狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第25巻 聖女の心

 ―私……アーシア・アルジェントは最近になって自分の道が本当に正しいのか分からなくなってきました。

 

 私に両親はいません。私は赤ん坊の頃に捨てられ、教会で育ちました。それから()を信じずっと生きてきました。

 

 そしてある日、傷付いた子犬を助けたいと願った時、私に宿る聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)が目覚めました。その力は自分以外の者を癒す力………この力を見た周りのシスター達が私を聖女と言った。それをきっかけに私の日常は変わり始めた。

 

 私は怪我人や病気の人々を癒す日常……それ自体は嫌ではなかった。誰かが笑顔で居れるなら私は頑張れた……でもシスターや神父様達の私に対する態度が変わってしまった。少し寂しかったが、怪我人や病気の人々の為に頑張る事で寂しさを紛らわせていた。

 

 でもその頃からある夢を見だした。

 

 その夢の中では私は巫女様と呼ばれていた。そして私の隣には笑みを浮かべる男の人が居た。

 

 白銀の長い髪、三本の白い尾………御顔はよく見えませんが……恐らく人間ではないのだろう。でもその方を怖いとは思わなかった。寧ろ、その方を見ていると安心する………でも子供達といる時は笑みを浮かべて、子供達と同じ様に遊んでいる。そして子供達だけでなく、村人達にも優しく接していた。夜となれば村人達と食事を楽しみ、誰かが亡くなった時にはその死を悼んでくれた。

 

 その夢は何度見ても胸が暖かくなる………でも最後には龍王さまは哀しそうな顔をしていた。その表情を見ると胸が苦しくなり、悲しくなり、申し訳ない気持ちで一杯になります。

 

 そして最近、()()が現れる様になりました。

 

 私と瓜二つの少女……違うのは髪と眼の色くらいのものです。現れた彼女は私を見つけるとにっこりと笑顔を浮かべる―

 

 

『もう直ぐ………もう直ぐです』

 

 

「えっ?」

 

 彼女はそれだけ言うと、後は何も言わずに私の手を取る。すると彼女から色々な物が流れ込んでくる、記憶・感情・想い…………。

 

 

「暖かい……」

 

 ―そうして夢は覚める。でも彼女が現れる様になってから、色んなことを彼女と話す様になりました。辛い事もありましたが、夢の中で彼女が話しを聞いてくれてました。

 

 あの時………私が()()()()()()()()()()()()し、それを見た教会の方々が私を魔女と言い教会を追放された時……私は悲しく辛かったですが、彼女が話しを聞いてくれたお蔭で頑張って来れました。

 

 追放された私は堕天使のレイナーレ様に助けられ、今日、日本の駒王街にやって来ました。

 

 この街に脚を踏み込んだ瞬間、懐かしい気持ちになりました。理由は分かりません……私はそれから教会を探す為に歩き回ったのですが、中々見つからず、人に聞こうにも、日本の方々には私の言葉は通じず困り果てていた時、現れたのです。夢に出てくるあの御方が―

 

 

「えっと……こんにちわ?」

 

 

「あぁ……こんにちわ、いい天気だな」

 

 

「えっはい……そうですね」

 

 どうしてでしょうか、この龍王さんと言う方はどこか懐かしい雰囲気を放っていました……それに夢に出てきた方に良く似ていました。

 

 そして社……日本の教会へと向かう事になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社~

 

 

「それでアザゼル、申し開きはあるか?」

 

 龍牙王は神社に着くなり、アーシアを降ろして鉄砕牙を引き抜き、アザゼルの首にその刃を当てる。

 

 

「申し開きのしようがねぇ……まさか家の連中がお前さんの土地で暴れているなんて、本当にすまん!斬るなら斬ってくれていい!だが頼む!他の連中は助けてやってくれ!!!」

 

 この男、堕天使の総督・アザゼル。先日龍牙王の話を聞いて飛んできたのだろう。そのアザゼルは土下座している。

 

 

