ミッドチルダのカンピオーネ!   作:海豚

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説明だったり伏線だったりフラグだったり回収だったりな話




Memory;06 『王』の邂逅

 聖王教会の執務室でカリム・グラシアはある人物とホロウインドウ越しの会議を行っていた。

 執務室内はカーテンが閉められ盗聴妨害魔法も使用し、傍にはシャッハが控えていることがこの会議の重大さを物語っている。

 

「――高町一尉たちからの報告書には目を通しました。ですが……」

『信じられない、かな? 僕としては身内で囲って正解だったと言わざるを得ないよ』

「はあ……?」

『僕自身もこうしてデータで見るのは初めてだが、おかげでようやく確信に至ることができた。やはり彼は、アスト・フレアカードは間違いなく、『予言』に記された『神殺しの魔王』だろう』

 

 低い声で、認めたくなかった事実を認めるかのように彼は言う。

 通信の相手はクロノ・ハラオウン。

 若くして時空管理局の提督の地位についており、4年前の『予言』の回避に尽力した、カリムにとってもある意味戦友とも言える青年。

 使用しているのは四年前にも使ったプライベート回線。

 セキュリティ面で言えば直接会うのが望ましいのだが、相手は次元の海を渡る次元船の長を務める者。

 そう簡単に時間を作ることはできないので、このような形になっている。

 

『正直、君たちが彼を保護してくれたのは幸いだったんだ』

「それは、どういう?」

『もちろん、友人の息子を助けてくれたというのもあるんだが……それ以上に管理局の人間に彼のことを知られた場合の方がまずかったんだ。この報告書を見ればわかるとは思うが……』

 

 クロノの言葉を聞き、改めてホロウインドウに表示された報告書を見る。

 内容は『アスト・フレアカード』について。

 一枚目は氏名や生年月日などのごく一般的なもので、特筆すべきところは見受けられない。

 強いて言えば父子家庭であることぐらいだが、あまり今回のことに関係は無いだろう。

 二枚目、ここからが重要だ。

 内容はアストの魔力ランクなどについて。

 

「魔力ランクはAA、適正術式は近代ベルカ式。射撃、砲撃適正は非常に低いが近接技能と身体強化関係に高い適性が有り、適正距離は近接。そして希少技能(レアスキル)『炎熱』の保持者」

『だが、これは新暦78年10月までのことだ。あの日(・・・)を境に彼の肉体は変化が見られた』

 

 次に表示されたのはアストの最新のデータ。

 一度、目を通しているとはいえ、そこに書かれているのは目を疑うようなものだった。

 

「計測できた魔力ランクはSS以上。ただし意識的に魔力を抑えている可能性があり、このランクは暫定値。術式はミッドチルダ式、ベルカ式共に非常に高い適性を確認。以前のデータのような射撃、砲撃適正にも低いものは見られず、およそ戦闘に関する全ての魔法に高い適性有り。また、『肉体に魔法が触れた瞬間に掻き消される現象』を確認……」

『魔力量は成長とともに増加することもあるが、この急激な増加は異常とも言える。魔法資質に関しても、後天的に変化することはまずありえない』

 

 後天的な資質変化とは、魔導師の源とも言えるリンカーコアに異常な負荷がかかったり、破損が見られた場合に極低確率で見られることであり、次元世界で見てもこの症例は極わずかしかない。

 こと戦闘に関してそれほど知識が無いカリムでも、このデータが示すものが途轍もないものであることがわかる。

 

『彼の魔導師としての資質は破格のものだ。このデータだけでも魔導師ランクSSは確実だろう。このことが管理局の人間に知られれば、彼に自由は無くなってしまうことが考えられる。勧誘などの手段で済めばいいが……』

「管理局も一枚岩ではない、ということですか」

『ジェイル・スカリエッティのようなケースもある。……それ以前にこのことは絶対に広めるわけにはいかないんだ』

「……提督」

『なんだい?』

「提督は一体何を知っているのです? 自分が所属する組織にすら隠蔽しようとするなど、クロノ・ハラオウンらしくありません」

 

 カリムが知るクロノ・ハラオウンとは『提督』という役職上裏表が無いとは言えないものの、自らの正義を信じ、次元世界の安定を願う実直な青年だ。

 そんな彼が、職務に背いてまで隠そうとしているものとは?

