狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第9巻 龍眠

 龍眠……それは半妖で言う、月に1度の力を失う日の様な物だ。龍牙王は龍神と妖怪のハーフの為に、月に1度起きる訳ではない。

 

 通常の半妖とは規模が違い、数千年周期に起きる。起きてしまえば数十年眠り続ける。前回の龍眠は西暦以前だった

 

 龍牙王は最高神・天照に土地を任せ、龍眠についた。

 

 龍眠の欠点は完全に無防備となること、龍牙王自身の耐久自体は高く滅多な事でダメージを受けないが絶対にないとは言い切れないために安全な場所で眠りにつく。そして、数千年と言う長い時の中で何時起きるか分からないことだ。ただギリギリまで眠るのを伸ばす事は出来るが、龍眠が近くなると日常でも眠気に襲われ、実力を出せない。

 

 龍牙王が現在、居るのはかつて天照が弟・素戔嗚が暴れた際に篭った「天岩戸」だ。

 

 天岩戸は天照の許可なしに出入りできぬ特別な場所、他の神話体系の最高神でも開ける事のできない世界で最も安全な場所の1つだろう。故に龍牙王はそこで安心し眠ることが出来る。

 

 

(開始まで数十年……始まる前に目覚めればいいが……まぁなる様になるだろう)

 

 天岩戸の中で、薄れゆく意識の中でそう考えなら睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~夢~

 

 龍牙王は龍眠の中で、夢を見ていた。

 

 それは遠い日の記憶……龍牙王にとっては大切な思い出の1つ。

 

 

 

 ―貴方は他の妖怪とは違うのですね?―

 

 

「我と雑魚を一緒にするな」

 

 1人の巫女が龍牙王と共に歩きながらそう言った。

 

 

 ―そうではありません、まるで人間の様だと―

 

 

「……お前は妙に鋭いな。それより気をつけないとまた転ぶぞ」

 

 

 ―私だってそう何度もこr……きゃ!―

 

 何もない場所で転びそうになる巫女。龍牙王は呆れた顔をして転ぶ前に自分の尾を巫女の身体の下に滑り込ませた。

 

 

 ―ぅう……どうして―

 

 

「言わんこっちゃない、今日だけで13回目か」

 

 

 ―何でそんな事を覚えているんですか!?―

 

 

「面白いから数えてる……今までで、最高記録が1日の14回だ。後2回で記録更新だ、良かったな」

 

 

 ―よく、ありません!―

 

 顔を赤くしている巫女を見て、笑う龍牙王。彼と彼女の関係はどう言う物か分からないが、彼にとって彼女は大切な存在なのだろう。そうでなければ、龍牙王が此処まで親しげにする訳がない。

 

 この時間が続いてほしいと願う龍牙王だが、しかし巫女は人間だ。龍神と狗妖怪の血を引く己とは違い限りある命だ。ならば巫女の命の限り、共にいようと考えていた。

 

 彼自身は理解していた筈のことを忘れていたのだ……此処が本来の世界でないという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数十年後 天岩戸~

 

 天岩戸内で、自分の尾に包まり眠っている龍牙王。そんな龍牙王の頭を自分の膝に乗せ、撫でている太陽神・天照大御神。

 

 天照は龍牙王が龍眠についてから、ずっと此処に通っていた。

 

 

「今、どんな夢をみてるんだ?………アレから約50年、お前の土地の子供達にも孫が出来てるくらいの時間だぞ。そろそろ起きろよ」

 

 

「ん……ぅう」

 

 

「やっとか」

 

 

「うぅ~………ふぁ~」

 

 龍牙王は目を覚ましたのか、いきなり身体を起こす。だが未だ寝惚けている様で、ぼっーとしている。

 

 

「起きたか、龍牙王?」

 

 龍牙王は天照に声を掛けられるが、天照の方に向かって倒れ寝転んでしまった。完全に龍牙王が天照を押し倒す形になっている。

 

 

「ちょ……お前、いきなり」

 

 

「眠い……」

 

 

「50年も眠って未だ寝ようとするな!」

 

 

「50年……50年…………50年!?」

 

 龍牙王は再び寝ようとしたが、50年と聞いて次第に意識が覚醒する。そしてガバッ!と身体を起こした。

 

 

「おはよう」

 

 

「あぁ、おはよう……50年ってマジ?」

 

 

「本気と書いて……正確にはお前が眠って57年と6か月23日が経ってるぞ」

 

 

「半世紀も寝てたのか我……と言うか、えっとこの状況は」

 

 半世紀も寝ていた事に驚きながら、現在の自分の状況に気付いた。自分は寝てた筈なのになんで、こんな状況になっているのだろう?と考える龍牙王。

 

 

「アレ……普通に寝てた筈なんだけど」

 

 

「酷い!私にあんなことをしといて!」

 

 着物をはだけさせ、髪を一本口に含み何やら色っぽいポーズになっている。

 

 

「嘘つけ!寝惚けてするか!大体、今さらだろう」

 

 

