ミッドチルダのカンピオーネ!   作:海豚

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風邪引きました。気温の変化についてけなかったようです。
皆さんも体調の変化にはご注意ください。


Memory;11 魔を裂く剣 -side V&E-

 疾走(はし)る。

 人々に、魔導師に気づかれることなく疾走する。

 人の波が途切れたところで屈伸し、勢いをつけて跳躍する。

 音を立てず、人々に存在を認知させることなく、高層の建物を渡り跳び歩く。

 

 ふと立ち止まり、頭を下に向ける。

 眼下に蠢く人々は今起きている非日常に気づくことなく日常を過ごしている。

 それは戦う術を持つ管理局員(もの)たちも同様に。

 

 再び視線を移す。

 自分が向かうべき場所。見えてくるのは展開された結界。

 その結界に誰も気付かない、誰も気が付くことができない。

 

 しばし見つめた後、再び疾走る。

 胸中に思い浮かんできたのは過去の景色。

 色褪せることも風化することもない黄昏の思い出。

 その記憶は心に暖かな安らぎを、同時に万力で締め付けられたかのような鈍い痛みを、そんな相反するモノを与えてくる。

 

 掌を拳に変えて、強く握り込む。

 あの時、果たして自分の、自分たちの選択は正しかったのか。

 終わってしまったことだから、過去の出来事であるからこそ考えてしまう。

 そんなことをしても意味はないと、今さら何も変わりはしないとわかっていても。

 

 地を駆ける速度を、足場を踏む力を上げる。

 わずかな望みのために作り上げた舞台。

 その役者は揃いつつあり、しかしすべて集まったわけではない。

 だが既に開演の幕は上がり、賽は投げられている。

 オモリが乗せられた天秤は揺れに揺れ、本来傾くはずのない方に傾く結果となった。

 運命の気まぐれか、それとも天の采配か。はたまた足掻こうとする意志というやつなのか。

 そんならしくもない考えが、浮かんできては泡沫の如く消えていく。

 でも構いはしない。

 見っともなくても、泥臭くても、カッコ悪くても、何だっていい。

 遥かに低い、それでもわずかな確立で届くかもしれないものを、この手に掴み取るために。

 約束した友との約束を守るために。

 自分たちの拭い去れない過去の清算のために。

 だからそのために。

 

 

 

 ――――ただひたすらに疾走して駆け抜けろ。

 

 

 

       ✟

 

 

 

 自分の思いに区切りをつけることができたからか、それとも単純な疲労か。力が抜けて倒れたアインハルトを抱えながら、ヴィヴィオは途中からすっかり蚊帳の外に置かれていたノーヴェたちのもとに戻っていた。

 

「やりすぎだ、お前ら! とくにヴィヴィオ!!」

「ごめんなさい!!」

「す、すみません……」

 

 戻ってすぐに二人揃ってノーヴェのお叱りの言葉を頂くこととなった。

 そのあまりの剣幕にヴィヴィオはアインハルトを優しく、かつ素早く丁寧に地面に下ろして正座。そしてすぐさま平謝り。隣では少し辛そうにしながらもアインハルトが座って同じように頭を下げている。

 

「結界張ってたからいいけどな、周り見てみろ! お嬢の白天王とキャロのヴォルテールが暴れたわけじゃねえのに地面は抉れてるし倉庫は倒壊してるし! 怪獣決戦したわけでもないのに完全に世紀末だぞ!?」

「ノーヴェ姉さまが壊れた……」

 

 いつもは年長者の余裕を崩さないノーヴェが、ついに自分の処理キャパシティを超えたのか怒りを前面に出しており、心なしか目がグルグル回っているように見える。

 ディードもこんなに取り乱す姉は見たことがなかったのか、口を空けながら引いている。

 指摘されてヴィヴィオはアインハルトと共に周りを改めて見回した。

 コンクリート製の大地はいたるところに抉られたように剥き出しの地面が覗き、すり鉢状にへこんでいる所もある。倉庫に至っては倒壊ギリギリからアウトまで、無事なものは存在していない。

 うん、ごめんねノーヴェ。色々と……。

 目の前のコーチ兼友人のあられもない姿に苦笑いを浮かべながら、ヴィヴィオは心の内で謝罪を述べた。

 こんな姿を晒しては姉の威厳が……元々この双子相手にあったかどうかは知らないが、後々イジられるネタを提供することになってしまったのは間違いないだろう。

 

「ところで、アインハルト様は大丈夫なのかい?」

 

 普段絶対に見られないノーヴェの姿には目もくれず、隣に座っているアインハルトを見ながらオットーが聞いてくる。単純に優先するべきことを優先しただけかもしれないが、ノーヴェからのお叱り? から逃れられるので今はそのマイペースさに感謝すべきかもしれない。

 

「あ、大丈夫だよ。私が治癒魔法かけてるから。でも体力までは回復できないからしばらく疲れたままだけど」

「はい、立ち上がるのは少し億劫ですが……ヴィヴィオさんのおかげで身体の痛みはとれてきてます」

「……陛下って治癒魔法使えたっけ?」

「シャマルさんの真似だけどね。……今は他の人に使っても問題ないくらい上達したから心配しなくても大丈夫だよっ!」

「……ホントに?」

「ホントだよっ!?

