ミッドチルダのカンピオーネ!   作:海豚

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導入一話目
要するにプロローグ的なもの


序章 ―戦女神― 
Memory;01 彼と彼女の出会い


 新暦78年9月。

 数多ある次元世界の中心と定められた第1管理世界『ミッドチルダ』のベルカ自治領。旧暦以前より残る自然が美しい地区。その一角にある彫刻のような綺麗な外観の建物。

 聖王教会本部。

 かつて古代ベルカ戦乱期に活躍した『聖王』を祀り、次元世界全土に多くの教徒がいる『聖王教』の総本山と言える場所の執務室にはとても重苦しい空気が充満していた。

 執務室内には二人の女性。一人は美しい蒼い瞳と長い金色の髪を持ち、深窓の令嬢を思わせる女性。もう一人は肩口でそろえた濃い桃色の髪と同色の瞳を持つ女性。こちらの女性は凛とした佇まいから騎士を思わせる雰囲気持っている。どちらの美人であるが、今は空中に投影されたディスプレイに目を向けており、その表情は一様に険しいものを浮かべていた。

 

「これが今回の『予言』ですか? 騎士カリム」

 

 側に控えた桃色の髪の女性が金髪の女性――カリム・グラシアに問いかける。

 

「ええ。まだ完全に解読できてはいないから、大まかな内容だけになってしまうけど」

 カリムには特殊な技能、一般には希少技能(レアスキル)と呼ばれているものをもっている。名を『預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)』といい、その能力は詩文形式で未来に起こりうる出来事を知ることができるという、一種の予言能力である。

 未来を見透せると言うと一見非常に便利なように聞こえるが、厳しい発動条件がいくつも存在し、しかしそれらの条件をクリアし発動できたとしても、現れる詩文は古代ベルカ語――数百年前に失われた言語――で綴られており様々な解釈ができてしまうために正確な解読は困難であったりと、使い勝手はそれほどよくはない。

 それでもこの『予言』により防げた事件は多いため、教会内外の組織からも重要視されている。

 

「しかしこの内容は……」

「……」

 

 二人の見るディスプレイにはある程度解読が進んだその『予言』の内容が写し出されていた。

 

『古代戦乱に死せる王はその身を昇華し

 

 災厄をもたらす神として再びこの世に顕現する

 

 世界は生ける地獄へと変わり

 

 何人も抗うことは許されない

 

 しかし剣を身に宿すもの現れるとき

 

 民の未来をかけた戦いが始まる

 

 神が勝利するとき世界は終焉へと近づく

 

 されど剣を宿すもの 人の身にて神を討ち滅ぼすとき

 

 その者 神殺しの魔王となり

 

 古代の遺した負の遺産と神殺しの戦いが幕を開けることとなる』

 

 概要だけとカリムは言っているが、これだけでも十二分に危機を感じられる代物である。今より三年ほど前の『JS事件』においても、管理局の崩壊という未曾有の危機が示唆されたが、今回は神の顕現に極めつけは世界の終焉。

 ようやく『マリアージュ事件』……表向きは『マリンガーデン事件』の影響が収まりつつある中でこれである。桃色の髪の女性――シャッハ・ヌエラは言いようのない怒りを面に出しそうになるが上司でもあるカリムがいるためグッとこらえる、が……。

 

「別に隠さなくてもいいわよ。今は私たちしかいないんだから」

 

 苦笑しながらカリムに告げられた。案の定と言うかやはりばれていた。何と無く察していたとは言え思わず顔を赤く染めるシャッハ。やはり自分の考えを読まれるのは恥ずかしい。幼馴染みでもあり長年共にいる故に正義感の強いシャッハの性格を熟知しているカリムにはお見通しらしい。まあ、シャッハにもカリムのことはお見通しではあるし、それ以上に人の考えを読んでくる友人が共にいるから今更ではあるのだが。

 軽く咳払いして、仕切りなおすように口を開く。

 

「この予言、管理局の方には?」

「まだよ。内容を知っているのは私たちと解析班の方たちだけで緘口令もしいているから、今のところ予言が広まる心配は無いわ」

「今回も事が事ですからね。協力を仰げるのは騎士はやてたちや本局のハラオウンの方々などでしょうか。……あまり前回の時と変わりませんね」

「まあね……とりあえずシャッハ。この予言に対してあなたはどう思う?」

 