 『アスト・フレアカード』という少年だけではなく、そこから繋がるものこそが真にクロノの隠そうとしているものではないのか?

 ホロウインドウに映るクロノは強張った顔つきでカリムを見据える。

 交渉時のように考えを顔に出さないでいるわけではない。

 これは警告。暗にこれ以上は聞くなと言う無言の圧力。

 

『騎士カリム。知ってしまえば後戻りなどできない。そして、このことを口外することも許さない。……それでもかい?』

 

 クロノが善意でこれらに関わらないことをすすめているのはわかる。

 だが、カリムも引けないところまで知ってしまっているのだ。

 

「……『まつろわぬ神』そして『カンピオーネ』」

 

 その単語を発した瞬間、ホロウインドウ越しのクロノの表情がさらに厳しいものになる。

 

『……どこでそれを?』

「アスト君とヴィヴィオさんを保護して、事情を聴いた時に彼が言ったのです。『自分たちは『まつろわぬ神』と戦っていた。そして自分は『カンピオーネ』になった』と。最初聞いた時は『予言』があったとは言え半信半疑でしたが……」

『……そうか』

 

 深々とため息をつくクロノ。諦めの色がありありと窺える辺り、やはり繋がっていたのだろう。

 数秒顔をを伏せて次に顔を上げた時、クロノは冷静さを取り戻したようで、表情もある程度戻っていた。

 

『そこまで知っている以上、勝手に調べられたら余計不味いか……このことを聞いていたのは君とシャッハだけか?』

「はい」

『……仕方ないか。これから話すことは時空管理局のデータベースにも記録されていないことだ。絶対に他言無用にしてくれることを誓ってほしい』

「わかりました」

『……僕も全てを説明できるほど詳しいわけではないから、その辺は察してほしい。

 まず『まつろわぬ神』と『カンピオーネ』

 これらの言葉は君も知っている世界で使われている言葉だ』

「……」

 

 これを機にクロノ・ハラオウンとカリム・グラシアは『予言』を覆すために再び手を組むこととなる。

 クロノは自分の手が及ばないところにおける強力な味方を引き入れ、カリムは違う理の『世界』を知ることとなる。

 

『第97管理外世界、識別名称『地球』……表向きには『魔法』が存在しない世界で使われている言葉だ』

 

 

 

       ✟

 

 

 

 検査と魔獣退治を行った日から三日たった12月26日。

 再びアストはヴィヴィオとともに第四技術部を訪れていた。

 またも極秘らしく直接来いとのアセナからのお達しだったが、案の定アストは受付に行こうとしたところを一緒に来ていたヴィヴィオに手を掴まれ、引っ張られる形で技術室に向かっている。

 

「もう! なんでまた受付いっちゃうの!?」

「いやな、もう癖なってんだよなこれ。何度も親父のお使いしてたら仕方ないというか何と言うか……」

 

 小声で語気を強めるという器用なことをするヴィヴィオ。

 逆にアストは語気がどんどん小さくなっていく。

 あまり聞かれていい話ではないからか顔を近づけてきているため、アストからはヴィヴィオの表情がよく読み取れる。

 語気を強めてはいるが怒っているわけではないようで、どこか気の抜けているアストへの注意と言う意味合いが強い。

 

「……まあ、別に悪いことじゃないんだけどね。ただ一応極秘のことなんだからもう少し、ね?」

「おう……」

 

 アスト・フレアカード、12歳。

 高町ヴィヴィオ、9歳。

 年齢的にはアストがお兄さんでヴィヴィオが妹だが、傍から見れば完全にヴィヴィオがお姉さんでアストが弟という構図ができあがっている。

 体格で言えばヴィヴィオとは身長差が10cm以上あるので奇妙極まりないはずだが、周りの局員の目は完全に微笑ましいものを見る目だ。

 

(なぜそこまで『微笑ましいもの』みたいに見られなきゃならねえんだ……)

 

 周りからの目に対し気恥ずかしさ半分とげんなり感半分で、なぜ少なくない注目を集めているのか考えてみて、ようやく合点がいく。

 今の自分はヴィヴィオと手を繋いでいて顔が非常に近い状態なわけで。

 どうにもそっち(・・・)の方向で受け取られているらしい。

 確認がてら周りを見ればこちらに目を向けていた何人かの局員が笑顔で親指を上げてくる。

 いったいそのサムズアップは何に対してだと小一時間ほど問い詰めたい。

 

