狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第2巻 鉄砕牙

 ~???~

 

 どうも、龍牙王です。犬夜叉と十六夜殿を保護し、御母堂の所に連れてきて年月が経った。

 

 親父に似てる上に、幼い犬夜叉は御母堂に気に入られた。犬夜叉も母性溢れる御母堂に懐いていた。成長とは早いもので、ついこの間まで見下ろしていた犬夜叉が、今では見上げる程の背丈になった。

 

 親父の秘宝「火鼠の衣」を纏って、今は岩でも簡単に切り裂く。だがまたまだ未熟だ。

 

 一先ずはこれまでの話をしよう。

 

 修行をかねて、幼い犬夜叉を連れ出して日本各地を回ったな。蓬莱島にも連れて行ったりしたな。何で蓬莱島が出てくるか?あそこの巫女とは知り合いで、島の結界を張る際に手を貸したからだ。四闘神?なんか居たなそんなガキ共……我からすれば、大概の奴等は年下となる。何時産まれたか?覚えてない、長年生きてるとどうでも良くなるし、母親の所為で時間の観念とか無くなってる……それはまたの話にしよう。

 

 始めの頃こそ、十六夜殿と御母堂から離れると泣きじゃくっていた犬夜叉だが、親父の血の影響か強くなる度に泣く回数は減った。だが、まぁ……帰って来るなり十六夜殿と御母堂に甘えていたな、その度に我も巻き込まれそうになったが……と言うか十六夜殿はともかく御母堂ってこんなキャラだったか?

 

 殺生丸は相変わらず、力を求めて全国を旅している。戻ってくるなり我に襲い掛かってきたり、原作通りに犬夜叉を蔑むかと思えば、寝ている幼い犬夜叉を自身の尾のもふもふで包ん《バシッ!》←何処からか毒の鞭が飛んできた。

 

 十六夜殿は数年前に死んだ、現在の人間にしては長生きな方だったな。それからだったか………犬夜叉が我武者羅に力を求め始めたのは……そして1人で旅に出た。まぁ男だからそう言う時期もあるだろう。しかし……何時になったら我はお前をアイツに渡せるんだろうな。のぅ?

 

 

 ―ドクンッ―

 

 

「鉄砕牙……時が来たと言う事か?」

 

 暗闇の中に立つ龍牙王の腰にある、父の牙である鉄砕牙が脈動を打った。

 

 

 ―ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!―

 

 そして彼の言葉に応えるかの様に脈動が一層強くなる。

 

 

「そうか………現世に行くとするか。叢雲牙、道を開け」

 

 

【よかろう】

 

 龍牙王の背にある地獄の剣・叢雲牙の宝玉が紫色の光を発すると、龍牙王の前に球体が現れた。その球体には黒く宇宙の様な物が浮かんでいる。この技こそ「冥道残月破」、敵を冥道へと直接葬る技だ。

 

 一度飲み込まれれば助かる事など殆ど不可能である。だが同時に冥界から現世へと帰る方法の1つでもある。そして先程の声は叢雲牙に宿る太古の悪霊の声……人間やその辺にいる妖怪などがこの叢雲牙に触れれば、瞬く間に叢雲牙に意志を乗っ取られる事になるだろう。

 

 龍牙王は迷う事無く、「冥道残月破」へと飛び込んだ。本来は死神鬼と言う妖怪の技であるが、黄泉の剣である叢雲牙に、冥界に通ずる技が使えない訳がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~森の中~

 

 静かな森の中に、冥道が出現し中から龍牙王が現れた。

 

 

「ふぅ……冥界は気が滅入る。久々に現世に来たな、すぅ…はぁ…うん、やっぱりこっちの方が空気が美味いし死臭で溢れてない」

 

 と久々に来た現世の空気を堪能していた。それから背伸びしたり、肩を回したりと寛いでいる。すると何処からか光を纏った矢が龍牙王に向かい、飛んできた。

 

 

「おぉ、これほどの威力の破魔の矢。久しく見る事はなかった……誰だ、こんなもの撃ったのは?」

 

