狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第8巻 駒王町

 ~殺生丸との決闘から約450年~

 

 龍牙王は駒王の土地神として人々を見守っていた。

 

 この数百年で様々な事が在った、寿命、病、飢饉、戦争等により多く人の子等の死を見届け、それとも同じ位の誕生を見てきた。

 

 龍牙王は丘の上にある社の屋根から、町を見下ろしていた。

 

 元々、桔梗の村があった場所とその近くの龍牙王自身の土地……正確には思い出があり、高天原の許可を得て貰い受けた土地だ。それらを合併した事でかなりの広さを有する土地となった。

 

 

 ーこの土地との付き合いも長くなったな……我が神社の名前も【龍王神社】と呼ばれ、氏子達も多い。人間達は我を「龍王様」と呼び信仰してくれている。今や、犬夜叉と桔梗殿の子孫も10代以上続き、この地から離れることなく我に仕え続けている。我は人に化けて町に出ることもあるが、普段は力を抑え普通の者には見えない。だが桔梗殿の血の影響か、はたまた血縁だからか、今でもこの家の者達には我が見えている。

 

 時代は昭和となり、第二次世界大戦と呼ばれる戦争が終結し人々の生活も段々と変わってきた。これからは神秘が一層薄れていくだろう。他の地の神々は信仰が減ったと嘆いているが、我は殆ど変わらず信仰されている。ありがたい限りだ。

 

 そして、人々の生活が変わるほど、悪魔共が此の地に入ってくる。悪魔共は200年程前に悪魔の駒を開発した様で、日本だけだなく他の神話体系でも被害が出ている。日本神話……天照は今は静観する事を決めた。

 

我は個人的に悪魔に怨みはあるが、個人的な感情で天照や我が地の子等(人間)に被害が及ぶ可能性もある。故にこの地で静かに過ごすのであれば監視を付けて放置している。この地に害を成すので在れば排除するだけだが……まぁ大概は数ヶ月もしない内に何処かへ去るので問題はない。

 

 何の話だったか……ぁあ、他の神話体系でも悪魔による被害が出ているという事か……ゼウス、ハデス、アテナ、オーディン、ロキ、帝釈天、ラー、オシリスなど多くの知り合いがいるのでそう言う情報は早くの内に耳に入ってくる。

 

何故知り合いなのか?我が母の所為だ。そう言えば、母の事を話してなかったな。

 

 我の母は無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)と言う龍だ。

 

世界が何もなかった頃に産まれ、世界を創造し、真なる赤龍神帝(グレート・レッド)無限の龍神(オーフィス)、神さえも創造した存在……それこそ世界を思うがままに出来る存在だが、普段は世界の外側から世界を見ている。そして、我を違う時代飛ばして暇潰しをする親である。何処の世界に子供の困ってるの見て悦に浸る親がいるんだよ!?

 

 あっ居たわ。御母堂もそういう感じのキャラだ。母親らしい部分もあるけど、基本的に子供が困っているのを見て楽しむタイプだ……兄弟の中で良い母親持ったの犬夜叉だけじゃね?この話は止めだ、話してると来そうで怖い。

 

 えっとそんなチート存在な龍が母なだけあって、我もそういう力を持つ。滅犧鑼怨(メギドラオン)とかもそんな能力の一端で編み出した技だ。

 

 話が逸れたな。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だったか……悪魔共は自分達が全滅せぬ様に、他種族を悪魔に転生させる方法を編み出した。それも本人の同意もなしに強制的に転生させる事もできるらしい。

 

 日本の妖怪は他の国の妖物と比べ力こそ弱いが、特殊技能を持っている。それを狙いこの数百年で日本各地の妖怪の隠れ里が滅んだ、日本の神々も危険視して各地に警戒を促している。我が土地内では今の所、人間にも妖怪にも被害はないが、気を付けよう。特に犬夜叉と桔梗の子孫は狙われ易いだろう。我は人をまm「神さま~」ー

 

 

 

 

 

 

 龍牙王は声に気付き、その方向を見てみると巫女服を着た女性と子供がいた。

 

 

「小夜と陽菜か」

 

 小夜は犬夜叉と桔梗の子孫だ、陽菜は小夜の娘で小学生だ。龍牙王は屋根から飛び降りると、2人の前に着地した。

 

 

「おはようございます、龍牙王様」

 

 

「おはようございます、神さま」

 

 

「あぁ、おはよう」

 

 そう挨拶を返すと、陽菜は龍牙王の尾に抱き着いた。

 

 

「もふっもふっ」

 

 陽菜は嬉しそうに尾をモフッモフッしている。

 

 

「こらっ!陽菜!龍牙王様に失礼ですよ!」

 

 

「ぇ~気持ちいのに~」

 

 小夜が陽菜に注意するが、一向に離れる気配はない。

 

 

「まぁまぁ、お前だって小さい頃は陽菜の様に我の尾に抱き着いて来たではないか」

 