(極秘の意味ねえ……すげえ目立ってんだけど)

 

 別に極秘の内容までバレてはいないため問題ないだろうが、あまり目立ってもいいわけでもない。

 

「アストさん、聞いてる?」

 

 そんなことを考えていると、話を聞いていないと思われたのかヴィヴィオがさらに顔を近づけてくる。そろそろおでこがぶつかりそうになっているのだが、ヴィヴィオは気づいてくれない。……笑顔のはずなのに額に青筋が浮かんでいるのが怖い。

 

「聞いてる。聞いてるからさ、そのな、ヴィヴィオ? そろそろ顔を離してくれると、な?

 周りの目を引いているというか、極秘の意味がないというか……」

「へ? ……!」

 

 しどろもどろになりながらのアストの言葉に、ようやく周りの目に気づいたのか急に顔を真っ赤にして顔を離す。

 「あー……うー……」などと唸っているが、そんな反応をされるとこっちが余計に恥ずかしくなってくる。

 

「……とりあえず行こうぜ」

「あぅ……」

 

 周りの目がいよいよ恥ずかしくなってきたので握ったままだったヴィヴィオの手を引き、技術部へと足早に歩を進める。

 これ以上ここにいてもアストにとってもヴィヴィオにとってもいいことなしだ。

 結局道中も生暖かい視線に晒され、逃げるように第四技術室に入るとマリーとアセナに出迎えられた。

 

「ん? やっと来たのか二人とも――って、お前たち顔が赤いがどうした?」

 

 アセナが怪訝な顔つきでこちらを見てくるが、アストもヴィヴィオも答える気力はない。

 

「聞かないでくれ、親父……」

「聞かないでください、アセナさん……」

 

 赤い顔のままヴィヴィオとともに聞かないでくれと頼む。これ以上弄られたくはないし身内に知られるのはさらに恥ずかしい。

 が、伏兵は他にいた。

 

「ふ~ん……ねえ、二人とも?」

 

 にやにやと、決して好きになれそうにないあくどい笑みを浮かべながらマリーが声をかけてきた。

 確実にからかいにきている。

 

「何? あーわかった、もう喋んないでいいやマリーさん。まずその目をやめろ。ここ来るまでの道中で喰らいまくったからホントマジで恥ずかしいから勘弁してくださいお願いします!! マジで何にもなかったから!!」

「お願いだからゆるして……」

 

 上からなのか下からなのか、喋っているうちにどんどんマリーに対し態度が変わっていくアスト。自分でもわかるくらい完全にテンパっている。

 そしてヴィヴィオは何に対し許しを請いているのか? 俺も請いたいんだが。

 しかしアストとヴィヴィオの抵抗もむなしく、全てを見透かしていたマリーは止めの一言を言い放つ。

 

「恥ずかしいなら、どうして手を握りあってるのかなあ~?」

「親父、もう限界だ。助けて」

「知るか、アホ息子」

 

 最後の望みをかけて助けを求めるも呆れ顔のアセナに一蹴される。

 神殺しの魔王、『カンピオーネ』ことアスト・フレアカード。

 神にすらケンカを売れる魔王でも、勝てないものはある。

 

 

 

       ✟

 

 

 

「……マジで恨むぞ、マリーさん」

「もう……」

「ゴメンゴメン、二人とも」

「いつまでグダグダ言ってんだ。主任もいい加減本題に入って下さい」

 

 結局散々とマリーにヴィヴィオ共々弄られてしまった。

 一度は息子の助けの声を跳ねのけたアセナもあまりに長いことやっていたからか、それとも流石に不憫に見えてきたのか、助け舟を出してくれた。

 どうせ助けてくれるならもっと早くしてくれと思ってしまった自分たちは悪くないはずだ。

 

「はいはい……じゃあ本題に入りましょうか」

 

 お茶らけた雰囲気をアセナが払拭して、マリーがようやく本題を切り出す。

 

「それじゃあアスト君、デバイスを出してくれる?」

「あいよ」

 

 ネックレスの待機状態になっているスラッシュブレイブを首から外し、マリーに手渡す。

 

「うん、ありがと」

 

 手渡されたデバイスを専用の検査槽に入れ、コンピュータパネルの前で確認したアセナが作業を開始する。

 

