狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第37巻 龍王と巫女

 ~龍王神社~

 

 飛妖蛾……瑪瑙丸を倒し数日が経った。飛妖蛾が復活した事で、5月にも関わらず雪が降ったりなどしたが、現在は元通りとなっている。

 

 

「ふぅ………食った、食った」

 

 食後そう言いながら、アーシアに膝枕されている龍王神社の主神・龍王さまこと龍牙王。

 

 

「さて………我は食後の眠りを」

 

 食事が終わった事で、昼寝をしようとしていた龍神様。

 

 

「ふぁ~」

 

 本日は晴天………暑過ぎず、寒くもなく、ポカポカとした1日だ。昼寝をするには持って来いの日である、まぁ神で妖怪の龍牙王に気温などは関係ないのだが……。

 

 

「あの龍牙王様……」

 

 

「どうかしたかアーシア?」

 

 自分が膝枕している主神に声を掛けるアーシア。彼女は顔を真っ赤にしている。

 

 

「膝枕と言うのは普通、頭は上向きなのではないでしょうか?」

 

 普通の膝枕とはよく恋人や夫婦がしている膝に頭を乗せ、顔は上か横を向いている。だがアーシアがしている膝枕は少し違っていた。

 

 龍牙王はアーシアの膝に顔を埋めているのだ。つまり顔は下向きなのである。

 

 

「すぅ………ぁ~良い匂い、落ち着く~」

 

 

「あぅ……恥ずかしいのですが」

 

 

「此処に居るのは我等だけなんだ、問題なかろう。ふぅ」

 

 現在、この神殿にいるのは龍牙王とアーシアのみ。神殿の最奥の為、例え参拝客が来ようと外から見える事はないのだが、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。

 

 膝枕をして貰っている龍神様の3本の尾が忙しなく動いている。その様はまるで犬の様である。まぁ、実際に狗妖怪なので違いはないが。

 

 

「さて……何用だ、お前達」

 

 龍牙王がそう言うと、陽牙達が現れた。

 

 

「我等が主よ、1つお尋ねしたいことがあります」

 

 

「何だ……我は先の戦いでの疲れが残っている」

 

 

「申し訳ありません」

 

 

「ですが、どうしてもお聞きしたい事が」

 

 

「分かった……それでなんだ?」

 

 

「先の戦いの後での事です」

 

 龍牙王はそれを聞くと体を起こす。

 

 

「何故……何故に悪魔を救ったのですか!?」

 

 普段冷静な眷族達が激昂した。

 

 

「みっ皆さん、それは」

 

 アーシアが冥界での事を言おうとするが、龍牙王に止められた。

 

 

「そのことか………」

 

 

「主は悪魔を恨んでいたのではないのですか?!」

 

 

「アイリ様が……アーシア様が帰ってきたからとまさか許されると言われるのですか?!」

 

 それを陽牙達は、まだアーシアがアイリの時よりこの地にいる古き眷族達。悪魔のしてきた事を目の当たりにし、立ち向かって来た者達だ。

 

 龍牙王がどれ程、この地を想い、アイリを愛していたかを知っている。故にどれ程、悪魔を憎んでいたかも……だと言うのに彼は悪魔を天生牙で救った。

 

 

「許す………我が悪魔を?そんな訳がなかろうが!!!」

 

 龍牙王が激昂すると同時に神気と妖気の暴風が吹き荒れた。

 

 

「我はあの時の事は昨日の様に覚えている。巫女が深紅に染まった姿も!巫女が崩れ往く感触もだ!」

 

 

「では何故!?」

 

 龍牙王は息を整えると、近くに置いていた水を飲む。

 

 

「さて………悪魔を助けた理由だったか、我とて本意ではなかったのは言うまでもない。お前達も良く分かっていると思うが………それは心に留めておいてくれ」

 

 龍牙王がそう言うと、陽牙達は頷いた。

 

 

「まずは、アーシアの言った『多くの悪魔が死ねば、それだけ悪魔の駒(イーヴァル・ピース)で転生悪魔を増やす可能性がある』という言葉だ。

 

 アーシアの言葉には一理ある、我が護るこの地の者達に手を出すのは考えにくいが………それ以外の土地に被害が出る。そうなれば、犠牲者が増えるのは言うまでもないだろう。

 

 人間だけでも能力者、神器使いがいる。加えて黒歌や白音達の様な妖怪達もいる。特に特異な力を持つ存在は狙われ易い………最近では此方の世界で活動している蓬莱郷の半妖達も狙われている様だ」

 

 

「なっ!?」

 

 

「なんと!」

 

 

「ならば何故!?」

 

 龍牙王の創った妖怪や人間達が共存する楽園……そこ出身の半妖たちも狙われたと言う。だと言うのに何故彼は悪魔を打倒しようとしないのだろう?

