ミッドチルダのカンピオーネ!   作:海豚

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閑話っていうか一連の話のエピローグ。タイトル通りです
文字数は少な目です。


Memory;ex すべてのはじまりの物語

「へぇ……今度の息子は随分と面白いわね?」

 

 白い空間、というよりも『霧が立ちこむことで全体的に靄がかかったように視界が霞むことで白く見える空間』と言った方が正しいであろう場所。

 声に反応したアストが横たえられた体を起こそうとするが、まるで心と身体が分離してしまったかのように力が入らない。

 自分はオリヴィエと戦って、勝ってそれから……

 それからどうした? それにここはどこだ?

 薄くでも目を開けることができた中で見えたのは、こちらを顔を覗き込む一人の少女。

 自分よりも年下なのか、幼く見えるが老若男女を問わず魅了する蠱惑的な所があり、それでいてどちらの魅力も損なわせていない、不思議な容姿をした少女。

 たぶんこの子(?)がさっきの発言の主に違いないだろうが……。

 アストが頭の中で少女の言葉を反芻(はんすう)しようにもおぼろ気な意識ではそれも叶わない。

 

「ふふっ、心配しなくても大丈夫よ。もう大方のことは終わって、あなたの精神は新しい肉体に馴染んでいるところなの」

 

 朦朧とする意識は言葉を聞くだけで、その意味を理解できない。

 もっとも、正常な状態でもこの少女の言葉の意味を理解するのは無理かもしれないが。

 

「エピメテウスとわたしが遺した呪法。異世界で発動したのは初めてだけど、別におかしいことは無いわね。全ての条件が揃ってるんだから。まあこれも、天の采配というやつかしらね」

 

 アストが理解していようといまいと関係ないのか、少女の言葉は止まらない。

 

「そうそう、あなたが宿している『アレ』 あんまりにも醜悪だったからちょっとだけあなたに合うように変えておいたわ。本物の『権能』ならいざ知らず、ここまで堕ちてればわたしにもいじれるわ。まあ母から息子への生誕祝いってところかしら」

 

 あなただけの特別よ? と少女は楽しそうに声を弾ませている。

 もう、何を言っているのか本当にわからない。そろそろ思考を放棄してもいいのかもしれない。

 そう思うとさらに意識は薄れてくる。

 

「……何の話だ?」

 

 薄れる意識の中でアストは少女に問う。

 それに対し、少女は蠱惑的な笑みを浮かべながらこちらを見た。

 

「簡単に言うと、あなたは神殺しに成功したのよ。そしてあなたは呪われた祝福を受けて生まれ変わるわ。

 『神殺し』『王の中の王』『魔王』

 ――『カンピオーネ』にね」

 

 少女は本当に嬉しそうに、頬を紅潮させながらアストに答えた。

 老若男女を問わず誘惑する笑みが目の前にあり、その姿は愛らしくもあり美しいもの。

 意識が朦朧としている中でもその姿は見ることができ、こんな状況でも顔が熱くなるのをアストは感じた。

 

「詳しいことはヘルメスの弟子に聞くといいわ。

 あと、あなたに託されたことは……そうね、いつか本人(オリヴィエ)にでも聞きなさい」

「お前……一体、誰なんだ……」

「あなたたちカンピオーネの母でもある、全てを与える女、パンドラよ。機会があればまた会いましょう。我が愛しき異世界の息子――」

 

 少女――パンドラの見惚れるような笑顔を最後に視界が急速に暗くなり、そのまま抗うことなくアストの意識は闇に飲まれていった。

 

 

 

       ✟

 

 

 

 闇。

 どこまでも深く、どこまでも暗い底なしの闇。

 そこには誰もいない、何もない場所。ただ永遠に闇だけが広がる場所。

 

 

 ――タリナイ

 

 

 空間が微かに振動する。

 

 

 ――タリナイ

 

 

 永久不変であったはずの、永遠の眠りを与えられたはずの闇に一つの『意志』が伝わる。

 静かな水面(みなも)に一石を投じた時にできる波紋のように、闇に現界(たんじょう)した『意志』は静かに、急速に闇を染め上げていく。

 

 

 ――Zugang.(介入)

 

 

 ――……書、本……を確……できず

 

 

 闇が蠢く。

 何もなかった闇に確かな『意思』が宿り、空間に夥しい数の魔法陣が形成されていく。

 赤、青、黄、白、黒など――魔法陣に一つとして同じ色は無く、色彩豊かに闇を彩っていく。だが、全ての色は等しく『濁り』を宿していて、その光景に美しさなど微塵も感じられない。

 

 

 ――貯……魔……6パー……ト

 

 

 ――警告、……ハト……ール損傷大、エ……ア動作……認不可

 

 

 ――守……士シス……復旧可……残存魔力……少……

 

 

 展開された魔法陣から幾つもの解析結果がノイズ雑じりで報告される。

 空間は尚も蠢き、情報を求め続ける。

 

 

 ――マ…………S、L、Dを確認、損傷軽微、起動……可……

 

 

 ――マテリ……による……集を推奨……

 

 

 ――闇の……者該……者不明、管……権限を『ユー…………ヴェ……ン』に譲渡

 

 

 ――譲渡確認。登録完了。

 

 

 ――Anfang.(起動)

 

 

 暗い宵闇が包み込む空間から魔法陣が全て消え、中心に新たな魔法陣が形成される。

 数は4つ。

 内2つは円環状の赤色と水色、残る2つは正三角形で血のように赤黒いものと紫色のもの。

 4つの魔法陣が淡い発光で闇を照らすと、それぞれの魔法陣の上に人の姿が現出する。

 