「……データ自体にところどころ破損しているところがあるな……スライブ、マイスター権限を行使、メンテナンスモードでセットアップしてくれ」

『Maintenance mode,Get set.』

 

 デバイスが展開され、検査槽内に深紅の片手剣が現れる。

 いつもなら光を反射する刀身には少なくない罅や亀裂が走っている。

 それを見て眉間に皺を寄せながら、アセナが表示されていくデータに目を通し、処理していく。

 

「刀身に異常な負荷がかかっている上に、魔力伝達回路が完全に焼き切れている。情報処理領域の45パーセントが消滅していて処理速度も大きく低下、自己修復も全く作動していない、か」

「直りそうか、親父?」

「……少なくとも刀身のフレームと伝達回路はもうダメだな。処理速度もここまで低下しているとなると詳しい検査が必要だ……正直、こうなると新規で全部作った方が早いな」

「……マジかあ……」

 

 実質修復不可能。

 それを聞いて、申し訳ない気持ちとともに仕方ないという気持ちがアストの胸のうちに生まれた。

 

「これでもかなり気ぃ使ってたんだけどなあ……」

「アストさん……」

 

 三日前の魔獣との戦闘(一方的な蹂躙とも言える)で限界がきたのか、それまでの戦闘でメンテナンスも追いつかないほどの致命的な破損があったのかは定かではないが、どちらにしてもこれからアストが使っていくのには無理があった。

 

「『カンピオーネ』……俺が『神殺しの魔王』になったことで魔力量が莫大なものになってしまった以上、仕方がなかったのかもな……」

「それにアストさんの身体能力が向上していたのも拍車をかけていたのかも……」

 

 『カンピオーネ』になったことで、アストには大きな変化が見受けられた。

 一つ目は魔力量。

 『カンピオーネ』になる前はAA以上でAA+には届かないくらいだった魔力量が、今となっては意識して抑えた(・・・)上でもSS以上を計測している。

 抑えなければ計器では『測定不能』が出てきてしまうだろうというのがアストとヴィヴィオの見解だ。

 二つ目は肉体。

 単純に地の身体能力が上がっている上に、肉体の強度と言う面でも人間離れしたものとなっている。

 だがさらに重要なのは『魔法の効かない体質』だ。

 攻撃、回復を問わずアストの身体に触れた瞬間、魔法が消えるという魔導師にとって悪夢としか思えない体質。

 しかし自身の魔力は問題なく行使できるため、明確な基準がわからない。

 また、魔法が消すことができる限度もわかっていないため、この先待ち受けるであろう『まつろわぬ神』との戦いのためにも要検証。

 三つ目は資質。

 もともとアストは資質的問題で射撃、砲撃資質などの適正がほぼゼロ、シューターの一つも作れなかったことからゼロにかぎりなく近いものと言えた。

 これは身体やデバイスから魔力を放出させると固定、収束ができないアストの先天的な体質が原因だった。

 他にも治癒魔法、幻影魔法、解析魔法なども遠距離系統ほどではなかったが適正が低かったが、これらは適性が高い人の方が少ないというのもある。

 しかし『カンピオーネ』になったことで、資質に異常とも言える変化が見られた。

 まず、資質ゼロであった射撃、砲撃魔法が使えるようになった。つまり『身体やデバイスから魔力を放出させると固定、収束ができない先天的な体質』が改善されたということだ。

 治癒魔法や幻影魔法も簡単なものではあるが発動できるようになっていたことから、『魔法適性』が改善されたものだと言え、資質的には『ミッドチルダ式』『ベルカ式』のどちらも使えるようになった。

 ただし『苦手な』魔法系統がなくなっただけであり、今まで使えなかった魔法を使うには練習が必要不可欠である。この辺りは『カンピオーネ』になる以前と変わらない。

 

「これからは射撃魔法とか砲撃魔法も使えるようにしたいからな……」

 

 バトルスタイルを崩すわけではないが、これからの『まつろわぬ神』との戦いにおいて必ずしも自分の得意な距離(レンジ)で相手と戦えるとは限らない。可能な限り使える魔法(手札)は増やしておきたい。

 もちろん実践で使えるようになるまで使うつもりはないので、当面は近距離(クロスレンジ)主体ではあるが。

 