 顔を引き締め、カリムが問いかけてくる。

 

「大まかな内容は予言の解釈の通りでいいのではないかと。ただ『古代戦乱に死せる王はその身を昇華し』の部分がひっかかりますね」

「やっぱり?」

「ええ。これから連想できるのは『聖王』『覇王』『冥王』などの古代ベルカの王たちのことでしょうか。しかしそのあとのが何とも……もしかしたら()()()()()に何かあること指しているのかもしれません」

「そうね……やはりなのはさんとフェイトさんには話した方がよさそうね」

「騎士はやてたちにも伝えた方がいいかと。……続けますとこの『神』と記された存在を野放しにして待っているのは世界の終わり……にわかには信じられませんが。幸いなのは『神』に対抗できる存在も記されているということですか」

 

 『剣を身に宿すもの』

 予言を見る限り、唯一『神』に対抗することができる者。

 同時にこの者が勝利することは新たなる戦いが始まることも示されている。

 

「どちらが勝つにしても、歓迎できる未来ではないわね」

 

 思わずカリムはぼやく。

 神が勝てば世界の終わり、剣の者が勝てば戦乱の幕開け。

 前者になるのはごめんだが、人類の味方という確証がない以上後者もまずい。今ある情報だけではどちらも許容できたものではないのだ。

 

「……カリム、ですがま「シャッハ~! シスターシャッハ!」……シャンテですか?」

 

 窓を開けて声のした方を見てみれば、淡い橙色の髪の少女が元気よく体を動かしていた。

 

「シャッハ~! 今日は稽古つけてくれるんでしょ~! 約束の時間とっくに過ぎてるよ~!!」

 

 少女はシャッハと約束があるのか、辺りを見回し探している。

 

「ふふ、愛弟子が呼んでいるようですよ。行ってあげてください」

「あ、ありがとうございます。あっ! あのですからまだ予言は……」

「わかっています。大丈夫ですよシャッハ」

 

 その言葉を聞いて、シャッハは微笑みを浮かべつつ執務室を出ていった。少しした後中庭から悲鳴が聞こえてきたが、おそらく先の行動がはしたなかったということで怒られているのだろう。

 しかしすぐにデバイスの打ち合う音が聞こえてきたので、説教も早々に稽古が始まったようだ。時折指導する声や掛け声が聞こえてくる。教える方も教わる方も、どちらも声が弾んでおり、この時を楽しんでいるのがよくわかる。

 

「予言は絶対ではないですからね」

 

 過去にも予言が起きなかった、外れたことは何度かある。阻止できたことは言わずもがな。

 未来は決まっていない。予言は到達するかもしれない未来の一つを示しているにすぎないのだから。

 自分たちはそれをよく知っている。

 まあ、まずは……

 

「お茶が飲みたいわね」

 

 最近お茶を煎れるのが上手になってきている水色髪の少女を思いうかべる。楽しそうに毎日を生きるその姿は三年前の彼女たちからは考えられないものだ。

 改めて思う。この平穏を守りたいと。

 そうしてカリムも執務室をあとにする。

 その後ろ姿に重苦しい雰囲気は微塵もなかった。

 

 だがこのとき、彼女たちは知る由もなかった。

 『予言』が示した日――来たる災厄はすぐそばまで近づいていることに。

 

 

 

       ✟

 

 

 

 新暦78年10月。

 St.ヒルデ魔法学院。聖王教会系列の学校の中等科棟の教室。待ちに待った午前中の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、多くの学生にとっての苦行の時間が終わりを告げた。

 授業をしていた教師の号令とともに各々生徒たちが行動を起こす。席を立ち友達と弁当を持ち寄る者、教室から出て他の場所で昼食をとる者、まあ多くの人が午後の授業に備えて腹を満たそう者たちだろう。