「全く、堕天使共がはぐれ神父をつれて来たから色々と大変なんだぞ………今の所、眷族達に見張らせているから被害は出ていないが………」

 

 

「分かってる。その場合は俺が腹を切る………お前さんの土地に手を出したんだ。無事に済むとは思ってない……だけど頼む!俺の命だけで勘弁してくれ、他の奴等に罪はねぇ!」

 

 裁龍神・龍牙王の土地に手を出すという事は彼を敵に回すだけでなく、天照の様な彼と親しい神々を敵に回すという事だ。そうなれば確実に堕天使の勢力は滅ぶ事になる。だからこそ、アザゼルは総督の責任として自分の命と引き換えに他の者達を助ける様に懇願する。

 

 

「……今の所は被害が出てない。だから今の内に解決しよう、俺もお前を殺したくはない」

 

 彼はそう言うと、鉄砕牙の変化を解いて鞘に納める。

 

 

「アーシア、スマンが此処で待っててくれ。行くぞ、アザゼル」

 

 

「あぁ」

 

 龍牙王はそれだけ言うと、アザゼルと共に空へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~教会~

 

 此処は昔、教会の在った場所なのだが、現在は神父も居らず廃墟の様になってしまった。

 

 その廃れた教会の祭壇に座っている1人の男がいた。

 

 

「ぁ~暇だぁ~さっさと悪魔共、ぶち殺してぇ~」

 

 彼の名はフリード・センゼル。元は正当な教会のエクソシストだったが、追放され現在は堕天使の元にいるはぐれエクソシストだ。

 

 

『っておい!いきなりそんな物騒な物、使うのか?』

 

 

『大丈夫、大丈夫。結界張ってる………やるなら派手にやらないと』

 

 

「なんだ?誰か外に居るのか?」

 

 フリードは外から話し声が聞こえてきたので、覗こうと扉を開く。外には着物を着た男と、スーツの男がいるのが見えた。男達は何かを言い争っている。

 

 

「あぁん?なんだ、此奴等」

 

 

『ぶち壊すつもりか?』

 

 

『請求はミカエルとアザゼルにするから問題ない……風の~』

 

 着物の男が巨大な刀を振り上げると、その刃が風を纏い始めた。

 

 

「ちょ……なんかやべぇ!!!」

 

 フリードは危険な予感がしたので直ぐに扉から離れる。

 

 

『傷!』

 

 ―カッ!!!―

 

 

「どひゃあぁぁぁっぁぁ!!」

 

 フリードは閃光と凄まじい衝撃により、教会ごと吹き飛ばされた。

 

 

「ん?龍牙王、なんか叫び声聞こえなかったか?」

 

 

「なんか聞こえた様な気もするが……スン、スン」

 

 龍牙王は何かを嗅ぎ取った………すると表情が険しくなり、祭壇の在った場所の瓦礫を鉄砕牙で吹き飛ばすと地下へ続く階段を見つけた。そこまで来ると、咽返る様な鉄の匂いがした。それに気付くとアザゼルの表情も強張る。

 

 それと同時に龍牙王から視覚できる程、強大で圧倒的な力が溢れ出した。鉄砕牙を鞘に納めると、背にある叢雲牙を引き抜いた。

 

 地獄の剣・叢雲牙………地上で使えば、使った場所は地獄の瘴気に蝕まれ、向こう100年は草木1本生えない地になる。それを理解でしていない程、愚かではない。だが理解していても今の彼は冷静でいられないのだろう。

 

 そして彼は1歩ずつ下へと降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ~教会 地下~

 

 そこに広がっていたのは血の海だった。

 

 

「こっこりゃ」

 

 大勢のはぐれ神父の中に倒れている人間達。男女の大人と小さい子供、それと赤ん坊……龍牙王は彼等に……この家族に見覚えが在った……この地で産まれ育ったこの地の子供達。

 

 堕天使らしい4人とはぐれ神父達は龍牙王の登場に驚いている。

 

