ある日、事件は起きたーー
「ーーだからお前は帰れって!」
「嫌です!帰りません!」
「この旅がどんだけ危ないかお前もわかってんだろ!」
「わかってます!それでも…」
「弱い奴がいても足手まといなんだよ!」
「それでも!私は最後まで翔様と、皆さんと旅を続けたいんです!」
「「ーーふん!」」
そう言ってイフと曽和さんは部屋から出ていった。
「…2人が喧嘩なんてめずらしいな…」
「そうですか?何気によく言い合ってる仲だと思いますけど?」
「…バハ…それ、あなたが言う?」
「あの2人は互いに認め合ってる仲だと思うんだけどなぁ。互いに互いの欠点を補える良い仲だと思ってたんだけど…」
「まぁ、主がそう言うならそうなのかもしれませんな」
「…喧嘩は良くない」
「弱い奴は足手まとい、だってさ」
「あぁ。本当、自分に厳しい奴だよイフは…」
ーーーーーーーー
「ちぃ!」
壁を殴り舌打ちをする。
覇王の墓での事を思い出す。
あの日、俺は何も出来なかった…。
むしろ、それどころか翔に助けられ危険な目に合わせてしまった。
バハの眷属器の能力のおかげで助かったものの、俺が原因なのは間違いない。
あいつが俺を誘った最初の日、あいつは俺を救ってくれた。
1人あがいていた俺に手を差し伸べてくれた。
翔にはいつも借りを作ってばっかりで、俺はあいつに何もしてやれてねえ…。
このままじゃダメだ!
俺はもっと強くならなきゃダメなんだよ!
弱い奴は翔も、メイドも、仲間も守れやしねえーー
ーーーーーーー
ーー弱い奴がいても足手まといなんだよ!
そんなことイフさんに言われなくても…。
わかってます。
確かに戦いの事はよくわかりませんけど、私だって皆さんと一緒にここまでやって来たんです!
そもそも、残すは最後の以前門残払いされた伏竜王様お1人だけじゃないですか!
それに唯一メンバーの中で翔様の無茶を止めれるのは私とラムさんだけなんですから!
けど、こないだの戦闘みたいな事があったら取り乱してしまいます。
あれ?そしたらラムさんいるし私本当にいらない子なんじゃ!?
そ、そんなことありません!
絶対!
私にも存在意義があるはず!
そ、そう!お料理が出来ます!
ほら私だってちゃんと役に立ててます!
「大丈夫だもん!」
そんなことを考えて歩いていると気づいたら人通りの少ない道を歩いていました。
ここどこだろう?
とりあえず来た道を引き返ーー!?
「やぁ、こんにちは。お嬢さんーー」
ーーーーーーー
「…曽和さんもイフも遅くない?せっかく今日は俺が夕飯当番だから2人の好きなもの作ったのに…」
夕飯の時間になっても2人は帰ってこない。
何してんだよあいつら!
料理が冷めてしまうだろ!
「…わりぃ、遅れた…」
と、思ったらイフが帰ってきた。
「あれ?イフくん、満姫ちゃんは?一緒じゃなかったの?」
「あ?一緒なわけねぇだろ…まだ帰ってねぇの?」
「珍しいですな…満姫殿が時間に遅れるなんて…」
「携帯も繋がんないんだけど」
曽和さんの携帯に電話しても繋がらない。
大丈夫かな?
なにか面倒事とかに巻き込まれたりしてなければいいんだけど…。
しばらくすると、昼間俺達を見た人から連れの少女が男達に連れられて車に乗せられていたとの情報が入った。
確実に曽和さんだ。
「ちぃ!なにしてんだよあいつは!」
「あ、おい!イフ!」
舌打ちをして部屋を出ていくイフ。
イフらしくない。
こんな時こそ冷静なのがイフなのに…。
なに焦ってんだあいつ!
