この誰が得してるのかわからないこのガルパン小説もやっとこさ全国大会編ですよ。
なおタイトルでお察しの通り戦車のせの字も出てきませんご了承下さい。
対サンダース戦前日の放課後。
「ここに入っていったわね……」
おかっぱ頭で『風紀委員』の腕章をつけた少女が灯りの漏れるドアを睨み付けている。
この学園で知らぬ者はいない、風紀委員長 園みどり子。通称そど子。
(イクサ……唯一の男子生徒とあって当然マークしていた……)
だが本人の性格は極めて良好。生徒会役員としての役目をきっちり果たしているし、戦車道履修者からは同級生後輩問わず慕われている。さらに唯一の男手とあって様々な力仕事に引っ張りだこ。風紀委員も何度かイクサの力を借りている。
(だけど……あの噂……)
そど子の耳に入ってきたひとつの噂が彼の評価を変える。
『イクサが二人の女子生徒と付き合っている。しかもその一人は生徒会長である。』
(あれ聞いた瞬間生徒会室にカチコ……ごほん。直接事情を聞きに行こうかと思ったけど、今日まで待っててよかったわ。)
そして、今。目の前の部屋には、噂の張本人であるイクサ。そして生徒会長と自動車部のホシノ……その3人が一緒にいる。
(3人が入っていく所を目撃できたのは普段の行いの賜物ね……そして…必ず見つけてやるわ……)
拳に力が入る。自らが見つけるのは悪の証拠。
そう。清らかな学生にとって最大の悪。
(不純なッ!異性のッ!交遊をッ!)
この時点で頭からは正義とか風紀とかの文字は吹き飛び、完全にピンク一色に染まる。
(夕暮れに親密な男女が密室でする事と言ったらアレしかない!そりゃあもう危険なアバンチュールであなたのアハトアハトに装填……)
ドンッ!
(!?)
部屋から聞こえた音で淫らな妄想から無理矢理連れ戻される。
何か重い物がテーブルの上に落ちたような音だ。
(しっ心臓が止まるかと……というか本当に何やってるのかしら?)
ゆっくりとドアに近づき、聞き耳を立てる。
「…イクサ……ゆっくりね……」
「うん……そっと……そっとね…」
「わかってる……けど俺も初めてだからな……」
(!!!???)
クールダウンしかけた頭に再び熱が入る。
(こっこれ……完全に……いいいいやまだ確定では……)
「アタシだって……こんなのやった事ないし……」
「……あぁっ……イクサ動かさないでっ……」
「あと少しだから……このままっ……」
(あわわわわわわ……)
本来ならば即刻突入すべきなのだがもはやピンクに染まった頭に思考力は無い。
「はぁぁぁ……いったぁ……」
(入った!?入ったの!?そういえばさっき初めてって!おめでとうございます!!)
「あぁ……綺麗だ……」
(綺麗って!?『そういう時』の女性が一番美しいっていうけどそういう事かしら!?)
「……本当に綺麗で……美味しそう」
(あぁっ!ホシノさんって会長の事をそう思ってたのね!これはイクサ中心じゃなくて二人が会長を可愛がっているって事でファイナルアンサー!?)
「あ゛ー……改めて何やってんだろな俺達。」
「ここまでやって第一声がそれかい?」
「これを作り上げる時間プライスレス。」
「プライスレスっつーか材料費考えるとマイナ…」
「「それ以上いけない。」」
(……うん?)
