『やぁやぁイクサ。元気ー?』
「…杏…か?」
高校生活3年目の春が過ぎ、雨が多くなって来る頃、
唐突にその電話は来た。
俺の親父は戦車の整備士、お袋は戦車道の教官とあって子供の頃から戦車に触れる機会が多く、俺自身も戦車が好きだった。
戦車道は女子の嗜む武道。男で戦車が好きと言うのは珍しく俺は「戦車男」と呼ばれてた。
俺はそれが嫌で『だったら「戦車」の「戦」で「イクサ」と呼べ!』と自分で広め、中学時代の古い友人からは今も「イクサ」と呼ばれている 。
『おぉよくわかったねぇ』
「そりゃ俺に電話かけてくる女子なんざお前ぐらいしか…」
電話の相手は「角谷 杏」中学の頃の…まぁ友人になるのか。
同じクラスの唯一の戦車好き仲間だった。
高校に上がるときに杏は女子高、俺は男子校に進みそれから2年間連絡を取り合ってすらなかった。
『なぁになぁに?彼女の一人もいないの~ん?』
「うぜぇ」
『はっはっは~』
うわすっげぇ懐かしいこの感じ。
いっつもからかいあってて、でも戦車の話じゃ少し真面目になって。
近すぎず遠すぎず、さっき友人といったが…うん、まぁ、親友、と言ってもよかったかもしれない。
「そんでどうした?同窓会の連絡か?」
『…いや。ちょっと真面目な話するよ?』
「…おう」
電話越しで分かるレベルで声のテンションが変わった。
『その前に。イクサはまだ戦車が好きかい?』
「そりゃもちろん。親父の仕事も継ぐ予定よ。」
『じゃあ整備もやってるんだ?』
「あぁ。」
『…うん…そんで、もうひとつ』
今までで一番真面目な声のトーンだった。
『大洗は…好き?』
質問の真意は何も分からなかった。
だけど、中学時代の俺と杏の思い出の背景のすべてに大洗はあった。
「好きだよ」
間を開けずに答えは口から出てきた。
杏のほうが少しだけ間をおいて、
『…色々助けてほしい事があるんだ。』
言葉を続ける。俺に対する覚悟を決めたように。
『電話で話すには長すぎる。事情は後として、まずイクサにやってもらいたいことは…』
俺も覚悟を決めなくてはならない。
『大洗女子学園に転校することだ。』
……この数日後俺は杏と再会、そして杏が現在生徒会長を勤める大洗女子学園のすべての事情を聴く。
突然の廃校宣告、戦車道の復活、役人との優勝の約束。
確かにこいつ一人じゃ荷が重すぎる。
俺も一緒に抱えてやると言ったら、いたずらっぽい、でも、少しだけ涙を浮かべた笑顔を見せてくれた。
そして俺は大洗女子学園唯一の男子生徒として、
この学園と大洗町、そして、親友の杏のために、
高校生活最後の一年を、激動の中で過ごすこととなる。