 そんな少年少女たちの中で一人の少年――アスト・フレアカードは席を立つことなく机に突っ伏していた。

 眠っているのかと思えばそうではなく、単に机に上半身をのせてダラけているだけのようだ。解放された窓から入る風によって、肩口でそろえた茶色の髪が靡いている。

 心地よい風が止むと同時にアストが顔を上げる。少年にしてみれば少々長い前髪から、深海のように深くも澄んだ蒼い瞳が覗いているが、今その眼は淀んでいて光がない。残っているクラスメイトがいつもと違うアストの様子を見ている中でアストが口を開く。

 

「……腹……減った」

『なら弁当食べろよ!』

 

 心底どうでもいい理由に皆の心が一つになった。こんなことでクラスが一つになるというのが酷く残念である。そんなクラスメイトの当然とも言える指摘の声に対し、呻くようにしてアストが再び口を開いた。

 

「弁当……忘れた」

『……午後の授業頑張れよ』

 

 薄情なクラスだ、と思うがそもそも原因はアストにあるため反論の一つもできない。

 しかし弁当、この場においては昼食をとることは燃費の悪いアストにとって死活問題であった。しかも午後の授業は初っ端から魔法実技の授業。講師によって内容(難易度と言い換えてもいい)が変わるこの授業、魔法を使うときもあれば格闘訓練のときもある。当然ではあるが非常に体力を使う授業である。

 いつもならば昼食を挟んでからであるため問題は無いのだが、愚かにも弁当忘れた今、場合によっては昼食抜きで格闘訓練という最悪のシナリオが待っている。

 

「ちなみに次の授業の講師は修道騎士のシスターシャッハだ。バリバリの格闘訓練だな」

「マジか……」

 

 待ち受ける危機を予想し頭を抱えるアストに、追い打ちをかけるように悲しい事実を告げられた。

 クラスメイトのキリト・ソラードイン。アストの友人の一人でミッドでは珍しい黒髪黒目が特徴的で、線の細い体格をしており、一見少女と間違いそうになる容貌をしているがれっきとした男である。

 小さめのバスケットを手にぶら下げたキリトはアストの横の席に腰を下ろし、バスケットからパンを取り出し口に運ぶ。……弁当の無い自分への当てつけか!? お前は悪魔なのか!? と思わずアストは恨みがましい目をキリトに向ける。そんな幼馴染みの姿に苦笑混じりにキリトはパンが入ったバスケットごとアストに差し出した。

 

「ほれ、そんな目でこっち見なくてもやるよ」

「いいのか!?」

「俺はあまり食べるほうじゃないしさ。腹もそこまで空いてないし」

 

 このとき瞳に光が戻ったアストにはキリトの姿が天使に見えたという。先ほど友を悪魔扱いした男とは思えない発言である。

 

「ありがとな。んじゃ……うめぇ!」

「そう? 母さんが聞けば喜ぶな」

「本当に美味いよ……ごちそうさま」

「相変わらず早いな……」

 

 バスケットには大きめのパンが四つはあったはずだが既に彼の胃の中らしい。まだ一分も経っていないはずだが、本当に味わって食べているのか些か疑問である。

 

「ふぃ~」

 

 当の本人は空腹が満たされたのか実に満足気だ。

 

「キリト、お前放課後暇か?」

 

 窓の外を見ながらアストが口を開く。

 

「残念。先に予定が入ってる」

「へぇ、相手は? アスナさん? リーファちゃん? それとも別の女子?」

「なんで女子の名前しか上がってこないのか疑問をぶつけたいとこなんだが……」

「そりゃあ……ねぇ?」

「……まあいい。相手は誰でもない。単に道場に顔を出しに行くだけだ」

「ああ、ミカヤさんのとこね」

 

 もう予定が入っていたようだ。まあアスト自身どっちでもよかったようだが。

 

「お前はどっか行くのか?」

「中央の方に、ちょっとな」

「気を付けろよ。前にマリンガーデンの事件もあったんだから」

「わーてるって」

 

 そうやって二人の会話は終わる。アストは窓の外を見てぼーっとしていて、キリトは自前のデバイスで空中にホロウインドウを展開し、流れるようにホロキーボードを叩きながら作業をしている。

 どちらも口を開くこと無く話すことも無い。しかしこうして気安い空気の中にいることが良いのか、会話が無くとも二人の間にはどこか居心地の良い空気が流れていた。

 

(……ん?)

