ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか 作:TouA(とーあ)
チーズ蒸しパンになりたい
「うおぉぉおおおぉぉぉおおお!」
銀時は走っていた。
空を翔ける稲妻より速く、焼き尽くさんと放たれる炎柱よりも速く。
「死ぬッ!死ぬッ!ヤバイヤバイヤバイィィィィ!」
『待てゴラァァァァァァァ!!』
銀時は追跡されていた。複数の死神に。
捕まれば一発アウト。捕まらなくても飛翔する幾多の魔法に当たればアウト。生き死にの狭間に銀時は居た。
(今更だけど謝れば許してくれるかな!?さすがに重傷の銀さんに本気の魔法撃ち込んでこないよね!!みんな優しいもんね!銀さんのこと大好きだもんね!!)
そういう結論に至った銀時は全力の土下座をしようと後ろを振り返る────ヒュンッ!と顔の直ぐ横を一閃の雷が翔けり、頬に赤い線を走らせた。
「
「
「
「
「オイィィィイイイイ!
こうも命を狙われている理由は銀時の愚行にある。
先程、銀時はマダオ仲間である神ヘルメスと弟子のベルと【ロキ・ファミリア】やその他メンバーの水浴びを覗いていたのだ。それも双眼鏡という技術の無駄遣いの産物まで使って。
その行為がバレると銀時とヘルメスは脱兎の如く逃走。弟子のベルを置いて逃走したのだ。ついでに途中で銀時はヘルメスさえも置いて行っている。
「はぁはぁ・・・どうにか捲いた、か」
暫く森の中を縦横無尽に走り続けた銀時は追っ手を捲いた。【Lv.6】は伊達ではない。だが捲いたことは良くても道に迷った。
「喉乾いた・・・いちご牛乳飲みたい」
切実に想う銀時。
その時、耳が水の音を拾った。意識がそれに飛び付く。
せせらぎとは違う、水をすくっては落とす様な自然のものではない音が銀時の耳に届いた。
モンスターの可能性も十分あったのだが、銀時にとっては些細な事で乾いた喉の飢えには勝てなかった。
穴の様な木々の隙間を潜り、水の音源へと近付いていく。鳥型のモンスターギャアギャアという鳴き声が周囲を木霊する。
森が再び日差しを遠ざけ、薄暗くなり、藍色を帯び始めていく。短い列柱の如く地面から等間隔に生えて、ぼうっと光る幻想的な水晶に導かれる様に銀時は進む。
森が開け、泉が現れた。
「こんな場所あったんだな・・・」
長年、ダンジョンに潜り続けている銀時でさえもこの場所を知り得ていなかった。幻想的な風景にしばし目を奪われる。
そして水を掬っているような音、その音源へと目を向けた。
「────────ぁ」
音は泉の中心に存在する妖精によって奏でられていた。
一矢纏わぬ姿で、雪のような白い素肌────ほっそりとした背中を銀時に向け、水浴をしていた。両手で水をすくってはこぼさない様にゆっくりと、自分の髪へ塗り込むように洗っていた。
「
「はぁ・・・」
私は一人ため息をついていた。
理由は・・・わざわざ約束を破ってまでその約束を交わした人の姿を見に来ただけなのに、その人との再会ざまにジャーマンスープレックスを掛けてしまったことにある。
「いやサカタさんが悪いのです。私が悪いんじゃない」
そう言い聞かせないとまた爆発しそうになる。
私はサカタさんが遠征に行ってからというもの店の仕事に支障が出ていた。『必ず帰ってくる』という約束を交わしたけれど、あの人の強さを疑う訳でも無かったけれど、気が気でなかったのだ。店の仕事が疎かになるぐらいには。
サカタさんの主神である神ロキにも見透かされた上に念押しされた。大丈夫だと。信じて待つのが役目なのだと。
だから私は心のモヤモヤを押し殺してでも、彼との約束を反故にせぬよう“豊穣の女主人”で待つつもりだった。
あの日、神ヘルメスが私の協力が欲しいと“豊穣の女主人”に訪れた時も私は最初は断った。だが────。
+ + + + + +
『【疾風】のリオン、君の力が借りたい』
『お断りします。私はここで待つ義務がある』
『そこを何とか頼むよ。君の友達のベル君達が危ないんだ』
『他の冒険者に頼むといい。私はとある人との約束を優先しなければならない』
『そう言えば、某有名店のパフェの割引券が
『・・・・・・開店前なのでお帰り願えますか』
『あっ!18階層に【ロキ・ファミリア】の遠征組が
『・・・・・・何が言いたい』
『いやぁ何もぉ?ただ、俺の友人はたとえ自身の体がボロボロであったとしてもそんな仲間を護る為に瀕死の体を全力で酷使して使い潰すだろうなぁって思ってさ』
『────ッ』
『それで・・・付いて来てくれるかい?』
『・・・同行しましょう。あくまでクラネルさん達を救出させる為です。べっ別にサカタさんのことが心配な訳じゃありませんからねっ!勘違いしないで下さいねっ!』
『う、うん・・・チョロいなぁ』
+ + + + + +
なのに、だ。
久方ぶりにダンジョンに潜り、約束を交わした相手と再会してみれば私より綺麗な人とイチャイチャしているではないか(※していません)。モヤモヤしていた私の心を弄ぶように。
別にその行為が悪くは無いことは判っている。誰と仲良くしようが私に関係ないのも判っている。モヤモヤする気持ちを吐露するのも怒りをぶつける、ましてやジャーマンスープレックスという技を掛けるのも間違いなのは判っている。筋違いであるということも・・・。
それに私は18階層に一行を送り届け、あの人の顔を、元気な姿を一目見たら即刻帰路に付くつもりだった。クラネルさん一行の帰路の世話は18階層で
なのに・・・なのに、なのに!