 龍牙王は矢を素手で簡単に受け止めると、矢が飛んできた方向を見る。そこには弓を構えている巫女が立っていた。巫女は矢を素手で簡単に受け止めた龍牙王を真っ直ぐと見ている。彼女は冷静な表情をしているが、その額には汗が浮かんでいた。

 

 

「私の矢を受け止めるとは……何者だ?見た所、それなりに名のある妖怪だと見受けるが」

 

 

(この巫女……もしかすると)

 

 

「お前も【四魂の玉】を狙ってきたのか?」

 

 

「(この姿……四魂の玉とくれば)……その様な物に頼るなど弱者のする事だ。我には必要ない」

 

 

「四魂の玉を狙ってないと?」

 

 

「あぁ……強さも、願望も自分で叶えてこそ意義があるものだ。ん?(スンッスンッ」

 

 龍牙王は何かの匂いを嗅ぎ取った。

 

 

「この匂い……妖怪の群れか」

 

 龍牙王は妖怪の群れを嗅ぎ取った。龍と狗妖怪のハーフとは言え、狗である以上は人間以上に鼻も、耳も効く。龍牙王に矢を放った巫女も妖怪達の邪気を感じ取り、空を見上げた。すると空の彼方から妖怪の群れが此方の方向に来るのが見えた。

 

 

「またか……四魂の玉を狙ってきたか(村に行かせる訳にはいかない)」

 

 巫女は再び、矢を番えて弓の弦を引く。狙うのは妖怪の群れだ。矢を放とうとした瞬間、自分の近くで凄まじい妖力を感じた。巫女はその方向を見ると、右手に雷を模った様な刀身を持つ刀を持った龍牙王がいた。

 

 

「やるぞ、雷砕牙……【白龍破】」

 

 龍牙王の持つ刀から白い雷が放たれる。雷が龍の形になると妖怪の群れへと襲い掛かった。そしてほぼ、一瞬で妖怪の群れが消し飛んだ。

 

 

「己の弱さを理解できぬ雑魚共が……」

 

 龍牙王はそう言うと、雷砕牙と呼んだ刀を反対の手に持っていた鞘に納めた。

 

 

「何故…?」

 

 巫女は龍牙王の行動が理解できなかった。龍牙王が妖怪達を倒す理由などはないからだ。

 

 

「特に理由などない……唯、あの様に知性もない者共は生かしておいても人の害悪になるだけだからな」

 

 

「何故、人を護る?」

 

 龍牙王は巫女にそう聞かれると一瞬だけ哀しそうな顔をして、雷砕牙を自分の尾の中へと仕舞う。

 

 

「1人の女と約束したからだ。『人はまだまだ未熟な存在……だから護って欲しい』とな」

 

 巫女はそれを聞いて驚いた顔をしている。普通、妖怪は自分の本能……己が欲のままに生きる存在だ。例に上げるなら殺生丸が良い例だ、覇道の為に力を求める。そこに理由はない、ただ最強であらんとする妖怪の血がそうさせるのだ。約束した……しかも人間と、ただそれだけの理由で動く妖怪など巫女は見た事はなかった。

 

 

「ただそれだけだ……おっこの匂いは」

 

 

『ききょー!』

 

 匂いのする方角から声が聞こえてきた。そして赤い衣を纏った少年が駆けてきた。少年は巫女に駆け寄ると、心配そうに巫女を見ている。

 

 

「桔梗!無事か!?妖怪共が来たみたいだが…」

 

 

「あ……あぁ。大丈夫だ、犬夜叉」

 

 

「そうか……なら良いんだが……ん?この匂い……げっ!兄貴?!」

 

 この少年こそ成長した犬夜叉の姿である。

 

 

「げっ!とはなんだ、お前を育ててやった兄に対して言う言葉か?」

 

 

「うるせぇ!何処の世界に、丸腰の弟に風の傷やら獄龍破を撃ってくる兄がいるんだよ!」

 

 

「それも修行の内だ……それにしてもあんだけ大妖怪になるやら言ってたのに……女の心配か。成長したなぁ我が弟よ」

 

 ニヤニヤした顔で犬夜叉を見ている龍牙王。

 

 

「犬夜叉、この方はお前の兄なのか?」

 

 

「えっ……あぁ……まぁ」

 

 

「我が名は龍牙王、そこに居る犬夜叉の兄だ」

 

