~冥界 中央研究領 上空~
【グオオォォォォォォォォ!!!】
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
巨大な狗と巨人の戦い………それを上空から見ていた夜叉達、彼等は思った。
「「「「「怪獣大戦だ」」」」」
何処かの特撮で見た様な戦いが目下で行われている。そしてこの戦いは自分達が入る事などできない、既に次元が違う戦いだ。魔王達でさえもその戦いを見て唖然としていた。
彼等が動く度に大地が揺れ、互いに咆哮する度に大地が裂ける。両者が衝突する度に凄まじい妖気と邪気が周囲の物を吹き飛ばす。
此処に来る前に、龍牙王へ暴言を吐いたリアスとソーナはこの光景を見て、顔を真っ青にさせ震えだした。自分達はなんて相手に喧嘩を吹っかけたのかと。
「なっなぁ、アレが龍王さまの本当の姿なのか?」
「えぇ……何時も人間のお姿も、あの狗の姿も、そして龍の姿もあの方にとっては本当のお姿です」
一誠の言葉にそう答える桔梗。
「人となりては人間に寄り添い、狛犬となりては人間を護る、龍神となりては邪神を討つ……龍牙王様の伝説の1つです。
それよりも、そろそろ避難した方が宜しいかと」
アーシアがそう言うと、全員が首を傾げる。此処はかなり離れているので、大丈夫なのではないのかと。
「それはどういういm……
【我が毒を喰らうがいい!!!】
『我が一族の力くらえぃ!!!』
龍牙王の咢から毒を含んだ妖気の息吹が、飛妖蛾の額の水晶から妖気の奔流が放たれた。2つの巨大な力が衝突すると、凄まじい閃光が起きた。夜叉達はその閃光により、視界が遮られる。
―ワオォォォォォォン!!!―
―うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!―
皆の視界が遮られる中、龍牙王と飛妖蛾の咆哮が聞こえていた。そして段々と視界が回復してくると目の前で起きている出来事に目を疑った。
「なぁ!?」
龍牙王と飛妖蛾を中心に巨大なクレーターが出来ていた。勿論のそこに在った研究施設は影も形もなく消し飛んでいた。当の本人達はその様な事、全く気にせず怪獣大戦争を続けていた。
「けっ研究施設が……」
「消し……飛んじゃった」
「研究成果が……」
「こっこれは……夢だ…………夢だ」
流石の四大魔王達も驚愕している。アジュカは今までの研究が灰となった事で呆然となり、ファルビウムに至っては目の前で起きた事を信じられず現実逃避している。
「おぉ……すっ凄い事になってる」
「はぁ~危なかったぜ……」
「アーシア………結界張ってなかったら危なかった」
夜叉、神楽、神無がそう言い、皆がアーシアの方を見た。アーシアは祈る様に手を組んでおり、良く見れば自分達の周囲に光の膜が張られていた。
「助かりました、アーシア様」
「いえ………ですがそろそろ、本当に避難なさった方が宜しいかと……龍牙王様の眷族である神楽さんや神無、加護を受けている私達は未だしも、悪魔の方々は消し飛んでしまいますよ」
アーシアは悪魔達にそう言った。彼女が悪魔達を見る眼には彼等に対する憎しみなど、一切なかった。
「それに……あの飛妖蛾と言う妖怪の翼……あれから無数の異なる妖気を感じます。恐らく……」
アーシアがそう言うと、飛妖蛾の翼から無数の何かが飛び出した。巨大な龍牙王や飛妖蛾から見れば米粒の様に小さい……しかしアーシアや桔梗、感覚が人よりも鋭い夜叉達にはそれ等が何なのか直ぐに理解できた。
それ等は妖怪だった、それもそれなりに力を持つ妖怪達だ。
「護りは私に任せて下さい」
アーシアが巫女服の袖から勾玉と巫女鈴を取り出した。前世で使っていた者で、これらもまた龍牙王の身体の一部から造り出された神具の1つだ。
「よし………全部俺がぶった斬ってやる!」
夜叉がそう言い彼の両手の嵌められている腕輪が光り出し、彼が守護役を龍牙王から拝命した時に共に受け継いだ
「夜叉、あまり無茶をするな……お前は熱くなり過ぎると周りが見えなくなるからな」
桔梗は夜叉にそう注意を促すと、自身もまた腕輪を破砕弓へと変化させた。
