狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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龍神の巫女
第15巻 昔話


 世界が始まる以前、1つの存在が産まれた。

 

 それは始めは、形は無く意志だけの様な存在だった。その存在はまず自分の形を創り、その次に世界を創り出した。

 

 その存在こそが無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)である。

 

 無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は次に宇宙を、恒星を、惑星を、そして惑星に命を創り出していく。それがある程度終わると、後は産み出した命達を傍観する事に決め、世界の外側から世界を視ていた。

 

 無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は多くの宇宙の中から青く輝く星を見つけ、何となく訪れてみた。その星では多くの命が進化しているのを見た。そしてその星を気に入り、この星を見守る事に決めた。

 

 何千年……何万年、何億年と言う時が経ち、星の……自然の意志である神と言う存在が産まれ、やがて人間と呼ばれる存在が産まれた。

 

 無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は神や人間、動物を見ていてフッと思う事が在った。神であれ、人であれ、動物であれ番いを見つけ、子を産み、増えていく。時には神と人の子が産まれる事も在った。それを見て、自分も子を産んでみようと考えた。どうしてそう考えたのかは誰にも分からないが、もしかしたら本人にも分からなかったのかも知れないが、衝動的にそう思い付き実行した。

 

 性別を一度女性にして、番いとなるべき雄と子となる魂を探し出すことにした。過去・現在・未来、平行世界から神、人、怪物……妖怪などと呼ばれる存在まで徹底的に探した、流石は世界創造の龍神やることが凄い。

 

 始めに我が子になるに相応しい魂を探した……それで見つけたのが他者を庇い死に輪廻の輪に戻ろうとしていた人間の魂。彼女?はその魂に手を伸ばし、自分の元へ引き寄せると腹へと宿した。そして次に番いとなる雄を探し、偶々見つけた若い雄の狗妖怪……闘牙王と呼ばれる存在を見つけ、彼を自分の元へと引っ張り、それで魂に肉体を与えた。

 

 時が経ち、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は子供を産んだ。龍神と狗妖怪の血を継ぐ者……その子の名を龍牙王とした。

 

 

 

 

 

 ―我が母、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)。孤独で在ったが、他者と関わる事のなかった故にその感情を嫌い出来なかった龍神。

 

 我を宿した事で愛情というものを理解したらしい……だが子育てなど初めてで幾度我が死に掛けた事があるのは言うまでもない。そして我は産まれて100年程経ち、父親である闘牙王に引き会わされた。

 

 まぁ始めこそ、あの闘牙王が父親で驚いていた。それから親父と過ごして、尊敬し憧れる存在となったのは言うまでもない。子は親を尊敬し憧れるのは当然の事で、我と言えど例外ではなかった。そして決めた、これから産まれてくるであろう、弟やその恋人を幸せにしようと……その為に親父の元で修業する事にした。

 

 我は修業しそれなりに強くなったのだが、そんな時我が母が「旅に出ろ」と言われ、ありとあらゆる場所に飛ばされた。過去・未来・外宇宙・異世界……しかも戦場の真っただ中……今考えてもよく生き残ったものだ。戻れば、母に飛ばされた先での事を弄られ続けたが……まぁそのお蔭で強くなったからその面では感謝している。

 

 父と母のお蔭で我は強くなった……だがそんな中で失っていたものが在った。だが我はそれに気付けずに……いや目を背けていた。傷付く事を怖れていた。アイツ(・・・)に言われるまでは……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社 神殿~

 

 龍牙王は神殿の祭壇の前に座して昔の事を思い出しながら、晩酌をしていた。横には神無が座り、銚子を持ち龍牙王の盃に注いでいた。

 

 

「あにき~」

 

 

「りゅうおうしゃま」

 

 

「どうした、夜叉、桔梗?」

 

 寝間着を着た幼い(3~4才)夜叉と桔梗が龍牙王の元に駆けてきた。

 

 

「おはなしききたいです」

 

 

「ききたい!」

 

 どうやら、2人は寝る前に龍牙王の話を聞きたい様だ。

 

 

「しかしもう寝る時間……ぅう」

 

 子供が起きているには遅い時間なので寝る様に言おうとするが、キラキラした純粋な目で見られると断わり辛い龍神である。答えを返さないと2人の目に段々と涙が浮かんでくる。

 

 

「はぁ………分かった。だからその様な顔をするな」

 

 

「「やったー!」」

 

 

「神無、スマンが酒を下げてくれ。夜叉達が誤って飲んでは大変だ。2人とも、話を聞いたらちゃんと寝るんだぞ?」

 

 

「「はぁ~い」」

 

 龍牙王は結局、話をする事にした。誤って酒を子供達が酒を飲まない様にちゃんと下げさせて、2人が風邪をひかない様に自分の尾で包んだ。

 

 

「さて何の話をしようか……」

 

 

「おおきいたこのはなし!」

 

 

「何度もしただろう……思い出したくないから却下だ」

 

 

「じゃあ」

 

 ―チュー―

 

 夜叉が何かを言おうとすると、何かが吸われる音がした。夜叉は自分の頬に吸われて感覚を覚え、頬を叩いた。

 

 

 ―ペチッ!―

 

 

「ぐぇ!」

 

 何かの苦悶の声がすると共に夜叉の頬から叩き潰された何かが落ちる。

 

 

「あっみょうがじいちゃん!」

 

 

「おっお久しぶりです、夜叉様。相変わらず美味しゅう血でございますなぁ」

 

 それは蚤妖怪の冥加だった。冥加は龍牙王や殺生丸、犬夜叉の父親に仕えていた妖怪の1人で現在はこの地に身をおいている。

 

 

「久しぶりだな、冥加」

 

 

「お久しゅうございます、龍牙王様」

 

 

「どうかしたのか?」

 

 

「いぇいぇ、特に用があると言う訳ではないのです。ほんのすこ~し、龍牙王様の血を頂こうと思い来たのですが……夜叉様と桔梗様のお声が聞こえて来ましてな」

 

 どうやら冥加は龍牙王の血を貰う為に神社に来たらしい。

 

 

「そうか、なら好きに吸え」

 

 

「ちっておいしいのか?」

 

 夜叉がそう冥加に尋ねた。

 

 

「そうですなぁ~、人間にとっては不味くても儂にすればおいしいですぞ」

 

 

「だれがいちばんおいしいのですか?」

 

 続いて桔梗まで夜叉につられてそう尋ねる。

 

 

「難しい質問ですなぁ~……親方様、龍牙王様、夜叉様、桔梗様、皆さまの血は美味しいですし……そうですね、一番良いのは若い女性……特に【アイリ】様の……っ!もっ申し訳ありません!龍牙王様!」

 

 冥加はアイリと言う名を口にした瞬間、すぐさま土下座して龍牙王に謝罪する。それはかつて、犬夜叉が人間になる際に龍牙王を呼び出した時に冥加が見せたものと同じだった。

 

 

「「あいりってだれ?」」

 

 聞いた事のない名前に首を傾げる子供達。

 

 

「……冥加、顔を上げろ。何度も言うがアレはお前達の責ではない……責められるは我だ」

 

 そう言う龍牙王は哀しげな表情なる。それを見て、心配そうに彼を見上げる夜叉と桔梗。彼はそんな子供達の頭を撫でる。

 

 

「そうだな……アイリ………我に仕えた初めての巫女であり、我に他人を慈しむ事を教え……いや気付かせてくれた女」

 

 ―龍神は語り出した、この地を護ろうと命を賭して戦った少女の物語を―


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