 

 

「此処までなら我は悪魔を助けるなどしなかった………だが気になる情報が出て来てな」

 

 

「気になる情報……ですか」

 

 アーシアが龍牙王の言葉に首を傾げる。

 

 

「【禍の団(カオス・ブリゲード)】と言う組織だ……そこに様々な存在が居ると聞く、英雄の魂を継ぐ者、魔王を名乗る者………そしてその頂点に立つのが……あのオーフィスだと言う」

 

 

「「「「なぁ?!」」」」

 

 最後の名前を聞いた瞬間、陽牙達の表情が一変する。

 

 

「アイツが権力などに興味がない筈なんだが…………最近は顔を見せぬと思ったらそんな所に居たとはな。奴が関わっているとなると、我も慎重に動かねばならん。

 

 それに情報では禍の団(カオス・ブリゲード)側の魔王は、現魔王達を快く思っていない連中だと聞く」

 

 

「では此度、悪魔を助けたのは」

 

 

「現魔王達を餌にする為に貸を作ったと思えば安いものだ………まぁ腹は立つが。それでこれから先、動きやすくなるのなら構わん」

 

 それを聞くと、陽牙達は納得した様な表情をする。

 

 

「しかし、その彼の龍神がトップに立っているとは言えそこまで危険な存在なのですか?」

 

 

禍の団(カオス・ブリゲード)だけなら問題ないんだが………これを機に動き出そうとしている輩も多いみたいでな」

 

 

「動き出そうとしている者ですか?」

 

 

「詳しくは未だ調査中なんだがな…………禍の団(カオス・ブリケード)は世界規模で何かをしようとしている。これはもうこの土地だけの問題ではない」

 

 

「世界そのものの問題……」

 

 

「それに赤龍帝(一誠)が居るとなると、その内白龍皇(アルビオン)も引かれるだろう。

 

 まぁ……どんな奴に転生したかは知らんし、我が土地で暴れる事は許さんがな。

 

 取り敢えず、お前等は土地の護りを固めよ。我は、天照や神々、他の守護妖達に連絡をする。万が一に備えて八守にもな」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

「八守?」

 

 八守と言う単語を聞いた瞬間、陽牙達は目を見開いた。アーシアは分からない様で、首を傾げている。

 

 

「お前は知らないのも当然だ。約千年前に創設した、日本の各拠点を護る妖怪達の事だ。実力は神や魔王に匹敵する」

 

 

「そんな凄い方々がいらっしゃるのですね」

 

 

「しかし八守までも動かすとは……」

 

 

「あくまで万が一の為だ………何か異常があればお前達にすぐ知らせるとしよう。それで他に聞きたい事は?」

 

 

「「「「いぇ………申し訳ございません」」」」

 

 龍牙王がそう言うと、陽牙達は頭を下げる。

 

 

「何故謝る?」

 

 

「我等は……主が悪魔を助けたと聞いた時、疑ってしまいました」

 

 

「別に構わん………客観的に見れば、アーシアに惚けて助けたと思われても仕方ないからのぅ」

 

 

「「「「っ!」」」」

 

 

「我はアイリの生まれ変わりであるアーシアの言葉と言えど、この土地の不利益になる様な事はせんよ」

 

 龍牙王はアーシアを愛おしく思っているものの、万が一にも土地や氏子達の不利益になる様な事であれば、彼女の言葉であろうと聞きはしない。

 

 

「それにしても悲しいな………女で腑抜けたと思われるのは」

 

 

「「「「ぐっ!?」」」」

 

 

「女に惚けて仕事を粗末にする程、阿呆ではないつもりだ」

 

 そう言う龍牙王なのだが、陽牙達は何やら微妙な表情になる。

 

 

「いや……それは……」

 

 

「女性関係に関しましては」

 

 

「その……言い難い事ではありますが」

 

 

「全くと言って信用なりません」

 

 陽牙達はそう言った。どうやら女関係に関しては完全に信用していないらしい。

 

 

「えっ?」

 

 龍牙王はそれを聞いて、間の抜けた声を出す。

 

 

「太陽神、月の神から始まり」

 

 ―ドスッ―

 

 

「月の姫、外宇宙の神姫、夢幻に、無限に」

 

 ―ドスッ―

 

 

「他にも色々とございます」

 

 ―ドスッ―

 

 

「特に好いた女性が危険な目に合うのが分かると、後先考えず突っ込むのが御身ですし」

 

 ―ドスッ、ドスッ、ドスッ―

 

 龍牙王に言葉の刃が突き刺さる。

 

 

「龍牙王様……」

 

 

「いや、その違うのだ。我はその」

 

 

「いぇ、分かってますから。龍牙王様が多くの女性を囲っているのは昔から……です……し……あっ、ごはんのお買いものしてきますね」

 

