狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

6 / 63
今回は父・闘牙王の話です。


幕間
闘牙王・前編


 私の名は闘牙王。西国の狗妖怪だ。

 

 若い頃の私はかなりやんちゃをしていた。妖怪を見るなり喧嘩を売り、勝ち。そんな事を繰り返していた、当時の私は血の気が多く、自分こそが最強なりえる存在だと思っていた。

 

 そんな日々を過ごしていると、突然現れた女人にこう言われた。

 

 

 ー中々の度胸と力だ。魂も中々なもの……我が子の父としては上々。我と共に来て貰うぞー

 

 訳のわからぬ事を言われて反論しようとしたが、女人は巨大な龍へと変化し、私を拉致した。

 

 いや、あの時は本当に驚いた。本能的に勝てないと思ったのはあれが最初で最後だった。

 

 それから色々あって、直ぐに解放された。それからあの者は現れず、私もあれを夢かと思い日常へと戻っていた。

 

 それから数百年の時が過ぎた。私も強くなり妃を取った。挙式を挙げてから少し経った時の事だ。私の城の上空に巨大な穴が開き、以前現れた女人がやって来た。

 

 

 

 

 

「あなた……此方はどちら様で?」

 

 

「いや……その……」

 

 

「ふっ……我はお前達が、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)と呼ぶ存在。我が子が父親に会いたいと言うので連れてきた次第だ」

 

 そう言う女人の後ろから小さな子供が現れた。

 

 白銀の髪、金色の瞳、闘牙王に似た顔立ち……白銀の髪と金色の瞳は闘牙王の血族の証だ。そして闘牙王そっくりとなると、奥方……後の殺生丸の母はこれが誰の子供なのか分かった。

 

 

「あなた……これはどういう事ですか?」

 

 妃がそう訪ねてきた。微笑みを浮かべているが、目が笑ってない。と言うか、これまでに感じた事のない程の凄まじい妖気を放っている。

 

 

「母よ……あの男が俺の父親か?」

 

 

「そうじゃ、我が子よ」

 

 幼子はそれを聞くと、少し離れると闘牙王へと近づいてきた。

 

 

「初めまして父よ。貴方の息子、龍牙王です。俺の容姿と妖力を見れば貴方の子供だって分かりますよね?

 

 取り敢えず1つ頼みがあります」

 

 

「りゅ龍牙王か……良い名だな。ウム、確かにお前は私の子の様だ。それで頼みとは何だ、私に出来ることなら何でも言うといい」

 

 闘牙王はこの子供が自分の子供だと直ぐに理解できた。血族の証の髪と瞳、それに龍牙王から溢れる自分と酷似した妖力は、間違なく自分の子供だと証だ。

 

 

「アレ……どうにかしてよ」

 

 龍牙王がそう言い指差した先には、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)と奥方がいた。お互いににっこりと笑みを浮かべているのだが……

 

 

「龍だか、蜥蜴だか知らぬが、アレは妾の夫ぞ」

 

 

「ふっ……別に我はアレを必要とはせん。我が子を宿した事で、興味はなくなった。何処で誰と番おうと構わんよ」

 

 

「ほぉ……」

 

 奥方より物凄い圧力がくる。と言うか、顔が半分変化している。

 

 

「……えっと奥」

 

 と闘牙王が奥方に声をかけるが、ギラッとした視線が向けられる。最近、西国最強と言われ初めている闘牙王も奥方には弱いらしい。

 

 その姿を見た隠し子・龍牙王はやれやれと肩をすくめて、奥方に声をかける。そして幾つかの言葉を言葉を言うと、奥方の機嫌が良くなった。

 

 

「ホホホ、そうか、そうか。では龍牙よ、此処に居る間は妾を母と思うがよいぞ」

 

 と何故か受け入れられた龍牙王。闘牙王は何を言ったのか気になって聞いたが……。

 

 

 ー実は此処に来たのは父に会う為と、自分を鍛える為のです。御母堂様にはその許可を頂きたいー

 

 と笑顔で言っただけらしい。

 

 突然現れた夫の隠し子がその様な事を言ってくれば断るのが普通だが……龍牙王は闘牙王とそっくりである。

 