 龍牙王は血塗れの家族へとゆっくりと歩を進めていく。はぐれ神父達は退魔の力を持つ光の剣で龍牙王に襲い掛かろうとするが、龍牙王の持つ叢雲牙の剣圧で肉体は掻き消された。

 

 それを見て、恐怖したはぐれ神父達は道を開けた。

 

 

「………息はないか」

 

 

「きっきs……ひぃ!」

 

 堕天使レイナーレは睨まれ、圧倒的な殺気と力に恐怖する。

 

 龍牙王は叢雲牙を地面を突き刺すと、腰の天生牙を引き抜いた。

 

 

「頼むぞ……天生牙」

 

 天生牙が脈動を打ち、龍牙王の眼に亡骸に群がる冥界の使い達が映る。そして、彼は天生牙で冥界の使いを斬り伏せた。その瞬間、天生牙の力が発揮され死んだ者達が蘇えった。彼は天生牙を鞘へと納め、直ぐに横たわる家族達に触れ、蘇えった事を確認した。

 

 

「助かったぞ、天生牙………陽牙!陰牙!光牙!闇牙!」

 

 龍牙王がそう叫ぶと、その声は離れた場所にいる眷族達に伝わり、彼等は主の声に応え、風よりも早く主の元にやって来た。

 

 陽牙達は周囲と龍牙王の足元で眠っている家族を見て、状況を理解した様だ。陽牙達は周囲の神父達や堕天使達を睨みつける。

 

 

「お前達はこの者達を家へ帰してやってくれ……勿論、記憶は消してな」

 

 

「はっ!」

 

 陽牙達は眠っている家族達を抱えるとその場から消えた。

 

 

「いっ今のがお前の持つ、天下覇道の三剣の内の天生牙か」

 

 降りてきたアザゼルがそう言った。

 

 かつて龍牙王の父、闘牙王が持っていた三剣……天界を司る【天生牙】、人界を司る【鉄砕牙】、地界を司る【叢雲牙】……この剣をもって闘牙王は妖怪の頂点を納めた。故に天下覇道の剣と呼ばれ、この剣を手に入れれば最強の証だと言われていた。

 

 闘牙王亡き後は叢雲牙は危険なため、龍牙王に管理されていた。実際にこの三剣を手にしていたのは闘牙王と龍牙王のみだ。どうやら交流していたアザゼルも剣の存在は知ってはいたが、見たのは初めての様だ。

 

 

「あっアザゼル様?!どうしてここに!?」

 

 

「アザゼル……子等に被害が出た。どういう事か分かるな」

 

 

「あぁ………覚悟はできている」

 

 どうやら、アザゼルは既に覚悟を決めている様だ。

 

 

「我が地の子等にこの場で全員………消し去ってやる」

 

 叢雲牙を引き抜き、殺気と妖力が周辺を覆い尽くす。それによりこの場にいる者達は動けなくなる。

 

 これは神の裁きだ、決して逃れる事はできない。

 

 龍牙王の妖力が掲げている叢雲牙に流れ込み、剣より禍々しい妖気が溢れだした。

 

 天生牙が一振りで百の命を救う剣ならば、叢雲牙は一振りで百の命を奪う【死】の剣だ。

 

 

「叢雲牙よ……地獄の龍よ、裁きの一撃を!」

 

 叢雲牙の妖気が龍の形へと変貌し、龍牙王の身体に纏わりつく。

 

 その技の名は【獄龍破】……地獄の龍の一撃は敵を葬るだけでなく、地獄の瘴気は周囲の生命を蝕み、被害を受けた地は向こう百年は草木1本生える事はないだろう。

 

 この教会周囲には結界が張られている故に周りに被害が出る事はない、加え放たれた後の瘴気は龍牙王がどうにかするだろう。だがこの結界の中に居る者達は確実に死ぬ事になるだろう。

 

 

「【獄龍】「ダメです!」っ!?」

 

 声と同時に後方から眩い光が現れ、周囲を覆っていた禍々しい妖気が浄化されていくのを感じた。龍牙王は剣を下げ、振り返るそこには眩い光を放つ黒髪の少女が立っていた。


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