 アーシアは涙目になると、そう言い残しこの場を後にした。

 

 

「………」

 

 

「「えっと……」」

 

 陽牙と光牙は落ち込む主を見て何も言えなかった。

 

 

「此度に関しましては自業自得かと」

 

 

「陰牙の言う通りかと」

 

 

「ぅう…………」

 

 落ち込む龍牙王なのだが……自業自得の為、何も言えない龍神。

 

 

「それはそうと………我が主よ、アーシア様についてなのですが」

 

 

「ん?」

 

 

「前世からそうでございましたが、あの優しさは危ういかと」

 

 陽牙がそう指摘する。

 

 

「あぁ………かと言ってあの優しさは、アレの魂の形と言ってもいい物だ。止めよと言っても止めぬだろうし、あの優しさがなければアレらしくない。

 

 度が過ぎれば我から言うし、我としては昔と変わってなくて嬉しい限りだ」

 

 龍牙王はそう言うと、神無と神楽を呼ぶ。

 

 

「呼んだ?」

 

 

「あぁ、我は今暫く社に留まる。お前達は先に家に戻っていろ……黒歌と白音にもそう伝えておいてくれ」

 

 

「うん……分かった」

 

 

「私はともかく、神無は居なくて大丈夫なのかい?」

 

 

「今の所、結界に反応はない。それに悪魔共が学園で手を出さないとも限らないからな、お前達にはアイツ等の見ていて貰いたい」

 

 龍牙王の言葉に2人は頷くと、神社を出て行った。

 

 

「さて………我はアーシアを追い掛けるとするか。お前達は自分の仕事に戻れ」

 

 彼はそう言うと、大きな狗へと変化して神社の階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~駒王街 商店街~

 

 商店街で今日の夕食の買い物をしていたアーシア(巫女服)。

 

 

「はぁ………分かっていた事ですが」

 

 

『それに関してはすまん………優柔不断なのは分かっているが、我は誰か1人に決める事はできん』

 

 

「ひゃ?!どっ」

 

 自分の横にいる狗の姿の龍牙王(大型犬サイズ)。アーシアはそれを見て、言葉を発しそうになる。

 

 

『たわけ、(この姿)だから念話で話しているんだ』

 

 

『そっそうでした………どうして此方に?』

 

 アーシアは直ぐに念話に切り替える。

 

 

『いや………謝りたくてな』

 

 

『いぇ……その事は昔からですし』

 

 

「『すまん……』クゥン」

 

 落ち込む様に頭を下げる龍牙王(狗)。

 

 

『それよりも、晩御飯は何がいいですか?』

 

 アーシアは直ぐに話を切り替えて、晩御飯の話をし始めた。

 

 

『お前は相変わらずだな………フフフ、そうだな。カレー』

 

 

『カレーですか……狗なのに、大丈夫なんですか?』

 

 

『半分は龍だ、問題ない』

 

 

『では、今日はカレーにしましょうか』

 

 

『ウム………』

 

 念話でそう話していると、商店街の者達が声を掛けてきた。

 

 

「おっ、新しい巫女さんじゃねぇか。今日は肉が安いよ……ん?」

 

 肉屋の店主が声を掛けてきた。そして横にいる龍牙王(狗)を見た。

 

 

「ワン」

 

 

「おっ、神社のワン公じゃねぇか。元気か?」

 

 肉屋の店主は店から出てくると、狗の龍牙王を撫でる。

 

 

「ワン」

 

 

「店主さんは、りゅ……このワンちゃんの事を知ってるんですか?」

 

 

「おうさ、このワン公は龍王さまの遣いって言われててな。このワン公を撫でると病気が治ったり、子供の頭がよくなったりって言われてるんだ。案外、本当に神様の遣いだったりして」

 

 

「あっ……ハハハ」

 

 

「ワン」←本人です。

 

 

「おっそうだ、待ってろよ」

 

 と店へ入って行き、大きな骨を持ってきた。

 

 

「ほらっ、肉を切った時に出た骨だ」

 

 

「ワン(サンキュー)!」

 

 店主から貰った骨を齧る龍牙王(狗)。本当に神様なんだろうか?

 

 そんなこんなで、買い物をしていく1人と1匹。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社~

 

 

「すげぇ、荷物」

 

 

「今日も一杯ですね」

 

 学園より帰って来た夜叉と桔梗が見たのは、凄い量の荷物を持った狗姿の龍牙王。

 

 

「買い物に行ったら皆さんが下さったんです」

 

 どうやら、アーシアと龍牙王(狗)は商店街の者達から色々と貰って帰ってきたらしい。

 

 

「当分の間、お買い物行かなくてよさそうですね」

 

 

「あぁ」


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