ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか 作:TouA(とーあ)
ジャスタウェイ(挨拶)
前回の感想で少し説明不足というかもう一度説明するべきだと思ったので補足を。
ベルの着物について。
これはヴェルフから貰ったものですが、実際ヴェルフは椿から譲り受けました。それで女物なんです。
加えて、“銀魂”の背が低いのに○杉さんの着物はどう見ても女物でしょう?咲き散る艶花と金の蝶とか女物の着物しか有り得ないでしょう?
まぁそう思って着物が渡される道順を女性の椿にしたんですけどね。
ってことで第二章もあと少し。どうぞ!!
《ダンジョン18階層
バキッ、バキッ─────と。
水晶に深く歪な線が走る。生じた亀裂から水晶の破片が煌めきながら儚く落下していく。
「まさか・・・モンスター?」
誰の呟きだったか。この層にいる全員の認識が言葉となって漏れた。
悲鳴を上げても水晶の破砕音に掻き消される。階層内に居るモンスターの咆哮が四方から重なり合いながら木霊する。
「・・・ゴライアス、なのか?」
この階層に辿り着いた冒険者ならば知り得ている。
目の前に産まれ堕ちたモンスターが17階層の階層主であるゴライアスであると。だが姿形は似ていえど肌の色が異なっていた。本来の薄い灰褐色ではなく全身を漆黒に染め上げた肌をしているのである。
事態に気付いた者はいち早くこの階層から逃げ出そうとした。賢明な判断だった──────だが。
「穴を・・・・!」
上層と下層に繋がる洞窟はダンジョンが起こす地震によって崩落した。それはまるでこの階層に留まる全ての者を幽閉することがダンジョンの意思であるかのように。
「やるしかねぇんだ!武器を取れ!あの化物と一戦やるぞォ!今から逃げ出した奴は二度とこの街の出入りを許さねぇ!」
ならず者の集まりで出来たリヴィラの街を総括しているボールスは腹を括れと檄を飛ばした。街に滞在していた冒険者達も武器を持って続々と大草原へと向かっていく。
『ゥゥ─────ォォォォォォォォァアアアアアアアアアッ!!』
だがゴライアスから放たれる
その
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が絶叫を呼び、恐怖が伝播する。
阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れる。運命が理不尽に翻弄する。それでもまだ絶望は始まったばかりだった。
絶望が始まる数十分前。
ベル、ヴェルフ、リリ、ヘスティアの一行と【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花、
「この街は聞いた通りです!全部が全部ボッタクリじゃないですか!」
「まぁまぁ。背に腹は替えられないし・・・」
激昂するリリを宥めるベル。ヴェルフも武具や砥石の値段を不服そうに見つめている。ヘスティアは初めてのダンジョンに興奮が隠しきれないのかどこか落ち着かない様子だ。
「足りないのなら俺達も出そう」
「いえ、お金の貸し借りは友人ならまだしもファミリアでやるとなるとそれなりの問題がついて回ります。ですから気にしなくても大丈夫です」
「そうか・・・」
桜花は申し訳無さそうに目を伏せる。
この【タケミカヅチ・ファミリア】はベル達が中層で 『
その負い目からヘスティアが捜索願をクエストとして出した時、謝罪と共に捜索隊に加わった。後にヘルメス、アスフィ、そして用心棒としてリューが加わった。
捜索隊が18階層に辿り着き、リューが銀時にジャーマンスープレックスをかましたあと桜花達はベルに本家本元の土下座をした。それはもう大層綺麗な土下座だった。一応和解という形にはなったものの簡単に遺恨が消える訳ではなく、今もこうしてギクシャクしているのである。
「ねぇねぇアスフィ・・・」
「何ですか?クソ外道」
「もう悪意を隠す気も無いんだね・・・あのね、ボラギノール探してきてくれない?」
「嫌ですよ。私が買ったら私が痔を患っているみたいに思われるじゃないですか」
「そこを何とかぁ〜!」
「はぁ。ボラギノールではありませんが代わりの物なら有りますよ」
「え!それでいいよ!早く頂戴!」
「はい」
「ジャスタウェイじゃないか!何なの!?アスフィってば俺のア○ルに恨みでもあるの!?」
「汚らわしい・・・貴方は仮にも神なのですから発言する言葉は考えて下さい」
「じゃあ俺の
「あ、ちなみにそのジャスタウェイは音声認識ですから」
「おぉうッ!?」
「まぁ嘘ですが」
「嘘かよぉぉぉぉぉ痛ててててててててて!!」
咄嗟にジャスタウェイをあさっての方向に投げたヘルメスだったが見事にアスフィに踊らされたのであった。それと同時に激しい動作をした為に痔が暴発しかけ涙目になる。
「ヘルメス様大丈夫ですか!」
「べ、ベルく〜〜〜ん」
