1匹の黒猫が目を覚ました。
黒猫は此処が何処なのかをと思い辺りを見廻す。何処かの和室の様だ。そして自分は白いモフモフに包まれていた。
(此処は一体……それに私は……傷が治ってる。確か悪魔達に追われて白音と一緒に逃げて)
黒猫はこれまでの事を思い出していた。
自分は悪魔達に追われて逃げていた。たった1人の血の繋がった妹と一緒に。
「白音……白音は!?」
黒猫はモフモフから飛び出すと、人間の姿へと変わる。黒いボロボロの着物を着た女性の姿に。
「起きたか……随分、傷は深かったが治しておいたぞ」
男の声がした、人間に化けた黒猫は振り返ると着物を着た少年が座っていた。先程のモフモフは男の身体から出ている様だ。良く見れば、この少年の膝の上には白い猫が丸くなっていた。
「白音!?」
黒猫は少年の膝で丸くなっている白猫を抱き上げた。
「そっちの子の方の傷も治しておいた」
少年は優しい顔でそう言うが、黒猫は白猫を庇うようにしており完全に警戒している様だ。
「まぁ警戒するのも分かるが落ち着け。此処には悪魔共は来ないから安心しろ」
「貴方は……見た所、人間じゃない様ね。この匂い、狗妖怪?」
「半分は狗だがな。我はこの辺りの土地を統べる龍牙王という者だ」
「龍牙王……龍牙王って御伽話に出て来る龍神!?」
黒猫は驚いた。龍牙王と言えば、日本だけでなく世界中の人間・妖怪・魔物問わずに知っている数々の神話や伝説に出て来る龍神。伝説だけでなく御伽話にも出て来て、子供ですらも知っている有名な存在だ。神話や伝説の中では神々と戦い、神すらも怖れる龍神達の長とも言われる者。
何処からともなく現れ、あらゆる厄災を退け、大地を浄化し、死者すらも甦らせる等々の偉業を残している。
「……騙りなら止めた方がいいわよ。伝説の龍神がこんな人里に居る訳がないわ」
「嘘じゃないんだけどなぁ……まぁいいや。取り敢えず……胸くらい隠したらどうだ?」
黒猫は自分の姿を見てみると、破れた着物から胸が出ている。それに気付くと顔を真っ赤にする。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
羞恥で頭が一杯になった彼女は無我夢中で龍牙王に向かい、青い炎弾を放つ。
「こらっ、人の家で火を使うな。燃えるだろうが」
龍牙王がそう言うと、炎は消えた。
「なっ何をしたの!?」
「消火だよ、和室だからな。火が燃え移ったら困るだろ……一応、我は命の恩人なんだしさ。いきなりそれはないだろ。まぁ、胸を見た我も悪かったが」
龍牙王は立ち上がると、部屋の箪笥から着物を取り出すと猫に渡す。
「風呂はそこの廊下の先だ。妹と一緒にその汚れを落としておいで」
黒猫は唖然としているが、龍牙王の言葉に甘えて風呂へと向かった。
―さて、我が助けた猫の姉妹は猫魈の一族の者達らしい。一応、我が龍牙王という事は信じてくれたらしい。
黒猫の方が姉の黒歌、白猫の方が妹の白音。山奥にある妖怪の隠れ里で暮らしていた。人間の文明からはかけ離れた昔ながらの生活をしていたが、自然と共に生きている妖怪達にとっては特に不便はない生活だ。
穏やかで、普段と変わらぬ日常が続く筈だった。だがこの里に居る妖怪達の特殊技能を狙い、悪魔達が攻めてきたらしい。その所為で里は全滅、妹と2人で何とか逃げ出したはいいが悪魔達に追われてこの駒王の地にやって来て逃げる途中で受けた傷で動けなくなってしまったそうだ。そして結界の張ってある我の家へと逃げ込んだ様だ。
えっと……黒歌、白音……ぁ~確かD×Dのキャラで………駄目だ、思い出せん。前世の記憶が薄れてるな、別に惜しくはないが今後の展開は……まぁなる様になるか―
龍牙王は黒歌と白音から話を聞き、そんな事を考えながら悪魔達に怒りを覚える。その表情も端から見ていて怖いものになる。
「あっあの」
「あっ……あぁ、すまん。取り敢えず事情は把握した、行く宛はあるのか?」
「えっとその……ありません」
人の姿になった黒歌と白音。龍牙王の家にあった箪笥の着物を着ている姉妹だが、行く宛があるのかと聞かれそう答え俯いてしまう。
「……フム、ならば此処にいればいい。他の土地よりは安心だ」
「でっでも此処に居たら貴方に迷惑が」
「我の土地で悪魔共に好き勝手はさせん。この街には人もいるが、妖怪も数多くいる。だから安心しろ……此処にいる限りはお前達に手を出させない」
