龍王の正月
今年は戌年………戌……つまりは狗である。
「狗と言えばこの我だろう!」
そう言いながら、自分の神社の鳥居の上で叫ぶ龍牙王。
「今年は2018年、あけましておめでとう、諸君!」
そう言いながら、自分の社の方を見る。神社にはかなりの数の参拝客が並んでいた。
勿論、龍牙王は人から見れないのだが、気分だろう。
「はて、さて。忙しい、忙しい」
鳥居から降りると、社の方へと歩いて行った。
「流石に正月は遊んでいる場合じゃないな」
社の中では夜叉と桔梗、アーシアが正装して忙しそうに働いていた。老巫女である陽菜や、夜叉の母である奏達も忙しそうである。
龍牙王も定位置である神殿の最奥・祭壇の前に鎮座した。
神である龍牙王の仕事は参拝しに来た氏子達の声を聴く事。
―明けましておめでとうございます、今年も何卒、宜しくお願いします―
「ウム………おめでとう。今年も宜しく」
―龍王様、お蔭様で無事に曾孫が産まれました。ありがとうございます―
「ほぉ、年末に産まれたのかおめでとう」
―明けましておめでとうございます。どうか、今年は彼女が出来ますように―
「これは松田か、正月なんだからちゃんと挨拶くらいして欲しいな」
―明けましておめでとうございます。今年は生乳を見れますように―
「元浜……そんなんだから女子に嫌われてるんだ」
―明けましておめでとうございます。今年はおっp………いや、龍王様に対して失礼か。胸に……じゃくなくて、今年も家族が元気で過ごせますように―
「一誠………最終的に修正したから許してやるが………我が地の氏子達は何故に、此処まで欲望に忠実なんだろう?」
―明けましておめでとうございます。今年も妹と弟が元気で過ごせますように―
「これは匙 元士郎か。ウム、妹、弟思いの良い兄になったな」
と、氏子達の声を聴き1人1人に加護を与えていく事だった。
「龍王様~、兄ちゃん達が休憩に入るって言ってました」
そう言うのは小学生くらいの1人の少年だった。
「あぁ、颯太か。お前も少し休みなさい」
彼の名は天龍 颯太。夜叉の弟であり、龍牙王が見える1人だ。
「はぁ~い」
「あぁ、神無。龍神神社にいる神楽に楓をこっちに連れて来る様に言ってくれ。何人か、手伝いに向かわせるから、アイツも休憩させないと」
「うん」
と指示を出していく龍牙王。
それから少し時間が経ち、落ち着いた。
龍牙王は神社の人間達を神殿へと集めた。
「ぇ~と、皆、この数日間、お疲れ様。皆のお蔭で、一先ずは年始を始める事が出来た。じゃあ、今日は存分に食べて、飲んでくれ!じゃあ乾杯!」
龍牙王がそういい、合図すると皆もそれに合わせて乾杯した。
これが龍王神社、龍神神社の正月恒例の正月で忙しい人達を労って龍牙王のポケット・マネーで行う宴会である。
「そうそう、夜叉、桔梗、颯太、楓はこっちに来なさい」
言われた者達は龍牙王の前に並ぶ。
「毎年恒例のお年玉だ。まずは夜叉と桔梗。じゃあ今年も頑張ってくれ」
「ありがとう……と言うか、毎年思うけど多すぎないか?」
「ありがとうございます」
龍牙王が夜叉と桔梗に渡したお年玉。でも神様から渡す物なので普通とは桁が違う様だ、結構分厚い。
「そうは言うが、お前等は殆ど小遣いない訳だからな。お年玉くらいは多少多くてもいいだろう」
「どう見ても100以上はありそうなんだが……」
「そう言うな、夜叉。これも龍牙王様も我等の事を考えてくれているんだから」
「うん………まぁそうか」
「はい、次、颯太と楓」
「「はい」」
「はい、お年玉……今年も勉強頑張る様に」
「「はい!ありがとうございます!」」
そう言って、10万くらい入っているお年玉袋を渡した。
「そんでアーシア」
「わっ私もですか?」
「アーシアにはお年玉として我との熱いy「龍牙王様、
桔梗に冷たい目で見られた事で直ぐに止めた。
「コホン……気を取り直して。はい、お年玉」
「ありがとうございます……所でお年玉ってなんですか?」
そう言って首を傾げるアーシア。
「アーシア、可愛い……お年玉って言うのは………」
「成程、そう言う事だったんですね」
「アーシアには別に我との素晴らしいよr……コホン、思い出を」
『『あけましておめでとう!龍牙王(ダーリン)!!!』』
「ぐほっ!?」
突如、龍牙王の真上に穴が開き、飛び込んできたのは天照と月読だった。落ちてきた2神は、そのまま龍牙王に抱き付いた。
「もがっもがっ」
「明けましておめでとうございます、天照様、月読様」
「久しぶりだな、夜叉に桔梗、それに今日は颯太と楓まで居るじゃないか。明けましておめでとう」
「おめでとう、はい、皆、お年玉ね」
そう言って、夜叉達にお年玉を渡す太陽神と月神。
「それで何しに来たんだ?と言うか、仕事は?」
「分霊に任せて来た」
「それで、此処に来たのはパパとママが偶にはダーリンを連れて来いって言うから……まっでもこっちが忙しいのは分かってたから断ったけど」
「つまり、サボりか」
「「♪~♪~」」
そう指摘され視線を外し、口笛を吹いている日本のトップ2人。
「それでいいのか?」
「さっサボりじゃない……これも仕事の一環だし」
「そっそうそう、日本に属する神々の仕事ぶりの確認だし」
「全く………」
「おっ、これ龍牙王の手作りじゃねぇか」
「頂きます」
―今年も騒がしくなりそうだ―
龍牙王はそう呟き、楽しむ皆を見ながら願う。
―どうか………一刻でも長くこの楽しい時間が続きますように―
そう静かに願うので在った。