【ガアァァァァァァァァ!!!】
狗となった龍牙王は飛妖蛾の身体に飛び付くと、彼の腕に牙を身体に突き立てる。
《ぐっ!……このぉぉぉぉ!》
飛妖蛾は自分に噛み付いている龍牙王を無理矢理引き剥がす。その所為で腕の肉が引き千切られるが、それを気にすることなく、飛妖蛾は龍牙王を地面に叩き付ける。更に龍牙王の腹に蹴りを入れる。
【グッ!?】
龍牙王はその場から飛び上がり、距離を取った。
【グルルルルルル】
《むぅぅぅ》
互いに一歩も動く事なく、睨み合っている。その身から妖気が溢れ、両者の妖気がぶつかり衝撃波が放たれる。
《………貴様等の一族は何故人間などを護る?》
【なに?】
《貴様の親父にしろ、貴様にしろ、何故人間を護る為に命を掛ける?風の噂では貴様の親父は人間の女を護る為に死んだそうではないか》
【親父……】
かつて自分が憧れた父親・闘牙王の背中を思い出した。竜骨精との戦いの直後の満身創痍の状態で、十六夜と産まれたばかりの犬夜叉を助けに向かった。愛する者を護る為に命を賭して戦い死んだ父親………例え自分が同じ様な立場になったとしても後悔はないだろう。
《何故、あの様な下等な生き物を護る?》
【確かに……愚かで、少しの傷が原因で死ぬ様な儚い生き物だ。だが………人間はそれだけじゃない、優しさや慈しみ……自分以外の他を思いやる心がある。それは美しく強い】
《下らん……その様な物が何になると言うのだ》
【分からんか………分からぬならそれでもいい。それが貴様の限界だ!】
龍牙王が光に包まれると、彼はそのまま天へと翔け昇り、その姿を再び変化させていく。
薄暗かった空が七色の光に染まり、巨大な白銀が空一面を覆っている。普通の人間や妖怪に比べれば狗状態の龍牙王も、飛妖蛾も巨大だった………しかし龍となった龍牙王はそれを越えていた。巨大過ぎて、全貌を把握しきれない。
《なっ……なんだ!その姿は!?その力は!?》
飛妖蛾は強い……強いからこそ分かる。眼前の巨龍は、その姿通り巨大な力を持ち、自分とは次元の違う存在だと。
龍牙王が咢を大きく開くと、そこに膨大な力が収束していく。
【グオォォォォォォォォ………ガアァァァァァ!!!】
太古より竜が放つ滅びの息吹……龍牙王のそれは唯の息吹ではない。
龍牙王自身の力に、これまで人々が自分に向けた信仰心が力へと変換され、上乗せされている。
七色の息吹が龍牙王の咢より放たれる。
『ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
七色の息吹が飛妖蛾を包み込む。飛妖蛾は何とか抵抗しようと自身の妖気を全開にしているが、龍牙王の力はそれを遥かに超えている為に、直ぐにそれを打ち破られ、飛妖蛾の身を破壊していく。
【これが貴様が馬鹿にする人間の想いだぁぁぁ!!!】
『こっ……これが………人間の想い』
龍牙王の力に乗せられた、人々の想い・願い………それが飛妖蛾の身を滅ぼし、彼の中に流れ込んでいく。
この数千年、龍牙王へ捧げられた人々の純粋な信仰心、現代になっても変わらぬ想い。感謝と畏敬の念……そして自分を、妻を、子供を、恋人を、友人を、隣人を護って欲しいと言う願いから来ている。自分達は弱く儚い存在と理解しているからこそ、人々は神に祈る。
『くだらない………この様な物の為に戦うとは………だが……暖かい……この温もり……何処かで』
飛妖蛾……瑪瑙丸はこの暖かな温もりに覚えがあった。
『ぁあ……そうか………これは私が未だ幼児の時に受けた……母上と同じ………ぬ…くも……り』
遠い記憶だが、確かに覚えがあった。それは母親から受けた愛と温もり………親が子を想い愛する気持ちに人間も妖怪も、動物も違いはない………龍牙王の力に上乗せされた人々の想い・が瑪瑙丸にかつての母の温もりを思い出させた。最後には安らかな顔で、消滅した。
【グオオォォォォォォォォォ!!!】
龍牙王は勝利の雄叫びを上げ、人の姿へと戻る。
飛妖蛾の周囲に居た妖怪達は龍牙王の息吹により消し飛ばされた。その代わりに飛妖蛾が喰らった魂達が周囲を飛んでいる。
「すぅ……ふぅ………親父、飛妖蛾一族との因縁終わらせたぞ。全く、面倒な事ばかり残しやがって……はぁ~疲れた……帰ろう」
『龍牙王さま~』
龍牙王が空を見上げるとアーシアや夜叉達が此方に向かってくるのが見えた。
闘牙王一族と飛妖蛾一族との決着は数百年の時を経て終わりを告げた。