狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第32巻 動き出した影

 ~数時間前 冥界 中央研究領~

 

 この冥界の中央研究領は四大魔王達公認の研究施設だ。

 

 四大魔王が支配するそれぞれの領の近くに在る。此処では様々な物が魔王のアジュカ・ベルゼブブを中心に研究が行われている。つい最近ある日本のある場所で確保された物を研究していた。

 

 昔より入った者は決して帰ってこないよ言われる【かえらずの森】で回収された禍々しい邪気を放つ樹。回収時に大きな犠牲を出していたが……その樹は特別な物だからこそ回収された。

 

 

「成程………これが【時代樹】。時を越える力………もう直ぐ我等の手に」

 

 

「しかし何でしょうか、この時代樹の中にある大きな力は?」

 

 

「ウム……それが分からん。その何かを封印しているのは恐らくあの大きな()だろう」

 

 時代樹……時を越えて存在する樹であり、各時代に通じる力を持ち、普通の生命とは異なる時間を生きている樹だ。龍王神社にある御神木もまた時代樹だ。

 

 そしてこの樹には何か大きな力があり、それを封じる為の巨大な牙が突き刺さっていた。

 

 

「どうにかしてこの封印を解かないとこの時代樹も機能しないだろう」

 

 牙の封印により時代樹の力は全くと言っていいほど、機能していない。だからこそ、牙を破壊する為に研究を行っているのだが………彼等は未だ分かっていない。これがどれほど、危険な物なのかを。

 

 

「それにしても何処のどいつだ、時代樹にこんな物を打ち込んだのは………」

 

 

「どうにかしてこれを破壊できないものか………」

 

 

《ほぉ……こんな所に在ったのか》

 

 

「誰だ!?」

 

 此処に居る研究員の悪魔達以外の声が響く。それと同時に自分達の周囲に大量の蛾が現れる。

 

 

《勝手に我が一族の物を持ち出しおって………まぁいい、貴様等悪魔には礼をいっておくべきか。奴に気付かれる事無く継承の儀が行える》

 

 現れたのは翠色の髪の男だった。男はただ、時代樹を見ており周りの悪魔達の事など全く見ていない。悪魔達は男を捕え様と動こうする。

 

 

「ぐっ……身体が」

 

 

「動かない……意識が遠のいて」

 

 周囲の悪魔達は蛾から放たれた鱗粉を吸い込むと倒れて行った。

 

 

「フハハハハ!やっと……やっとだ!この時が来た!忌まわしきあの一族に復讐する事ができる!!!

 

 闘牙王は死んだが、その息子とその一族が人間の中で生きている。今度は我が一族が全てを奪ってやる!特にあの龍牙王!絶望させてやる!!!」

 

 男の声に共鳴する様に時代樹が禍々しい光を放っている。

 

 

「私が解放された数百年前はこの封印を解く事はできなかったが、成長した私の力なら……はぁぁぁぁぁぁ」

 

 男は腰の剣を引き抜き、剣先を時代樹に突き刺さった牙へと向ける。そして剣の刀身に凄まじい力が収束していく。

 

 

「はぁ!!!」

 

 男が剣を振るうと、紫色の光の衝撃波が牙に向かい放たれた。衝撃波を受けた牙は破壊され、時代樹が変貌を始めた。

 

 樹はやがて、研究所を飲み込むほど巨大化し始めた。そして樹の天辺には紫色の球体の様な物が出現する。

 

 

「これで……これでこの瑪瑙丸が一族の力を継承する事ができる!!!!」

 

 瑪瑙丸と名乗った男は球体の上に降りたち、剣を球体に突き立てると引き裂いていく。するとその球体から凄まじい妖気が放たれ、瑪瑙丸に吸収されていく。やがて瑪瑙丸そのものも球体へと飲み込まれていった。

 

 

《フハハハハハハ!!!これが父の……一族の力か!!!

 

 集うがいい!我に従う者共よ!我に生きとし生ける者達の魂を献上せよ!!》

 

 瑪瑙丸がそう高らかに叫ぶと、時代樹が更に巨大化し、大量の蛾が四方八方に放たれた。

 

 

《まずはこの冥界に住む悪魔共から蹂躙してくれる!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在 駒王学園 旧校舎 会談室~

 

 冥界で起きた出来事を言霊により魔王達に話させた。それを聞いた龍牙王は激昂する。

 

 

「馬鹿がぁぁぁ!飛妖蛾(ひょうが)を封印した時代樹を運び出しただと?!」

 

 

「龍牙王様、飛妖蛾(ひょうが)とは一体なんのです?」

 

 桔梗が龍牙王にそう尋ねた。

 

 

「かつて元が日本に攻め込んできた時に起きた戦争……その戦争で出た死人魂を求めてこの国に来た大妖怪だ。そして我の親父に封印された。恐らく飛妖蛾の肉体は滅びている故に此度動いたのは息子の……名前は忘れた。息子だろう。