 

「えっと……そのあの……」

 

 小夜はそう言われると、顔を赤くしてしどろもどろになっている。

 

 

(幼き頃の犬夜叉も事ある毎に我の尾に抱き着いてきた、妖力を失う朔の日などは我の尾に包まって眠っていたしな……血は争えんな)

 

 

『ふぁ~……よう寝た』

 

 声が聞こえ、龍牙王の背中にある叢雲牙の鞘から小さい半透明な老人が出てきた。

 

 

「あっ鞘のお爺ちゃんだ」

 

 

「鞘様、御久しぶりでございます」

 

 小夜と陽菜もこの老人を知っている様で、そう挨拶した。

 

 

『おっ……小夜と陽菜ではないか。久しいのぅ~』

 

 

「また寝ておったのか、鞘」

 

 

『儂だって眠いんじゃ、それにお前さんと天生牙、鉄砕牙の力で叢雲牙は完全に沈黙しておる。問題なかろう?』

 

 この老人は龍牙王の持つ叢雲牙に宿る精霊の様な存在で、叢雲牙を封じる為にいるのだが、偶に寝ている事がある。そして在り得ない事を言った、天生牙、鉄砕牙と。

 

 何故か龍牙王の腰には天生牙と鉄砕牙、それにもう一振りの刀が刺さっていた。これには色々と事情があるが、後々語られるだろう。

 

 

「まぁいい……ん?」

 

 何かを感じ取ると、龍牙王の表情が真剣な表情に変わる。

 

 

「小夜、今日は何曜日だ?」

 

 

「日曜日ですが?」

 

 

「そうか……なら今日は出来るだけ、外に出るな。嫌な匂いの者がこの土地に入った様だ」

 

 

「!……分かりました。陽菜、社に戻りましょう」

 

 

「うん……」

 

 陽菜は龍牙王の表情が変わった事で心配そうに彼を見つめている。

 

 

「大丈夫だ、陽菜。直ぐに終わる」

 

 

「神さま、明日学校で遠足があるの。行けるかなぁ?」

 

 どうやら遠足の心配をしていた様だ、それを聞くと龍牙王は笑みを浮かべしゃがみ、陽菜と同じ目線の高さになる。そして陽菜の頭を撫でる。

 

 

「勿論だ、厄介事は我に任して、お前は社で修業してなさい。そしたら明日は楽しい遠足だ」

 

 

「でも明日は雨だって、テレビで言ってたよ?」

 

 

「大丈夫だ、明日はきっと晴れる」

 

 

「本当?」

 

 

「あぁ、龍神たる我が言うのだ間違いない」

 

 龍牙王はそう言うと、立ち上がり空へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~駒王町 町外れ~

 

 村全体に張り巡らされている結界を越え、1人の悪魔がこの地に侵入した。

 

 

「ククク……この程度の結界を破るなど、貴族悪魔である私にとっては容易こと。さて、この地に神社に仕える一族が特別な力を持っているとか……我が眷族にしよう」

 

 どうやらこの悪魔は神社に仕える一族……犬夜叉と桔梗の子孫を狙っている様だ。

 

 

「残念ながらそれはさせんよ」

 

 悪魔は声に気付くと、振り返った。すると辺りの景色が変わっていた。人間の町の近くにいた筈なのに、何処か分からぬ草原にいたのだ。

 

 

「これは……貴様、何者だ!?」

 

 悪魔は声の主……龍牙王に向かいそう叫ぶ。

 

 

「この地の土地神……と言った所だ。そして此処は我が結界内。貴様、悪魔か?」

 

 

「そうだ。貴様がこの地の神か、自分に仕える人間達を護る為に来たのか?」

 

 

「あぁ……あの子等に手は出させん」

 

 龍牙王はそう言うと、背の叢雲牙を引き抜いた。すると周囲の草が枯れ始める。

 

 

「ムッ……たかが極東の神にしては中々の力……それにその剣も……貴様を滅ぼし、この私が貰い受ける!」

 

 そう言いながら、龍牙王に襲い掛かる悪魔。自分が誰に挑んだのか理解などしてないのだろう。

 

 

「フン」

 

 彼は襲い掛かってくる悪魔を見て、鼻で笑うと凄まじい速度で悪魔の腕と脚を斬り飛ばした。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 腕と脚を斬り飛ばされ、激痛により地面に転がり悶えている。

 

 

「さてと……色々と話を聞かせて貰おうか、クソ悪魔」

 

 そう言うと、叢雲牙を悪魔の首に押し当てる。

 

 

「なっなんでも話す!だからいっ命だけは!」

 

 完全に震えている悪魔は命乞いを始めた。だが悪魔を見降ろす龍牙王の眼はとても冷たいものだった。

 

 

「貴様は話す必要はない」

 

 命乞いする悪魔にそう言い、容赦なく叢雲牙を悪魔の身体に突き刺した。

 