 

 机に片肘をつけながらぼーっと外の景色を眺めていたアストが中庭に目を向けると、ちょうど日陰となる木の下に三人の少女が見えた。初等科の制服を着ており弁当を持ち寄って昼食をとっているようだ。

 アストの目に付いたのは三人の内の金髪の少女。確か中央の公共魔法練習場で偶に見かける、その年齢にしてはいい動きをするストライクアーツっ子だった気がする。

 

(この学院の生徒だったんだな……)

 

 覚えていたのは極単純なことで、とても目を引く容姿をしていたのだ。綺麗な金色の髪に紅と翠の虹彩異色の瞳の組み合わせはそうそう目にするものでもない。同一人物とみて間違いないだろうとアストは考える。

 

「そういやアスト」

「ん? なんだ?」

「お前やっぱりDSAA出ないのか?」

 

 不意にキリトが尋ねてくる。

 

「ああ。出るつもりはないぜ。それがどうかしたか?」

「いや、お前あんだけ練習してて何で出ないのかなって」

 

 キリトからの疑問。よく模擬戦だったり訓練だったりを共にしてるのでアストの強さはよく知っている。だがアストが大会などの公式戦に出るといったことは未だに聞いたことがなく本人は出るつもりはないときてる。なら何故彼は今も訓練をしているのか、長い付き合いになるキリトでもその理由はわからなかっ。

 

「あ、別に言いたくないならいいんだけどな」

「ああ、いや……別に言いたくないわけじゃないんだがな、なんか言葉にしにくいというか、なんつうか……」

 

 目を閉じアストは考え込む。どうすれば相手に上手く伝わるのか、やはり言葉にするのが難しい。

 

「ええとだな、先に言っておくと俺が訓練したりすんのはそりゃ強くなるためだ」

「ああ」

「ただ強くなりたいのは別に大会で勝ちたいとかじゃなくてだな、来たるべき戦いに備えているからっていうか、なんつうか……わりぃ、やっぱりいい言葉が思いつかねぇや」

「そっか」

 

 どうにも考えが上手く纏まらず、結局返せたのはのは要領の得ない答えだった。

 

「いやな、昔から強くならなくちゃならないとは思ってたんだよ。漠然とだけど」

「ふうん……」

 

 まあ納得のいく答えは言えなかったが一先ずこの話題はいいだろう。キリトもたまたま疑問が頭に浮かんだだけなので深く追求するつもりも端からなかったようだ。

 そしてちょうどよく昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

「チャイムもなったし次の授業の準備しとこうぜアスト」

「ん……そうだな。次はグラウンド集合だろうしな」

 

 そういいながら準備をし、足早に教室を後にするアスト。

 彼の頭の中では今日のシスターシャッハの訓練の脱落者は何人になるのかと、割とどうでもいいことを考えていた。

 

 

 

       ✟

 

 

 

 放課後になり、学院を出たアストは中央を訪れていた。ちなみにシスターシャッハの訓練の脱落者はクラスの大半を占めたとだけ言っておこう。

 思いのほかあっさり目的の品は手に入ったので彼は街をふらついていた。特にこの後予定はないので何をしようかと考えているとある場所で足を止め、ふと昼休みことを思い出し市民公園内の魔法練習場に目を向ける。

 アストの考えが当たっているなら……いた。

 中庭でも見かけた金髪の少女と赤髪の女性。大体この辺でいつも練習しているのは知っていたが案外簡単に見つかるもんだアスト自身少し驚いていた。

 見た感じスパーリングしているようで少女の方が女性に果敢に攻めにいっている。女性は少女の拳を受け流しフォームの崩れや問題点を指摘しているようだ。それを聞くたびに少女は問題のあったところを修正しているようで、スパーの始めのときと比べてその動きは綺麗になっておりキレも増しているように見える。

 

「やっぱすげぇな……あの年であそこまでできんのか」

 

 思ったことがいつの間にか声に出ていた。その動きは綺麗で少女の努力が見て取れ、その才能の片鱗も垣間見える。何より少女の顔には見惚れるような笑顔が浮かべられており、このスパーリングを、格闘技をとても楽しんでいるのが見てわかった。

 そんな風に彼女たちのスパーをアストが見ていると、赤髪の女性がこちらを見ているのに気付いた。

 

「――!――!」

(はい? 何て言ってんだ?)