 アインハルトさん心配いらないからね!? 大丈夫ですからね!?」

「はい? あ、いえ、わかってます大丈夫ですから、そんな鬼気迫る表情で近づかなくて大丈夫です」

「ほんとに大丈夫ですからね! 何なら腕切り落とされても繋げられますから!!」

「わかってますから、ええ治癒間違いなく効いてます。あとそんなに近づかれると流石にちょっと怖いです」

 

 ノーヴェは未だに説教モドキを続けており、ディードはそれを止める前にドン引きしていて思考停止状態。

 ヴィヴィオは必死に怯え気味のアインハルトに治癒魔法の安全性を説明していて、アインハルトはジリジリと詰め寄ってくるヴィヴィオに無表情ながらも冷や汗垂らしながらも対処している。

 ちなみにアインハルトが若干怯え気味なのは、ヴィヴィオの鬼気迫るかのような表情でにじり寄ってきているからである。しかしヴィヴィオはそこに気づかずまた意味のない説明に入り、アインハルトはさらに引け腰になる。

 傍から見れば酷いイタチごっこである。

 見ている側としては微笑ましい光景……のはずだが二人とも大人の姿のままのため、まあそれは何とも言えないものになってしまっている。アストがこの場にいなくて救われた。もちろんお互いに。

 ノーヴェの方もヴィヴィオの方も大概に纏まりがつかない状況になっている。

 今モロに被害を受けているのはノーヴェの方はディード、ヴィヴィオの方はアインハルト。後で冷静になればノーヴェとヴィヴィオが自分の行動に悶え苦しむだろうが。

 

「……うん、とりあえずはノーヴェ姉さまかな」

 

 結界も早く解いてもらわないといけないし、と唯一どちらの被害も受けていないオットーは周りの惨状を見て嘆息しながら近づく。

 が、異変は突然訪れた。

 

「……なんだ?」

 

 最初に気づいたのはノーヴェ。

 先ほどまでの怒りも霧散して、突如身に感じた()()()に急に黙り込む。

 ノーヴェの急な変にヴィヴィオたちも何事かと思い訝しげに彼女を見る。

 周りを見ても特にこれと言ったものは感じられない。

 

「……これって」

 

 すぐにヴィヴィオが頭上に巨大な魔力を感じ取る。

 結界内からは見られないことから結界外の上空にいるとわかった。

 だがそれがどういうことなのか、材料が無いため判断することができない。

 しかし、すぐに答えは出ることになった。

 

「ッ!? お前ら全員構えろ!! 結界が乗っ取られた!!」

 

 ノーヴェの叫びと共に結界内の景色が一変する。

 荒廃していた倉庫街は戦った前に戻され、同時に結界の種類が変質する。

 “外”と“中”を隔絶するものから、内部の者を逃さない罠染みたものに。

 

「結界を壊しますか?」

 

 辺りを警戒しつつオットーとディードがノーヴェに提案する。

 二人とも既に自らの先天固有技能(インヒュレート・スキル)を発動させており、戦う準備は整っていることがわかる。

 しかしノーヴェは二人を手で制した。

 

「……無理だな。あたしとジェットエッジに直前まで気づかせず結界のプログラムに介入してくるような奴だ。そんな奴が内部から破られるのを想定してないわけがない。

 たぶん、相当強固に作られているはずだぜ」

「しかしこのままでは……」

「こっちが後手に回らざるを得ない以上、無暗に動くわけにはいかねえだろ?

 すぐに壊せるような結界じゃないなら時間がかかるし、その間無防備なった所を狙うのが相手の作戦かもしれねえ」

「でも……」

「今は抑えろ。それに結界張った奴の狙いはたぶん……」

 

 ノーヴェにつられるようにして、オットーとディードはヴィヴィオとアインハルトを見やる。

 いくら同年代より成熟した精神を持っているとしてもまだ子供の域を出ない存在だ。パニックに陥ってないだけマシなのだ。自分たちが焦っている場合ではないとノーヴェも言外に伝えたかったのだろう。

 ……そのはずなのだが、どうにも様子がおかしい。

 

「この結界は……」

「……この気配、まさか……」

 

 二人は冷静そのもので、まるでこの状況を知っているかのようにも見えてしまう。

 

「――ッ! 来ます!」

 

 アインハルトの言葉と同時にソレは現れた。

 閉じ込められた結界内の地上空中を問わずいくつもの紫紺のベルカ式魔法陣が形成されていく。

 大地と空を覆う無数の逆三角の魔法陣が一際鈍く輝き、魔法陣を吸い上げるようにして黒い泥のような魔力の塊があちこちに出現する。

 