 

「うぎゃあぁぁっぁぁぁ!!」

 

 

「うるさい……どうだ、叢雲牙?」

 

 叢雲牙に向かい、そう言うと、叢雲牙の宝玉が光り始めた。

 

 

【此奴は悪魔の名門の家の者の様だ……どうやら、悪魔共は徐々に日本の妖怪・能力者に目をつけ始めたらしいな。此奴もそれも聞いて、此処に来た様だ】

 

 

『寄りにもよって、この土地を狙うなんて……運のない奴じゃ』

 

 叢雲牙の言葉を聞き鞘がそういった。悪魔が此処に来たのは偶然らしい。しかし運がない、寄りにもよって龍牙王の土地に手を出そうとしたのだから。

 

 

「そうか……喰え、叢雲牙」

 

 

「なっなにを……うがっ!?」

 

 叢雲牙の宝玉が光り、突き刺した部位から悪魔の血を、魂を吸い上げていく。叢雲牙は黄泉の剣、故に叢雲牙にとって魂は食糧の様な物だ。

 

 総てを吸い上げられ、喰われた悪魔は塵となって消滅した。

 

 

「悪魔共が動き出したか……」

 

 

「相変わらずだな……悪魔に対してはキツいな」

 

 龍牙王が振り返ると、眩い光を放つ朱い髪の女性が立っていた。その女性の周囲の草には次第に花が咲き始め、叢雲牙に至っては女性から放たれる光により、邪気が薄れていく。

 

 

「お前の場合は憎んでるか」

 

 

「……悪魔共は日本の力ある者達を狙い始めたぞ。静観なんてしていたら、妖怪の里にも、人間にも被害が出るぞ?」

 

 そう言いながら、叢雲牙を鞘に納めると女性の方に向き直る。

 

 

「あぁ……分かっちゃいるんだけどな。今は各地で減り続ける信仰をどうにかしようとしている最中だ。それにしてもお前の土地は本当に気持ちいい位に信仰に満ちてるな」

 

 

「まぁな」

 

 龍牙王はそう言うと、手を振り払う。すると、辺りの景色が龍牙王の神社へと変わった。2人は社の屋根の上に移動すると、町を見降ろした。風が吹き始めた。

 

 

「いい風だな」

 

 

「あぁ……」

 

 女性の言葉にそう答えると、龍牙王はその場に座り込んだ。

 

 

「街も……人も……変わっていく。でも変わらないものもあるだろう」

 

 

「うん、そうだな」

 

 

「我は弟の子孫達が生きるこの地を、アイツが守ろうとした地を悪魔共に穢させたくない」

 

 

「……アイツの事を忘れられないのはわかるけどさ、私等の事も忘れないでくれよ」

 

 女性はそう言うと、龍牙王の背中に抱き着いた。

 

 

「忘れてないよ。だから毎週、通ってるだろう?」

 

 

「でも、私だって女だ。愛する男が他の女の事を考えてるのが分かると、不安にもなる」

 

 

「そんなものか……っ」

 

 龍牙王は急激に眠気に襲われ、屋根から落ちそうになるが直ぐに体勢を立て直す。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「何とかな……そろそろ、【龍眠】の時期か」

 

 

「確か数十年だっけ」

 

 

「あぁ、これからって時に……この眠りが邪魔をする。今ほど、忌々しく思った事はない」

 

 

「仕方ねぇだろ……お前が寝てる間、私と妹でこの土地は守るよ」

 

 

「すまんな……天照、後もう1つ頼みだある」

 

 天照大神、日本の最高神にして太陽神だ。豊穣・生命を司る神であるため、その光により叢雲牙の力も弱まったんだろう。

 

 

「なんだ?」

 

 

「明日、この土地は雨だ。でも晴れにしてくれ、我の力でもできるが、太陽神のお前なら確実だろう」

 

 

「まぁいいけど……なんで?」

 

 

「陽菜が遠足らしいんでな」

 

 

「……お前、それだけの為に私を呼んだのか?」

 

 

「話もあったよ」

 

 

「はぁ……まぁいいや、何時もの事だし。それより龍牙、これどうだ?」

 

 と天照は龍牙王から離れると、その場でクルッと回った。

 

 

「なにが?」

 

 

「……この……鈍感!」

 

 ―パァン!―




~翌朝 龍王神社~


「あっ神さま~ありがとう!お母さん、行ってきます~」


「いってらっしゃい」


「あぁ、いってらっしゃい、気を付けてな」

鳥居の下から陽菜を見送る龍牙王と小夜。天照に頼んだからか、晴天だ。


「龍牙王さま……その頬、どうなさったんですか?」


「色々だ……」

小夜は龍牙王の頬に出来ている赤い手形の事を聞いたが、龍牙王はそう言うと直ぐにその場から去った。

因みに天照に叩かれたのは、折角おしゃれな着物を着てきたのに全く気付かなかったからだそうだ。

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