「そうなると、スラッシュブレイブじゃダメだったの?」

「そこんとこどうなのマリーさん?」

 

 ヴィヴィオに質問されるも、デバイスに関してはからっきしなため、その道の専門家に尋ねる。

 

「アスト君が使っていた魔法は身体強化と近距離で使う魔法だったから、スラッシュブレイブに乗っけていた魔力伝達回路もそれに合うものを使ってたんだ。これでも砲撃魔法が使えないわけじゃないけど、どうしても発動効率や変換効率は下がっちゃうからね。

 これからアスト君がベルカ式だけじゃなくてミッド式も使うなら回路も専用のものに変えないとダメだったし、デバイス本体も魔力媒体として必要な形……近距離魔法では剣、遠距離魔法では杖みたいにモードチェンジ機能を積む必要があったり、もしくはデバイスをもう一つ作ったり……どっちにしてもスラッシュブレイブだけじゃダメだったかな」

「……ヴィヴィオ、今の説明でわかった?」

「なんとなくなら」

「マジか。俺正直全然わからんのだが」

 

 この時、アストは年下の少女に頭脳面で敗北を悟った。

 そんな息子が不憫に思ったのか、見かねたアセナが表示されていたデータ群から目を離して口を開く。

 

「どちらにせよ、スライブではこの先戦っていくのは無理だったということだ」

「なるほどなるほど、らしいぜヴィヴィオ」

「マリーさんの説明でわかってたからね、わたし」

 

 記憶力も負けたかもしれない。まあ冗談ではあったのだが。

 

「ただ、アスト君の新しいデバイス制作で一つ問題があるんだよね」

 

 あはは、と二人を見ながら苦笑していたマリーが再び問題を掲げる。

 

「問題ですか?」

「ああ、大問題だ。

 もっとも、これはに関してはアストもわかっているようだがな」

 

 データの抽出作業を続けながらアセナがヴィヴィオの疑問に答え、アストの方を見る。

 

「俺の魔力にデバイスが耐えきれないんでしょ?」

「そうだ。回路に関しては何とかなりそうだが肝心なのはフレーム部分に使う素材だ。お前が加減できればいいが、戦闘ログを見る限りそれは難しいようだし、何よりお前の言う『まつろわぬ神』との戦闘において全力を出せないのはマズいだろう」

「他にも問題はあるんだけど、目下一番の問題はそこなんだよね。まさかフレームとはおもわなかったなあ……それに伝達回路も処理領域の問題もまだ解決してるわけじゃないし」

 

 アセナの言葉を引き継ぎながらマリーが纏める。

 頭を悩ませてしまって悪いが、これに関してできることは何もない。精々必要なデータ採りに付き合うことぐらいしかない。

 

「まあ素材に関しては追々決めていくぞ。時間があるわけじゃないが、俺たちだけじゃどうしようもない。それでだアスト、お前の新しいデバイスはどういう形状にする?」

「剣だけ……ってのはやめた方が良いよな」

「アストさんが砲撃魔法とかも使っていくなら、剣だけなのはね……」

「かと言って杖とかもなあ……まだ銃の形の方がいいか」

「あ! でもモードチェンジ機能をつければ!」

 

 先ほどのマリーの話を思い出したヴィヴィオが案を告げる。

 確かにそれならば将来的なアストのバトルスタイルにも対応できるかもしれない。

 だが、意外にもその案を否定したのはマリーだった。

 

「ヴィヴィオちゃん、たぶんそれ無理なんだ。デバイスの記憶領域とか処理領域とかでたぶん形態変化の余裕なんてなくなっちゃいそうで……」

「だから、作るならその形態一つで近中遠の全距離(オールレンジ)を対応できるものにしたい。あと、さきに言っておくが二つのデバイス、ってのはやめておけ」

「何でですか? アセナさん」

 

 アセナの言葉に不思議そうにヴィヴィオが尋ねる。

 アセナはとくに気にした風もなく、当たり前だと言わんばかりに疑問に答える。

 

「二つのデバイスを同時に使うなど一朝一夕では無理だ。これから使いこなすにもアストのバトルスタイルが崩れては本末転倒だ。それに……」

「それに?」

「アストの性格的に向いていない」

「なるほど」

「納得すんのかヴィヴィオ!? てか親父ッ! 性格的にってどういうことだ!?」

 

