなァァァァァァァ!!」

 

 

 

 師匠を抱き締めたまま、流れるようにジャーマンスープレックスを決めた覆面の冒険者は、一体誰なんだろう。

 

 

 

 

 

 




さぁ誰なんでしょう。あーすっきりすっきり。
あ、ジャーマンスープレックスは基本、背後からしますがそこら辺はなぁなぁでお願いします。


前回の捕捉。

最初の最初に書きましたが、この作品はダンまちの世界に銀時がいる。というストーリーです。

つまり銀時の師匠が吉田松陽ではない、ということになります。同じにしたら二番煎じで面白くありませんし。

前話で“相楽総一”が銀時の師匠であると判明しました。かなり前の話になりますが、ベルはおじいちゃんに書いてもらった英雄譚のお蔭で銀時の所属していた組織を予測していました。それは確認してもらえたらと。


長く語りましたが、謝辞に移ります。

『中村 健介』さん、『祐ラス』さん、『雪うさぎ優希』さん、『Shiroyukin』さん、『エリュシデータ×ダークリパルサー』さん、『ティーも』さん、『FURUBU』さん、『中原千』さん、『アムク』さん、『青の雲』さん、『nine_ball』さん、最高評価ありがとうございます!!

『Lily29』さん、『の氏』さん、『ブーーちゃん』さん、『デジール』さん、『トラブる@闇ちゃん』さん、『G_WOOD』さん、『荼毘』さん、『くろがねまる』さん、高評価ありがとうございます!!


いやホント嬉しいです!!早く投稿できるのも皆さんのおかげです!!


えっと事前に疑問に答えますが。
ベルの【破壊衝動】は【英雄願望】より使い勝手が悪いのではないか、という点。
これはまだ扱い切れていない、ということ。ミノタウロスをぶつ切りにするぐらい“オーバーキル”なのでこれからの課題が調整になります。はい。


沢山のアンケート回答ありがとうございます!!反映できるものはしていきますので(今回見たく)、まだまだ募集してますのでよろしくお願いいたします!!


ではまた次回!!感想と評価、お待ちしてます!!

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