狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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殺生丸とりん 兄の苦労

 りんが殺生丸と共に生きる事を選らんで1年半が経とうとしていた。

 

 現在、りんの中には新たな2つの命が宿っていた。つまりは殺生丸とりんの子供である。

 

 当初、殺生丸は子を成す気はなかったらしい。理由はりんの身を案じていたからだ。出産は命懸けだからだ、既にりんは天生牙では生き返る事はない。もし、りんを失う事を考えれば子を成す事を考えていなかった。

 

 だが、りんは子を成し、自身の亡き後も自身がいた証を残したいと考えていた。そこで義兄である龍牙王に相談した所、様々な準備を行い、万全の体制で出産に望む事を条件に子を成した。

 

 現在、りんが産気つき、桔梗の妹である老巫女、楓の元にいた。

 

 神社からそれを見守っていた殺生丸と龍牙王。

 

「殺生丸よ、りんの傍に居てやれ」

 

 龍牙王は殺生丸にそう言うが、彼は何かを気にしている様だ。

 

「傍に居てやれ……出産は命懸けだからな」

 

 龍牙王はそう言うと殺生丸の背を押す。殺生丸は龍牙王に一礼すると、りんの元へ向かう。

 

 彼はこれからの事を考えて辺りの気配を探り始めた。

 

「子供とりんの事は楓に任せておけばいいか……親父、面倒事を残しやがって」

 

 龍牙王はある匂いの方向に向かい飛ぶ。

 

 

 

 丘の上から楓の村を見下ろす2つの影。

 

 1人は仮面を着けた男、もう1人は白髪の女性だった。男の方は複雑な表情をしており、女性の方は怨めしそうに村を見下ろしていた。

 

「姉上……何をするつもりだ? 俺を起こしてまで」

 

 

「麒麟丸、今宵、殺生丸様の子が産まれる。人の血を継いだ子供がだ」

 

 

「だからどうした?」

 

 

「忘れたか! 【四魂の玉】の予言を! 私はお前の為を……!?」

 

 

「これは!?」

 

 2人は凄まじい妖気を感じ空を見上げる。

 

「久しいな、是露殿、麒麟丸」

 

 

「っ!」

 

 

「龍牙王か」

 

 龍牙王は2人の前に降りる。

 

「我の地に何用か?」

 

 

「此処は御主の土地であったか」

 

 龍牙王の言葉にそう答える麒麟丸。

 

「あぁ……それで……是露殿?」

 

 

「大将……」

 

 是露の目には龍牙王の姿がある人物の姿が被る。西国を支配していた大妖怪であり龍牙王、殺生丸、犬夜叉の父、犬の大将こと闘牙王である。

 

「そこまで似てるか? ……あまり嬉しくはないが」

 

 と言葉を切る。すると彼から放たれる妖気の濃さが増した。

 

 麒麟丸は龍牙王達の父、闘牙王の好敵手であり、東国を支配する大妖怪である。その強さは言うまでもなく強い、それ故に龍牙王の強さが分かる。

 

「さて2人は此処に何をしに? 勘違いであって欲しいのだが……殺生丸とりん、その子達に何かしに来たか?」

 

 更に強まる妖気、麒麟丸はそれに笑みを浮かべる。麒麟丸は最強の相手と戦う事を喜びとする、龍牙王達の父、闘牙王が死んでからは殆ど戦う事はなかった。だが目の前の龍牙王は最強と呼ぶに相応しい相手だ。彼との戦いはこの上ない喜びとなる。

 

「もしそうなら……斬らねばならん」

 

 斬ると言うものの少しずつ妖気が収まった。

 

「とは言うものの……是露殿が親父の血をひくあの子供等が許せんのは理解しているつもりだ。だが……是露殿、心を、感情など簡単に捨てる物ではない」

 

 龍牙王はそう言うと、懐から7色の真珠を取り出す。

 

「虹色真珠!?」

 

 

「これは四魂の玉により産まれた是露殿の涙であり、悲しみの感情。探すのに手間はかかったが……」

 

 龍牙王の姿が消え、次の瞬間、是露は彼に胸を貫かれていた。

 

「がっ……」

 

 

「龍牙王! なにを!?」

 

 

「あるべき物を元に戻すだけだ」

 