 確かにアスト自身二つの異なるデバイスを同時に使うなんてできそうにないが、自分の親にそこまで断言されてしまうと何故か癪である。

 ……事実故に言い返すことはできないだろうが、それでもだ。

 

「でも、中々難しいよね……剣が主体だけど射撃・砲撃もできてってことは砲身も必要だよね。適性はあってもなのはちゃん並ではないわけだし……」

「……アスト、今使える遠距離魔法は?」

「……使うだけなら、俺用にヴィヴィオたちに手伝ってもらいながら術式弄ってる『シューター』と『ショートバスター』か?」

「もうすぐ術式の方は完成しそうですから、あとはデバイスの補助があれば実践でも通用すると思います。まあ、当てられるかどうかはアストさん次第だけど」

「言ってくれんじゃねえか……っとまあ、まだ使えるのこれだけだな。

 つか、そんなのログ見たならわかってんじゃねえの?」

「一応の確認だ。そうするとやはり剣の状態で砲撃魔法を使うのはデバイス本体にも回路にも負担が大きいな。回路自体は近代ベルカのものだったから仕方ないとしても……」

「ん~……やっぱり銃口は必要かな? 近代ベルカはミッド式をベースにしてるからそこまで変換効率も悪くはないはずなんだけど、これを見る限りかなりの負荷がかかってるからね」

「そうでしょうね。伝達回路も何個か並列させて搭載させなければ魔力負荷にも耐えられそうにないですし……」

 

 アセナとマリーがデータを見ながら各々の考えを述べている。こうなると周りが見えてこないのは職業柄仕方ないのかもしれないが、今は勘弁してもらいたい。

 

「なあ親父、もう帰って大丈夫か?」

「ん……もうそんな時間か」

 

 備え付けのディスプレイを見ると『20:00』を表示していた。

 ここに来た時間も遅かったのもあり、さらに冬の季節であるため外はもう真っ暗だろう。

 

「お前はもう帰ってもいいがヴィヴィオはこれから検査がある。高町が来てからだからまだ時間はあるがな」

「検査?」

「デバイスに入力するための戦闘データを採るんだよ。自分の身を守るためにも必要だからって」

「前々から制作依頼はあったんだけどね。時期が早まっちゃったり、ヴィヴィオちゃんも色々強くなっちゃったりでデータの更新が必要だからね」

 

 オリヴィエの戦闘技術を手に入れたヴィヴィオとその前のヴィヴィオでは、戦闘能力に大きな差が出てしまっているのはわかっている。

 本人に合った相棒(デバイス)を作るためにも今のヴィヴィオのデータが必要なのだろう。

 しかしどうするか。

 別にヴィヴィオを待っていてもいい。帰るときはアセナと帰ればいいだけなので夜道の心配はいらない。そもそも『カンピオーネ』である自分が夜道の心配など必要ないのだが。

 

「それと、俺は今日も帰れない。どうせ見ていたって暇になるだけだから先に帰っておけ」

「ん、わかった」

 

 親に言われれば仕方がない上、もちろん拒否する必要もないのでさっさと了解する。

 

「ああ、それと」

 

 アストが扉を開いたところで、アセナに再び呼び止められた。

 

「スラッシュブレイブは使えんから仮のデバイスを渡しておく。だが、お前用に調整できてないから局員の標準装備だ。あくまで連絡用にしておけ」

 

 そう言いながら手渡されたのは黒いカード型のデバイスの待機状態。癖が無く、どんな立ち回りでも十二分に活用できる管理局の最新モデルだ。

 まあ『まつろわぬ神』の気配もない以上使う機会はそう多くはなさそうだが、このデバイスではスライブ以上にアストの魔力に耐えきれないだろう。仮に『魔獣』に遭遇してもあの程度ならデバイス無しでも十分であるため問題はないが、そうなると本当に連絡程度にしか使えないと言える。

 

 

「了解。んじゃ先に帰るな、ヴィヴィオ」

「はいはーい、くれぐれも夜道には気をつけてね」

「おう」

 

 

 

       ✟

 

 

 

 第四技術室を後にしたアストは通路を歩く。

 隣にはアセナが見送りにきている。もっとも、エントランスまでではあるが。

 ふと気づけばここには自分とアセナだけ。周りには局員もいるが、聞き耳を立てているような者はいないだろう。

 

「なあ親父」

「なんだ?」

 