 

「龍牙王……まさかあの【裁龍神】か?」

 

 

「ぁ~……その名は恥ずかしいのだが、そう呼ばれる事もある」

 

 恥ずかしそうに頬を掻く龍牙王。

 

 

「なんだ、そりゃ?」

 

 

「犬夜叉、自分の兄の事なのに知らぬのか?太古に異国より来た邪神から人を護り、人と共に生き、時には悪人を裁くと謳われた龍神の伝説……この日の国の者なら子供でさえ知ってるぞ?」

 

 かつて日本に異国より邪神がやって来た事が在った。邪神の力の性で地は黒く淀み、草木は枯れ、生命が生きられる様な状態ではなかった。この時は、日本の神々や妖怪、人間が手を携え共に戦ったがその邪神の力は凄まじく手に負えなかった。その時、天より来た龍神がその邪神を倒し、その光で地を浄化し、再び大地に緑を戻したと言う。そして暫く、地上で人と共に暮らし、時には咎人に裁きを与えたという。

 

 故に人々から、【裁龍神】【善なる龍神】などと謳われており、他にも色々な伝説を残している。日の国……つまり日本なら貴族から平民に至るまで子供でも知っている有名な話である。

 

 

「はぁ?兄貴が?……絶対盛ってるだろ、その話」

 

 

「大体は合っているぞ………それで犬夜叉よ。そちらの巫女殿は?」

 

 

「先程は失礼した。私は桔梗という……まさかあの伝説の龍神が犬夜叉の兄だったとは」

 

 彼女の名は桔梗。龍牙王は前世の記憶で知っていた。犬夜叉のヒロインの1人。最後には死してしまったが、奈落が居なければ、本来犬夜叉と共に生きていた巫女だ。四魂の玉の穢れを清め護る巫女でもある。

 

 それから犬夜叉、桔梗と共に話をしていた龍牙王は此処に来た目的を思い出した。

 

 

「そうだ、犬夜叉」

 

 

「なんだよ?」

 

 

「ほれっ」

 

 龍牙王は腰の鉄砕牙を犬夜叉に渡した。

 

 

「鉄砕牙……俺が変化させる事ができなかったから、兄貴が預るって言ったのに何で急に?」

 

 

「今のお前なら問題ないだろう、抜いてみろ」

 

 犬夜叉はそう言われ、鉄砕牙を抜いてみた。錆び刀で在った刀身が巨大な牙へと変化した。鉄砕牙は普段は錆び刀であるが本来は犬夜叉の父、闘牙王の牙から打ち出した妖刀である。

 

 

「なんで……」

 

 

「犬夜叉、鉄砕牙は一振りで百の妖怪を蹴散らす剣。しかしその本質は【守り刀】だ。元々は親父が十六夜殿を護る為に自らの牙から打たせたもの……人を慈しむ心がなければ使う事ができぬ……今までのお前はただ力を求めていただけだ。だが今は違う、桔梗殿を守ろうとする心がある。故に鉄砕牙はそれに応えたんだ」

 

 

「人を慈しむ心……」

 

 犬夜叉は鉄砕牙を見ながらそう呟いた。

 

 

「一先ずはお前に渡そう……さて、我は行かねば……何か在れば何時もの方法で連絡して来い」

 

 

「また何処に行くんだよ?」

 

 

「高天原にな……そろそろ顔出さないと、アイツが怒るだろうからな……あっそうだ、桔梗殿」

 

 龍牙王は桔梗に近寄る。そして袖の中から赤い数珠を桔梗に渡した。

 

 

「これは?」

 

 

「強がっていても犬夜叉は結構寂しがり屋でな……弟を頼む。これは、結界の媒体にでも使ってくれ。今よりは結界は強固になるだろう」

 

 

「はい……ありがたく使わせて頂きます」

 

 

「こらぁ!クソ兄貴!桔梗に近付くな!」

 

 

「おっと……まだまだだな。ではな、桔梗殿!今度は犬夜叉の恥ずかしい話や幼児の時の話をしよう!フハハハハ、さらばだ!」

 

 斬り掛かって来た犬夜叉の斬撃を避け、龍牙王は何処かに飛んで行った。


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