 そう言うと、彼は腕を引き抜く。是露は力が抜けた様にその場に倒れ、貫かれた場所を確認するが貫かれた形跡もない。

 

 すると是露から大粒の涙が流れてきた。

 

「何故っ……何故です! こんな忌々しい物を、再びこの身に!?」

 

 虹色真珠……かつて是露には愛しく思う男がいた。それは龍牙王達の父、闘牙王である。是露は闘牙王が亡くなったと聞かされた際に涙を流し、それが当時所持していた四魂の玉に願い、是露の妖力と悲しみを封じた結晶となったものだ。その頃から是露は人間を憎むようになった。闘牙王が死ぬ原因が、人間である十六夜と犬夜叉だと思っている。だからこそ、彼女は闘牙王の血を継ぐ半妖が許せないでいた。

 

 そして、時を経てその哀しみの象徴たる虹色真珠は是露の中へと戻した。

 

「忌々しい物ではなかろう、我等が親父殿を思うて流した哀しみの涙だ。それは是露殿だけの感情だ」

 

 

「こんな……こんなっ! こんなにもっ!」

 

 何百年ぶりに是露に哀しみの感情が戻り、その感情が彼女の中で暴れている。

 

「哀しみも、喜びも、決して捨てれる物ではない。いずれ自ら受け入れ、折り合いをつけねばならぬものだ……」

 

 龍牙王が横を見ると、そこに殺生丸の母が現れた。

 

「久しぶりだのぅ、是露、麒麟丸」

 

 

「御母堂」

 

 

「これは奥方……」

 

 

「りんが産気付いたと聞き飛んでくれば、珍しい気配があるではないか……それで、何をしに来たのだ? まさかと思うが……我が義娘や孫達をどうにかしに来たのではなかろぅな?」

 

 御母堂はそう言うと、可視化する程の妖気を発した。どうやら御母堂も彼等が此処に理由を理解している様だ。

 

「御母堂……お前は憎くはないのか!? 大将を死なす原因となった十六夜が! その血を継ぐ半妖が!?」

 

 是露は御母堂に問う、愛する者を失った原因である者達が憎くないのかと。それを聞いて御母堂は笑う。

 

「ぷっ……アハハハハ!」

 

 

「何が可笑しい!?」

 

 

「是露よ、何を言うかと思えば……そもそも、十六夜やその子である犬夜叉に原因がある等、妾は思うておらぬよ」

 

 

「なにっ!?」

 

 

「十六夜もまた己に責任があると言っておった。

 

 しかし親として、男としての役目を果たすとあの人が……闘牙自身が決めた事だ。

 

 闘牙自身が己の命を賭け護ると決めたのだ、夫の決意を妾がどうして無下に出来ようか?」

 

 御母堂はそう言い放つ。是露はそれを聞き苦虫を噛み潰した様な顔をする。

 

「それに……十六夜もまたあの人を失い悲しんだ。それに子供である犬夜叉に何の罪があろうか? 

 

 あの人が十六夜との子を望んだ故にあの子が産まれた。ならば妾に出来るのはあの人に良くやったと言ってやる事と、あの人が護ろうとした者達を助けてやる事だけだ」

 

 

「だから……十六夜とその子供を引き取ったと言うのか!?」

 

 

「そうだ……妾は我が子、殺生丸を含め、あの人の血を引く長男殿も、犬夜叉も、己の子と思い接しておる。それは昔から変わらんよ」

 

 御母堂は実際、十六夜を責めず、犬夜叉と共に己の元に匿った。それは夫の護ろうとした物を護りたいと思う妻としての愛情であり、夫の血を引く犬夜叉に対する母性愛からだ。

 

「ッ……それはお前が選ばれたから言えたことだ。選ばれなかった私はこの想いを、哀しみを何処にぶつければいい!?」

 

 

「そんな事は知らぬ……お前を袖にしたあの人に当たるならいざ知らず、罪もない我が義娘や孫達に当たるとは……今、お前のやろうとしている事は唯の八つ当たりではないか。

 

 それこそ、お前の嫌う人間そのものの様だな」

 

 

「ッ! ふざけるな!」

 

 

「御母堂……」

 

 龍牙王は言い過ぎだと思うが、彼の言いたい事は御母堂と同じ事だ。

 

「是露殿……我は出来れば貴女を斬りたくない。だから、今の我に出来るのは……」

 

 龍牙王はそう言うと、全ての刀を地面に置き、その場に膝を付いた。

 

「どうか、我に免じて退いては下さいませぬか? 

