―アイリ殿の事より約二千年が経ち、その間に奥が殺生丸を産んだ。
龍牙王とはアレから疎遠となっている。会ったとしても殆ど言葉を交わす事はなかった……だが殺生丸が産まれた時には会いに来た。
殺生丸は奥に似ており、私の血の所為か幼い頃より強くなる為に日々修行していた。常に私の後ろを着いて来て愛らしい子供だった……のだが何時の間にか冷酷な性格になっていた。強さを求め、日々妖怪達と戦っていた。
今は未だ周りが見えて居らんが、いずれは私を越える大妖怪となるだろう。
それにしてもこの数百年、飛妖蛾一族や妖猫族など強い妖怪達がこの国を狙ってきている。今は私が統治してるので、人々は無暗に襲われる事はない。だが飛妖蛾一族や妖猫族の様な力のみで戦う者達が統治すれば、暴力と恐怖の支配する地へとなってしまうだろう。
そして私はある人間に出会った。
丁度、ある妖怪と戦い、その傷を癒す為に療養していた時の事だ。奥に色々と言われたり、殺生丸に戦おうと言われるのが嫌で城から抜け出し空を散歩していた時の事だ。悲鳴が聞こえてきた、何事かと思い私は悲鳴のした方向に向かってみると、そこには牛車が在った。見た所、貴族の牛車だ……野盗に襲われているみたいだが………供の者も連れていない。
このままではやられるだろう……ムゥ……見捨てるのはいかんか。私は牛車の元に降りて、野盗を倒した。勿論命を取るつもりなどなかったので、加減はした。覚えていろ等と言うお約束な言葉を残して野盗は去って行く。
そして牛車から出てきた1人の姫に目を奪われた。姫は美しく、凛とした雰囲気が漂っていた。
ふと私はどう見ても人外の格好だった為に、脅えられても困るので直ぐに戻ろうと考えたが、姫は私に臆する事無く礼を言ってきた。
普通、人間とは私の様な妖怪を恐怖し、脅えるか、罵倒してくる物なのだが……姫は全く私を恐れていない。この様な人間もいるのだな……そう言えば龍牙王が何時か妖怪と人間が共に暮らす蓬莱島の話のしていたな。人間と妖怪との共存……夢の様な話だ―
「お前は何故、私を恐れぬ……人間にとって私の様な存在は恐怖の対象だろう?」
「貴方は……御優しい目をして居られます。だから怖く等ありません」
「………そなた、名は?」
「十六夜と申します」
これが私と十六夜の出会いだった。
~数年後~
京の都の近くにある屋敷で、1人の姫が空を眺めていた。
「十六夜、今日は冷える……屋敷の中へ入れ」
姫の後ろに現れたのは西国最強の妖怪・闘牙王だった。彼は身重な十六夜の気遣い、そう言う。未だ見た目では分からないが、十六夜の胎内には闘牙王の子供が宿っている。人間と妖怪……その間に産まれる子供は半分が人間、半分が妖怪……つまり半妖となる。半妖は人間からも、妖怪からも疎まれる存在だ。
闘牙王はそれを理解していた……そして十六夜もまたそれを知り、闘牙王が妖怪と知りながらも望んで子供を孕んだ。
十六夜は闘牙王と共に屋敷の中へ入ろうとするが、闘牙王が足を止め、振り返ると空を見上げた。
「この匂い」
『この様な所で珍しい匂いがあると思えば……これはどう言う事だ』
凄まじい風が吹いた。十六夜の視界は一瞬、風に遮られた。彼女が再び、目を開くと、自分達の前に闘牙王に似た男が立っていた。
「龍牙王……」
「龍牙王?……それではこの方があなたの」
十六夜は闘牙王から長男である龍牙王の事を聞いていた。今では伝説にまでなった自慢の息子だと……そして自分の所為で息子から奪ってしまったと。
「……この匂い、身籠っているのか……親父の子を」
「……ウム。数ヶ月もしない間に産まれるだろう」
龍牙王は匂いだけで十六夜が身籠っている事を見抜いた、彼は何も言わずに十六夜の腹へと視線を向ける。
「……姫よ、名は?」
「はい……私は十六夜と申します。闘牙様から貴方の事は御伺いしています、龍牙王様」
「そうか……」
「……ッ」
龍牙王はそう答えると、自分の尾の中に手を入れる。彼は尾の中に自分の牙や武器を隠している事を知っていた闘牙王は構える。もしこの場で戦えば確実に自分は息子に倒されるだろう……いや龍牙王には自分を殺す権利はある。だが十六夜と子は命を変えてでも護ると決意する。
「別に此処で戦うつもりはない………身重な姫の前でその様な事はせんよ」
彼はそう言うと、尾の中から御守を取り出した。
「我の社の安産の御守だ……我手ずから念を込めた物だ。その辺の物よりは効果がある」
そう言い、龍牙王は十六夜に御守を渡した。
「龍牙王……お前……」
「その腹の子に罪はない………スンスン……やはり男か」
龍牙王はそれだけ言うと、何処かへと去ってしまった。
「なに!?腹の子は男なのか?!」
~1週間後~
龍牙王が去ってから1週間、特に変わらぬ日々を過ごしていた闘牙王と十六夜。
「おい、大将~」
「おう、刀々斎か。アレは完成したのか?」
