プロローグ
浜辺で美しい満月を見上げる3本の剣を携えた男、そしてその後ろにいる美しい青年がいた。
「行かれるか……父上」
「止めるか、殺生丸」
月を見上げる犬の大妖怪である父の背を見ている、息子の殺生丸。
「止めはしません。しかしその前に牙を……鉄砕牙と叢雲牙をこの殺生丸に譲って頂きたい」
「渡さぬ……と言ったらこの父を殺すか?」
殺生丸は何も言わずに無言を突き通す。
「フッ……それほど力が欲しいか……何故お前は力を求める?」
「我、進むべき道は覇道。力こそ道を開く術なり」
「覇道………か。殺生丸よ、お前に守るべきものはあるか?」
「そのようなもの、この殺生丸に必要ない」
殺生丸がそう言うと大妖怪は何も言わず、その身を妖怪へと変化させ風の如き速さでその場から去った。
「くだらん……」
殺生丸はそれだけ言うと、何処かに去ってしまった。
犬の大妖怪……闘牙王は獣の身と成り、森の中を駆け抜ける。その美しい白い毛に赤黒い血が滲み出していた。どうやら怪我をしている様だ。
「無理ですじゃ!無茶ですじゃ!どうかお考えなおし下さい!親方様!親方様は竜骨精と戦った傷が癒えていないではないですか」
闘牙王の身体にしがみ付く、小さな蚤の妖怪がそう叫ぶ。
「アレを死なせる訳にはいかん!………それに私はもう長くない」
「親方様!」
闘牙王は強敵と戦い傷付き、傷も癒えぬ身でありながら彼は駆ける。例え死ぬ事になったとしても彼には成すべき事があった。
「ムッ!」
闘牙王は何かを感じると、獣から再び人の身へと転じ、立ち止まった。すると木の影から、闘牙王に似た青年……青年と言うには幼すぎる少年が現れ、闘牙王の道を塞いだ。
「何処へ往く?」
「十六夜と子を助けに往く……邪魔をするか?」
少年の問いにそう答えた闘牙王。
「そんな身体で死ぬつもりか?」
「この身は竜骨精の毒が回っている……長くはない。ならば十六夜と子を助けた為にこの命を掛けるだけぞ」
「十六夜殿との子……産まれてくるのは半妖だぞ。何時の時代であっても半妖が生きるには辛い、それは俺が一番分かっている」
「だからと言って、見捨てる訳にはいかん。それに私の子だ、きっと強く育つなる。私の血がそうさせるだろう」
「全く……命さえ助ければそれでいいって、思ってるのか……バカ親父!」
少年は闘牙王に向かい叫んだ。
「うっ……むぅ」
「十六夜殿は強いが、この乱世の世をあの細腕の姫君が半妖の子供を抱え、どうなるか考慮しないんだよ。母上や御母堂が聞いたら、殺されるぞ」
「ぐっ……」
「はぁ………全く、戦馬鹿め。困った父親だ……腹違いとは言え、我が弟だ。産まれる子が一人前になるまでは守るとしよう」
「スマヌ……お前には」
「それ以上の言葉は不要………疾くと行け、バカ親父」
少年はそう言うと、道を開ける。
「十六夜と子を頼む」
「約束は違えぬよ」
闘牙王は少年の横を抜け、再び獣になると駆け出した。
―初めまして、俺の名は龍牙王。彼の大妖怪・闘牙王の息子にして、殺生丸とこれから生まれる犬夜叉の兄だ。
何故、産まれてくる子供の名前を知っているか?実は……俺、転生者です。
前世では大学生だったんだけど……車が突っ込んで来て、子供を庇って死んじゃいました。そんで気が付いたら、赤ん坊になっていた。前世のアニメなどの知識で、父親を見て驚いた。なんせ、犬夜叉の世界に出て来る主人公の父親だったんだから。
俺の名前に龍が入ってる?俺の母親が龍です、しかもこの世界最強だとか。えっ…なにそれ?この世界は一体何だ?と考えていたんだが……俺の様なイレギュラーがいる以上、元の世界とは違ってくるだろうと思った。そんで……まぁ色々在って、完全にこの世界が「犬夜叉」とは違う世界である事を理解できたけど。
成長して、殺生丸が産まれた。昔は可愛かったのに、今じゃツンツンだよ。出会う度に襲い掛かって来るし、昔の話したらマジで殺しに掛かってきた………家の弟、怖い…。
それなりに強くなった。まぁ元からこの身体は龍である母と大妖怪である父の血を受けた身だからハイスペック過ぎる。子供の頃から叢雲牙の悪霊を抑え込めるくらいにはね。
と言う訳で……このハイスペックな力で出来る限り、皆をハッピーにしてやろうと思う。前世の記憶はこれからに関係ある事以外は殆ど忘れているが、「犬かご」より「犬桔」派だったのは確り覚えてるので、頑張っていこう!
殺生丸?……決まってる「殺りん」万歳。おっと……まずは十六夜殿を助けに行きましょうかね―