 

 人や半妖の一生は我等に比べて短い、殺生丸がりんや娘達と共に生きれる時間は長くはない。だからこそ、我はアイツ等の時間を守ってやりたい。

 

 かつて我も愛する巫女を失った。あの様な別れを殺生丸に味わって欲しくないのだ。

 

 その為なら、この頭を幾らでも下げよう。罵倒を受け入れよう、幾らでも打たれよう。

 

 どうか、どうか、この通りだ。是露殿、アイツ等に手を出さないで貰いたい」

 

 そう言い、龍牙王は是露に頭を下げた。

 

「ちっ違う! 悪いのは私だ! 私は四魂の玉の予言を聞き、助けに行けなかった! 大将の比類なき強さを信じたかった! 人間の女等に絆されないと信じたかった……私だけが大将を護れたのに! 大将を殺したに等しい、いや私が殺したんだ!」

 

 是露の後悔、かつて四魂の玉の予言した闘牙王の死、それを知っていたのに、彼女はそんな筈がないと信じなかった。結果、闘牙王が死んだと。

 

 龍牙王はそれを見て立ち上がると手を上げる。

 

「はぁ……後でアイツ等に言い訳しないとな。鉄砕牙! 天生牙!」

 

 龍牙王が呼んだのは父の牙の名前、するとその声に答える様に鉄砕牙と天生牙が現れる。

 

「我が血において冥府より還れ」

 

 龍牙王がそう言うと空から一筋の光が彼に降り注ぐ。

 

「これは!?」

 

 光を受けた龍牙王はその姿を変えた

 

「まっまさか……?」

 

 

「貴方」

 

 龍牙王が行ったのは鉄砕と天生牙を媒介に魂を呼び出すこと。呼び出す魂は1つ、父闘牙王の魂だ。今、その魂をその身に宿した。

 

「久しぶりだな、奥。麒麟丸、是露殿」

 

 

「大将」

 

 

「是露殿、私の為に泣いてくれてありがとう。相変わらず変わってないな、是露殿。しかしそれでこそ是露殿。そのままでいいんだ」

 

 闘牙王はそう言うと再び光に包まれる。

 

「あまり時間がないか……奥、苦労をかけてすまん」

 

『ワォォォォ!』

 

 それだけ言うと、闘牙王は光となって天へと還っていった。

 

「やっぱ、他の奴に身体を貸すのは疲れる……さて」

 

 

「大将……」

 

 

「是露殿」

 

 

「龍牙王様……私の絡まった心の糸を解いてくれたこと、感謝致します」

 

 是露はそう言うと頭を下げる。

 

「是露殿の心が救われたのならそれでいい」

 

 

「ご安心をもう殺生丸様やその娘達には手を出しません。大将の名に誓って……」

 

 是露はそう言うとその場から去ろうとする。

 

「是露殿、あまり早まった真似はなさいますな。我等の時は長い、だからこそ愛しい者の末裔を見守ることも出来る」

 

 

「えぇ……大丈夫、そんな事はしません」

 

 是露はそれだけ言うと消えてしまった。

 

「我が姉が面倒をかけた、すまん」

 

 麒麟丸がそう言うと、頭を下げる。

 

「別にいいさ。それよりもお前もいい加減に娘を解放してやったらどうだ?」

 

 

「っ……ワシとりおんの事は放っておけ」

 

 

「まぁ、他人の家の事に干渉はせんが…………もし我が考える事を実行しようと言うなら、全霊をもって相手をする」

 

 龍牙王がそう言うと2人の間に火花が散る。

 

「とは言え今日は大人しく帰ってくれ、今宵は目出度い日なのでな」

 

 

「……フッ、そうするとしよう」

 

 麒麟丸はそう言うと帰っていった。

 

「さて……長い1日だったな」

 

 

「長男殿、苦労をかけるな」

 

 

「弟や姪達を思えばこの苦ではありませんよ、御母堂。では参りましょうか」

 

 

「あぁ」

 

 この日、誕生した殺生丸の娘達。

 

 その名をとわ(永遠)せつな(刹那)、名を付けたのは頼まれた龍牙王であった。


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