「リヴァ!」
「ここに!」
「イフを追え!手綱を頼む!」
「仰せのままにーー」
そう言って瞬く間に姿を消すリヴァ。
リヴァは暗姫と言う名だけあり、こういった間者仕事に長けている。
あの動き、まるで忍者だな。
リヴァもイフと同じく公私の差が激しい。
「主…」
「ああ、俺達も動くぞ。ラムは城に連絡入れておいてくれ」
「「「はっ!」」」
「かしこまりました」
こうして俺達も部屋を後にしたーー
ーーーーーーー
「…なんで私が…?」
ドレスに着替えたシヴァが恨めしそうにこちらを睨む。
「仕方ないだろ?男女一組でリヴァにはイフについてもらってるし、何仕出かすかわかんないんだから…それに似合ってるしいいじゃん!」
「はぁ…そういう問題ではありません…」
あの後、情報を掴んだリヴァから連絡があったーー
ーーどうやら曽和さんは人拐いに誘拐されたらしい。
たちが悪い事に明日の晩に人身売買の会場に並ばされるらしい。
運良くリヴァはその招待券を手に入れてくれたらしく、俺達の参加も決まった。
人身売買か…。
王都にいた頃に、貴族間でそんな不穏な噂を聞いたことがあったが…
まだそんな文化が根付いていたとは…。
ちょうど良い、運営も関係する貴族も一気に抑えるチャンスだ。
「イフ、まだ何もするな!何が用意されているかわからない!1人で乗り込むのは危険だ!」
『あ?そんな悠長な事言ってられっかよ!こうしてる間もメイドはーー「わかってる!」!?』
「キレてるのがお前だけだと思うなってことだ。みんな同じ気持ちだ。大切なもの取られて黙ってるような奴は俺の仲間にいねえ!…けど今回は相手が違う。ただのチンピラだけならいいが、相手は貴族だ。下手すりゃまた能力持ちが出てきてもおかしくねぇんだよ」
『な!?王族までいるってのかよ!?』
「そうとは限らない!けどもしもの為だ、必ずチャンスは来る!それまで待機!わかったな?」
『…ああ。わかった…』
そして電話が切れた。
「…よし!ってことでシヴァ、ドレスコードだ!」
「…へ?」
そして現在に至るーー
「ーーそんな怖い顔すんなよ!せっかく綺麗なのに!」
「…もういいです。はやく行きましょう…」
そう言って仮面をつけるシヴァ。
相手の素性を詮索しない為に、仮面の着用が必須らしい。
あるあるだな。
「ああ…乗り込むぞ!」
そして俺も仮面をつけ、シヴァと腕を組み会場へ向けて歩き出す。
ーーーーーーー
1人暗く狭い檻の中…。
ここはどこだろう…。
そう思いながら左耳を触る。
聞いたことがある…。
人を人とも思わず、家畜同然に扱い、家畜と同じように耳に番号の札をつけて市場に出す。
人身売買の会の話を。
恐らく私の耳についているのもそれだ…。
…翔様…皆さん…。
こんなことならイフさんと喧嘩しなければ良かったな…。
そもそもイフさんに言われた通り帰るべきだったのかも。
今頃みんなどうしているだろうか。
心配して探してくれてるとは思う。
あの翔様に翔様が認めた人達だから!
だから私はまだ諦めないーーと、
「目が覚めたか?はは、その番号札、良く似合ってるぜ?」
そう言って1人の男が近寄ってくる。
「一国の王子付きのメイドなんてレアなもん、まわりはいくら払ってくれるもんかねえ!」
そう言って高らかに笑う男。
この人、知ってて私を…!?
「私の主は翔様だけです!私は絶対に誰にも従いません!最後まで諦めず抗って見せます!」
「へ!…そうかい、好きにしな」
「貴方は自分のおかれている状況を理解した方が良い…」
「…あ?」
「貴方はこの国で最も怒らせるべきではないお方の従者に手を出したのです!きっと翔様が黙ってるわけありませーー「商品の分際で楯突いてんじゃねえよ!」!?」
私の胸ぐらを掴み怒鳴る男。
「お前がレア物じゃなけりゃボコボコにしてるとこだぞ?俺だって大切な商品に傷をつけたくねぇんだよ!お前こそ自分の立場をわきまえな!」
「きゃ!」
そのまま突き飛ばされ尻餅をつく。
「そもそもお前の大切な翔様もこの場所には来れねえよ!いままで国の者にもバレてきてねえんだからなあ!…さ、出番だぜ。たっぷり稼がせてくれよ?」
そう笑い、部下の人達に私の檻を運ばせる。
翔様ーー
ーーーーーーー
『さあ皆さん!お待たせいたしました!本日の目玉!この娘!なんと王子付きのメイドなのです!』
「きた!」
自分の番号札を持つ手に力が入る。
これをあげて支払う金額を宣言するわけだ。
「マスター、今回予算はいくらなのですか?」
「そんなもん限界なんてないよ。曽和さんは何としても取り返す。そしてここにいる奴らもまとめて捕まえるつもりさ」
『日常的な家事全般から夜の奉仕まで何をさせるのもお客様の自由です!』
「よし、あいつは殺そう」
「落ち着いてください」
『そうですね、8000万円からのスタートとしましょうか!』
8000万だあ?
人の命をなんだと思ってる。
よし、あいつだけはとことん痛め付けよう。
「…マスター、本当に落ち着いてください。札折れてます」
そうこうしている内に早くも3億にまで値が上がっていた。
3億で変動が鈍ってきてる、なら…
「こんなのとっとと終わらすぞ!10おーー「100億」!?」
「「んな!?」」
思わずシヴァと声をあげる。
100億だと!?
そんな大金!
いや、今はそんなことはどうでも良い!
けっきょく支払い時に全て壊す算段だしいくらでもーー
『こ、これはオーナー!?いらしていたので!?』
オーナーだと!?
ってことはあの爺さんがこれの全てを仕切ってるってことか!?
するとーナーと言われた爺さんが何か合図をし、
『お、オーナーの100億円でしめさせていただきます!』
強制的に終わらされた。
「な!?待て!ーー!?」
「全員動くな!この建物は包囲されている!」
同時に国の軍隊が大量に雪崩れ込んでくる。
しまった!