「これは……」

「凄い光景だね……見てみたいものじゃなかったけど」

 

 黒い魔力の塊が一斉にその形を変えていく。

 地上に出現したものは強靭な四肢を持つ四足の狼のような姿に。

 空中に出現したものは屈強な翼を広げる鷹のような姿に。

 どちらも体毛の一本一本まで暗い紫紺に染まり、鋭利な爪牙を持つ三、四メートルほどの巨大な肉体を持っており、その面構えも瞳に光はなく、血みどろのような深紅を携え、野生の生物ものとも比較にならないような凶悪なものとなっている。

 わずか数秒で、怪物と呼んで差し支えない異形の存在が結界内の至る所に出現した。

 

「くっ!? ノーヴェ姉さま!!」

「速いッ!?」

 

 敵の動きを見極めるために固まっていたのが仇となったのか、異形たちの出現と共に周りを完全に囲まれる。

 示し合わせたように異形たちは一斉に動き出した。

 空を埋める紫紺の鷹は鋭い嘴の先に体色よりもさらに濃い色の魔法陣を展開し、ドス黒い魔弾を生み出す。

 一匹につき一弾。

 異形の数だけ生み出された魔弾は千に届こうかと言うほどで蒼穹を黒く塗り潰していく。

 大地に爪を立てる紫紺の狼は、口から牙を覗かせながらこちらに向かって疾駆してくる。

 近くのものは地面を踏み潰し、遠くのものは跳びかかるようにして、紫紺に蠢く獣が深紅の眼線を残しながら迫る。

 

「Graaaaaaaaaaaaaaaa――!!」

 

 体勢を立て直す暇もない。

 時間の流れが急激に停滞したかのように、空からは魔弾の雨が、周囲からは餓狼が迫ってくるのが視界に映る。

 加速する意識だけが鮮明に視覚情報を脳に伝えてくる。

 二人を守護すると同時に迎撃に移るべく、ノーヴェたちはアインハルトとヴィヴィオを囲うようにして異形からの壁となる位置に着く。

 人よりも素での身体能力が高い戦闘機人であったからか、ギリギリで間に合う。

 ヴィヴィオはアインハルトを守るように抱えながら身を低くしている。

 二人の姿を確認した三人は避けられぬ衝撃に備える。

 

 

 ――――来る。

 

 

 各々が自らの武器を呼び起こし、先天固有技能(インヒュレート・スキル)を発動させる。

 迫りくる魔の連弾を撃ち落すべく四肢を振るおうとしたとき――

 

 

「――何人も徹さぬ守護の盾 敵の軍勢を阻む祈りの城壁よ 招来せよ我が眼前に……大丈夫だよ、みんな」

 

 

 背後から聞こえた声とともにノーヴェたちの前にドーム状の障壁が生み出され、迫りくる魔法の連弾が防壁に阻まれた。

 決して低くない威力の、無数の弾丸を防いでいるにも関わらず、展開された防御魔法は中に衝撃を徹すことなく目の前に在り続けている。

 ノーヴェはこの()()に輝く障壁を展開したであろう少女を見やる。

 

「ヴィヴィオ……」

 

 周囲の視線を受けながら、一本に纏めた金色の長髪を揺らしつつヴィヴィオはゆっくりと立ちあがる。

 

「即興で作ったから、ちょっと甘いかな……」

 

 作り上げた防御魔法を見て、評価をつける余裕を見せながらヴィヴィオは呟く。

 障壁の外では尚も襲い来る魔弾の隙を縫うように、餓狼の軍勢が障壁を破ろうと鋭利な爪牙を突き立ててくる。

 魔弾が着弾して薄くなった部分を狙ってきたようで、少しずつ牙や爪が障壁に食い込んでくる。

 このままでは展開された障壁がいくら堅牢であろうと、破られるのは時間の問題かもしれない。

 だがヴィヴィオの表情はこの現状に似つかないほど、涼しげに微笑すらたずさえている。

 まるで目の前の存在など脅威足り得ないとでも言うように。

 

「弾け飛んで――バリアバースト!」

 

 力強く告げられた言葉を受け、防壁が一際強く輝き――外に向けて爆発。周りを囲んでいた異形たちを破壊の衝撃とともに大きく吹き飛ばす。

 外部に解き放った衝撃は防壁に喰らいついていた異形たちを魔力素へと還し、付近にいたものにも肉体の一部を奪うほどの大きなダメージを与えた。

 それでも全体の数からしたら微々たるものだからか、すぐさま五人を異形の大群が包囲する。

 