頭の熱が霧散する。思っていたのと違うような。
「そ、そうだな。じゃあ取り合えずいろいろデコレーションしようぜ。」
「ホイップは出来てますぜ旦那!」
「よくやったホシノ!じゃあ俺は……」
「イチゴとオレンジなんてどうかね?」
「「!!??」」
「アタシはそこまでホシイモキチじゃないよ!」
「さっすが杏さん!ツッコミの先手を取るとは!」
「そこに痺れる憧れるゥ!」
「二人とも仲良さそうで羨ましいねぇ!」
中から聞こえるのはワイワイキャイキャイと楽しそうな3人の声。
(……あ、あーうん分かってたわ。まさか校内であんな事やこんな事をするわけ無いものね。うん。)
誰も聞いてない言い訳をするそど子。
「まぁホシイモ様はここに有るけどね。」
「とうとう様付け始めたね。」
「やっぱりホシイモキチじゃねぇか。」
「取り合えず軽く12袋あれば足りると思ったんだけどどうかな?」
「ヤバイ。コイツ俺らをホシイモ教に勧誘しようとしてる。」
「なにそれ怖い。」
(……楽しそうね……)
取り合えず感想を一言。
(まぁ時間も時間だし、事情は聞いとかないとね……)
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「バケツプリン……ですか……」
「そうそう!いやぁまさか風紀委員長様にバレるとは。あははは!」
「あは……ははは……」
ケラケラと笑う会長。
そど子はテーブルにそびえるプリンの山を眺めて乾いた笑いしか出なかった。
「綺麗に出来てるでしょ?」
「……えぇ……綺麗ですね……」
「いろいろ乗っけて、美味しそうに見えるでしょ!」
「……うん……美味しそう……」
「バケツひっくり返して持ち上げるのが大変でさ。3人がかりで崩さないようにするのが特に気を使ったよ。」
「それは……大変だったわね……」
全ては勘違い。バケツを持ち上げるのに苦戦する声。プリンに対する感想。それを勝手に変換していただけ。
不純異性交遊なんて無かった。強いて言えば……
(一番不純なのは……私だったわね……あはは……)
「ん?なんかお疲れみたいだな?まぁ甘い物でも食べてゆっくりしようや。」
「えぇ……そうね……」
(まぁ……何も無ければそれでいいわよね。)
この際先ほどまでの妄想は捨て去って、この時間を楽しむ事にした。
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「この前の親善試合の時にかかった経費から予想して次のサンダース戦に勝ってもワシの財布は焼け野原だ状態だ。」
「ウチの戦車はもちろん、工具とか重機とか運搬車とかあてにならないパーツがざっと50を越えた所で数えるのをやめました。」
「ごちゃごちゃ言ってて何もわからいよ!要点だけプリーズ!」
「「マネーが足りません。」」
「うん知ってた。」
「うわぁ…」
残酷なまでに現実的な3人の会議を聞きそんな声がそど子から漏れる。
3人がこんな遅くに集まってたのはバケツプリン試食会の為だけではない。何気に生徒会長、戦車道教官、戦車整備班と重要どころが揃っているのだ。自然と会議も始まるものだろう。
そど子も興味本位でそこに同席していたが。
(ちょっと場違いだっかしら……)
と今更ながら後悔。
「やーっぱり次の試合で屋台でも開くしかないよねぇ…」
「だけど俺&自動車部5人じゃあやらない方がマシレベルだぜ?」
「稼ぎが経費を越えるビジョンが見えないかな……」
「んー……じゃあどうするぅ?今流行りのタンカスロンでも参戦する?」
「戦車が無いっつーかもし有っても全国大会優先だろう。」
「んじゃあホシイモ養殖して売ろう。大洗印の。」
「海の上じゃあ難しい気が……」
「てかその前に養殖ってどういう事じゃ。」
会議は踊る。とはこの事か。案は出るが実現は出来ない。
その中でそど子は何かを考えていた。
「バカ野郎ホシイモは生きてるに決まってるダロォ!?」
「ほらイクサのせいで杏さんが壊れたじゃん!」
「元から壊れてたでしょ。」
「この姿を見てみろよむしゃ美味しくなるために幾多のモグモグ苦難を乗り越えた結果手にいれた芸術的なまでのむしゃこのフォルムをさぁゴクン。」
「喋りながら一袋食べきるってすごい。」
「しかも美味しくなるのを目指した結果が芸術的なフォルムってどういう事だよ。」
「あのっ!」
「「「うん?」」」
会話が脱線してあさっての方に行きそうになった時。そど子が声を上げる。
「えぇっと……屋台の件だけど、人手が居ればどうにかなるのね?」
「ん?…ん~……まぁ売る量が増えるに越した事は無いが……」
「じゃあウチの……風紀委員が手を貸すわ。」