その痛みの元凶であるのに優しくされたヘルメスはまるで神に会ったかの様な眼差しを向け目に涙を溜める。
「聞いてくれよ!アスフィが!アスフィがぁ〜痛たたたたたた!」
「そ、そこの宿屋で休んでて下さい!探してきますから!」
そう言ってダッシュでボラギノールを探しに行ったベル。
ヘルメスは近場にあるぼったくり宿屋で休憩することになった。他の面々はそれぞれ自由行動を勤しむ。
「有りましたよ!ここに置いときますね!」
「ありがとう・・・ありがとう」
ベルはボラギノールを伏せて寝るヘルメス傍に置くと部屋から出ていった。
ヘルメスはズボンを下ろし処置をした。
「ふぅ────あっ」
ヘルメスが一時の安堵に深く息をついた直後、ゴゴゴゴとダンジョン全体が揺れ始めた。
「・・・やっべ」
あまりの気持ち良さと安堵に包まれ気が緩んでしまったヘルメスは気の緩みから“神威”が少しだけ漏れ出てしまった。
気付いた時にはもう時既に遅く、ダンジョンがヘルメスの存在に気付き異変を生じさせた。地震を起こし何かが産まれ堕ちる
「ヘルメス様ッ!大丈夫ですかっ!」
「
「はっはい!」
颯爽と駆けて行くベルを窓越しから見送るとヘルメスはゆっくりと息を吐き、宙を見上げた。
「いい機会だ・・・見せて貰うよ、君が英雄足り得る器であるのかを」
尻をさすりながらヘルメスは期待の籠もった声音でそう呟いた。
「はぁぁぁああ!」
裂帛した声が周囲を木霊する。
その声に共鳴するかの様に冒険者が奮い立ち、ゴライアスとそれを取り巻くモンスターと衝突する。
「
「分かりました。それでは私と貴方で注意を分散させましょう」
絶望かと思われたその局面に現れた覆面の冒険者と高名な冒険者。
その二人が繰り出す攻撃は少しながらゴライアスの表皮を削っている。その光景に触発された冒険者は名を上げようと躍起になっている。
(どうしてこうなったのか・・・いえ今は目の前の敵に集中せねば)
リューは【ロキ・ファミリア】の遠征隊が地上へ帰還する時に一定の感覚を開けて帰路につく予定だった。それまでの空く時間に仲間が眠る場所に花を添えようとしていた。
店については【ロキ・ファミリア】の宴会は彼らが地上に帰還してから一日空けてからなのでハードスケジュールではあるが問題は無かった。
まぁ現実というものは上手く行くものではなく、仲間の墓参りをしている最中にダンジョンに異変が生じゴライアスが産み堕とされた。無視する訳もいかなければゴライアスを倒さねば帰路につくことも叶わないのでこうして交戦している。
「レベルは5以上か・・・私だけでは辛い」
思わずリューから溢れ出た言葉は真実であり眼に見える残酷である。
幾らリューやアスフィが削ってもゴライアスは自身の魔力を使い治癒能力を上げ自己修復をする。キリがないのは火を見るより明らかだった。
「なら相手の魔力が枯渇するまで削る・・・!」
無謀だということが無謬であったとしてもそれしか道は無い。
「魔法が飛ぶぞぉぉぉぉぉ!!」
リヴィラを総括しているボールスの咆哮が響き渡る。
リューとアスフィは一時前線を離脱し後方部隊に任せる。
魔道士達は杖を振り上げると
『───────ッッ!』
連続で見舞われる多属性の攻撃魔法。火炎弾が着弾すれば雷の槍が突き刺さり、氷柱の雨と風の渦が炸裂する。一部『魔剣』の攻撃も加わり、階層主の巨躯が砲火の光に塗り潰された。
『───────フゥゥッッ!』
だがゴライアスを仕留めるには足り得なかった。全く効果が無かったのだとみるみる傷が癒える様を無言で見つめる冒険者は目を見開きながら絶望に打ち震えた。
そしてゴライアスは巨大な両腕を頭上へ高く振り上げ、振り下ろした。
「───────ッ」
大草原が割れる。
凄まじい爆発を起こし、地割れと、衝撃波を発生される。放射状に広がる破壊の津波は全ての
「あ、あぁ・・・あぁ・・・・・・・」
喉を嗚咽が駆け上がる。誰かが膝を突く音が届く。次第にそれは連続し、高い音を立てて武器を取り落とす音が連鎖した。
抗うことを始める気概さえ奪われ、誰もが瞳から力を失い、武器を握る気力を吹き消されている。
「───────ぁ」
絶望に呑み込まれた。誰もがそう思った────刹那。
死屍累々の戦場を、衝撃波によって荒野となった草原を、一人の少年が降り立った。
あまりにも異質な光景で、あまりにも理不尽な状況で、あまりにも絶望に塗れた戦場で────少年は一人、目の前の壁をただ見つめた。
「───────立て」
紡ぎ出された一言はあまりにもこの戦場に不釣り合いだった。
終焉の未来を押し付けられ、心をへし折られた冒険者にとってその言葉は意味を持たない。だがその者の声音は耳によく届く。
「手足も動く。顔も上がる。目も見える。声は届く。諦めなんぞ存在しねェ」
少年を知っている者は目を見開く。知らない者は目を奪われる。
充満していた死臭が少年の下へ集束していく様な錯覚を覚える。そして空間さえも従えて少年は言葉を紡いでいく。
「目の前に在るのは何だ?絶望か?諦念か?運命か?