 

 何か言っているようだが生憎アストは今年12歳の普通(?)の男子、読唇術のような特殊な技能の心得など無いため女性が何を言ってるのか全くわからない。

 

『そんなとこで見てないでこっちきたらどうだ?』

 

 こちらに声が届いてないことに気付いたのか念話に切り替えてきた。こちらを警戒した様子はなく、伝わってきた声音も優しげなものだ。

 断る理由も無いので、少々早足でアストは少女と女性のほうへと向かう。なぜお誘いを受けたのかはさっぱりだが。とりあえず褒め言葉の一つでも考えておこうと思いながら歩みを進める。

 

「遠くから見せてもらいましたが、お上手ですね」

 

 開口一番、出てきた言葉としては無難だろう。慣れない敬語まで使ってみた。

 少女の動き、女性の指導のどちらともとれる言葉を放つアスト。初対面の相手なので失礼のないように選んだ言葉だ。まあアスト自身は金髪の少女に向けた比重が高いようだが。

 

「そうか? よかったなヴィヴィオ」

「あ、ありがとうございます」

 

 どうやら彼女たちもアストと同じように解釈したようだ。

 褒められた少女は照れ臭そうにしながらも、どこか誇らしげに笑顔を作っていた。

 

「いや、ホントに。その年であそこまで動けるのは凄いと思いますよ……ところで何故に俺を?」

「たまにここで見かけるからな。知り合うのにちょうどいい機会だと思ってな」

 

 彼女たちも彼女たちでアストのことを知っていたらしい。同じ場所で練習しているのだから、ある意味当然かもしれない。

 

「なるほど……制服見てわかるとは思いますけど、St,ヒルデ魔法学院中等科一年のアスト・フレアカードっていいます。呼びやすいほうでどうぞ」

「高町ヴィヴィオです。St,ヒルデ魔法学院初等科の三年になります。よろしくお願いします、アストさん」

「あたしはノーヴェ・ナカジマだ。ヴィヴィオのコーチみたいなことをしてる。ノーヴェで構わないぜ、アスト」

 

 金髪オッドアイな少女がヴィヴィオ、赤髪に金色の瞳をした女性がノーヴェと言うようだ。どこかヴィヴィオの名字に聞き覚えがあるような気がしないでもないが今は別にいいだろう。

 

「今日は練習に来たんじゃないのか?」

「今日は親父の仕事の関係ですね。買い出しに行ってその帰りにお二人の姿を見かけたので」

 

 実際はいるだろうと当てをつけて来たのだが、別に馬鹿正直に告げることでもないとアストは考えた。もちろんやましい気持ちはなかったが、ことの捉え様によってはマズい気もするのだし。

 

「でも模擬戦くらいなら今からでもできますよ?」

 

 意識的に挑戦的な笑みを浮かべながら、アストは二人に問いかけるように言った。

 たぶんノーヴェさんが声をかけた理由ってヴィヴィオの練習相手が欲しかったからなんじゃないかな、とアストは予測していた。同じ人とずっと戦うより色々な相手をする方がいい経験なるからだ。ノーヴェとヴィヴィオの表情を見ると嬉しそうに笑顔を浮かべているのでこの考えは当たりだろう。

 

「なかなかわかってんじゃないか、アスト。そんじゃ、ヴィヴィオと一勝負お願いできるか?」

「アストさん、よろしくお願いします!」

 

 二人の言葉を受け、アストは顔に笑顔を浮かべ答える。

 

「断る理由もないさ。こちらこそよろしくな、ヴィヴィオちゃん」

 

 

 

 

       ✟

 

 

 

 

 軽い柔軟の後、ノーヴェから勝負形式などを説明されお互い所定の位置につく。

 