「あぁ……十六夜も久々だなぁ」
「御久しぶりです、刀々斎様」
「おうさ……ほれっ大将の注文通りに仕上げたぞ」
そう言って刀々斎が渡した2振りの刀………それは後に天下覇道の剣と呼ばれる鉄砕牙、そして天生牙である。
闘牙王は十六夜と一緒になると決める前から、彼は自分の牙を自らの手で折り、それで刀を打つ様に刀々斎に頼んだのである。
始めに打ったのは、鉄砕牙のみであったのだが……闘牙王がどんな命であっても救いたいと言う想いが鉄砕牙に神の如き力を与え、そして冥道を扱う死神鬼を斬り、冥道残月破を宿した事で死んだ命を1度だけ生き返らせると言う奇跡の力を得た。
だが鉄砕牙は敵を斬る為の力、それに相反する蘇生の力を宿した事で壊れそうになっていた。それを刀々斎が2つに別ける事で問題を解決したのである。そして十六夜が身籠った事を知り、鉄砕牙に妖怪の血を封じる力を与え、仕上げたのである。
「いずれ、この刀は私とお前の子へと受け継がせる」
「だがよぉ、大将。殺生丸に知れたら、アイツ黙ってねぇぞ」
「既にアイツは自分の中に牙を持っている………私の力など必要はない。だがもう少し慈しみの心を持ってくれれば………」
「ぁ~中々に想像できねぇな……なっ!」
闘牙王と刀々斎が話していると、凄まじい妖気を感じた。
「この感じ……竜骨精か」
「あの暴れ竜か……」
「刀々斎……暫し此処を頼む」
闘牙王は鉄砕牙と天生牙を持ち、屋敷を飛び出した。
全ては十六夜や腹の子供……そして人々を護る為に。
~数ヶ月後~
山奥で白い狗妖怪の姿の闘牙王と白い龍が激突していた。
『闘牙ぁぁぁぁぁ!!!!』
「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!竜骨精!!!!」
闘牙王は竜骨精の腹にその爪を突き刺し、大きな岩山へと竜骨精を縫い付けると自身の爪を圧し折った。
『ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!おのれぇぇぇぇぇ!!!』
「はぁはぁ……」
この数ヶ月、闘牙王と白い龍・竜骨精は死闘を繰り返していた。
『これは封印の力か?!ぐぅぅぅぅぅぅ』
闘牙王の爪に流し込まれた封印の力の効力で竜骨精の意識は深い深い眠りへと落ちていく。
「ぐっ……」
闘牙王は竜骨精に流し込まれた大量の毒の所為で意識が飛びそうになったが、何とか意識を繋ぎとめる。
側近である冥加から十六夜が出産間近で、都に闘牙王が人間でないとバレてしまい、兵達が屋敷に押し寄せたと報告を受けた。
このままでは十六夜の命も子供の命も危険だと知っていた、この様な所で止まっている場合ではないのだから。
~天空城~
闘牙王は十六夜を助けに行く前に、天空城の御母堂の元へやって来た。
「あなた……」
「奥……これを」
闘牙王は懐から黒い石のついた首飾りを御母堂に渡した。
「これは冥道石ではありませんか」
「殺生丸が天生牙の事で尋ねて来た時にコレを使え。これを使えばアイツは危険な目にあうだろうが、怖れる必要も悲しむ必要もない。アイツならば試練をこえる事ができるだろう………私とお前の子だ、きっと大丈夫だ」
「逝かれるのですか?」
「十六夜とアレを死なせる訳にはいかん…………後を頼む」
「(全く……此方の気も知らないで)……もう行け。間に合わなくなる」
御母堂は既に闘牙王が長くない事を知っていた。ならば最後の時間くらいは共に居たいと思うのは女の性……だが夫には果たさねばならぬ役目がある。
「奥……【 】」
闘牙王は御母堂に何かを伝えた。御母堂はそれに応える様に笑みを浮かべた、きっと夫婦にしか分からぬ事だろう。
闘牙王は再び十六夜と子供の為に地上へ向かった。
~月夜の海岸~
闘牙王は砂浜の上で満月を見上げていた。
「殺生丸か」
闘牙王は息子の殺生丸の気配を感じた。
「行かれるか………父上」
「止めるか、殺生丸」
「止めはしません。しかしその前に牙を……鉄砕牙と叢雲牙をこの殺生丸に譲って頂きたい」
「(やはりか……)渡さぬ………と言ったらこの父を殺すか?」
殺生丸からは無言になっている。
「フッ………それほど力が欲しいか………何故お前は力を求める?」
「我、進むべき道は覇道。力こそ道を開く術なり」
「覇道…………か。殺生丸よ、お前に守るべきものはあるか?」
「そのようなもの、この殺生丸に必要ない」
(いずれお前にも見つかるだろう………自分の命を賭してでも守るべきものが)
殺生丸は闘牙王に何かを言おうとするが、闘牙王の全身から放たれる妖気と覇気に気圧される。それはこれから死地へと赴くもの者の物とは思えない。
「グオオォォォォ!!!」
狗へと変化した闘牙王は駆け出した。
(父上……それほど、あれは守るに値するものだと言うのか)
殺生丸は父の後ろ姿を見ながらそう思う。