あの人の・・・サカタさんの元気な姿を目に捉えると思考が止まった。
溢れ出る安堵と喜悦。流れ出そうになる涙と激情。理性は働くことを忘れ、感情の濁流は余計な詭弁を全て呑み込んだ。
気付けば私はサカタさんの腰に手を回していた。衆目の目もあったにも関わらず、私はサカタさんを抱き寄せていた。
今は────胸がとても苦しい。
「水でも、浴びましょうか」
体に付いた泥や屠ったモンスター血を流す為に私は
友の形見である木刀と
水をすくい髪に馴染ませるように洗う。体は絹を触る様に優しく傷付けぬように。
ふと私は体の一部に手を置いた。その一部は女性の魅力を醸し出す部分である。即ち、胸だ。
「サカタさんと仲睦まじく話していたのは恐らくリヴェリア様・・・はぁ」
別にだからといって何かある訳ではないのだが・・・シルが少し羨ましい。
体を清めると、ふぅと自然と息が漏れた。精神的に少し疲れが出ているのだと体が教えてくれた。
「────────ぁ」
「
鋭敏になっていた感覚が音を拾った。それもモンスターではない人間の声の音。漏れ出た音。
振り向きザマに私は携えていた小太刀を音源へ神速で投擲。ガキンッと堅い物と堅い物が接触した音が響き渡る。
「・・・・・・・・な、なんだチミはってか!そうです!私が変なおじさんです!」
「・・・・・・」
全力で下顎を突き出し、両目を白目にし、全力で変顔をする男。
先程から私の心を掻き乱すだけ掻き乱し、追い討ちを掛けてくるという外道の中の外道。ましてや“覗き”という人の道さえも盛大に踏み外したド畜生。
「変なおじさんだから変なおじさん♪」
「変な踊りしなくていいですから後ろを向いて下さい」
「変なおじさんだから変なおじさんっと・・・♪」
「後ろを向いて下さい」
「だっふんだ!!」
「喧しい!さっさと後ろ向け!」
後ろに振り向くと同時に私は忙しく着替える。
覗きに来てくれた、という事実は女として嬉しくはあっても、エルフの身である私にとっては異性に肌を晒す事は禁忌そのものであって唾棄すべきものである。
着替え終え、呼吸を整えると私は後ろに振り向いているサカタさんに声を掛けた。
「それで、なぜ覗いたのですか?」
「だっふんだ!」
「もう一度聞きます。なぜ?」
「だっふんだ!!」
「・・・最後です。なぜ!?」
「覗いても大丈夫だぁ〜〜〜♪」
「・・・・・・・・・ギルティ」
「すんませんでしたッ!!」
華麗な土下座を私にしたサカタさん。
土下座までの一連の動作が流麗であり、何度も何度もしてきたのだろうと理解してしまった。理解したくはなかったが。
「もう一度聞きます。なぜ覗いたのですか?」
「・・・・・・」
「覗いたことに対しての理由は?」
「・・・・・・黙秘権を」
「ある訳ないでしょう?弁明は聞くだけ聞きます」
「・・・女は告白された回数や痴漢された回数をまるでステータスの様に語るじゃねえか。つまり俺がリューを覗いたのもリューのステータス向上に繋がり、俺も見れてラッキーというwin-winの関係を築き上げただけ────」
「言いたいことはそれだけですか?」
「・・・・・・・・・だぁぁぁ!もう全部言ってやるよ!」
それからサカタさんは半ば自暴自棄にここまでの経緯を語った。
神ヘルメスとクラネルさん共に【ロキ・ファミリア】や私と同行した冒険者や神ヘスティアなどの水浴びを覗いたこと。それがバレて弟子であるクラネルさんを置き去りにして二人は逃走。【Lv.6】の足に付いていけなくなった神ヘルメスも途中で置き去りに。それで散々迷った挙句、喉の乾きを潤す為にここに辿り着き、たまたま居合わせた私の水浴びを覗いた・・・と。
「情状酌量の予知なし、消えろ下衆が」
「ちょっぉ!話せば許してくれる流れだったじゃねぇか!」
「ふむ・・・界王星に行くか、