「ねえノーヴェ。あれ試してみてもいい?」

「あれ? ああ、あれか……なのはさんの許可は?」

「あとは細かな調整だけだから、ノーヴェが見ててくれるならいいよって」

「んー……ならいいぜ。なのはさんには説明しといてやるよ」

「ノーヴェ、ありがとう!」

 

 なにやらあっちで二人がなにやら話しているが小声で話してるのでうまく聞き取れない。

 少しして話終わったのかヴィヴィオがこちらを向き構えをとる。

 

「アストさん、いきますよ……!」

 

 何をするのかと首を捻っていると、ヴィヴィオが虹色の魔力に包まれる。その輝きが収まると、そこには10代後半くらいの姿になったヴィヴィオがいた。

 いや、才能がある子だとは思ってたけどまさかここまでとは……。

 

「デバイスなしで武装形態とか……」

 

 本当に開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 アストはヴィヴィオのスペックに舌を巻く。ホント、とんでもない子だ。

 

「えへへ……驚きました?」

「そりゃあもう凄く……こりゃ俺も負けてられないな」

 

 そう言うとアストは首にかかった剣型のネックレスとなっている自分のデバイスを掴む。

 

「さあ出番だぜ、スラッシュブレイブ」

『Get set.』

 

 起動音が鳴りデバイスが展開されるとともにアストの体が赤い光に包まれ、光の消滅とともにヴィヴィオと同様に未来の姿に成長した姿をしたアストが現れる。紅が鮮やかなロングコートに黒の上下と、中々に黒尽くしの防護服。右手にはデバイスが展開され、刀身が長く大きめな紅い片手剣が握られている。

 

「アストも使えたのか」

「まあデバイスの補助を受ければですけど。これでこちらの準備は整いました」

「こっちも準備完了だよ~」

 

 ヴィヴィオが左腕を腰に引き右半身を前に出し、アストが左手をそえるようにして剣を正面に構える。二人の間は10メートルほどだが彼らにとってはすぐに詰められる距離。何か動きがあればすぐに対応できるように全身に張り巡らされた神経を研ぎ澄ませる。

 

「手加減無しですよ、アストさん」

 

 相手の目を見れば自分の姿が映っている。

 

「手加減云々はあれとして……負けるつもりはないぜ、ヴィヴィオちゃん」

 

 動きを見逃さないように自らの視界に相手をおさめる。

 

「…………」

「…………」

 

 それ以上、お互いに言葉はかけなかった

 交わすべきは互いの拳と剣。

 互いに相手の動きを牽制し、辺りを静寂が支配する。

 

「ッ!」

 

 先に仕掛けたのはヴィヴィオ。

 強化された身体能力をもって距離を一気に詰め、肉薄する。右手にグッと力を込め拳を形作り、そのままアストの体の中心に向かって振り抜かれる。

 拳の速さは十二分だった。しかしその速度に慣れているアストは、ヴィヴィオの動きを目で追う余裕を見せながら、後ろに引いた左足を軸に回転。向かってきたヴィヴィオの背面に入れ替わるように回り込み、その勢いのまま剣を振り下ろす。

 

(もらったか?)

 

 初動の速さにこそ驚かされたアストだが目で追えるスピードだったため、最小の動きをもって避けカウンター。避けることのできない速度で繰り出された斬撃はそのままヴィヴィオに当たるかと思われた。

 だが、放たれたカウンターに合わせるようにこちらを振り向いたヴィヴィオの拳がアストの剣の腹を殴り、紙一重で斬撃の軌道が逸らされる。体勢までは崩されなかったがそこに怒涛のラッシュが入り応じるように剣を振る。ヴィヴィオが持ち前の拳と蹴りを放ち、アストは研ぎ澄ました剣戟と隙を埋めるように体術を繰り出す。お互い数度打ち合い、躱し、剣と拳を大きくぶつけ合った後に大きく距離をとる。

 

(あの一撃に反応してきたのか、それともあらかじめ予測していたのか。まあ……)

 

 必殺となりえた一撃を防がれたアストは驚嘆するとともに、思考を重ねる。

 あの一撃に対処できるような非常識なレベルの反射神経と反応速度を持っているのはアストの知るかぎり幼馴染みの黒の剣士だけ。あんなのが他にいるとは思えないのでおそらく予測したのだろう。やはり末恐ろしい子だ。