冒険者から見えるその姿はあまりにも小さい。巨大な壁を前にして当たれば反動で飛びそうな弱者だ。
なのに、なぜか、なぜなのか。目の前の少年─────否、男の圧倒的なまでの大きい背中に心が震える。一つ一つの言葉が、紡ぎ出される言霊が、一人一人の心を奮わせる。
「僕はただ壊すだけだ。この腐った
男は色艶やかな着物を靡かせ、大地を踏みしめる。 右手を
ゴライアスは右の拳を引き絞り、風斬り音と共にその男へと拳を射出する。轟音と共に少年の背丈の数倍もある拳が肉薄する。
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング『ファイアボルト』砲ォォォォォォォォオオオオオオオッッ!!!」
魔法は長文詠唱ほど威力が高く、短文詠唱ほど威力が弱い。
冒険者でなくとも知る事実。夢見る子供でさえも理解している真実。
男の魔法は名を唱えるだけの超短文詠唱。威力は無論弱い。それは魔法に於けるロジックで、真理で、ある種の制約だ。
ならばそれさえも
ロジックを破壊し、真理を破壊し、科せられた制約さえも破壊する。
超短文詠唱に詠唱を付け足す事で何が起こるかは言うまでもない。
そして男の“スキル”のトリガーは“破壊衝動”である。
倫理の破壊、真理の破壊、限界の破壊、絶望の破壊、これらを目前とした時、そのスキルは真価を発揮する。
今回、男が破壊の対象にしたのは『魔法の概念』と『目前の絶望』である。一つの対象の時でさえ絶大な威力を発揮したスキルが二重になれば結果は火を見るより明らかだ。勿論、単純な積では測れない。
『──────────────ッッ!?』
白い稲光と共に凄まじい轟音を撒き散らしながら大炎雷は
声にならない悲鳴を上げた
─────法螺を実現させる法螺吹きが英雄と呼ばれる。
誰が遺した言葉だったか。
その言葉はたった一人の為に存在し得たのではないかと錯覚する。言うまでもなく該当する人物は一人のみ。
「どうせ死ぬんなら僕の為に
士気を折られた冒険者達が顔を見合わせ、震える膝を鼓舞して立ち上がる。
取り落とした武器を拾い上げ、剣を抜き、喉が張り裂けるほど叫び、嗄らす。
雄叫びが上がる。自らの心を奮い立たせる様に、己の魂を今一度輝かせる為に。
「弱音は屍になってから吐きやがれ!!屍にならねェんなら最後まで僕の隣で戦い抜け!!」
“夜叉”の子が“子鬼”となって吼える。
“子鬼”に触発された全ての仲間が一つの群となって“絶望”に抗う。
「続けェェェェェェェェェエエエエエエ!!」
『ウォォォォォォオオオォォォオオオオオオオ!!』
「
リューは優しげに微笑んだ。
戦意を取り戻した冒険者は左半身へとなったゴライアスへ殺到する。誰も彼もたった一人の英雄に目を奪われたのだ。奮い立たされたのだ。憧憬を抱かされたのだ。
向かって行った冒険者にはリューと同じ様に男よりレベルを勝る者も居るだろう。それでも尚、その男に憧憬を抱かずには要られない。
「─────クラネルさんっ!」
英雄は、ベルは、かなり消耗していた。ベルのレベルであれだけの高火力の魔法を放ちながら意識を保っているだけで奇跡である。
「リュー・・・さん、お願いが、あります・・・・・・・・」
「わ、私に出来る事なら・・・」
「僕を動けるだけ・・・あと一撃放つだけ、回復させて下さい・・・」
まだ動こうとするのか。まだ戦おうと立ち上がるのか。
リューは口の否定よりも早く回復魔法をベルに掛けていた。マインドだけはどうにもならなかったが幾分かは楽になるだろう。
「ありがとうございます・・・あと一つだけ」
拳を地面に叩き付けて、起こした半身に勢いを付けてと立ち上がる。その瞳は輝きを失ってはいない。絶望を破壊するだけの希望の光はまだ潰えていない。
「道を・・・お願いします」
「本当に師弟揃って人使い荒らいんですからッ!」
「ハハッ・・・お代は師匠にツケといて下さい」
「承りました」
二つ返事どころか即諾したリューは息を短く吐くと詠唱を紡ぎながら戦場を『疾風』の様に走り抜ける。
