冥道残月破の件から数年。
りんは成長し、子供から少女へと近付いていた。
殺生丸も邪見も妖怪なので変わりはない。変わった事と言えば、この数年で己の牙である『爆砕牙』を手にした事くらいか。
再生増殖を繰り返す妖怪と戦い、その中でりんと邪見を救う為に鉄砕牙と天生牙を手放し2人を救った。その時、爆砕牙を顕現させ、敵を葬ったのである。
旅の途中、りんを兄の膝元である桔梗の村に置いていった。龍牙王が、人と生きるか、殺生丸と生きるかを選ばす為には人と暮らさせた方がいいと申し出たからだ。殺生丸もそれを了承した。しかし問題があった。
殺生丸がずっと顔を出さない為、りんが寂しがっていると殺生丸に伝えたところ
「おい、殺生丸」
「何だ、兄上……?」
「何だ、この貢物の山は」
龍牙王は
「りんにだ……あれがいらんなら村の者達に配ればいい」
「はぁ……村人達もあっても扱いに困るだろう、それに3日に一度は来すぎだ。
お前……選ばす気ないだろう?」
呆れた顔をしていう龍牙王、そんな兄の言葉に視線を反らして無言を突き通す殺生丸。
「全く……あの娘も今年で14、大人と言えば大人であるからな。それにあの容姿だし、結構見合い話も上がって……」
チラッと殺生丸の方を見ると、怖い顔をして、彼の妖気が可視化されるほど溢れだしていた。
「何処の誰だ?」
「殺すなよ?」
「……何故、殺さねばならん?」
「なら、何でそんな殺気だっている?」
「りんが人として生きるのであれば、それでよい。しかし私より弱い男にりんをやるつもりはない」
(やっぱり手離す気ないな、こいつ)
そう言う弟を見て、その成長が嬉しい龍牙王。
そんなこんなで、時は経っていく。
りんが16になる頃、殺生丸からある相談を受けた。
「兄上……婚姻を申し込むにはどうすればいい?」
「ぶっー!」
突如訪れ、とんでもないことを聞いてきた弟に飲んでいた酒を吹き溢す龍牙王。
「殺生丸……未婚の我に聞くのか?」
「あれだけの多くの女神を侍らしておいてか?」
「コホン、お前がそんな事を聞いて来るとは……クククッ
それで御母堂には話したのか?」
龍牙王はそう言いながら杯を殺生丸に差し出す。
殺生丸も彼の前に座ると杯を受け取り、龍牙王はその杯に酒を注ぐ。
「話した……好きにせよ、と」
「そうか……それでお前はどうするつもりだったのだ?」
「私と生きるか、人として生きるかを選べと言うつもりだ」
「1つ足りんな、求婚するのであれば櫛を送れ。人の世では平安の世では和歌を、最近では櫛を送るんだ」
「櫛か……」
「そうだ。それで、仮に了承された場合、何処で住むんだ? まさか御母堂と同居……はないな」
殺生丸が物凄く嫌そうな顔をしたので、それはないと思った様だ。だがあの御母堂の事だから何処に住もうと飛んできそうだと思ったが取り敢えず言わないことにした。
「仮にりんが私を選ぶなら……此処から少し離れた所にでも屋敷を建てる。あまりこの村から離れすぎればりんも寂しがるだろう」
それなりに彼女の事を考えているのだと龍牙王は弟の成長に喜んだ。
「ならば我の土地の山に住むとい」
「しかし……」
殺生丸はこれまで、りんの事で何かと兄に世話になってきた。これ以上、迷惑をかけるのはどうかと考えていた。
「殺生丸、お前とて一族の事や戦で家を空けることもある。我の地であれば護ってやれる。
お前とてその方が安心できるだろう?」
兄の言葉に頷く殺生丸。しかしまだ納得していない様だ。その様子を見て、龍牙王は酒を置き真っ直ぐ弟を見た。
「殺生丸……お前も分かっているだろうが、人とは儚いものだ。
かつて我も1人の巫女を愛した。しかし……我の判断の誤りでアイツを失った。だからこそ、お前にはあの娘との時間を大切にしてほしい。
お前には我の庇護など必要ないだろうし、あの娘もお前が護るなら必要ないだろう。しかし、万が一の時、この地であれば我が護ってやれる。
犬夜叉亡き後、この世に残った2人だけの兄弟だ。その弟の幸せを護らせてほしい。
だから殺生丸、我の地においで」
龍牙王は殺生丸の幸せの為にそう言う。殺生丸は少し考えると、姿勢を正し、頭を下げた。
「兄上……宜しく頼みます」
「あぁ……と決まれば忙しくなるな! さて婚姻の用意だ!」
決まっていないのだが、この兄は気が早いらしい。
「気が早い……」
「そう言うが、他の男に渡す気などないだろ?」
殺生丸はその言葉に視線を反らす。全くその気はないようだ。
その日の夜、殺生丸はりんを呼び出した。
「殺生丸様~お待たせしました!」
「あぁ……」
殺生丸は何やら辺りを見回している。
「どうかなさいましたか?」
「兄上は……社にいたか?」
「はい、何やら御忙しそうでしたよ?」
「そうか……(流石に兄上も空気を読まれたか)」
兄の性格上、こういう時は覗き見しにくると思ったらしい。
「りん……今宵はお前に話がある」
「はい、何ですか?」
「りん……これを」
殺生丸は懐から櫛を取り出した。装飾のされた物でかなり高価な物だと一目で分かる。加えて何やら神々しい雰囲気を放っていた。
「櫛ですか?」
「あぁ……これには特別な意味がある」
「特別……!」
りんは男性から女性に櫛を送る意味を思い出し顔を真っ赤にする。
「でっでも殺生丸様……りんは人間です」
「その様なこと承知している。それをふまえた上で私はお前にこれを送る。
これを断ったとしても、私の心は変わらん。例えお前が人間の男と生きる事を選んでも、私にとって大切な女はお前だけだ」
りんはそれを聞いて涙を流していた。
「殺生丸様……私、嬉しい。でも幸せ過ぎて怖いです」
「お前を怖がらせる物は全て私が蹴散そう」
殺生丸はりんの頬を撫でそう言った。りんもそれを受け入れ、彼の手に触れる。
「殺生丸様……私、直ぐにしわくちゃのお婆ちゃんになりますよ?」
「例えお前がどんな姿になろうとお前への気持ちは変わらぬ」
「殺生丸様からしたら、一瞬の時しか生きれません」
「……お前が生まれ変わったら必ず見つけ、迎えに行く。
私のお前への気持ちは変わらぬ、どれ程の時が経とうと、お前の姿形が変わろうともだ」
りんはそれを聞き、櫛を受け取った。
「私、殺生丸様の事が大好きです。だからもっと傍に居て欲しいって思って我が儘になっちゃいますよ?」
「構わん」
「殺生丸様……りんを……りんを殺生丸様のおy」
それ以上言う必要はないと言わんばかりに、殺生丸はりんの口を自分の口で塞いだ。
こうして、りんは殺生丸と共に生きる事を選び、嫁入りしたのであった。
(我が弟ながら大胆だなぁ……それにしてもあの殺生丸があんな言葉を言うとはのぉ。
これは良い物が撮れた! 帰って編集だ!)
この時代にない筈のハンディビデオカメラを片手に覗いていた