 奥方にとって闘牙王は愛する夫……その夫に生き写しと言ってもいい子供が無垢な笑顔を向け、お願いしてきたのだ。唯でさえ母性の強い狗妖怪である奥方がコロッと行かぬ訳がない……龍牙王がこれを狙ってやったかは定かでないが……この瞬間、

 

 奥方・龍牙王>闘牙王>側近(冥加達)>その他、妖怪と言うヒエラルキーが決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 ―我が息子・龍牙王は私と龍神の血を宿す為か強かった。妖怪的に五歳程の歳であると言うのに、魔剣・叢雲牙を平然と振るってみせた。普通ではあり得ぬが、私と龍神の血がそうさせるのだろう。

 

 私と手合わせする度に強くなり、戦に連れて行った時は、その力と知略、他の妖怪達を惹き付ける魅力で軍を率いて戦った。

 

 だが強くなる度に龍牙王の中で何かが変わっていった。それが何なのか分からないが、やがて心を閉ざし始めた。私や奥、側近達には普通に接するが、その他の者達とは壁を作っていた。そんな我が子を心配していたが、ある者が解決してくれた。

 

 驚いた事にそれは人間の女子であった。神々より土地神と言う役職を貰い、その地で巫女をしている少女。良く笑う様になった息子をみて、彼女が息子の氷を溶かしてくれたと私は喜んだ。たがそんなアイツから私は再び笑顔を奪ってしまった。

 

 龍牙王が土地を離れる間、土地の守りを頼んできたのだ。まだ土地の守りは完璧ではなく、心配だからと……。

 

 正直、嬉しかったよ。昔から大抵の事は自分で成し、誰にも頼らなかった息子が初めて父である私に頼みごとをしてきたのだから。私は嬉々としてこれを受けた。

 

 龍牙王の巫女・アイリと会った。彼女は中々に気持ちの良い雰囲気を放ち、周りを和ませる存在だ。それでいて、強い……力と言う話ではなく、魂的に…精神的にだ。息子が気に入るのも無理はないと思った。

 

 彼女とは色々な事を話した、龍牙王の子供の時の話などだ。話していて、後で怒られるなと言うような恥ずかしいものも話した。

 

 そんな楽しい時間を過ごしていると、西国より火急に戻る様に連絡があった。しかし息子より頼まれた仕事を放り出す訳にもいかなかったのだが、一族の事故に行かぬ訳には行かなかった。故に私は冥加と刀々斎を残し城へと向かった。この時に、息子が戻るまでもう少し待っていれば……あの様な悲劇は起こらなかっただろう。

 

 私は一族の問題を片付けて直ぐに戻った………だがそこで見たのは穏やかだった村の変わり果てた姿、そして息子が哀しい咆哮を上げている姿だった。

 

 何があったのか、冥加達に問うと、私が出て数刻後に異国の魔が此処にやって来たのだと言う。始めは守護の者達で対処できていたのだが、子供を人質に取られ倒された。何とかアイリ殿が子供を取り戻したが……その時に傷付き抵抗できなかった、だが命と引き換えに強力な結界を張り村人達を護り通した。

 

 息子が戻った時には死んでいても可笑しくなかったが、精神だけでなんとか保っていたらしい。既に限界を越えたアイリ殿の身体は残る事無く塵芥となってしまったと言う。

 

 龍牙王はアイリ殿の血で赤く染まった巫女服を抱き、天を仰ぎ吠えていた。息子のその様な姿、初めて見た。―

 

 

 

 

 

 

「りゅ……龍牙王」

 

 咆哮する息子に声を掛けた。だが今の私がアイツに何を言えばいいのか分からなかった………いや合わせる顔などなかった。

 

 振り返った龍牙王は目を赤く腫らし血涙を流しており、瞳から光が消えていた。

 

 

「謝ってすむ事ではないのは分かっている…………だが……すまない」

 

 

「………ギリッ」

 

 龍牙王は私の胸倉を掴むと拳を握り締め振り上げる。私はそれを避ける事も防ぐ事もしない……これは当然の事だ。

 

 

「………今は親父の顔を見たくない。悪いが帰ってくれ」

 

 龍牙王はそう言い、私を離した。

 

 

 

 

 

 息子の幸せを願っていた………なのに私は息子からその幸せを奪ってしまった。

 

 あの時、何故もう少し待たなかったのかと………私は長い時の中で初めて後悔した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。