「遠まわしに死ねってか!界王様のもとで元気玉会得してぶつけるぞコノヤロー!」
「いや貴方は天国ではなくて地獄だろうな。地獄行きの魂に当てられて初期のジャネンバにでもなればいい」
「初期ってあのデブじゃねぇか!俺ァあんなに太ってねぇよ!」
「貴方は蓄積された
「なんで懺悔風!?」
暫く不毛な言い合いをした私達は息をハァハァ切らした後にふっと笑い合った。
そして私は一番聞きたかったことを聞いた。
「結局・・・貴方は私を覗こうとして覗いた訳ではないんですよね?彼女らの場合とは違って」
「ま、まぁそうだな。不慮な事故で起きたラッキースケベって感じだな」
「ふ、ふぅんだ。どうせ貴方は私なんかの体よりもっとボンキュッボンの女性がいいのでしょうね!」
「ん?リューの体も十分綺麗だったじゃねぇか。何を謙遜してんだ」
「え・・・・・・・・・え!?」
今までまともに褒めてくれたことの無いサカタさんが私の体を褒めてくれた。その事実が体温を向上させ血流が良くなり顔を真っ赤にさせた。
「何を驚いてやがんだよ。エルフの体だぞ?綺麗に決まってらァ」
「あ・・・あ・・・あ・・・あっ///」
「ま、アイズ方が胸は大きかったけどな」
「死ね」
「ギャァァァァァァアアアアアア!!」
「ん・・・んぁ・・・なっ!?」
「・・・起きたかい?銀さん」
意識が浮上し、目が覚めると銀時は自身が縛られていることに気付いた。
隣には同じく縛られているヘルメス。顔を見ると、ところどころ腫れていてイケメンだと巷で言われていた整った顔はもう見る影もない。
「景色が逆さ、ま?」
「そうだよ銀さん。俺達は女性たちに捕まった後に縄で縛られ、木に吊るされてるんだよ・・・」
「
「嫌な例えだけど的を得てるよ・・・どうしてこうなった」
「ヘルメスさんが覗きに行こうって言ったからだろ?」
「おいおい先に言ったのは銀さんだろう?」
「ヘルメスさん」
「銀さん」
「ヘルメスさん」
「銀さん」
『うるさい!!』
二人が醜い争い、罪の押し付けあいをしていると覗きの被害にあった女性らが寄ってきた。リューはいないが。
「変態は口を閉じていろ。空気が障る」
とリヴェリア。
「団長以外に見られるなんて最悪」
とティオネ。
「私はあまり気にしないけど流石にやり過ぎだよ」
と普段は良心的なティオナまで銀時達を批判していた。
「あ、アイズ?」
「銀ちゃん・・・・・・・・・最低」
「グハッ!!」
最も言われたくなかった妹分に突きつけられた『最低』という二文字の言葉は銀時の心を深く抉った。
「之から貴方達を裁く訳ですが、その執行人をお呼びしたいと思います」
「アスフィ〜許してくれよ〜」
「下衆が」
「グハッ!!」
アスフィの久し振りの全力の白い目とガチトーンにヘルメスも心を深く抉られた。
執行人、という言葉に二人は生唾を呑み込む。これだけ散々な罰を受けておいてまだ何かしらがあるのかと身を震わせた。
「執行人は────」
「・・・・・・・・・は?」
「・・・・・・・・・へ?」
ザッザッと床を擦る音。即ち草履。
左手に
雪兎の様な真っ白な髪に燃える様な
「神にも人にも誰にも貴方達を裁かせない」
「・・・・・・・・・」
「貴方達を裁くのはこの僕だ」
「お前は
二週間ぶりの1話、いかがでしたか?
久しぶりにこいつらにジャスタウェイを投げつけたくなった人は多いと思います。私もその一人です。
毎度恒例謝辞。
『@ファイブス』さん、『よこよこ』さん、『ティーも』さん、『噂のあの人』さん、『箱男』さん、『tomorrow05』さん、『シュア.』さん、『クインタス』さん、『タヌキ三世』さん、最高評価ありがとうございます!!
『鎧武 極』さん、『田坂』さん、高評価ありがとうございます!!
夏休みは頑張って投稿しますので、応援よろしくお願いします!!
ではまた次回にお会いしましょう!
ジャスタウェイ!(挨拶)