龍牙王はそう言うと、2人を抱きしめ自分の尾で包み込んだ。
「此処までよく頑張った……もう我慢しなくていい」
2人は暖かな尾に包まれた。優しい温もりに包まれた事で、今まで我慢していた家族を失った哀しみが、辛さが、、溢れてくる。2人は泣いた、溜めていたものを吐き出すかのように泣き叫んだ。龍牙王はただ、それを優しく包み。
彼女達は泣き疲れた猫姉妹は尾の中ですやすやと眠ってしまった。
「龍牙王様」
呼ばれた方向を見ると、髪の白い鏡を持った幼女と扇子を持った女性が立っていた。
「布団……敷いた」
「ありがとう、よいしょっと」
2人を器用に尾で持ち上げると布団の敷かれた隣の部屋に運ぶと、布団に寝かせた。
「それで、アンタはどうするんだい?」
「この子達を追って来た悪魔共が我が土地に入って来た様だ……神無、神楽は此処でこの子達を護って置いてくれ」
龍牙王は2人にそう言うと、軒先から空へと飛びだした。
「ぁ~あ、行っちまった……どうする神無?」
「主の命令……実行する」
「面倒だねぇ……折角、散歩に行こうと思ったのに」
「お姉ちゃんの言うこと聞けない?」
神無は無表情にも関わらず、無言の圧力を放つ。
「わっ分かった!大人しく留守番してるからそれは止めろ!怖い!」
「よかった……お姉ちゃん、理解のある妹をもって嬉しい」
「はぁ……自由が欲しいねぇ」
「自由気儘に、散歩したり、龍牙王様にお小遣いまで貰ってるのに?」
「いや………それはまぁ」
小さい神無にそう言われて、視線を逸らしてしまう神楽。
「私達は龍牙王様に助けられなかったらずっとあそこにいた……」
「うっ確かに……まぁ心臓握られてる訳でもないし、勝手にできるからいいけどさ」
「そう言えば……この間、ヒラヒラしてた服を見てたけど」
「どっ何処から見てやがった?!」
「私はこの街を監視してる……あの時の神楽、かわいかった」
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁっぁ!!!」
顔を真っ赤にした神楽は家の奥へと消えて行った。
「神楽もまだまだ……」
神無は神楽の背を見ながらそう言うと、自分の持っている鏡を覗き込んだ。
鏡には神無の姿ではなく、龍牙王の姿が映っている。
『このクソ悪魔共、人の土地に侵入してきやがって……妖怪達の無念と恨み思い知れ【獄龍破】!』
龍牙王の持つ叢雲牙から発せられたドス黒い光が鏡を埋め尽くす。
「……憐れ……悪魔」
神無の静かな呟きは、庭の虫達の鳴き声に掻き消されてしまった。
~不思議空間~
「作者の野郎、マジで2人を出しやがった!?」
神無と神楽が登場した事を驚いている夢幻の白夜。奈落も他の分身たちも騒いでいた。
―私は約束は違えない―
何処からともなく聞こえてくる作者の声。
「ならば儂等も出せ!儂なんて犬夜叉と桔梗にやられて以降、忘れられてるぞ!」
そう叫ぶ奈落、それに続き他の分身達も自分達も出せと言ってくる。
―野郎はいらん―
「男女差別だ!」
「そうだ!そうだ!」
「このヘボ作者!」
ブーイングと罵倒の嵐が続く。
―作者に対してその様な口を聞くのか……いいだろう、今から出て来る敵を倒せたら出してやる―
「本当だな!?」
―作者、嘘つかない……まぁ倒せたらだけど―
作者の言葉共に光が現れ、光が止むと2人の人影が立っていた。
「よし!貴様等を倒して桔梗と犬夜叉の仲を裂いてやる!」
「儂は出番がアレばそれでいい!魍魎丸!」
「俺は嫌な予感がするから止めとこう」
夢幻の白夜だけがその人影達に襲い掛からなかった。他の分身達は出番が欲しいので襲い掛かる。
「むぅ……作者よ、此奴等を倒せば妃や十六夜達に会えるのだな?」
「りんに会えると聞いてきた……嘘だったら殺す」
―大丈夫、大丈夫。じゃあ、白コーナー戦国最強の妖怪・闘牙王&殺生丸―
「「「ぇ?」」」
闘牙王と殺生丸の名を聞いて固まる奈落達。
―紫コーナー、奈落&分身―
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!」
「流石にアレはずるすぎるぞ!」
「せめてどちらか1人にしろぉ!」
―だって俺、ヘボ作者だし、バカだし―
「「「こっこいつ!さっきの事、根にもってやがる!?」」」
―そんじゃ……ファイ!―
『カーン!』
「ではお前達」
「覚悟しろ」
やる気満々の父上と兄上様方。
奈落達の明日は如何に?