 だがアストにとって重要なのはそこではない。

 

(やるじゃねえか……)

 

 体が昂揚感に包まれる。口が勝手に笑みの形を作るのを止められない。ヴィヴィオを見れば彼女も顔にアストと同種の笑みを浮かべている。この勝負を酷く楽しんでるのは彼女も同じようだ。

 ヴィヴィオもまたアストの技量に舌を巻き、同時に今の自分では敵わないことを理解した。主力としている剣術だけでなく、時折こちらを狙い穿ってくる体術も修めている。しかし彼女の頭に諦めは無く、瞳には先ほどよりも強い戦意が宿っている。

 技術で勝てないのなら戦略で、相手の動きを見逃さず視界から外さず、先読みし続ける。そうして好きあらば強力な一撃をお見舞いするのだ。

 負けるつもりなどない。

 長引かせるつもりもない。

 お互いにそれを認識し同時に再び地を駆ける。

 アストが剣を左下から居合の形で剣を振り上げるが、ヴィヴィオの右拳が体に届く前に剣を上に弾き、お返しとばかりに左足から蹴りが放たれた。狙いはがら空きの横腹だがアストがヴィヴィオの蹴りに合わせるように左足を蹴り上げる。両者の鋭い蹴りが交差し、わずかに競り合った後、アストの蹴りが空気を引き裂いて振り抜かれる。競り負けたヴィヴィオはギリギリで距離とって躱すが、無理な挙動が祟り体勢を崩した。それでも勝負を諦めることなくすぐに立て直そうとしたが、それよりも早く紅い剣尖が飛び出てきた。

 体勢を立て直し、迎撃しようとしたところで眼前に紅い剣先が現れる。

 剣線の後ろからアストが鋭い眼つきと凄絶な笑みでヴィヴィオを見ていたが、ふっと表情を崩しヴィヴィオから視線を外しノーヴェの方を向いた。

 言わんとすることを理解したノーヴェが口を開く。

 

「……勝負あり、勝者アスト!」

 

 

 

 

       ✟

 

 

 

 

「アストさんってストライクアーツもできたんですか!?」

 

 試合が終わりベンチで休んでいると、先ほどの手合わせでの昂揚感が抜け切らないのかどこか興奮気味に、ヴィヴィオが試合中に感じた疑問をアストに投げかけてきた。

 

「ああ、俺のバトルスタイルは剣術(ブレイドアーツ)体術(ストライクアーツ)の複合型だからな」

 

 一度手合わせすればわかることなので隠すことなく普通に返答するアスト。

 ノーヴェも気になるのか会話に加わってくる。

 

「どっちも修得してんのか……」

「俺には砲撃はおろか射撃適正すらなかったですし、今でもシューターの一つも作れませんからね。そのかわり代わりかどうかはわかりませんが、近接技能と身体強化には高い適正がありましたから。あとは長所をひたすら伸ばしてました」

 

 この二つの組み合わせしたのも自分の剣技の隙を埋めるためですし、とアストは付け足す。

 

「なるほどな……しかし確立できたのはここ最近か?」

「……そこまで見抜いちゃいますか」

 

 あっさりと言いのけたが、アスト自身ここまでスタイルを確立できたのはつい一年ほど前のことだ。それに体術の方は誰かに教えを受けているわけではない。故にまだ少し粗が目立つと内心考えていた。

 

「……あたしが少し見てやろうか?」

「いいんですか!? よろしくお願いします!」

 

 一人では少し厳しくなってきていたアストにとってノーヴェからの誘いは願っても無いことだった。

 遠目から見ているだけのつもりが模擬戦になり、いつの間にかコーチまでできてしまった。

 嬉しい誤算もあったものだとベンチに深く体を預けながらアストは考えた。

 

「あのっ! アストさん!」

「うん?」

 

 会話を聞いていたヴィヴィオがアストに話しかける。声は弾んでいてとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

「これからよろしくお願いしますね!」

「ああ。こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

 互いに言葉を交わし、握手する。二人とも見ていて微笑ましくなるような笑顔で、見守っていたノーヴェもつられるように笑みを作っていた。

 