 

 鉄砕牙と天生牙が騒いでいたのはこれか。封印が解けたとなると、貴様等の領土は滅茶苦茶になっているだろうな」

 

 龍牙王は魔王達に向かいそう言った。

 

 

「奴は力を次代の子へと継承する事でより強大になっていく。恐らく我が知っているより強くなっているだろう………それに奴が喰らうのは魂だ」

 

 

「たっ魂?」

 

 

「そうだ、生きているのであれば人間だろうと妖怪だろうと、悪魔だろうと喰らい尽くす………今頃は周囲の存在は魂を抜かれて奴の元に集められてるだろうさ」

 

 

「そっそんな……」

 

 

「気を強く持っていれば魂を取られる事はないだろう。上級悪魔ならば抵抗できるだろうが………奴が力を継承すれば保つまい」

 

 龍牙王はそう言うと、席から立ち上がる。

 

 

「どっ何処へ」

 

 

「悪魔が滅びるのは我の知った事ではない………。

 

 今、思い出したがその契約書に付いた匂いは飛妖蛾の息子の物だ。小賢しい、我が悪魔に目を向けていれば封印の方へ気が周らんと考えたか………どうやら悪魔(お前達)は奴に利用された様だな」

 

 

「なっ……ではこれは」

 

 

「利用されていた……と」

 

 あまりの事に困惑している悪魔達。しかし魔王達は直ぐに冷静さを取り戻していた。

 

 

「飛妖蛾は強い、親父が封印するのがやっとだったんだ。恐らく悪魔総出……お前達四大魔王の命と引き換えにならどうにか勝てるかもな。早く戻らねば全滅するぞ」

 

 龍牙王はそれだけ言うと、部屋から出て行こうとする。

 

 

「龍牙王さま」

 

 アーシアが龍牙王に声を掛ける。

 

 

「貴方様のお力でどうにか出来ないのでしょうか?」

 

 

「悪魔を救えと?我からお前を奪った悪魔をか?悪魔が滅びれば、それだけ日本の能力者や妖怪達への被害が減る」

 

 

「ですが、龍牙王さま……貴方様は【調()()()】です。

 

 調停者は世界の均衡を保つのが役目だと、かつて私に教えて下さいました………その均衡を破り、多くの種族を脅かす者を裁くのは貴方様のお役目。

 

 それに貴方様は自らのお役目に私情は一切挟まなかったと眷族様達からお聞きしています………悪魔だからと動かぬと言うのは【裁龍神】としての貴方様の御名に傷をつける事になります」

 

 土地神としても土地の危険になる存在は排除し、危機とならぬ存在は悪魔で在っても監視して見過ごしてきた……何故なら氏子や土地を私情により危険に晒す訳にはいかないからだ。

 

 此度、悪魔が滅びる事になるから見逃したとなると【調停者】の役目に私情を挟んだ事になる。それでは【裁龍神】の名に傷がつくとアーシアは考えた。

 

 

「知らぬ」

 

 

「龍牙王さま……お話から察しますに、飛妖蛾と言う妖怪は龍牙王さまの御父君に怨みを持っている可能性があります。ならば、いずれはこの地に」

 

 

「害があるか………確かに(しかし悪魔がやられてから倒せばいい)」

 

 

「どうか、この地の為にもお願い致します」

 

 アーシアがそう頭を下げる。夜叉と桔梗もこの地の為にと龍牙王に動く様に頼んだ。

 

 

「ご主人様」

 

 今まで黙っていた白音と黒歌も何かを訴えるかの様な視線を向けている。

 

 

「良いのか?悪魔はお前達の……」

 

 

「確かに復讐相手だけど………無慈悲に奪われる辛さは私達がよく知ってる」

 

 

「それに今何もしないと……あの時、ご主人様に助けられた私達を見捨てる様な気がして嫌」

 

 かつて黒歌や白音は、住む場所も家族も無慈悲に悪魔に奪われた。だが龍牙王と出会った事で救われた……だからこそ、この場で悪魔を見捨てるという事は、かつての自分達を見捨てると同義だと考えたらしい。

 

 

「……神無、神楽」

 

 

「私達は………龍王さまに従う」

 

 

「私はこの街の風が好きだ……それを乱す奴は気に喰わないねぇ」

 

 どうやら戦う気満々の様だ。

 

 ―カタッカタッカタッカタッ―

 

 加えて腰の鉄砕牙と天生牙が彼に何かを訴えかける様に震えている。

 

 

「親父め、面倒な役目を残しやがって…………それに愛しき巫女(アーシア)や夜叉達にそう懇願されれば動かぬ訳にはいかんか」

 