「というわけで、私がこの魔獣たち相手にするから。ノーヴェたちは結界とアインハルトさんをよろしく」

「何がというわけなのか全くわからないんだが……大丈夫なのか?」

「心配しすぎだよ、たしかにノーヴェたちが結界を何とかするよりも私が倒しちゃう方が早いと思うけど……出番の心配なら大丈夫じゃない?」

「そうじゃねえよ! つかこの状況で随分落ち着いてんなお前は!?」

「経験の差じゃないかなあ?」

「アタシより年下だろお前は!」

 

 戦場だというのに、似つかわしくない雰囲気を出しながら軽口を投げ合う。

 場違いに思える二人のやり取りだが、アインハルトたちはそこに二人の絆の強さを垣間見た。

 

「まあとりあえず、そっちはよろしくね。フォローはなるべく入れるから」

「いらねえよ。お前は自分のことに専念しとけ。足下救われんなよ?」

「了解。よろしくね、師匠」

「そこはせめてコーチにしとけ。おう、任された」

 

 拳を軽くぶつけて、ノーヴェはヴィヴィオが飛翔するのを見送る。

 

「ちょ、ノーヴェ姉さま!? 陛下を一人にしたら!」

「そうです。僕らのどちらかだけでも……」

「いや、お前らはアタシと一緒に結界ぶっ壊す算段つけるぞ」

「ですが……」

 

 ディードとオットーがヴィヴィオを心配するが、ノーヴェは二人の意見を一蹴する。

 二人がヴィヴィオを心配していないのかと、問い詰めるように口を開くが、先にノーヴェが言葉を被せる。

 

「心配してねえわけじゃねえ。アタシだってヴィヴィオ一人に戦わせたくはないさ」

 

 でもな、と。

 ノーヴェは笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。

 

「それ以上にヴィヴィオを信頼してんだよ。それにお前らがアイツを心配すんのもわかるけど……お前ら、本気のヴィヴィオが戦っているところ見たことあんのか?」

 

 その言葉を受け、ディードとオットーは訝しがりながらも首を横に振る。

 二人はヴィヴィオが強くなったとは聞いていた。しかし聞いていただけで実際に見たわけではなかった。

 だから二人は知らない。

 

「見てみろよ。今のアイツは……」

 

 二人がノーヴェの言葉を受けてヴィヴィオの方に視線を移す。

 そこには宙に浮かんだ、異形に上下左右を囲まれた状態のヴィヴィオの後ろ姿があり、こちらの視線がヴィヴィオに移ったのを見計らったように、異形が一斉に動き出した。

 危ない!

 その叫びすら届かないほどに異形がヴィヴィオに群がるのが早かった。二人にはその先にあるだろう凄惨な光景をありありと想像できてしまった。

 そして彼女たちはその光景を見る。

 

「――ディバインセイバー!!」

 

 聞きなれた少女の掛け声。

 同時にヴィヴィオの周囲から迫っていた異形たちが一斉に動きを止め、そのまま肉体を重力のままに落下させていく。

 落下した異形たちは何かに()()()()傷口から肉体を構成している魔力を撒き散らしながら肉体が霧散し、消滅した。

 落下し終えることもなく消滅する存在すらもいた。

 囲んでいた異形たちが消え失せ、見えてくるのは二人が知っている、陛下と呼んでいるはずの少女の姿。

 その両腕の周りには虹色の魔力の残滓が漂っていて、どこか浮世離れした美しさを醸し出していた。

 地面に腰を下ろしているアインハルトも、自分たちとはまた違うもの感じているようだが、同じようにヴィヴィオに視線を固定させていた。

 

「――ただ守られるだけの存在じゃないんだぜ」

 

 変わらず笑みを浮かべ……同時に額に冷や汗を浮かべながらノーヴェはそう告げてきた。

 

 

 

       ✟

 

 

 

「うん、やっぱりこんなものかな」

 

 四方八方を異形の存在に囲まれていた状況にいた高町ヴィヴィオは、一人そう呟きながら再び相手が群がってきたのを確認し、再び両腕に魔力を収束させる。

 

「アストさんが戦っているのを見てるばかりだったから、対処法は限られるんだけど……」

 

 先ほどとは違い、今度は術式をゆっくりと創り上げていく。

 数週間前に、アストと一緒に今のような事態になったことがあった。もっともその時とは敵の規模と種類も違ったが。

 とりあえずこの異形たちの背後にいる存在は前回と同じ相手だと決定できる。

 となれば対処法は知る限りで一つ。

 

「それっ!」

 

 振るわれる腕の軌跡を追うように、虹色の斬線が閃く。

 発動したのは先ほど使用した魔法であるディバインセイバー。

 両腕を覆いながら魔力で構成されたニメートル程の長剣の姿を模しているが、実際は砲撃魔法の射程距離を限定して常時発動させているだけなので、その姿は先端が細くなっているただの棒のような姿なのだが。

 先ほどに使った時は構築が甘かったので身体への負担が少し大きかったが、改良できた今はさして負担も無く展開できている。

 

「やあっ!」

 

