狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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第2章 不死鳥乱入す
第38巻 人とそうでない者


 ~駒王学園 旧校舎 オカ研部室~

 

「はぁ………」

 

 

「大丈夫ですか、リアス?」

 

 

「えぇ……それにしても頭が痛いわね。私の領地があの裁龍神の地で、この地での活動を見逃されていたなんて」

 

 

「しかもこの土地の神は悪魔嫌いと来ましたものね」

 

 

「加えてあの力………ッ」

 

 リアスは龍牙王と瑪瑙丸が戦っていた時の事を思い出し、身を震わせる。

 

 ―彼の龍神は時に人となりて、共に在る。

 

 時に狗となりて、人を護る為にその牙と爪を持って魔を討ち滅ぼす。

 

 時に本来の姿へと戻り、天を翔け、その神通力にて邪神を討ち、地上に光を齎すー

 

 飛妖蛾との戦いを見たリアス達は何も出来なかった。手を出さなかった訳じゃない……次元が違い過ぎて全く手を出せなかった。震える事しかできなかった。

 

 彼女達は悪魔とは言え本物の戦争などした事はない。敵を滅ぼすと言っても格下のはぐれ悪魔を討滅する程度の事だ。だが先の戦いは妖怪と妖怪の本気の殺し合いだ。自分達よりも高次元の存在の殺気と妖力のぶつかり合いだ、恐怖するのも無理はない。

 

 

「それにあの子達………」

 

 リアスの脳裏に浮かぶ、龍牙王に従う人間と妖怪達。彼等はリアスが知る人間や妖怪達と違い強かった。だからこそ、彼等を自分達の眷族にしたいと考えた。

 

 

「リアス、あまり変な事は考えない方がいいですわ。悪魔全体の問題になりますわよ」

 

 

「えぇ………でも彼の龍神の身内が眷族になってくれればと思ってしまうわ」

 

 

「多分、無理ね。彼ら自身も悪魔を良く思ってなかったみたいですし」

 

 

「はぁ……上手くいかないものね」

 

 若い彼女達は知らない、龍やドラゴンと言う幻想種の頂点に立つ存在の逆鱗に触れるとどうなるのかと言う事を。

 

 

 

 ~翌日 龍王神社~

 

「……眠い」

 

 本日は晴天、ポカポカした陽気の中、食事を終えたこの神社の主・龍牙王。彼は現在、眠気に襲われていた。

 

 現在、龍王神社には彼しかいない。夜叉と桔梗、颯太、楓、黒歌と白音、神無は学園。悪魔と色々とあったが、夜叉と桔梗の本業は学業なのでそちらを優先させた。黒歌達は護衛である。

 

 アーシア、陽菜、奏は買い物。奏の夫である玲雄は仕事。眷族達は見回り。必然的に留守番は神である彼だけになった。

 

 

「暇だ……仕事は一通り終わった。する事がない、こんな時に限って叢雲牙と鞘は出掛けてるし、マジでする事がない。寝るか」

 

 龍牙王はそう言うと、社の奥から出て鳥居の近くまで来るとその姿を狗へと変える。そして近くにある大きな石に乗ると身体を丸めて寝転んだ。

 

 

(こう言う暖かい日は外で寝るのに限る)

 

 そんな事を考えながら睡魔に身を任せて眠りについた。

 

 

 

 ―たったったっ―

 階段を上がってくる足音があった。

 

「ん?この足音は……陽牙達と……誰だ?」

 

 

「はぁはぁ……」

 

 

「着いたぞ……って大丈夫か?」

 

 

「まぁ、人間の身にはこの階段は少しキツイか」

 

 石段を昇って来たのは陽牙と陰牙、それと1組の男女だった。龍牙王は鼻を鳴らし、匂いを嗅ぐ。

 

 

(女の方は人間、しかしこの土地の者ではない。男の方は……)

 

 

「此方に居られましたか」

 

 陽牙と陰牙は龍牙王の姿を見ると、その前に跪いた。

 

 

「犬?」

 

 陽牙達が連れて来た男性の方が息を整えながら、龍牙王を見てそう呟いた。

 

 

「訳ありか」

 

 

「犬が喋った?!」

 

 

「喋るし化けるぞ」

 

 龍牙王はそう言うと、石の上から飛び降りて青年の姿に戻った。人間の前だと言うのに、何故この姿を取ったのだろう?