 龍牙王がそう呟くと、鉄砕牙と天生牙を手で抑える。そして魔王達の方向を向いた。

 

 

「此度の話し合いは中止だ………飛妖蛾の討伐が最優先だ。急ぎ冥界へ向かう……アーシア、お前達は神社にかえ「帰りません!一緒に行きます!」駄目だ。危険だ」

 

 

「俺達だって子供の頃からは多少強くなってるんだ」

 

 

「露払いぐらいはできます」

 

 一緒に行くと言いだしたアーシアに続き、夜叉と桔梗も行くと言いだした。

 

 

「龍牙王さま……ダメしょうか?」

 

 

「ぐぅ………その様な目で頼まれると断われぬ。はぁ」

 

 上目使いでそう言うアーシア。流石は龍牙王の巫女を称すだけ在って、龍牙王の事を知り尽くしている様だ。

 

 

「危険だと思ったら逃げるのだぞ……またお前を失うと思うと我は恐い」

 

 

「はい……でも龍牙王様が護って下さいますよね?」

 

 

「当たり前だ!……夜叉も桔梗も出来るだけ我の傍を離れるなよ」

 

 

「「おう!(はい)」」

 

 龍牙王はそう言うと、腰の天生牙を引き抜いた。

 

 

「おっ御待ち下さい、我等より早く冥界へ行く手段があるのであれば私達も御連れ下さい!」

 

 

「仲間が危機に晒されているのに何も出来ないのは嫌なのです」

 

 

「貴様等の同胞は自分達で助けるのだな……道は開く故について来るなら勝手にしろ」

 

 自分達が冥界に戻るには色々と手順がいり、それには時間が掛かる。だが裁龍神の龍牙王ならば自分達より早く行けると考えたのだろう。龍牙王は魔王達に対してそう言い放つ。

 

 

「おっと……お前達には足が居るか」

 

 龍牙王がそう言い、指笛を吹くと彼の隣に空間の穴が開き1匹の小動物と人間の成人より大きな動物が現れた。

 

 小さい方は2本の尾がある黄色い猫の様な生き物だ。大きい方は馬の様なそれでいて龍の様な2つ頭の妖怪だ、口には轡をされている。

 

 

「雲母、阿吽、此奴等頼むぞ」

 

 龍牙王がそう言うと、雲母と呼ばれた猫が炎に包まれ、人を乗せれる位の大きさに巨大化する。阿吽は龍牙王の言葉に頷いてる。

 

 黒歌と白音は雲母に乗り、アーシアと夜叉・桔梗は阿吽に乗った。神楽は自分の羽を大きくさせると、神無と共にそれに乗り込んだ。

 

 

「一誠、お前は家に戻れ……また時間g「あっあの!俺も一緒に行ってもいいですか!」お前までか」

 

 

「おっ俺も龍王さまのお役に立ちたいですし……この街に危険が及ぶなら黙っていられません!」

 

 

「はぁ………まぁ、戦場の空気を知るにはいい機会だろう。夜叉達と離れるなよ」

 

 

「はい!」

 

 

「それと……」

 

 龍牙王は天生牙を床に突き刺すと自分の髪を一掴みしてそれを自分の爪で切った。そして息を吹きかけると、6つの組紐に変わり、それを神無と神楽以外のメンバーに渡す。

 

 

「お守りだ………天生牙、頼むぞ」

 

 彼は再び、天生牙を握ると刀身が黒く染まる。

 

 

「【冥道残月破】」

 

 龍牙王が天生牙を振るうと、彼の前に冥道が開く。

 

 

「行くぞ……我の後に続け」

 

 彼はそう言うと、冥道へと飛び込んだ。彼の後に続き、他の全員が飛び込む。

 

 この先に待つのは龍牙王の父・闘牙王でさえも封印する事がやっとで在った大妖怪だ。悪魔達の命運はどうなるのか……彼の龍神にしか分からない。




・中央研究領

 四大魔王の許可を得て創設された研究機関。所長はアジュカ・ベルゼブブ。

 アジュカにより選ばれた想像性豊かな悪魔達により、色々な物が発明されている。悪魔の駒もアジュカによる物だが、開発そのものはこの研究所で行われた。







・飛妖蛾(ひょうが)

 劇場版で出てきた大妖怪。闘牙王により時代樹に封印されたので、肉体は滅んでいるがその力は息子の瑪瑙丸に継承されようとしている。


・瑪瑙丸(めのうまる)

 父・飛妖蛾と共に封印されていた妖怪。既に復活しており、登場時には闘牙王の牙の封印を破壊するくらいまでに成長していた。

 かつて自分の封印が解けたことを悟らせない様に龍牙王を語り、悪魔の契約書にサインし、龍牙王の意識を悪魔へと向けさせた。

 勿論、闘牙王やその一族………特に龍牙王には凄まじい怨みを持っている。

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