曽和さんのがしめられた瞬間に部隊が突入してくる計画になっていた!
会場全体がパニックになる。
ステージの裏に司会の男と理事長が曽和さんを連れて逃げ込むのが見える。
「待て!?シヴァ追うぞ!ーー「はい!」…ちぃ!邪魔だ!」
追いかけようにも逃げ惑う人混みに流され上手く進めない。
「リヴァ!目標が逃げた!後を追え!」
耳につけた無線でリヴァと通信をとる。
『申し訳ありません!こちらも交戦中です!』
「なに!?」
『追おうとした所を強襲されました。数は2人!共に能力者です!』
「なんだって…!?」
『主の予感が的中したようです…私とイフで取り押さえますが少し時間がかかりそうです!』
「…わかった!そっちは頼む!」
『ご武運を…我々もすぐに追います!』
嫌な予感ほど良く当たる。
「ちぃ!…ラムとタンはそのまま会場制圧の手伝いを!バハは俺達に合流しろ!目標は屋上だ!」
『『『了解!』』』
「なぜわかるのですか?」
「僅かだがヘリの音がする、恐らく空から逃げる気だ」
「…本当、どんな五感してるんですかマスター…」
「その話は後、俺達も無理矢理突っ切るぞ!人混みの上だ!」
「はい!」
そう言って能力でシヴァの双剣を呼び寄せシヴァに渡す。
眷属になった事で俺は眷属の皆の武器も呼び寄せワープ出来るようになったのだ。
そして、シヴァは俺の両手を踏み台にし、上空へ飛び、双剣をステージの壁に投げる。
その壁に刺さった剣にそれぞれワープをし、後を追う。
ーーーーーーー
「ここまでご苦労、だがもう良い。ここまでの様じゃな」
満姫をヘリに乗せ、司会の男にそう言うオーナーの老人。
「な!?俺も連れてってくださいよ!」
「悪いの、店員オーバーじゃ」
「ーー!?じじい!裏切るのか!?」
「裏切るも何もお主は最初から駒にすぎん。…まあせめてもの情けじゃ、チャンスは与えよう」
「な!?ぐ、ぐわぁぁあ!!!」
オーナーが男に触れた途端、男が苦しみ悲鳴をあげる。
それを横目にヘリが飛ぶ。
「な、何をしたんですか!?」
「なぁに、儂の能力で生き延びるチャンスを与えてやっただけじゃよーー」
ーーーーーーー
「ーーちぃ!」
なんとか屋上に来たが、ヘリは既に飛び立っていった。
「あのヘリの向かった先を調べろ!」
「はい!」
そう言って連絡を取ろうとするシヴァを、
「シヴァ!」
「ーー!?」
電撃が襲いかかるが、ギリギリでシヴァ突き飛ばす。
「ーーあいつは!?」
司会の男だ。
能力者だったのか!?
「な、なんだよこれ!」
?
おかしい…!
無差別に放電している。
あの男、見るからにコントロール出来ていない。
まるで能力が発覚したばかりのような…。
…まさか…!?
その時、男の放つ電撃がこちらに向かって飛んでくる。
しかし、電撃は俺達の目の前で軌道を変え、
「…安い電気だな」
イフの右腕の雷に吸収された。
「イフ!」
「ひぃ!く、来るな !」
男の放つ電撃の勢いが強くなる。
しかし、その全てを吸収しながら男に近づくイフ。
「そうか!能力でも上下関係があるのか!」
そして、やがて眷属器すら戻し、
「俺の雷撃にーー電撃が効くわけねぇだろ!」
拳銃を投げ、ワープと同時に男の顔面を殴り付ける。
そしてすぐにもう一度ワープし直し、吹き飛ばされた男の上に股がり男の顔のギリギリをかすめるように発砲し、
「お前がメイドを拐った張本人か!…言え!あのヘリはどこへ向かった!」
銃口を男の眉間に押し当てる。
「あ!やっと追い付いた!さすがの私でも雷にワープするイフくんの速さには追い付けないよぅ!」
そこにリヴァもやってくる。
イフは眷属器を使用時のみ雷の落ちた場所にワープが出来る。
その為長距離の移動が可能だ。
「リヴァ!そっちは済んだのか!?」
「あ、翔くんにお姉ちゃん!ううん、それが急に相手が退いていって逃げられちゃって…」
「そうか…まぁ2人共無事でよかった!」
「…それにしても…」
「ん?」
「翔くん大胆♪」
そうリヴァの指差す先には、
顔を赤くして顔をそらすシヴァが俺の下敷きになっていた。
「あ!わ、悪い!」
「いえ!」
「遅れて申し訳ありません翔様!ご無事ですか!?」
その後、バハが合流した時には、
シヴァに延々と謝り続ける主と、顔を赤くしたシヴァ、それを見て爆笑しているリヴァと、男をボコボコにしているイフがいたーー