~放課後~
龍牙王、夜叉、桔梗は龍王神社の祭壇の前に居た。
「それで、兄貴どうしたんだ?」
「私達を呼び出すと言うことは余程の事が起きたのでしょうか?」
「ウム……実は外縁の結界にある者達が通った」
普段から夜叉と桔梗には家族の様に接し、家ではゆるいイメージのある龍牙王だが、今は全くと言っていい程、その様な雰囲気を出さず神としての態度で2人の前に座する。
龍牙王が神としての態度をとる時は、土地や氏子に関わる時、外から他の神や妖怪が来て会談する時くらいだ。だからこそ、夜叉達は事を重く見ていた。
「外縁の結界……感知結界にですか」
「あぁ……お前達も知っての通り、この地には多くの結界が張られている」
この駒王の地には太古から無数の結界が張られていた。
耐物理結界:名の通り、物理に働く結界。
耐霊的結界:霊に対する結界。
感知結界:土地に入って来た存在を感知する結界。
この3種類が幾つも土地に張られている。
その中で最も強固な強固な耐物理・霊的結界…これらは主に龍王神社と龍神神社の周辺に張られ、外敵から拠点である社を護っている。
次に街全体を覆う耐物理・霊的・感知結界…神社周辺の結界に比べて弱く、龍牙王や眷族の任意がないと発動できない。
そして最後に土地全体を覆う巨大な感知結界だ。これは龍牙王だけでなく、近い眷族達が感知可能なものだ。
「何者かは知らぬが万が一に備え、我は暫く社に篭る……お前達は普段通りに過ごして構わんが、武器の携帯をしろ。最悪の場合は」
龍牙王は横に居る神無に目を向けると、彼女が夜叉達の元へ歩み寄り2人に数珠を渡した。それを見て、2人は驚いた表情をしている。
「結界珠……この様な物まで」
「もしもの為だ………嫌な予感がする。何かは分からんが、こういう時は良くない事が起きるかも知れん」
「兄貴、その入って来た奴等って【悪魔】共じゃないのか?」
「恐らく違う……悪魔であれば我が感知できる。それが感知できないという事は……それ以外の勢力の者だ。まぁ街の近くまで来れば何者かははっきりする。
……今の所は何も起こってないが、氏子達に被害が出るのは何としても防ぎたい。しかしお前達が遭遇しても決して殺すなよ」
土地に危険を齎す可能性のある侵入者を殺すなと龍牙王は言った。それに対して夜叉は何故かと聞き返す。
「暴走するはぐれ悪魔であれば処断する必要があるが…………話が通じる相手であり、偶々通っただけでの相手を殺めると外交的に問題がある。まずは相手の特定だ、それは此方でやっておくから今日は休め」
2人は返事を返すと、そのままこの場を後にする。
~日曜日~
~一誠side~
ふっふふふ……俺はとうとう大人の階段を昇ることになる!
俺は夕麻ちゃんとデートをしていた。この日の為に色々と下調べをして寝不足だが、そんな事はどうでもいい。買い物、食事、色々と済んだが勝負はこれからだ。
夕暮れ時の公園……シチュエーションはばっちりだ。このまま行けばきっと……
「一誠君、お願いがあるの」
夕麻ちゃんが顔を赤くしてそう言ってくる。これはお約束の「キス」だ!
「死んでくれないかな」
ほらっ来た!きs……あれ?俺の耳が可笑しくなったのかな?
「夕麻ちゃん、ごめん……もう一度、言ってくれるかな。どうやらちょっと疲れてるみたいで在り得ない言葉が聞こえてきたんだ」
「死んでくれないかな」
「えっと……冗談だよね」
なんの冗談かと思っていると、夕麻ちゃんが突然光だした。すると服装がボンテージに変わった。それになんか真っ黒な翼まで生えてる!コスプレか!?
「ううん、冗談じゃないの……私の目的は始めから貴方の命。じゃないと貴方みたいな男と付き合う訳ないでしょう」
夕麻ちゃんはその手に光の槍の様な物を出現させる。情けない事に何が何なのか分からなかった。
「じゃあ、さようなら……本当につまらないデートをありがとう」
彼女はそう言うと、槍を俺に向かって投げてきた。訳が分からないがこれだけは分かる……あんなぶっといのに貫かれたら死んじゃうな。
『誰の許可を得て我が氏子に手を出す』
男の声が聞こえてきた。そして俺の前に白銀の何かが現れた。何かは見た覚えがあり何処か懐かしい感じがした。
~side out~
「何者だ?!」
天野夕麻こと堕天使レイナーレは目の前に現れた存在に向かいそう叫ぶ。
殺そうとした相手、兵藤一誠の前に立ち私の槍を受け止めた。
「何故に一誠を狙う」
「なんででも良いでしょう……それよりも答えなさい!何者だ!?(なんだ、此奴は……それにこの気配は!?)」
「まぁいい。それにしても堕天使だったとは……堕天使、警告する。今すぐこの地を去るので在れば我は追わん、だがもし氏子達に手を出すと言うのなら」
白銀の男は腰の刀を引き抜いた。錆び刀だったが、その刀が巨大な刀身へと変化した。
「全力で排除させて貰う」
男は刀を軽く振るうと、凄まじい衝撃波が放たれる。その瞬間に私の身体は吹き飛ばされた。
「チッ逃がしたか。生かしておく為に加減したのがそれが裏目に出たか……まぁいい、匂いは覚えたし何時でもやれる。さて一誠」
「はっはい!ん?なんで俺の名前を?」
「話は後だ……行くぞ、よっと」
「えっちょ……おわぁぁぁぁぁとんでるぅぅぅぅ!!!」
その日の夜、駒王の街に叫び声が響き渡った。