 両腕を交差させて勢いよく振るう。

 たったそれだけで斬線にいた敵が、いとも容易く十字に切り裂かれていく。

 それだけで少なくない数の異形が存在を維持できずに霧散した。

 最初の一撃でわかったことだが、数に比例するのか異形の一体一体を構成する魔力は多くなく、防御力は見た目以上に低いようだ。

 突進してくる異形の鷹を、身を捻って避けて剣を振るい霧散させる。

 そのまま空に虹色の斬線を無数に描きながら、飛翔魔法で空中や地面すれすれを縦横無尽に翔けめぐる。

 

「うわぁ……」

 

 虹色の光が閃くたびに蠢く闇が晴れていき、多くの敵を魔力素に還したが、見渡せる敵は未だ多くいる。

 

「ちょっと骨が折れるなあ……」

 

 あまりの数の多さにげんなりしながら再び翔けようとしたとき、横合いから新たな影が躍り、同時に迫っていた魔獣たちがその身を大きく吹き飛ばしながら消滅していった。

 誰かと、考える前に答えは目の前に在った。

 

「なら、お手伝いしましょうか?」

 

 碧銀の残光を携えながら、アインハルトがヴィヴィオの横に並んできた。

 何故とヴィヴィオが聞こうとするが、相手はこちらのことなどお構いなし仕掛けてくる。言葉を交わす前に二人は流れるように迎撃に移行する。

 

「……アインハルトさんもう大丈夫なんですか!?」

「おかげ様で。ですから加勢しますよヴィヴィオさん」

「……大丈夫ですか?」

 

 襲い掛かる魔獣たちを相手取りながらアインハルトに問う。

 その言葉の意味は戦えるのかと言うよりも、対処できる術があるのかということだったのだが、そこで相変わらず表情を変えないアインハルトから予想外の言葉が返ってきた。

 ……こちらを見る瞳が若干ジトッとしているのは何故だろうか。

 

「……むしろそれはヴィヴィオさんに聞きたいのですが」

「え!? 何でですか?」

「あんな魔力頼りの戦い方、正直効率悪いですよ。

 地上の狼なら首元を、空中の鷹なら翼の急所を狙えば一撃なんです」

 

 こんな風にと言いたげに、ヴィヴィオの目の前で次々と魔獣を屠っていくアインハルト。

 一撃で倒すだけならヴィヴィオと同じだが、アインハルトは武装形態と身体強化の魔法に魔力を回しているだけだ。あれなら消費魔力はかなり少ないだろう。

 周囲の魔力素を収束して使用しているとはいえ結構な量の魔力を使っている自分とは、たしかに消費魔力も身体への負担も段違いに低いはずだ。

 

「ところで、そんなこと何で知っているんですか?」

「……この魔獣たちは昔戦争期に生み出されたものたちです。クラウスの記憶で見た姿とほぼ遜色ありません……。

 敵の急所が同様だとわかったのは、前に同様な出来事があった時に確認しましたから。

しかし……どうやら本気で知らなったようですね」

「にゃはは……まあオリヴィエの記憶(そっち)の方も後で説明しますね」

「ええ、アストさん(かれ)も交えて後ほど。しかし、あの動物たちは現代に血を残してはいないはずなんですが……」

 

 記憶関係(それら)以外にも話すことが増えたことは言うまでもない。

 ここに来てアインハルトから聞き逃せないことがちらほらと聞き取れてしまった。

 

「まあとりあえず……相手の正体がますますわからなくなったのは確かな?」

 

 敵の考察はさておき、互いに背中合わせになりながらも敵を下していく手は緩めてはならない。

 

『ヴィヴィオ! そっちにアインハルトが行ったんだが!?』

 

 遅いよ! と言いたかったが、寸前で飲み込んでヴィヴィオはノーヴェからの念話に応える。

 もちろん迎撃の手は一切緩めることはない。

 

『合流済みだよ。とりあえず二人でこっちは相手取るね。そっちはどう?

 もしかしたら本当に倒しきる方が早いかもよ?』

『それはねえだろ。ペースは遅いがさっきから新しい魔獣がポンポン生み出されているぜ。

 十中八九結界を破らない限り、無限に湧き出てくる奴だなこりゃ』

『え、やっぱりかあ……』

『まあ結界を破壊する算段はついてんだがな』

『さっすがノーヴェ! じゃあ早速――』

『その前に結界のあの辺りを露出させてくれ。魔獣が邪魔で狙えないんだ』

『上げて落とすのは酷くないかなぁノーヴェ?』

『お前が勝手に上がっただけだろう!? とりあえず頼むぜ。露出したらアタシと双子で結界をぶち破るから』

『了解――』

 

 念話を切り上げ、今度はアインハルトに念話を繋げる。

 

