狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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闘牙王その後+十六夜

 ~十六夜side~

 

 

「はぁはぁ」

 

 十六夜は裸足で雪の降る山を走っていた。

 

 

「十六夜殿」

 

 

「!………りゅ……龍牙王様」

 

 十六夜は声を掛けられ驚くが、声の主は龍牙王で在った為に安堵する彼女は力が抜け、その場に膝を付いてしまう。その所為で火鼠の衣は落ちてしまう。

 

 

「あの人が……」

 

 

「あぁ………」

 

 龍牙王は落ちた火鼠の衣を十六夜に被せた。そして赤ん坊を見る。

 

 

「その子が」

 

 

「はい……犬夜叉と……あの人が付けた名前です」

 

 

「そうか………全く一度も子を抱かずに逝くなど………」

 

 龍牙王は尾の中から、刀を取り出した。白い刀身と黒い峰の刀……陰陽牙である。それを十六夜の近くの地面に突き立てた。すると、光が膜が十六夜と赤ん坊の周囲に張られた。

 

 

「少し此処で待っていてくれ………あの馬鹿親父を迎えて来る」

 

 龍牙王はそう言うと、直ぐに燃え落ちた屋敷の方へ向かい駆け出した。数分もせずに龍牙王は、闘牙王を抱えて戻ってきた。そして十六夜の前に父を寝かせる。

 

 

「あなた!!!」

 

 十六夜が声を掛けるが反応のない闘牙王。龍牙王は手をバキッと音を鳴らせると、その爪が光る。

 

 

「フン!!!」

 

 そして爪を躊躇する事無く、父の腹へと突き刺した。

 

 

「ぐほっ!なっなんだ!?痛い!!!」

 

 息を吹き返した闘牙王は激痛のあまりに飛び起きる。

 

 

「此処は……私は死んだ筈……十六夜、犬夜叉?!」

 

 隣にいた十六夜と犬夜叉を見て驚く闘牙王。

 

 

「我が一時的にこっちに呼び戻したんだ、痛みくらいは我慢しろ………陰陽牙、我が社に」

 

 陰陽牙が龍牙王に応える様に、光を放つと雪山にいた筈だが何処かの大きな桜の木の下へと移動した。

 

 

「ここは?」

 

 

「此処は、我が社…………せめて犬夜叉を抱き締めてやるくらいの時間はある」

 

 龍牙王はせめて最後に犬夜叉を抱く時間を与えた。これはこれまでの父への感謝と弟への思いからだろう。

 

 

「龍牙……」

 

 

「勘違いするな……犬夜叉の為だ」

 

 

「あなた……抱いてあげて下さい」

 

 

「あぁ……」

 

 犬夜叉を抱いた闘牙王は感じた。この子の中にある、自分の血と、十六夜の血を………。

 

 

「犬夜叉………強くなれ」

 

 ただそれだけ言うと、直ぐに犬夜叉を十六夜に渡す。何故なら段々と自分が死に向かい戻り始めたのが分かっていたからだ。

 

 

「十六夜……生きて、生きて、生き抜くいてくれ……犬夜叉と共に」

 

 

「はい……犬夜叉はきっと守って見せます」

 

 それを聞くと、闘牙王は目を瞑る。もう彼が目を開ける事はないだろう……彼は安らかな表情で旅立った。

 

 

「あなた」

 

 十六夜は直ぐに涙を拭う。愛する人がこんなにも安らかな顔をしていったのだ、悲しんではいられない。

 

 

「さて……十六夜殿、親父は此方で埋葬する。親戚はいるか?居るならばそちらまで送ろう……」

 

 

「はっはい……」

 

 

「我が一族の中には、犬夜叉が親父の血を受け継いでいる事が気に喰わぬ者達もいる……我はそやつ等をどうにかする。その間、スマンが親戚の元へ行っていてくれ。

 

 此処は我の地であるが、万が一に氏子達に危険を及ぼす訳にはいかんのでな」

 

 

「はい、それは当然のことかと思います……」

 

 

「全て終われば必ず迎えにいく故に安心せよ」

 

 龍牙王は十六夜にそう言う。

 

 狗妖怪は基本血を重んじる一族だ、特に力が強くカリスマ性に優れた長たる闘牙王の血……彼等にとっては重要な物だ。

 

 現在、その血を継ぐのは長男・龍牙王、次男・殺生丸、そして目の前にいる犬夜叉である。

 

 龍牙王は半分龍と言えど数々の伝説を残した存在=逆らえる筈がない。

 

 殺生丸は闘牙王と同じく狗妖怪の御母堂との子供……つまりは純血の存在故に問題はない。

 