 

 

「よく来たな、人の子……そして鬼か」

 

 そう言うと、男の頭に2本の角が生える。

 

 

「何者だ……」

 

 

「何者だって……我を訪ねて来たのではないのか?」

 

 龍牙王がそう言うと、男は彼の正体に気付いた様だ。直ぐにその場で頭を下げた。

 

 

「フム……一先ず、中に入るといい」

 

 

 

 

 龍牙王は陽牙と陰牙、そして彼等が連れて来た男女を伴って神社の中に入る。

 

 

「では自己紹介をしよう、我は龍牙王……この地では龍王と呼ばれている土地の神だ」

 

 

「龍牙王?!あっあの伝説の龍神様!?」

 

 龍牙王の名を聞き、驚いている男女。

 

 

「それで、汝等の名は?」

 

 

「おっ俺……いや僕は大木 剛です。こっちは妻……になる予定の巴菜です」

 

 男の方がそう言うと、女の方が頭を下げる。

 

 

「フム……お前、喋れないのか?」

 

 龍牙王がそう言うと、驚いた表情になる凛。そして彼女は頷いた。

 

 

「えっと此奴は……」

 

 

「良い目をしている。成程……幼い頃から()()()視て来たが故に心が病んでしまったと言う所か」

 

 

「どっどうしてそれを」

 

 

「我の様に長く人を見ていると、そう言う事が分かる様になる………では話して貰おう」

 

 

 

 

 ―大木 剛(おおき つよし)、300歳……普通の日本人の名前だが、これはあくまで仮の名だ。人間ではなく【鬼】だ。彼の様に人間の中に混じっている人外は多い、神でさえも混じっている事もあるくらいだ、鬼が居ようと不思議ではない。

 

 女の方は三波 巴菜(みなみ はな)、21歳………何処にでもいる人間なのだが、彼女は俗に言う()()()()()だ。彼女はかなり視る力が強い、巫女や神官などをしていても可笑しくレベルだ。

 

 子供の頃にはそう言う物が視える事が多いが、次第に視えなくなるのが普通だ。だが彼女の様に視る力が強いと大人になってからも視る事になる。そして自分にだけ他の者と違う物が視えると言う事は、異質として扱われるという事だ。理解者が居ればいいが、居ないと辛いものだ……どうやら彼女は理解者がいなかった様だ。

 

 詳しい事は省くがこの2人、偶然出会い、恋に落ちたらしい。彼女は彼の正体を知っても共にいると言ったらしい。とはいえ、鬼と人間だ。色々と問題だろう。

 

 偶々この2人がいた街の神社の主神が月読だったらしく、我の所に来る様に勧めたらしい―

 

 

「成程……全く、連絡くらい入れろと言うのに」

 

 

「えっと……その」

 

 

「此方の話だ、気にするな………フム、ではお前達に道を示そう。お前達の道は3つある」

 

 剛と巴菜は龍牙王にそう言われて、唾を飲んだ。

 

 

「1つ、力を封じこの街で暮らす。でも鬼と言う種族は基本的に感情を高ぶらせると、力が爆発し暴走する……その際に封印など掛けていたら通常よりも周りに被害が出るから駄目か。

 

 2つ、剛の寿命を削って人間もどきになる。ただ、そうすると……寿命が1~3年くらいになってしまう」

 

 

「そっそれでも………此奴と一緒に居れるなら」

 

 剛は自分の命が短くなっても彼女の傍に居れるならそれでもいいと言っている。

 

 

「フム……それも良いが残された者が哀しむ事になるぞ?」

 

 龍牙王の脳裏にアイリの最後の姿が、闘牙王の死を悲しむ十六夜の姿が、そして……………の姿が蘇える。自分もまた残される側の者だ、だからこそ残されると言う事がどれ程、残酷で、絶望なのかを知っている。

