狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第24巻 聖女来る

 ~龍王神社 神殿~

 

 学園より帰宅した夜叉、桔梗、一誠は龍牙王の眼前に集まっていた。リアス達と話し合った内容を龍牙王と眷族達に話した。

 

 

「ということです」

 

 

「なっ!?」

 

 

「バカな!!!」

 

 龍牙王は沈黙したままだが、眷族達の一番古い陽牙、陰牙、光牙、闇牙が声を荒げる。彼等はアイリが居た時からこの地に居る始まりの眷族達……自分達が護りきれなかった所為でアイリが死んだ。だからこそあの事件の原因である悪魔達を憎んでいる。

 

 その悪魔達が、この地の神である龍牙王と話し合いはついていると言った。彼等はそれが許せなかった、最も長く龍牙王に仕えてきたが故に知っていた……その哀しみを、絶望を、怒りを、憎しみを……。

 

 

「主よ!直ぐにでもその悪魔共を引き摺り出すべきです!」

 

 

「勝手にあちらが踏み込んできたのです!殺そうが何とでも言えましょう!」

 

 眼を瞑り考え込む龍牙王にそう進言する眷族達。

 

 

「橋姫達から堕天使だけでなく、はぐれ神父まで入ってきたと聞く。あやつらは性質が悪い……被害が出る可能性がある。氏子達を護るのが優先だ」

 

 

「「「「しか……【くどい】ッ!」」」」

 

 陽牙達は言おうとするが、龍牙王の一言で黙った。

 

 

「お前達の使命は地と地に生きる生命を守るのが役目………それを忘れるな」

 

 

「……申し訳ありません」

 

 

「では往け」

 

 

「「「「はっ!」」」」

 

 眷族達は主の声と共にその場から消えた。

 

 

「ふぅ………」

 

 龍牙王は疲れた様子で、頭に手を当てる。

 

 

「一誠、堕天使共の第一目標はお前だ。事が解決するまでは神社にいろ」

 

 

「えっ……でも」

 

 

「親の事も心配だろう……だがアイツ等の狙いはあくまでお前。堕天使共も人目に付く事は避けるだろう……それにそろそろ、アザゼルに着く頃だろうしな」

 

 

「あざぜる?」

 

 

「堕天使の長だ………この前の一件の時に電話して呼び出した」

 

 

「電話!?」

 

 一誠は龍牙王がアザゼルと言う人物を呼び出すのに電話を使ったと聞いて驚いている。

 

 

「正確にはこれでだけど」

 

 そう言うと、龍牙王は袖の下からスマートフォンを取り出した。

 

 

「神様もそういうの使うんですか……」

 

 

「人間がこういう便利な物を発明するのは喜ばしい事だぞ。だが便利になる反面、神や自然への感謝を忘れていくのは解せんがな………では夜叉、桔梗。一誠の事を頼む………我はアザゼルが来るまで、街を見回ってくる。何かあれば神無に伝える」

 

 龍牙王はスマートフォンを袖の下に仕舞うとその場から出て行った。

 

 

「神様もハイテクなんだな」

 

 

「あぁ……あに……じゃなかった、龍王さまは未だマシな方だぜ」

 

 夜叉の言葉に「えっ」と漏れる。

 

 

「まぁ……そうですね。神々にも色々といらっしゃいますから」

 

 と桔梗が明後日の方向を見て呟いている。何か在ったらしいが、桔梗の姿を見て聞かない事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~駒王街 街中~

 

 龍牙王は人間に化けると、街中を歩き彼は見ていた。

 

 年老いた夫婦が仲良くベンチで座っている姿。

 

 遊んでいる子供達を見守る母親達が話している姿。

 

 お腹の大きな妻を気付かって荷物を持つ夫。

 

 それは太古から彼がずっと見守って来た人間達の営み。

 

 

 ―静かで平穏な時間だ………何としてでも護らないとな。

 

 それにしてもこの地は多くの闘争に巻き込まれている………龍泉地の所為か。大きな力は更なる力を呼ぶ……それは我も同じ事か―

 

 そんな事を考え、時計を確認する。そして彼の横にお茶を飲んでいる老女が現れた。

 

 

「東の橋姫か」

 

 

「はい、お久しぶりですわね龍王さま」

 

 

「そうだな……それでどうした?」

 

 

「つい先程、黒歌ちゃん達が橋を渡った事をお伝えしようと思いまして」

 

 橋姫とは土地の境界を監視する地の守護神……言うなれば龍牙王の眷族の1人だ。龍牙王の横に現れたのは東の方の橋姫で、どうやらアザゼルを迎えに行った黒歌達が戻ってきた事を伝えに来たらしい。

 

 

「それで堕天使達は動きましたか?」

 

 

「今の所ははぐれ神父と共に教会に潜んでいる………このまま動かなければいいが……万が一に備えて、陽牙達や他の眷族達は街の方へ行かせている」

 