 だが犬夜叉は違う、妖怪である闘牙王と人間である十六夜の子供…………つまりは半妖である。長であり、最強と言われた闘牙王の血を半妖が継いでいるなど許せない連中も多い。そうなれば犬夜叉の命を狙う輩も出て来るだろう。

 

 龍牙王はそういう輩を何とかする為に動く………彼女達を自分の地に置けば、何かないとも限らない。基本的に土地神は自分の氏子が危険な目に合わせる事をしてはならない………故に彼女達を一先ず十六夜の親戚の所へ送る事にした。勿論……最低限の護りを行ってだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数年後 貴族の屋敷~

 

 この屋敷で暮らす事になった十六夜と犬夜叉……この屋敷の主は十六夜の父方の親類に当たる人間で、飛んでやってきた龍牙王を見て、始めの内は怪しんでいたのだが………彼の摩訶不思議な力を見て、妖怪ではなく神が降りてきた思った様だ。

 

 十六夜の保護を要求すると、この屋敷の主はそれを快く受け入れた。なので十六夜と犬夜叉は此処で暮らす事が出来ている。

 

 しかし犬夜叉の容姿は……銀色の髪、金色の瞳……そして何より犬耳と牙と爪は隠し様がない。隠せと言っても、子供である犬夜叉がそれを行える訳もなかった。

 

 この屋敷に住む使用人や出入りする者達は犬夜叉の姿を見て忌み嫌っていた……そして言う【半妖】だと。

 

 

「ははうえ……はんようってなに?」

 

 幼い犬夜叉は十六夜にそう尋ねた。十六夜は犬夜叉が受けている扱いを知っていた……そして半妖と蔑まれている事も………だからこそ十六夜に出来るのは、ただ犬夜叉を抱き締めてやることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬夜叉は戦い方など知らなかった……本能的に犬夜叉は理解していた、己が爪は引き裂く為に、牙は噛み砕く為にあると。

 

 子供ながらに犬夜叉は何時も、泣きながら自分を抱き締める十六夜を見て、自分が母を護るのだと考えていた。だから庭にある岩を爪で斬り裂く練習をしていた。

 

 

「やぁーーー!」

 

 幼い犬夜叉の爪では岩に少し傷を付けるのが精一杯だった。

 

 

「犬夜叉……犬夜叉、何処ですか?」

 

 

「あっ母上」

 

 やって来た犬夜叉は母を見て、十六夜に抱き付いた。

 

 

「また修行をしていたのですか?」

 

 

「うん!つよくなっておれがははうえをまもるんだ!」

 

 

「あらあら………」

 

 十六夜は犬夜叉を抱き締め、その小さな頭を撫でる。

 

 

「私は後、どれほどこの子の傍に入れるのだろう?

 

 この乱世の世……この子を育て護る為には此処に来るしかなかった……でも」

 

 犬夜叉が半妖と蔑まされている事を知っている彼女は考える。此処から離れれば貴族達から蔑まれる事はなくなるだろう……だがこの戦乱の世で自分は犬夜叉を護りながら生きていけるのかと。

 

 何処で暮らす?どうやって日々の糧を得る?賊に襲われれば?と言った事がある為、此処から離れる事は出来ない。

 

 龍牙王が迎えに来るまではと思っていた……だがこのままでは何時、犬夜叉の身に危険が及ぶのかと考えてしまう。自分の身に危害が及ぶなら別に構わないが、犬夜叉に危害が及ぶとなると話は別だろう。

 

 

(あなた……私はどうすれば)

 

 十六夜は犬夜叉のこれからを考えて涙を流す。犬夜叉は母が泣く姿を見て、心配になる。

 

 だが次の瞬間、凄まじい風が吹いた。

 

 

「!?……この匂い」

 

 犬夜叉は半分とは言え狗妖怪である闘牙王の血を継いでいる。普通の人間とは嗅覚は数倍以上だ、その鼻がある匂いを嗅ぎ取る……何処か懐かしい匂いだ。

 

 風が止むと、そこには1人の男が立っていた。十六夜はその男に闘牙王の姿を幻視する。

 

 

「あなた?」

 

 

「久しぶりだな、十六夜殿」

 

 その声で我に帰った十六夜。

 

 

「龍…牙王……様?」

 

 

「あぁ、色々と走り回っていたら数年が経っていた。迎えが遅れてスマンな」

 

 

「ははうえ……だれ?」

 

 

「この方は龍牙王様……貴方のお兄様ですよ」

 

 

「あにうえ?」

 

 