『ノーヴェたちから作戦の概要が届きました! あの周辺一帯の敵を払って、結界を露出させます!』

『わかりました。しかしそうなると少しかかりそうですね……』

『アインハルトさん』

『はい?』

『十秒、一人で時間稼げますか?』

『――問題ありません。……私の拳にかけて』

『……わかりました。十秒間、よろしくお願いしますね!!』

 

 すぐさまヴィヴィオは後方に退がり、ノーヴェに指定された周辺一帯の魔獣を視界に収め、アインハルトは託された時間を守り抜くために、さらに異形の蠢く魔の中心にその身を投じる。

ノーヴェたちは二人の姿を確認し、来たるタイミングを待ち続ける。

 

 

 

 ――残り十秒。

 

 

 

 ヴィヴィオは瞼を落として、改めて体内のリンカーコアを意識し、強く脈動するのを感じ取る。それと同時に高まっていく魔力を感じ取ったのか、辺りの魔獣たちがヴィヴィオに群がってくる。

 本来視界を捨てるのは愚行の極み。敵に狙ってくださいと言っているようなものだが、しかし今敵の猛威が届くことはない。

 

「行かせませんよ」

 

 

 

 ――九秒、八秒。

 

 

 

 感じ取れるのはある種懐かしい気配。自分と関わりが深い、初めて出会った少女。

 ヴィヴィオと魔獣の群勢の間に割り込んだアインハルトが研ぎ澄まされた四肢を魔獣の急所を容赦なく穿っていく。

 敵の数は減る気配を見せてこないが、それでもアインハルトは自分の後方に魔獣を通すことはない。

 

 

 

 ――七秒、六秒。

 

 

 

「――邪魔です!」

 

 十秒。

 文字に起こしてみればとるに足らない時だ。平常時であってもそれは同様。人生に置き換えてみれば刹那にも満たない、意識することのない時間だろう。しかし戦闘において十秒という時は重みを遥かに増したものだ。

 託された時間の重みを理解するが故に、アインハルトは止まらない。拳を振るうことを止めはしない。

 

 

 

 ――五秒、四秒。

 

 

 

 ジリジリと、魔獣の群勢を前に徐々にアインハルトが押され始める。

 やはりヴィヴィオと二人で拮抗していたからか、ヴィヴィオが後退した上にノーヴェたちも結界破壊のために力を溜めていて援護も望めない以上、どうしても後手に回らざるを得なくなる。

 だがそれでもいい。

 今のアインハルトに求められたのは、成すべきことは十秒ヴィヴィオたちを守りきること。決して敵を全て倒しきることではない。

 

 

 

 ――三秒。

 

 

 

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 

 アインハルトは迷うことなく拳を振るう。魔弾を放ってくれば四肢を以て弾き、掻き集めて纏めて相手に打ち返す。

 

 

 

 ――二秒。

 

 

 

 撃ち返した魔力の濁流はアインハルトを抜けようとした魔獣の群れを飲み込み、消滅した。

 

 

 

 ――一秒。

 

 

 

 見れば敵の数もそこそこに減らした。戦線もある程度下がったが十分に許容範囲。

 ここで、アインハルトの目的は達した。

 

(あとは、頼みますよ――)

 

 わずかな時ではあるが、守り切った少女を見てアインハルトは願う。

 

 

 

 ――残り、零。

 

 

 

『ありがとうございます、アインハルトさん――思いっきり後ろに離れちゃってください!』

『はい!』

 

 待ち望んだ言葉を受け、アインハルトは迷うことなく戦線を放棄し、勢いよくヴィヴィオよりも後方に下がる。

 そしてアインハルトは改めてヴィヴィオを見やり――言葉を失った。

 

「思い描いたのは……なのはママの砲撃と、アストさんの光の剣」

 

 目に飛び込んできたのは天を穿ち、蒼穹を分断する虹色の光の柱。

 その発生源にいるのはヴィヴィオであり、また光柱が虹色に輝いていることからもそれは明白である。

 しかしこれほどまでに膨大な魔力を制御下に置いているのが目の前の少女だというのは、すんなりと信じられるものではなかった。

 

(……聞くことが増えました)

 

 左手を添え、天に掲げた右腕に色とりどりの莫大な量の魔力が収束されていく。

 結界内に漂う多くの魔力素がヴィヴィオへと集中している。

 本来高等技能である収束魔法。デバイスという補助具無しでは収束できる限界量も肉体にかかる負荷も無視できないが、時間を多く取った上でオリヴィエ譲りの魔力運用技術を最大限活用したことで、肉体への負荷を最小限に止め、制御ギリギリまで収束することに成功した。

 

「今の私にできる、最高の一撃――いくよ!」

 

 静かに閉じていた瞼を上げ、(ロート)(グリューン)の瞳で迫りくる敵の群勢を睨みつける。

 アインハルトが稼いでくれた時間で作り上げたこの一撃。

 

「エクセリオン――」

 

 眼前に広がった魔獣の群れに狙いを定め――虹で編まれた魔剣を振り下ろす。

 

