吹く雪の祈り   作:マアア

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第一話・Ⅱ

 

 

 睦月ちゃんに連れられて向かった先は別の建物、艦娘寮と呼ばれている建物の一角、編成された部隊で纏められた、第三水雷船隊の部屋。道中で聞いた話だと基本的に艦娘は同型艦種で好きな部屋割りをしていて、しかし部隊として編成されている場合三人一組の部屋割りで暮らしているらしい。今までの第三水雷戦隊は軽巡三隻、駆逐二隻で構成されていて、そこに私が加わることで編成として完成する。そして二つに分けられている部屋の面々は艦種でそのまま分けられているとか。今目の前の扉は睦月ちゃんの部屋で、つまりこれから入る部屋にはもう一人の駆逐艦がいるということだ。

 

「変わっているけどいい子だから、きっと名無しちゃんでも仲良くできるよ」

 

 睦月ちゃんはそう言う。ならばそうなのだろうと思いながら扉を開けるのを見つめて、扉が開いた先にまず目に映るのはちゃぶ台。そして右端の三段ベッドと大きい窓。そしてちゃぶ台の前には白金色の髪の毛に碧眼の少女が座って雑誌を見ていて、チラリとこちらへと目を向けた。

 

「新人さん?」

 

「うん、そう。今日から此処に配属される特型駆逐艦って事以外分からない、記憶喪失らしい名無しちゃん。で、この子が夕立ちゃん。白露型の子でぽいぽい言う子なのね」

 

「そんなに言うほどぽいぽい言ってないっぽい」

 

 睦月ちゃんの説明に抗議をしながら彼女、夕立さんは手に持った雑誌を置いて立ち上がり、私の目の前に立ってジッと見つめてくる。隅々まで見るように観察して、やがて納得したかのように頷いて離れた。

 

「あの、夕立さん?」

 

「さん付けは辞めて」

 

「あ、はい。じゃあ夕立ちゃんで……それで、さっきのは何だったんですか?」

 

「……んー。特型駆逐艦って言ってたから何かすごいのかなーって思ってみてただけ。けどなんだか地味っぽい」

 

 失礼だよ。と怒る睦月ちゃんに謝るように片手をひらひらと振る夕立ちゃんに、睦月ちゃんは呆れ気味に溜息を吐いた。どうやらそういうノリの子なんだなと理解して、睦月ちゃんに特に気にしてないからと言って案内を続ける様にお願いする。

 

「そうならいいけど……ていうか夕立ちゃん気にならないの? 記憶喪失なんだよ? もっと突っ込んだりすると思ったんだがにゃー?」

 

「……別に。聞けば結構そういう事ってあるっぽい」

 

 そうなの? と、睦月ちゃんに問いかけるけれど睦月ちゃんはわからないと言って首を横に振った。それよりも、と夕立ちゃんは別の話題を振る。

 

「神通さん達にはもう会った?」

 

「ううん。まず先にこっちの部屋に案内してきたよ。まずはこれから寝泊りする部屋を案内した方がいいと思って」

 

「ふーん。……なら、今後ろにいるからついでに挨拶すれば?」

 

「え?」

 

 言われた言葉を理解して、振り向こうとした瞬間に顔を掴まれる。触られる、ではなくしっかり、むんずと掴まれ、わしゃわしゃと触られる。

 

「わぷ……えっと、何?」

 

 何をされているのだろうかと疑問の声を上げて、しかし腕は止まらないで顔のパーツ全てに触る勢いで顔の上を走る。

 

「―――ふむふむ。これが件の特型駆逐艦の手触りかぁ……他の子とあんまり変わらないかぁ」

 

「って、川内さん何やってるのぉ!?」

 

 睦月ちゃんが驚いた表情で突っ込みを入れた所で漸く顔の上を動いていた腕は止まり、それに伴って振り向けばオレンジ色の制服に身を包んだ女性が二人いた。私の顔を触っていたらしいツインテールの人と、その人の後ろで長い髪をリボンで纏めて後ろに流している人。夕立ちゃんの台詞から察するに、二人も第三水雷戦隊の人なのだろう。

 

「えっと、私は―――」

 

「うんうん。皆まで言わなくてもいいよ、提督から聞いてるからね。それよりも特型駆逐艦。君、夜戦は好きかな? あ、ついでに私は『川内』だよ、よろしくね。で? 夜戦は好き?」

 

「え、あ、その……」

 

 挨拶を遮るように始めた、私の事を触っていた人、『川内』さんの流れるような軽快な会話についていけず、しどろもどろになる。見かねたようにもう一人の女性が止める様に間に入った。