 

 

「……フム、では最後、3つ目の選択肢だ。此方の世界を捨てて、我が世界……人とそれ以外の存在、妖怪も、鬼も、神も、共存する世界・蓬莱郷に往くかだ」

 

 

「蓬莱郷………伝説に聞く、龍神の世界」

 

 

「そうだ……あそこは誰しもが共存する世界だ。まぁ喧嘩はないと言えば嘘になるがな。ただあちらの世界に行くなら、此方の世界の総てを捨てなければならない。一度、行けば戻る事は滅多にできないからな。

 

 次の満月は……5日後か。それまでに答えを出すといい、3つ目の選択肢を選ぶなら、幾つが条件があるから覚える様に……一先ずはゆっくりと休むといい。陽牙達に寝床に案内させよう」

 

 龍牙王がそう言うと、剛と巴菜は頭を下げ、感謝の意を示す。

 

 

 

「あっあの」

 

 

「ん?」

 

 

「俺達は間違っているのでしょうか?……鬼と人間が愛し合うなんて、可笑しいのでしょうか?俺は此奴と一緒にいる為に、親や兄弟に別れを告げました。すると言われました『お前はおかしい、お前は鬼だ、そして相手は人間だ。狂いでもしたのか』と」

 

 人とそうではない者の愛……普通では考えられない事だ。

 

 

「おかしいか?……では聞くぞ、お前はその娘を愛するのが自分で変だと思うか?」

 

 

「いいえ、俺は例え誰が何と言おうと、此奴が好きです!

 

 儚げな表情も!笑うと可愛いのも!猫達と遊んでいる時の楽しそうにしている事も!陰口を言われても負けない様に立ちあがろうとする所も!失敗してオロオロしてしまう所も!強い所も、弱い所も全部ひっくるめて此奴が大好きです!」

 

 胸を張って言う剛。余程、彼女の事が大切なのだろう。

 

 

「そっそうか………」

 

 

「その他にも」

 

 

「それ位にしてやれ、隣で沸騰しているから」

 

 剛はそう言われ、横を見てると巴菜が顔を真っ赤にしており、頭から煙を出していた。後ろを見てみると、陽牙と陰牙が「若いなぁ~」などと微笑ましい表情をしている。

 

 

「良かったな、娘。その男はお主が余程大事の様だぞ、ククク」

 

 剛は自分で言っていて、今頃恥ずかしくなってきたのか彼も顔を真っ赤にした。

 

 

「誰かを好きになるのに、愛するのに理由等はないさ……少なくとも我はそう思う。言わせたい輩に言わせておけばいい」

 

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

「あぁ、それと1つ言っておく………女と言うのは子供が出来ると強くなるからな。お前も尻に敷かれない様に気を付けろ」

 

 

「巴菜が………俺をですか……すいません、イメージできないですけど」

 

 

「我の友にそう言う奴が居てな。若い頃のそいつは誰彼構わずに喧嘩を売って勝利していたんだけど………結婚して人間の嫁を娶って、子供が生まれてからと言うもの…………家の中で底辺まで落ちたからな。そいつ曰く【邪神の俺も、嫁さんだけには勝てなかった】だそうだ」

 

 遠い目をしながらそう言う龍牙王。一体、彼は何を見たのだろうか?

 

 

「フフフ……今日は、ゆっくりと休むといい。陽牙、陰牙、あそこに連れて行ってやれ」

 

 

「「はっ」」

 

 2人は陽牙達に連れられて、神社を出た。彼等が向かうのは、この街に住む妖怪夫婦の元だ。その妖怪夫婦はアパートの大家で彼等の様な者達に手を貸しているからだ。

 

 1人になった龍牙王は、腰に差していた爆砕牙を手に取り撫でる。

 

 

「お前は絶望し、嘆きながらも………………まさかお前からあんな言葉を聞く事になるとはなぁ」

 

 龍牙王は杯に入った酒を煽りながらそう呟いた。

 

 

「弟よ………お前は今、幸せか?」

 

 その問いに答える者はいない、爆砕牙の本来の持ち主は此処にはいないのだから。


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