「ちぇ……一昔前なら慌ててたくせに」

 

 

「うっ……ってあれから何千年経ってるんだよ。それにお前だって一昔前は」

 

 龍牙王は何かを言おうとしたが、天照に睨まれ黙ってしまう。

 

 

「ナンデモナイデス……それより我が寝てる間の事を教えてくれ」

 

 一先ずは土地の方が気になるようで、話を切り替えた。

 

 

「あっ、そうだったな」

 

 天照は着物を正すと、龍牙王の膝の上に座った。龍牙王も慣れているのか、何も言わない。そして、天照は話始めた。

 

 龍牙王の土地であったこと、世界全体のことを事細かに。途中で質問を入れながら、話は数時間に及んだ。

 

 まずは時代が移り変わり、人間の科学が飛躍的に発展した。それに伴い、信仰がより失われてしまった。それにより各神話体系も困っているらしい。その辺りは龍牙王も予想していた。人は目に見えぬ神を捨て科学に頼る、前世でもその様な事を感じていた。

 

 次に聖書の神が残した神器(セイグリッド・ギア)が近年になり、人間に多く宿る事になった。悪魔達は神器(セイグリッド・ギア)の宿る人間に狙いを付けている。更に特殊技能を持つ妖怪などの種族までもが、悪魔絡みの事件の犠牲となっていた。

 

 日本では巫女や能力者が行方不明になることも多くなったとか。また多くの妖怪の隠れ里に被害が出ており、対策として各隠れ里を日本の強力な神々の配下に置くことにしたらしい。そうする事で今は被害は止まって居る。悪魔と言えど、大々的に日本の名のある神の地に入るほど、馬鹿ではないらしい。

 

 駒王の地でも悪魔が侵入してくることがあったが、龍牙王が目覚めている時と変わらぬ対応をしていたらしく、被害も特に出ておらず、不安要素は龍牙王の眷族達が排除したので問題ないらしい。

 

 

「成る程な、考えたな」

 

 

「流石の私達も静観する時期は過ぎたからな……そういや、お前の土地は相変わらず凄いよ。前よりは信仰が減った感じだけど、まるで出雲みたいに信仰が満ちてる」

 

 龍牙王はそう聞いて安心した様だ。

 

 

「管理はお前達に任せていたから、安心だったが……」

 

 

「妖怪達は刀々斎や冥加達が説得・保護して、悪さをする悪魔共は叢雲牙が仕切ってる」

 

 

「ならいい。さて、世話になった。先ずは我が地へ帰る」

 

 

「でも、良かったのか?お前なら悪魔は皆殺しかと思ってたけど……一先ずは悪魔を様子見するなんて」

 

 

「個人的な私怨で流れをせき止める訳にはいかないしな……それに土地に入って我が接触すれば悪魔側で噂が立ち、正体がバレて、あの時の様な事になっても困る」

 

 そう言う龍牙王の顔には哀しみの感情が浮かんでいる。天照はその事情を知っているが故に何も言わずに彼を抱き締める。

 

 

「ありがとう……」

 

 

「ばか……こんな時は甘えていいんだよ」

 

 

「あぁ……でもそろそろ土地に戻るよ。少し心配になって来た」

 

 二人は話を終え、天岩戸から出た。

 

 

「天照、礼を言う」

 

 

「なら、今度デートしやがれ」

 

 

「了解……じゃ、またな」

 

 

「あぁ」

 

 天照に礼を言うと、その場から飛び上がった。

 

 空へと向かい翔け昇りながら、龍牙王はその身を龍へと変化させていく。

 

 

【グオオォォォォォォォォ!!!】

 

 龍へと変化した龍牙王が咆哮を上げると、青空に曇りだし瞬く間に暗雲が空を覆い尽くしてしまった。そして雷が鳴り響き、豪雨が降り出した。

 

 龍はその声で雷雲を呼び、嵐を起こす。天空に昇り、自由自在に天を駆けると言われている。龍神である龍牙王もまた同じく暗雲を呼んだ様だ。

 

 雨を浴びながら空を翔ける、彼にとっては約50年振りのシャワーと言う所だろう。

 

 

【ウオォォォォォォォ……ガアァァッァァ!】

 

 龍牙王は暗雲と共に消え去ってしまった。

 

 

「全く……本当に世話のかかる旦那様だな」

 

 天照はそう言い、笑みを浮かべながら龍牙王の飛んで行った方向を見ていた。




・龍眠

 犬夜叉で言う朔の日の様な物。

 しかし龍神と狗妖怪のハーフの為、その規模が違い力を失う事はないが数十年の眠りに付くことになる。

 数千年周期で起きるが、ギリギリまで起きている事は可能だが、日常的に眠気に襲われ、普段の実力を出せない事態になる。

 一度、眠ってしまえば余程の事がない限り起きる事はない。そして眠っている間は完全に無防備で危険な為、安全な所で眠る。眠っている時は、人型である事が多いが寝惚けて龍になったり、狗になったりするらしい。

 


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