「あぁ……会うのは久しぶり……と言ってもお前は未だ赤子だったから覚えておらんか。

 

 母は違えど、お前の兄だ、因みにお前にはもう1人兄がいるが……いずれ会うだろう。まぁ当分は無理だろうけど」

 

 龍牙王はもう1人の弟・殺生丸の事を思い出す。もしこの場にいれば彼は容赦なく犬夜叉を切り刻むだろう。

 

 それは置いといて、犬夜叉を見る。小さな犬夜叉は十六夜の後ろに隠れて龍牙王をジッと見て、う~と唸り威嚇している。

 

 

「警戒するのは仕方ないか……十六夜殿、まずは此処を離れよう。その子を狙ってくる同族も多い」

 

 

「っ……ですが」

 

 

「案ずるな……母上と御母堂が色々と動いてくれたんでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~天空城~

 

 

「そなたが……十六夜殿か」

 

 

「はい」

 

 現在、十六夜は天空城の主、御母堂と対面していた。

 

 

「妾が誰だか分かるな?」

 

 

「はい……闘牙王様のご正室様ですね」

 

 

「そうだ」

 

 

「それでその子が犬夜叉か」

 

 御母堂はジッと犬夜叉を見る。犬夜叉は龍牙王と十六夜の後ろに隠れている。

 

 御母堂は玉座から立ち上がると、犬夜叉に近付き、その顔をジッと見つめている。

 

 

「ほぅ……フムフム………これは……成程、闘牙に似ておるの」

 

 

「確かに犬夜叉は親父似だな」

 

 

「あっあの……奥方様は私の事を」

 

 

「妾はそなたの事を怨んでなどおらぬ………闘牙が死んだのはそなた達の所為ではない。奴が己で決めた事だ………奴も満足であろう、命を賭して護った子を抱けたのだからな。改めて礼を言うぞ、長男殿」

 

 

「我は親父の為にした訳ではない……この犬夜叉の為にやった事だ」

 

 龍牙王はそう言いながら犬夜叉の頭を撫でる。

 

 

「全くあの戦馬鹿め、命を救っただけで後の事を考えぬとは………十六夜殿、これからは此処で暮らすといい」

 

 

「しっしかし」

 

 

「妾は器量が小さい訳ではない………例え半妖で在っても、闘牙の子で在れば、何であろうと妾の子供と思う事にしておる。そこにいる長男・龍牙王も、我が子・殺生丸も……妾は変わらず平等に我が子として愛しておる」

 

 

(我が此処に来た当初は物凄い剣幕だったがな………そういや、あの時は悲惨だったな。親父の顔の形が変わるまで叩かれてたっけ………うん、我が天照達以外で逆らえない存在だなぁ)

 

 当時の事を思い出してそう考える龍牙王。

 

 

(きっと惚れた女に頭が上がらないのは……親父の血だよな。待てよ……我が複数の女と現在の様な状況は血の所為か?)

 

 

『何でも私の所為にするな』と死んだ闘牙王の声が聞こえてきた。

 

 

「長男殿」

 

 

「あっ……あぁ」

 

 御母堂に声を掛けられ我に帰った龍牙王。

 

 

「十六夜殿と犬夜叉の事は妾に任せよ、誰にも手を出させん」

 

 

「では頼む、御母堂……我は少し休む」

 

 

「あぁ……そなたの部屋はそのままにしてある、今日はゆるりと休むがいい」

 

 こうして十六夜と犬夜叉はこの天空城で御母堂の保護下の元で暮らす事になった。




~十六夜が親類の貴族の元にいる間~


「弟を狙う理由を聞こうか?」

龍牙王は犬夜叉の存在を知り、殺そうとしていた一族の者の元に訪れていた。そしてその者に叢雲牙を向けている。


「あっあの子供は下賤な人間の……ひぃ!」


「18分割されたいって?仕方ないなぁ……身体の末端から徐々に切り刻んでやるよ」


「すっすいません!狙いません!もう決して手を出しませんから!!」


「よし、ならこの契約書にサインを」

そう言って龍牙王は懐から禍々しいオーラを放つ魔法陣の描かれた契約書を出す。


「なっなんでしょうか、この禍々しい邪気を放つ紙は?」


「知り合いの邪神から貰ったクトゥルフの契約書だけど?これにサインするか、叢雲牙に喰われるかどっちがいい?」

そう笑顔で言う龍牙王。

こうして犬夜叉を狙う輩を黙らせる龍牙王の日々が始まったのである。















・クトゥルフの契約書

 その名の通りクトゥルフの契約書。これで交わした契約は絶対………破れば死ぬよりも辛い目に合うらしい。

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