 

「そうですか………この地は本当にこの様な事が多いですわね」

 

 

「………それでも我は護る。アイツとの約束だけじゃない………我はこの地を、この地に生きる者達を愛している。だから何としても護り通す」

 

 

「本当に……本当にあの方を愛しておられるのですね。同じ女としてはあの方を羨ましく思います………まぁでも、龍王さまもいい加減に誰なのかを決めないと大変な事になりますわよ?」

 

 にっこりと笑みを浮かべてそう言う東の橋姫。

 

 

「ハハハ………我にとっては皆、大切なんだよ」

 

 

「龍王さま………女と言う生き物は愛情を言葉や行動で示してくれないと不安になるものなのです」

 

 そう言って、立ち上がると風が吹いた。

 

 

「なぁ!?」

 

 突如驚いた様な顔で空を見上げる。

 

 

「龍王さま?」

 

 

「あっ……ありえぬ……橋姫よ、今は現実か?それとも夢か?」

 

 突然訳の分からない事を言う主・龍牙王に首を傾げている橋姫。

 

 

「えっと……どうなさいましたか?」

 

 龍牙王は近くの電柱に頭をぶつけ始めた。その様な事をしていれば周りの者達から変な目で見られるのは言うまでもない。勿論、橋姫は突然の主の行動にオロオロとしている。

 

 

「痛い………少しだけど………」

 

 

「りゅ龍王さま?」

 

 

「ぁ……悪い」

 

 彼は少し落ち着いた今の自分の状況を理解すると、手を振った。すると、周りの人々は何事も無かった様に散って行った。

 

 

「一体、どうなさったのです?貴方様があの様な事をするなど、御仕えしてから見たことがありません」

 

 

「いや……我も現実なのか疑ってな。橋姫、すまんが社に行ってアザゼルに待つ様に伝えてくれ」

 

 

「はい、承知しました」

 

 橋姫はそう言うと、その場から消えた。すると龍牙王は術で人間達から見えない様にすると人の姿から本来の姿に戻り、風の吹いた方向に向かい飛んだ。

 

 無我夢中で風の吹いて来た方向……正確には風に乗った匂いのする方向へと向かう。

 

 そして辿り着いたのは、1人の少女の元だった。どうやら日本の者ではないらしく、金髪碧眼の少女だ。何やら大きな荷物を持っている。

 

 

「えっと……こんにちわ?」

 

 

「あぁ……こんにちわ、いい天気だな」

 

 

「えっはい……そうですね」

 

 龍牙王は少女の顔を見ると、少し俯いた。

 

 

「お前はこの地の者ではないな……どこへ行く?」

 

 

「あっ、実は道に迷っていまして………この街に教会はありませんか?」

 

 

「教会?ぁあ……しかしあそこは何年か前に無人になっている(まぁ今は堕天使とはぐれ神父で一杯だが)」

 

 

「はい、なので私が赴任してきたわけなんですが…………あの、何処かで御会いしたことがありましたでしょうか?何故か、貴方様から懐かしい感じが」

 

 少女はそう言うと、龍牙王の顔を覗こうとすると

 

 

「きゃ!」

 

 何も無い所で、躓き龍牙王の方へと倒れ込む。

 

 

「ごっごめんなさい」

 

 

「ククッ……構わない……それよりも名前は?」

 

 

「アーシア……アーシア・アルジェントと申します」

 

 

「アーシアか………我は龍王、この地の土地神をしている」

 

 

「はい、宜しくお願いします……あれ?貴方は人間ではないのですか?」

 

 

「ウム……スンスン…この匂い、堕天使の匂いがする。何故お前から」

 

 

「えっあの…」

 

 アーシアは堕天使と聞いて困った顔をしている。

 

 

「まぁいい………一先ずは、我が社に行こう」

 

 

「えっ……あの……」

 

 

「お前の向かう教会には堕天使やはぐれ神父がいる。あんな場所にお前を行かす訳にはいかん」

 

 龍牙王はそう言うと、自分の尾でアーシアと彼女の荷物を包み込んだ。

 

 

「あっあの」

 

 

「色々と語り合いたいが今は時間がない……すまんが黙って着いて来てくれ」

 

 

「……はい」

 

 アーシアは何故か断れなかった。断わってはいけない……いいや断わる必要がないと何故か思ってしまった。

 

 龍牙王はアーシアを連れて、自分の社へと飛ぶ。

 

 戻る際中にアーシアの顔を見た。見れば見れるほど似ている……瓜二つと言ってでも過言ではない。唯一違うのは髪と眼の色くらいだろう。

 

 龍牙王は彼女に手を伸ばそうとするが、彼は直ぐに手を戻した。アーシアの方はいきなりの事だと言うのにかなり落ち着いた様子だ。

 

 再び運命は動き始めた。


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