 

「姉さん、いきなりそんなに話しかけられて彼女、困っていますよ?」

 

「あ、そっか。ゴメンね、特型駆逐艦。でもこれだけは教えて。夜は好きかい?」

 

「嫌いではないですけど……」

 

 意図はわからないけれどとりあえず肯定して、同時に川内さんは両手を挙げて仲間が増えた! ヤッター! と喜びを露わにした。少しだけ掴めた性格はマイペースという意味で睦月ちゃんと夕立ちゃんで比べれば夕立ちゃん側だなと、そう思いつつ視線をズラせば後ろにいたもう一人の人と視線が交差する。

 

「あの、第三水雷船隊旗艦『神通』です。これから宜しくお願いします。……早々に姉がご迷惑をおかけしました」

 

 そう言って、心底申し訳なさそうに深々と頭を下げるその人、神通さんの様子にどちらかと言えば睦月ちゃんみたいな面倒見のいい性格なのだろうかと思いつつ、別に気にしてないから大丈夫ですと返し、改めて宜しくお願いしますとこちらからも頭を下げる。

 そして私も頭を上げた所で、睦月ちゃんが疑問の声を漏らした。

 

「二人だけ? 神通さん、川内さん。那珂ちゃんはどうしたのです?」

 

 神通と川内はそういえばと顔を見合わせた。私は新しい艦娘の名前に首を傾げて、夕立ちゃんがその人物、『那珂』さんについて耳打ちする。

 

「神通さんと川内さんの妹さんなの。丁度窓の外でビラ配りやってるっぽい」

 

「そうなの?」

 

 刺された指の先、窓から見えた地上。鎮守府施設の前に確かにオレンジ色の服を着ている女性がいた。遠くて分かりづらいけれどお団子頭らしい。なんのビラを配っているんだろう? そう疑問の声を漏らして、睦月ちゃんが多分、と前置きする。

 

「今度やるって言ってたライブのビラじゃないかにゃぁ……那珂ちゃんもめげないで頑張ってるのです」

 

「ライブ?」

 

「うん。那珂ちゃんはアイドルをやってるの」

 

「体力は一時間しか持たない永遠の十七歳っぽい?」

 

 それは違うのね。と、睦月ちゃんが夕立ちゃんに私にはわからないことで少し盛り上がっている。少しの疎外感に何の気なしにもう一度窓の外を見て、そこに那珂ちゃん以外にも改めて艦娘がいることに気付いた。

 

「あそこにいるのは綾波と暁だね、見つめてどうかしたの?」

 

「いえ、川内さん。ただ、なんて名前なのかなって、そう思っただけです」

 

「そっか。ちなみにいうとあそこにいる巫女服みたいなの来てるのが比叡と霧島、更にあそこのベンチで話してるのが巻雲と高波かな。それから―――あそこで走っているのは利根に島風、雷に電と如月だね」

 

「およ? 如月ちゃんもいるの?」

 

 外には知らない艦娘が沢山いる。そして今ここにいるの艦も、医務室や司令室で出会った艦も今日、初めて出会った艦娘ばかり。誰もかれも始めてで、それは私だけ。記憶が無いからかよくわからないけれど、多分、きっと、今感じているこれは寂しさだ。どうしてそんなことを感じるのかはわからない、でもきっとそうだと思う。

 

「……あの、名無しさん?」

 

「あ、はい? なんですか?」

 

 窓の外を見ながら少しだけそんな思考に浸っていた所に、神通さんからの声掛けに反応して顔を向ける。

 

「物珍しそうに見ていましたけど、ひょっとして名無しさんはまだ鎮守府内をあまり歩いてないのですか?」

 

 問いかけに是と、答えて。でしたらと神通さんは微笑みながら続ける。

 

「睦月さんと夕立さんに案内してもらってはどうでしょう?」

 

「えっと、二人が良ければお願いしたいです」

 

「え、めんどくさいっぽ―――ぐぇ」

 

 拒否しようとした夕立ちゃんが次の瞬間睦月ちゃんに首根っこ掴まれてカエルのような声を上げる。そしてそれを意に介さず、睦月ちゃんは笑顔で手を挙げた。

 

「はい、やるにゃ! という訳で名無しちゃん、夕立ちゃん、ついてくるがよいぞ!」

 

「あ、うん。でも夕立ちゃんは嫌なら無理に連れて行かなくても大丈夫だよ?」

 

「そういってくれると嬉し……行くから首から手を放して睦月ちゃん」

 

「うんうん、じゃあ三人仲良く一緒に行くのです!」

 

「わかったから手を放してほしいっぽ―――」

 