その背中に見入っていると目がある物を捉えた。いや捉えることが出来るように態と視野に入る様にしたというべきか。
「これは・・・・・・!」
ベルとリューの中間点にその物は突如空中から出現し、幾度と回転を繰り返しながら地面に突き刺さった。
「木刀・・・師匠の・・・いや違う。年季は入ってるけど全く使われた気配が無い」
考えるより先にその木刀を地から抜き放ったベルはそれを見て確信する。
師匠である銀時が常日ごろから装備している木刀と似て非なる物なのだと。何度も師匠の木刀と交錯したからこそ分かる事実だ。
「よしッ!」
ベルは深く腰を落とし、左手を刀身に沿って滑らせ、木刀の峰を優しくゆっくりと添える。切っ先は爛爛と輝いているゴライアスの魔石へ。格好で言えばビリヤードのキューを構えた状態。
全身を駆け巡る赤い血潮を前を行く力へと変え、漏れ出る裂帛の気合いを全身の筋肉と神経に集約させる。景色が暗転し破壊すべき対象だけが色を持つ。
「あああああああああああああああああッッ!!」
大地を蹴り付け、大草原を駆け抜ける。
リューだけではない、ヴェルフもリリも桜花も命も千草もアスフィも触発された冒険者もベルの横顔を、英雄の片鱗を見せた男の背中を目で追い掛ける。
多くの視線を一身に背負い、ベルは速度を上げ、突貫する。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
燃え盛るゴライアスの双眼が接近するベルを射抜く。
絶叫と怒号を渾然とさせる雄叫びを上げ、その炎の左の豪腕を背後に引いた。右半身が修復されてない今、ゴライアスが放つ一撃は捨て身の全身の体重を乗せた一撃となる。
「火月ィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
「【ルミノス・ウィンド】!」
その豪腕をベルから逸らす為にヴェルフから真紅の轟炎を纏う巨大な炎流が。リューからは緑風を纏った無数の大光玉が一斉砲火され夥しい閃光を連鎖させた。
「───────牙突ッッ!!」
閃光と炎流を潜り抜け、ベルは究極にまで集約された力の奔流の如き一撃をゴライアスの魔石に向けて撃ち放つ。
魔石へと届き得たその一撃は純白の極光と共に周囲を埋め尽くし、誰もが目で覆った。
視界が回復した者から恐る恐る目を開けると、そこにはゴライアスの存在した欠片は塵一つ現存せず、遙か向こう側の18階層の外壁に左半身が撃ち付けられていた。そして暫くすると魔石を破壊された為、本物の塵となって静かに消えて行った。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
次の瞬間、大歓声が巻き起こった。
周囲の冒険者は両手を上げて喜び、あるいは肩を組みながら涙さえ浮かべて喉が張り裂けんばかりに声を上げた。戦闘で消耗した途方も無い数の武器と武具は自らの凱歌を挙げるが如く銀の光を散らした。
この戦いに於ける余波は。
英雄の片鱗を見せたその男に触発された者達は。
彼の主導のもと同志として集い。
彼を“総督”として、英雄として、一人の男として。
“鬼”の様に強い集団を組織し。
オラリオを護り続ける為に立ち上がる事になる。
前回に言った通り、通常の二倍の文字数です。
楽しんでいただけたならとても嬉しいです。この一話は私の中でも最も力が入った一話になりました。どうでしたか?
ベルのスキルについて解説する為に書き上げた一話と言っても過言ではありません。わからない点があれば感想欄にてお書き下さい。
毎度恒例謝辞。
『デオキシリボ』さん、『タヌキ三世』さん、『Night Fish』さん、最高評価ありがとうございます!!
『くろがねまる』さん、『テルミン』さん、高評価ありがとうございます!!
お気に入りが四千を超えて恐悦至極でございますが、有頂天にならぬようこれからも面白い作品を書けるように努力していきたいと思います。
ではまた次回!感想と評価、本当におまちしてます!!いつも感想をくれる方、とても励みになってます!!
ジャスタウェイ!