 ヴィヴィオにはああ言ったが、いい機会だし聞いておきたい。

 

「親父となのはさんってなんかあったのか?」

 

 やはり気になったのだ。

 あれだけの交友関係があって、アストは今までなのはと会ったことは無かった。

 だから昔、何かあったのではないかと思った。

 子供ながらに父親が心配だったというのもある。

 だから、聞いてしまった。

 

「……昔、少しな」

 

 そう言葉数少なく答えたアセナの横顔は、何かを後悔しているような、様々なものが入り混じった複雑な表情をしていた。

 

「俺としてはもう気にしてはいないんだが、どうも向こうがな」

「じゃあ、今まで会わなかったのも?」

「それは俺が、距離を置いていた。高町からじゃない。むしろあいつは……」

「……」

「まあ、色々あったんだ。お前が気にすることじゃない」

 

 苦笑しながらアストの頭を撫でるアセナの表情はやはり優れない。

 やりきれない、そんな風に見えるその感情は、なのはに向けられたものなのか、それとも……

 

「……ごめん」

 

 アストも父親をそんな気持ちにするつもりはなかった。

 興味本位と言われても仕方がない。

 だが軽い気持ちで聞いたわけでもなかった。

 

「何でお前が謝るんだよ」

 

 再び苦笑しながら頭を撫でてくる。

 別に気にしていない、だから気にするな。そう言っているかのように。

 

「悪いのは俺なんだ。いつまでも引きずっている……俺が」

 

 そう小さく呟いたアセナの言葉は幸か不幸か、息子には聞こえていなかった。

 

 

 

       ✟

 

 

 

 外に出たアストが見たのは一面の雪景色……正確に言えば雪景色と言えるほど積もってはいないのだが。ここに来た時には降ってはいなかったので降り始めてそれほど経ってはいないのだろう。

 生憎傘の類は持っていないので、紅いコートに着いているフードをかぶりコートの前を閉める。多少ではあるが防寒対策にはなる。

 

(フードに雪が入られても面倒だからな)

 

 実際はこっちの方が占める理由としては大きいかもしれない。

 フードを被りながらでは目立ちそうだが、時間も遅いため人気は少なく、周りを見てちらほらいる程度だ。

 雪の積もりつつあるアスファルトの上を歩く。

 父親との会話もあったが深くを考えるのはやめた。自分にできるのはほとんどない上、やはり父親たちが何とかするべきだということも感じてしまった。

 ならば自分にできるのはいつも通り接することだけなのだろう。

 

「さむっ……」

 

 住宅エリアに入ったのか人気はさらに無くなっている。時間もありこの雪だ。皆家の中で思い思いに過ごしているのだろう。

 二つの月の光が降り注ぐ雪を照らし、暗い夜を幻想的に彩っていく。

 実は美的感覚が良くないと酷評されがちなアストでも、目の前の景色は十分に綺麗だと感じている。

 立ち止まり、目の前の景色を目に映す。

 デバイスのディスプレイを表示するとすでに21:00を回っていた。

 すこしペースが落ちていたのかもしれないと考え、歩みを速めながら街灯に照らされた歩道を歩く――ことなく振り返る。

 

「で、俺に何か用?」

 

 後ろを向き、視線を上げれば街灯の上に一人の少女の姿。

 身長は今のアストよりも少しだけ高めで、特徴的なバリアジャケットを身に着けている。

 二房に束ねた碧銀の長髪。バイザーを着けているためよく見えないが顔立ちは整っているように思えた。

 

「ええ。貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」

 

 凛とした声が静かに辺りに広がる。

 雪が降り、月が煌く夜天の空の下の邂逅。

 先ほどヴィヴィオの言葉が脳裏を過る。

 

「まあ、構わねえけど……あんた誰だ?」

 

 あるいは必然の邂逅だったのかもしれない。

 少年と少女の少しだけ普通じゃない出会い。

 少女が頷き、街灯から降り立つ。

 

「カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト」

 

 バイザーに手をかけ、その美しい顔立ちが露になる。

 紺と青の、ヴィヴィオとはまた違う虹彩異色。

 その澄んだ瞳がフードに隠されたアストの深蒼の瞳を迷うことなく射抜く。

 

「『覇王』――そう名乗らせて頂いています」

 

 

 




次回、戦闘回




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