「――セイバァァアアアアアアアアアアア!!」

 

 眼前に向け解き放たれた莫大な閃光。

 振り下ろされた虹色の柱は射線上にいた魔獣を飲み込むとともに、荒れ狂う魔力を周囲に撒き散らしていく。

 だがそれで終わりではない。

 この巨大な魔力は未だヴィヴィオの右腕を中心して剣を成している。

 

「まだまだぁ――!!」

 

 ヴィヴィオが作り上げたのは砲撃ではなく剣。

 故に形を成したままの右腕を、勢いよく()()()()()()

 その莫大な魔力流に、魔獣は抗う術を赦されることなく切り裂かれ、肉体を消滅させていく。

 右から左に薙ぎ払われ、収束されていた魔力が霧散していく。

 薙ぎ払われた斬線上、その周辺にいた魔獣はすべて魔力素へと還っていき、一帯の結界が完全に露出した。

 

(これでもまだ『まつろわぬ神』には届かないんだよね……)

 

 関係ないことで思うとこは残ったが、お膳立てはこれでいいだろう。

 

「ノーヴェ、オットーにディード! あとはよろしく!!」

「おう! まかせとけ!!」

「もちろんです!」

「一気に行くよ……!」

 

 狙うはただ一点のみ。

 どんな結界にもプログラムの構造上必ずあると言われる、極わずかに造りが甘くなっている魔力欠如領域(キル・ポイント)

 通常戦闘中に狙ってできるようなことではないし他に効果的な方法があるのだが、今張られている結界の出来上がりは見た限りでも精密にできたものだ。力技での突破が難しい以上ノーヴェはこれが一番、成功率が高いと判断した。

 問題はその一点()()を狙わなくはならないこと。非常に、とまではいかないがそのポイントは小さなもので、その周辺にまで攻撃を加えれば修復作用が働いて結界は壊れない。

 既に結界をはった相手もこちらの意図に気づいているはずで、これを逃せば再び魔獣の大群との消耗戦に入ることになるだろう。

 故に、ここで決めるのだ。

 

「二人とも! ブチかましてやれ!」

『了解!』

 

 ノーヴェの言葉を受けたオットーとディードが、それぞれのIS(インフュレート・スキル)を発動させ、蒼穹を翔けていく。

 

「IS発動――ツイン・ブレイズ!」

 

 ノーヴェに指定された一点目掛けて、一気に近づいたディードが握られた双剣を桜色に閃かせ、狙い逸れることなく突き立てる。

 同時に素早く双剣を手放してその場を離脱し、間髪入れずオットーが右手を突き出して追撃を仕掛ける。

 

「IS発動――レイ・ストーム!」

 

 突き出した掌が淡く翡翠に煌き、幾本もの光線を撃ち放つ。

 狙うのはディードの双剣が突き刺された場所。

 拡散された光線を収束させ、光渦の嵐を一つの砲撃に凝縮させる。

 地味に四年前はできなかった芸当だったりするが今はどうでもいいことだろう。

 

「まあ僕も、何もせずのうのうと過ごしてたわけじゃないしね……さあ、頼みましたよノーヴェ姉さま!」

「いくぜ――!」

 

 ノーヴェの両脚に装着された固有装備(ジェットエッジ)が唸り声を上げ、結界内に轟かせる。

 空中に一直線にエアライナーが引かれ、ノーヴェが一直線に駆け上がる。

 その速度は一撃離脱を得意とする先ほどのディードのスピードにも劣らず、凄まじい速度で高度を上げていく。

 そして目標の一点よりも高く上り詰めたところでエアライナーの進路を下りへと変え、勢いを殺すことなく一点に向かい、跳び蹴りを撃ち放つ。

 

「でりゃあああああああああああああ――!!!!」

 

 踵部分の推進装置から空気が勢いよく放たれ、重力落下との二重加速の力を宿した右足が、一点を鋭く穿った。

 一瞬の静寂の後、変化は劇的に起こった。

 三人の連撃を受けた魔力欠如領域を中心に結界全体に亀裂が入り、構成していた魔力素が音も無く霧散した。

 結界の破壊には成功したが、問題はここからだ。

 結界の無い蒼穹にうつる黒点。

 誰もが示し合せるまでも無くその影を見つけた。

 

「我が結界を破壊するとは、なかなかどうして……塵芥の分際でよくやったではないか」

 

 黒い影が降下しながら、どこまでもこちらを見下した口調で言葉を投げかけてきた。

 

 

 

       ✟

 

 

 

 降下してきたのはヴィヴィオたちとそう変わらないであろう年の少女。

 右手に剣十字が象られた杖を、左手に紫紺の分厚い本をそれぞれ握っているが、しかしそれ以上にヴィヴィオたちの目を引いたのは敵の魔導師の顔だった。

 

「……はやてさん?」

 