「さて、もういい時間だしな。そろそろ帰るか?」

「そうですね。んじゃまた今度。ヴィヴィオちゃん、ノーヴェさん」

「はい、さようならアストさ……あれ?」

「ん? どうした?」

 

 気になったアストがつられるようにヴィヴィオの視線の先を見る。

 

 

 ――瞬間、世界が停止したかのように錯覚した。

 

 

 視線の先には一人の女性らしき姿。遠くにいるためよくは見えないが金髪を後ろで纏め、騎士甲冑と肘上まで籠手のようなものを両腕に身につけている。

 アストもヴィヴィオも、まるで引きつけられたようにその女性から目が離せない。

 女性の顔は何故か霧がかかったようによく見えず、口元の動きが多少見える程度だ。

 

「――――」

 

(え?)

 

 女性が口を動かし、言葉を紡ぐ。

 ひとしきり言葉を紡ぎ終わると動きを止め、口角を上げ、こちらに笑みを向けてくる。こちらを挑発しているようにも、憐れんでいるようにも、期待するようにも、慈愛深き聖母の微笑みのようにも見ることのできる笑み。

 その意味がわからず困惑しているとその姿は徐々に霞んでいき、消えていった。

 

「何だったんだ、あの人……」

「さあ……私にも何であんなにも引きつけられたのかまったく……」

「どうかしたのか、二人とも?」

 

 ノーヴェには見えていなかったらしく二人の様子の理由がわかっていないようだ。

 

「ううん、何でもないよ」

『アストさんは見えてましたよね?』

 

 ヴィヴィオがノーヴェに返答しつつ念話でアストに話しかける。

 

『ああ。見間違いってわけじゃないな』

『ですよね……何もしてこなかったですし、幻術魔法のイタズラですかね?』

『…………』

『アストさん?』

「アスト?」

「……ええ、何でもないですよ。そんじゃあ俺はこれで」

『……たぶんイタズラだろうな、まあ気にしなくてもいいだろう。そんじゃ気をつけてな』

 

 ヴィヴィオに念話で、ノーヴェに口でそれぞれ言葉を返して帰りの道につく。

 だが道中、アストは女性のことを考えていた。

 ヴィヴィオにはイタズラだと言ったがアストはやはり違うと考えていた。なんというか、直感でアレはそんなものではない、と。

 何より女性の口から紡がれた言葉。

 

(『――言霊の剣を持ちし者、いずれ――』って言ってたけどヴィヴィオちゃんには聞こえていなかったみたいだしな……俺に向かって言ってんのか?)

 

 言葉の意味を考えつつ家へと歩を進める。

 彼と彼女が言葉の意味を、女性の正体を、そしてその存在が意味することを知るのはまだ少し後のことだった。

 

 

 

       ✟

 

 

 

 白い空間。

 白以外の色は存在せず見渡す限り何もない空間。この中にいるだけで前後左右の把握ができなくなり、存在が希薄になってしまう感覚に陥りそうになる。

 そんな空間に一人、少年が佇んでいた。

 艶のある黒髪に象牙色の肌をもち、周りに人がいるなら老若男女問わずその視線を集めるであろう姿をした中性的な美少年。

 存在が消えゆくこの空間にその身を置きながら、その圧倒的な存在感は揺るぐことなくその場に留まり続ける。

 

「戦が始まる」

 

 少年の口から言葉が紡がれる。ここにはいない誰かに向かって語り掛けるように、静かに、しかし力強く空間に響いていく。

 

「幻想であろうとも、我が力の一部をその身に宿すかぎり、まつろわぬ存在との戦いは避けられぬ。だから――」

 

 

 

 

 ――――無様な真似は晒してくれるなよ? 異世界の少年よ――――

 




初めまして、海豚です。
なのはViVidとカンピオーネ!のクロスオーバー
舞台と大まかな流れは基本リリカルです。
進むにつれカンピオーネ!要素が強くなっていく予定です。
更新は遅めですが完結目指して頑張っていきますので、お付き合いいただけると幸いです。
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