 有無を言わさずそのまま睦月ちゃんは夕立ちゃんを掴んだまま部屋の外へと出て行った。途中までのイメージと大分違うなと思いつつ、どうやら睦月ちゃんは怒らせると怖いみたい。と、胸に刻んで、神通さんと川内さんに頭を下げてから追いかける様に部屋を出た。

 

 

 

 

 

―――……

 

 

 

 

 

 睦月ちゃんと夕立ちゃんに連れられて歩き回る。その途中でわかったことは意外と夕立ちゃんも面倒見がいいという事だった。最初こそ渋々といった様子で睦月ちゃんについて行く形だったけれど、今では睦月ちゃんと一緒になって、というより睦月ちゃんが場所の名前を言って夕立ちゃんが軽い説明をするといった形になっている。その説明に耳を傾けながら、たまに私もここは何なのか、等軽く質問をして歩き続けていた。そして、二人に連れられて辿り着いたのは学校のような建物の、その中の教室の一室だった。

 

「ここは睦月達駆逐艦が通う学校設備なのね。今日は日曜日だからあまり他の子もいないけどもう少ししたら名無しちゃんも多分はいることになるだろうしそうなったら紹介するね」

 

「先生は重巡の人たちで怒ると怖いから気を付けた方がいいよ。特に足柄さんと妙高さんはホントに怖いから、うん、気を付けて」

 

「夕立ちゃん、いっつも宿題忘れて怒られてるからここだけガチなのね」

 

 それは言わない約束っぽい。と言う夕立ちゃんに疑問を零す。

 

「真面目に宿題をやれば怒られないんじゃ?」

 

「正論なだけに言い返せない!?」

 

 項垂れる夕立ちゃんの姿に少し申し訳なくなって謝ろうとして、睦月ちゃんが自業自得だから放っておくがよいぞ、と無慈悲に突き放した。それに少しだけ思うところはあるけれど、でもまあ確かにそうかもしれないとも思ってとりあえず視線をズラし、改めて教室を見渡す。木造の建物に木造の机と椅子、そして黒板があって、後ろにはストーブが設置されていた。

 

「普段はどんなことをやってるの?」

 

「基本は算術とか歌唱とか礼法とか……あと週に三回は演習として外のグラウンドで運動したり海で動いたりとかかにゃ」

 

「夕立の机の中に教科書入ってるしどんなことやってるのか見る?」

 

「置き勉はダメだってば夕立ちゃん! ていうか明日提出の算術のプリントが確か――」

 

「あ、ヤバ」

 

 夕立ちゃんが走るように一つの机の中をひっくり返す様に漁る。中から白いプリントが沢山丸められて出てきて、睦月ちゃんが呆れ顔で溜息を吐いていた。

 

「あった! ……って、これ今日中に終わらなさそうな問題っぽい。……睦月ちゃん」

 

「さて、名無しちゃんの次の案内に入ろっか」

 

 やばい。と再び顔色を青く染めながら夕立ちゃんは小さく呟いているのを尻目に、次は何処に行こうかと睦月ちゃんに尋ねようとした時、窓の外から大きな爆音のような音が響いた。何事かと思って窓を開けて見れば、空を小さな何かが飛んでいる。

 

「……何あれ?」

 

「艦載機っぽい」

 

 夕立ちゃんにそう言われ、言われてみれば確かにと納得する。しかし、その後に言われた睦月ちゃんの補足に少しだけ首を傾げることになった。

 

「この時間帯だと赤城さんと加賀さんの訓練じゃないのかにゃ」

 

「……赤城さん? 加賀さん? 誰なの、それ?」

 

 ギョッとした表情で私を見る睦月ちゃんに、知らないと可笑しいことなのだろうかと思うけれど、しかし頭の中に該当するものはない。

 

「無知とは恐ろしいものにゃしぃ……一航戦の事を知らないとはこの睦月の眼をもってしても見抜けにゃかったのね」

 

「えっと、知らないとまずいものなの?」

 

 私の問いかけに夕立ちゃんはこの鎮守府の中でなら知らない人はいないねと返した。

 

「でも記憶喪失ならしょうがないでしょ。それに、気になるなら見に行けばいいんじゃない? 赤城さんと加賀さんの訓練はまだ始まったばかりみたいだし」

 

 睦月ちゃんも拒否しなかったし私も正直に言って興味を持ち始めていたから夕立ちゃんの提案に拒否する人はいなかった。

 

 

 

 

 

「……という訳で睦月ちゃんは名無しちゃんに説明、夕立は宿題をするというのは」

 

「諦めるがよいぞ」

 

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