「えっ……因みに何名ほど?」
「100人。」
「はえ?」
「足りない?」
「いやいや十分過ぎる!杏。それで準備していいか?」
「……うん。任せるよ。」
「よっしゃ。ホシノ行くべ。」
「あいあいさー!」
イクサとホシノが慌ただしく部屋を出ていき、そど子と杏二人きりになった。
「……いいのん?正直、屋台を出すこと自体ちょっとそっちとケンカしそうだなって思ってたんだけど。」
「会長の性格は知ってるつもりです。出店を出してでも予算を確保して戦車道を続けるのは理由があるのでしょう?」
「…軽い理由だよ?」
「どこにも不満を出さないように誰よりも予算案とにらめっこしてた会長がその予算を圧迫する軽い理由って?……あなたは飄々としてるようですけど私は見てるんですからね?」
「あー…やっぱりそど子には敵わないねぇ。」
「園、みどり子、です!……まぁ何気に会長とは3年の付き合いですからね。」
「まぁ生徒会対風紀委員で何回もケンカしたしねぃ……悪友って感じ?」
「それはそっちが破天荒過ぎるんですよ!今でも泥んこプロレスの件は許して無いですからね!……はぁ。じゃあ今日は失礼します。皆に連絡しないといけないんで。」
そど子が立ち上がる。
「ち・な・み・に」
「はい?」
「私たちは三人で付き合ってるからね~」
「……あっ」
「フッフッフッ~本来の目的忘れてんの~どうせやらしい妄想してたんだろ~?」
「…………」
「えっ……」
「そんな素の反応しないでよ!」
「あの…なんか…ごめんね……?」
「やめて!恥ずか死しちゃうから!」
「……フッ……アッハハハハ!」
「なに笑ってんのよ!?」
「いやぁ~……アタシが生徒会長になってから園ちゃんずっと敬語だったじゃん?」
「……あっ」
「懐かしいねぇ~……アハハ!」
「ッ~~!……もう!知らないです!」
早歩きでドアに向かい廊下に出ようとする。
「ハハハ……じゃあ園ちゃんよろしくねぇ~」
「……」
「…ん?どうしたん?」
「公の場で無ければ……そど子でいいから。……悪友だしね。」
「……ずいぶん柔らかくなったんじゃない?」
「フフッ……二年に居る遅刻魔のせいで呼ばれ慣れちゃったのよ……じゃあね、あんちゃん。ほどほどにね?」
ガチャン
「ほどほどにって……こりゃ風紀委員公認って事かな?……それにしても……あんちゃんかぁ……久々に呼ばれたなぁ……あははは……はぁ……」
杏の目からハイライトが消える。
「どうすっかなぁ……」
その視線の先には未だ半分も食べきれてない巨大プリン。
「やっぱ15リットルはデカ過ぎ……まぁホシイモと一緒に食えば一瞬……あと3袋しか無ぇ……」
その数時間後。戻ってきたイクサと自動車部達が見たのはプリンと追加で持ってきたホシイモをミキサーに掛けてる杏の姿であった。
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サンダース戦当日。 観戦会場前。
風紀委員の協力により5人では難しいと思われていた出店を開く事ができ、さらに店数も予定より大幅に増え、試算ではかなりの儲けが期待できた。
イクサとホシノも、試合に出ている杏でさえもそれを疑わなかった。
「……イクサどう思う?」
「甘ったるいを越えた名状しがたい甘さです。」
「ホシイモプリンジュースの話じゃないよ!」
「わかってる。あれを見たら現実逃避もしたくなるさ。」
そう。競合するライバルが居なければ。
設営をほぼ終えた大洗印の出店が一列に並ぶ。それと大通りを挟んで向かい合うように出店が並んでいた。
「……あのピザの校章ってよく見なくてもアンツィオだよな?」
「巷で噂の出店ガチ勢ですな。」
「その噂は初耳だがあれを見ると納得しちまうな。」
「こっちの急ピッチで作った店とは訳が違う。最新のキッチンと伝統を積み重ねたイタリア本場の確かな味。しかもコックの練度も士気も向こうが上だね。」
「何そのちょっと改変したら戦争映画かゲームで出てきそうな説明。」
「まぁ戦力差もそれっぽいし?」
風紀委員の人海戦術と自動車部の徹夜の努力により店数は勝っているものの、質は間違いなく向こうが上である。
最初は優位に立てるだろうが、長期的に見ると劣勢になるのは目に見えている。
「……まぁいいか。ちょっと向こうに挨拶してくる。」
「挨拶(物理)?」
「止めて風紀委員さん達の前でそんな事言うの止めて。」
イクサは風紀委員数人からの痛い視線から逃げるようにアンツィオの出店へ向かった。
杏×そど子という新たな可能性。
それより屋台道では黒森峰的立ち位置のアンツィオにどう対抗しようかな?(自問)