「援護は任せるぞ桔梗!おりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
夜叉は阿吽から飛び降りると、護龍牙と闘滅牙を使い向かってくる妖怪達を斬り伏していく。
「でぇぇぇぇぇぇぇい!!」
妖怪を斬り、妖怪を踏み場にして次の敵へと向かって行く。そんな夜叉へ近付こうとする妖怪の群れ。
「夜叉はやらせぬ」
何も番えず破砕弓の弦を引くと、桔梗の霊力が光の矢になる。桔梗の破魔の力が込められた光の矢が放たれる、そして矢は分裂し、夜叉に襲い掛かる妖怪達を貫いた。回避された矢もあったが、矢は意志のある様に妖怪を追従し、最後には敵を貫いた。
「助かったぜ桔梗……おわっと!?」
夜叉が桔梗に向かいそう言うが、隙を突かれて攻撃される。しかし持ち前の反射神経で直ぐに回避するが、体勢を崩し落ちそうになる。
「全く……世話が焼けるねぇ」
神楽が扇子を振るうと、風が起こり夜叉を包むと桔梗の乗った阿吽の元へと運んだ。
「夜叉……油断大敵」
神無はそう言いながら、自身の鏡から放つ光で妖怪達を退けていく。
「すっすまん」
「夜叉さん、大丈夫ですか?」
「あっ……あぁ」
「おっ御怪我を……ジッとしていて下さい」
夜叉は頬にかすり傷をあり、それを見たアーシアはその傷に手を翳す。すると彼女の手に翠色の光を放つ指輪が出現した。これはアーシアに宿った癒しの
「これで大丈夫です」
「わりぃ助かった」
「夜叉、あまり心配をかけてくれるな」
「あっ……あぁ」
「ふっ……まぁお前らしいと言えばお前らしいがな……阿吽、頼むぞ」
桔梗はそう言うと、阿吽の轡を外す。拘束から解放された阿吽は咆哮すると、その咢から雷を放ち妖怪達を撃退していく。
「私達も行くわよ!雲母、お願いにゃ!」
「姉様、羽目を外し過ぎないで下さい」
「分かっているにゃ……お姉ちゃんもそこまで馬鹿じゃないわ」
「そう言って、以前は大変な事になったのを忘れたとは言わせません」
「ぐっ!白音、最近お姉ちゃんにキツくない?」
「気の所為です……来ましたよ」
白音はグローブを嵌め、黒歌も気を取り直すと自分の妖力と仙術で練り上げた青い炎を自分達の周囲に展開した。
「じゃあ、お姉ちゃんが援護するからねぇ~」
「分かりました……よっ……行ってきます」
白音はそう言うと、雲母から飛び降りた。重力により白音は落下していく。
「てぃ………やぁ」
白音は落下し、近くに居た妖怪を殴り飛ばす。次に迫って来た妖怪の攻撃を避け、蹴り飛ばすとその勢いで次の標的へと向かい飛ぶ。
《このクソガキ!!!》
「私の妹に近付かないでよ!!!」
黒歌が周囲に待機させている炎を白音に近付くこうとしている妖怪に向かい放つ。放たれた炎は途中で槍の様な形状へと変化し、妖怪に突き刺さる。そして内側からその妖怪を焼き尽くした。
雲母はタイミングを見計らって降下し、白音を回収する。
「白音、怪我はない~?どれどれ、お姉ちゃんが確認してあ・げ・るぅ~」
「フン!」
「ぐほっ?!」
雲母に跨る白音を後ろから抱き付こうとする黒歌。しかし白音は黒歌の鳩尾を肘で突く。そうして、姉妹は次の標的へと向かって行く。
「すっすげぇ…………」
皆の戦いを見ていた一誠はそう声を上げる。現在、彼は神楽の羽の上に乗っている。
「まぁ……アイツ等は小さい頃から戦っているし……おっと【風刃の舞】」
神楽は近付いてきた敵に気付くと、真空の刃を放ち妖怪達を切り刻む。
「夜叉……桔梗………守護者として戦ってきた」
「俺は………」
「無理すんじゃないよ。アンタは生まれながらにドラゴンを宿しているとしても、アイツ等とは歩んできた道が違うんだ」
「無理は厳禁………此処は戦場………素人だと死ぬ」
それもその筈だ、此処は本当の戦場………それも人外達の本当の殺し合いの場だ。
「夜叉達も……初めからあぁじゃなかった」
「確かにねぇ………」
―グオォォォォォォ!!!―
―うおぉぉぉぉぉぉ!!!―
「……本気でそろそろ逃げた方が良さそうだね」
「うん………皆を連れて逃げる」
神楽と神無は真下で起きている怪獣大戦争を見て、逃げる事を決意するのであった。