「マテリアルS『星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)』起動完了。プログラムに異常はありません」

 

 答えたのは赤い魔法陣に立つ少女。

 ショートカットの茶色の髪、濃い空色の瞳で黒を基調に赤を添えた衣装に身を包み、表情に感情の色は無く、相手に冷静ないし冷徹な印象を持たせるものがある。

 

「マテリアルL『雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)』ここに見参っ!! 僕も異常は無いよ!」

 

 次に答えたのは水色の魔法陣に立つ少女。

 長い水色の髪をツインテールに纏め、身を包む衣装は黒。その上に羽織るマントは群青色でルビーのような紅い瞳は少女の有り余る元気を表すように輝いている。

 

「マテリアルD『闇統べる王(ロード・ディアーチェ)』 ふん、異常などあるはずがなかろう」

 

 尊大な口調で答えたのは紫の魔法陣に立つ少女。

 先端が黒く染まった銀髪を肩口で揃え、濃い紫と黒に彩られた騎士の甲冑に近い服に身を包み、背中からは三対六羽の黒い翼を持つ。

 その口調と態度は古き王を連想させ、王の風格を身に纏っている。

 

「…………」

 

 最後に残った赤黒い三角形の魔法陣に立つ人影は沈黙を保ち、目の前の少女たちを見る。

 周りの闇に同化するように黒いコートを身に着け、ゆらゆらと陽炎のように佇んでいる。

 

「……」

「ええ、目的はわかっています。そして我々に与えれた使命も」

「色々な生き物から魔力を集めてくるんでしょ? 僕らに任しとけって~」

「……油断は禁物ですよ。レヴィ」

「大丈夫だって、シュテルん。『力』を司る僕とバルニフィカスならこんなの余裕ヨユ~ まあ『理』を司ってるシュテルんは厳しいかもだけど」

「……ルシフェリオン」

「お、やるかい? まあ肩慣らしなら十分かな?」

 

 シュテルがレヴィの慢心を諌めるためにデバイスを起動し、対するレヴィもデバイスを構える。

 互いに魔力と闘志を高め合い、一触即発の空気が立ち込める。何故か両者共にどこか浮かれているのが感じ取れた。

 

「やめんか!! シュテル! レヴィ!」

 

 両者の戦闘が始まるかと思われた瞬間、今まで流れを見ていたディアーチェが二人を一喝した。

 その姿はまさしく配下を諌める王そのものだ。

 

「シュテル、『理』を司るお前がレヴィに乗せられてどうする。久方ぶりの現界とはいえ、冷静さはどこへいったのだ?」

「……申し訳ありませんでした『王』」

「レヴィもだ。今の我らに使える魔力は少ないのだぞ? 浮かれてこんなことで消費して我が身を滅ぼすつもりか?」

「じょ、冗談だって『王さま』 僕もシュテルんも別に本気でやろうなんて思ってなかったって。ねえ、シュテルん?」

「わたしはもちろんそうですがレヴィが本気じゃなかったというのは信じられませんね。雷も纏っていたではありませんか」

「え? ここ反論しちゃうの!?」

「本当に我の話聞いてたのか!? 二人とも浮かれすぎだ!! いい加減にせんか!!」

 

 とは言え、見た目からして年齢が幼いのもあるのか、今度は3人で言い争いに発展していった。

 このままでは本当に三つ巴の戦いになりかねない。完全に悪化している。

 だが、すぐに少女たちは動きを止めることになる。

 

「……」

 

 未だ一言も喋らず沈黙を貫く黒コート。

 その深く被られたフードの奥から碧の眼光がシュテル、レヴィ、ディアーチェを射抜く。

 一言も話さない所為か、眼光の威圧はさらに強まって3人に受け取られた結果。

 

「…………」

「……申し訳ありません」

「……ご、ごめんなさい」

「……悪かった、許せ」

 

 素直に謝り、形だけでも仲直りを示す3人。

 仕方がない。この黒コート、己の管理者(マスター)に歯向かって良いことなど何一つとしてないのだから。

 黒コートも威圧を収め――ようやく場が整う。

 黒コートはやはり言葉を用いず、マテリアルズ(少女たち)に問いかける。

 

「…………」

「ええ、わかっていますよ、マスター」

「わかってるって、マスター」

「十二分に理解しているとも」

 

 3人それぞれの言葉、だが籠められた意味は同一。

 当然だ。

 3人の意志など関係ない。

 当然だ。

 彼女たちは管理者(マスター)の目的を叶えるためにここに起動(生み出)されたのだから。

 

「すべては……」

「すべては!!」

「……すべては」

 

 『理』のマテリアル、星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)明星の杖(ルシフェリオン)を。

 『力』のマテリアル、雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)雷の斧鎌(バルニフィカス)を。

 『王』のマテリアル、闇統べる王(ロード・ディアーチェ)剣十字の闇杖(エルシニアクロイツ)を掲げて高らかに誓いの言葉を紡ぎあげる。

 

「…………」

 

 管理者、黒コートは変わらずその場に立つ。

 フードからわずかに出ている緩くウェーブのかかった金髪。

 そのさらに奥に隠された、碧眼に宿すものは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「『砕け得ぬ闇』のために!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――この世全てを恨む底なしの憎悪だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は神殺しに目覚め

 

 古代の『遺産』は永久の闇から目覚めた

 

 少年の『人』としての物語は終わりを告げ

 

 少年の『神殺し』としての物語は始まる

 

 ここからすべては紡がれる

 

 そう

 

 これは『すべてのはじまりの物語』

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