 訝しげにヴィヴィオが母親の友人である女性の名を呟く。

 髪や瞳の色、目の前の存在と年齢が違うことを除けば、その顔立ちは彼女と酷似していた。

 

「ほう……その名を口にするとはな。聖王の贋作」

「……どうしてこんなことをしたんです?」

 

 冷笑とともに告げられたあからさまな侮蔑にも、ヴィヴィオは介すことなく冷静に疑問をぶつける。

 

「ふん、そうそう乗ってはこんか……」

「もう一度聞きますよ。こんなことをして、何が目的なんです?」

「貴様らに向かってそれを語る価値があるのか?」

 

 取り付く島もないと言ったようで、目の前の少女はこちらに一切取り合う気配を見せず、こちらに向けられた杖を解こうともしない。

 

「目的は……」

「ん?」

「目的は、私とヴィヴィオさんですね?」

「……覇王の残り香か。どうにも前より薄れているようだな。そこの贋作に何か諭されでもしたか?」

「……どうなんです、質問をしているのはこちらですよ」

「ふんっ! 貴様らが愚考を重ねてどう捉えようと、それは貴様らの勝手だ。我が口を動かすことには繋がらんな」

 

 どこまでも平行線のまま両者は対立する。

 戦いは避けられない。ヴィヴィオもアインハルトもそう考え、疲労した体に魔力を流して拳構えようとし――唐突に相手の杖の照準が逸れた。

 

「ふん、興が削がれたわ……」

 

 突然明らかな嫌悪の表情をつくり、相手が構えを解いた。

 いきなりの相手の反応に少し戸惑いつつも、それを無理やり押し殺し、ヴィヴィオが尋ねた。

 

「どういうこと?」

「言葉を文字通り受け取れんのか? ……興が削がれたのだ。全く嫌なものを見てしまった、酷く陰鬱とさせてくれたよ、本当に……」

 

 小さく寒気の覚える笑みを零しながら相手は語る。

 ここでヴィヴィオたちは違和感を覚えた。

 相手の言葉の前半部は確かにヴィヴィオたちに向けられていたが、途中からはこの場の誰も見ていないで告げられたものにも聞こえてきたのだ。

 

「ああ、本当に……」

 

 どこか言葉を震わせながら、彼女は続ける。

 

「……どこまでも我らを阻むのだなァ貴様は――!!」

 

 深い怨嗟の声を上げ、表情を憤怒と憎悪に歪ませながら叫ぶ。

 ヴィヴィオたち――の背後の倉庫区画に向け素早く杖を掲げて正三角の魔法陣を展開し、切っ先から紫紺の砲撃を放つ。

 倉庫区画に向けた放たれた砲撃は倉庫を破壊するというヴィヴィオたちの予想を外に、弾かれたように急にその進路を変えて上空へと極光を伸ばした。

 突如起きた不可思議な光景に、少女だけは驚きもしなかった。

 

「…………」

 

 撒き散らされた魔力素が晴れると、人影が見えた。

 黒い大きなコートを羽織り、その下は黒いジャージというアンバランスな服装をした人。

 目深に被ったフードで顔は窺えないため女性か男性かもわからない。

 しかしその身から滲む存在感は、少女にも劣らぬものがあった。

 

「やはり、貴様なのだなぁ……!」

「…………」

「貴様の思考などどうでもよい! ああ、そうだな。貴様に比べればこの塵芥どもなどとるに足らんよなあ……」

 

 黒ずくめを憎々しげに睨みつける少女は魔力を滾らせ、臨戦態勢を創り上げていくが、再び唐突に魔力の放出を止める。

 

「……臣下からの進言だ。今宵は退こう。半分は達しているからな。

 だが忘れるな――――貴様は我が必ず滅す。

 そこの聖王の贋作も、覇王の残滓も! 貴様諸共、魂の一片も残すことなく我自ら消し去ってやる――!!」

「…………」

 

 深い怨嗟の言葉と濃密な殺意を周囲に振り放った後、少女は足下に魔法陣を展開してどこへともなく消えていった。

 

「――――」

 

 剥き出しの殺意を正面から受けた存在も少女が消えると、ヴィヴィオたちに目を向けることもなくその場を後にした。

 

「え、っと……」

 

 あまりに突然起こりすぎたことに、ヴィヴィオも言葉が出てこない。

 ヴィヴィオはアストと行動を共にするうちに突発的な事態にもある程度耐性ができていたはずだが、今回は流石に予想外過ぎた。アインハルトも同様。ノーヴェたちにいたってははやて似の少女が現れたところからどこか蚊帳の外気味だったのだ。

 誰も、そこから動けなかった。

 ヴィヴィオたちが、危機が去ったと実感するにはまだ少し時間を要することになるだろう。

 だが安堵などできはしなかった。

 浮かび上がってきた多くの謎。

 なによりそれ以上の災厄が迫っていることなど、今のヴィヴィオたちには知る由もなかった。

 

 

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