古木のトビラが開かれると、草木のクールな色と水のキュートなせせらぎが
侵入者を出迎えた。そこは植物庭園の様な、生命溢れる空間。
…………ディアナの迷宮塔・ジュピターの間…………
「やっぱりココにも罠とか魔物、潜んでんのかなぁ…」
テトラたちはしばらく、警戒しながらゆっくりと草木のあいだを歩いていった。しかし。
……銀色のセージ、水色のサフラン、白雪色のラベンダー……
「…はて……??」
「てっきり食人植物でも湧いてくるのかと思ったが…」
「行き止まりのようだな。」
木製テーブルと、それを挟むように長イスがふたつ。
ひとまず、みんなして座った。ふぅ。まったりタイム。
……テーブル上には、「お皿」の様なものが1枚……
ヴェルディは足組み、ナラシノは腕組み、レジンキッドはフリーズ。
テトラは突っ伏したまま喋る。
「ウ~~ン、なんだろ…凄まじく親切なヒントに取り囲まれている気がするよ?」
「……そうか。コレだ。」
魔女ニーキスは「戦利品」のことを思い出した。
この迷宮塔で得たものは、
「聖なる灰」「ポムポムの種」「ムーンストーン」「火焔の器」…の4つ。
ニーキスはお皿に「器」を乗せ、「灰と種、ムーンストーン」を、
そして最後にその辺の土と水をブチ込んだ。すると……
「!! 芽が、…こ、これは……!」
土の中から出てきた「芽」は目まぐるしく成長、真っ直ぐに伸びて広間の天井を突く!
それによってカラクリが作動。歯車の音がラベンダーの海を引き裂き、
隠し通路をあらわにした。
「おお~~、すごい……!!」
天から降ってきたムーンストーンをニーキスがキャッチ。
テトラたちは緊張と共に通路を進んだ……
…………月の間…………
月色の円形空間。
壁の暖かな灯、天窓の寒空が広間を照らす。
奥の祭壇の様なスペースには金色のススキ、まんまる団子がお供えされている。
「お団子……」
床には人や動物、月の満ち欠けが描かれたモザイク画。
テトラたちがその上に立つと、小さな光が1ヶ所に集まった。
「!!」
キラキラとぼやけるシルエット。
……月の精霊・ルナが具現した……
狐色の髪の少女……
彼女はその長い髪をフワリと風になびかせながら、三日月型の浮遊体にゆっくりと腰掛けた。
何かワサワサと毛をとんがらせた生き物を両腕で抱いている。
「…あなたが、ルナ……?」
「……はい。私が月霊のルナ……皆様初めまして。」
テトラは麗しき月の精に交渉を試みる。
「あの、わたしたち、あなたの…ルナ様の力が必要なんです。
力を貸していただけないでしょうか…!」
「それはやはり争い事の為でしょうか?」
ルナは優しい眼差しと可愛らしい声で、優しくない言葉をテトラに返した。
少し戸惑うテトラ。
「わたしたちは…いいえ、わたしはただヴェルディを、こちらのヒトを助けたい。
……たとえ誰かを傷つける事になっても!!」
「!……」
「あっ、わたしはテトラと申します…。」
ルナは瞳を閉じて少しのあいだ思い巡らせていたようだったが、やがて静かに瞼を開けた。
「テトラさん。…実は私は、生まれたてのまだまだ未熟な若輩精霊。
大して力になれないかもしれません…」
「??生まれたて??」
『精霊は長命だが不死じゃあねえ。
ウン十年前にルナは死に……そしてまた新たに生まれてきたのだ。』
ルナに抱えられていた生き物(ハリウサギ)が喋りだした。やけにシブイ声。
『ルナがこのディアナ塔に生まれて14年。
精霊の14年なんて人間なら赤ん坊同然だ。
……お前たちは赤ん坊をケンカか何かに巻き込もうってのか?』
「ッそんなつもりは。でも、魔力異変の事、知らない…んですか?!
このままじゃルナ様も、ルナちゃんも、……!」
『それは風のウワサ、シルフたちのウワサで耳にしてる。
時折飛んできて教えてくれるんだ。
だが、なァ………。
人や妖精がクロリムのバランスをどうにかしようなんて、そんなの、不可能だろう……
ハッキリ言うとな。ムダだ………』
テトラたちは、おそらくその言葉の裏にあるであろうシンプルな想いを感じていた。
ハリウサギの優しい気持ちを。
「……ま、待って………!」
断念すべきかと顔を見合わせるテトラたちに、
ルナの小さいながらも力の込められた声が投げかけられた!
「実は何度か、「声」を聞いたんです。女の子の声を……」
『? 何を言って…』
「月の精霊は遠くの音・声を聞くことが出来るという…」
と、呟いたのはニーキス。
「私が聞いた声。それは異変とは関係の無いことかもしれません。
今更遅いかも、ムダなのかもしれない。
それでも……
声のする方へ私は行きたい……!!!」
『ルナ……』
「ムーシュも見たでしょう? テトラさんたちが罠をはね除け、星空を駆け回り、
不滅なる影をやっつけてしまうのを。
私はそんなテトラさんたちを、信じたい。」
「ルナちゃん……。 そうだよ、行こうルナちゃん!
穴に落ちるかもしれなくても。
コワイ魔物に食べられるかもしれなくても。
たぶん、ムダじゃない。遅くなんてないよ。」
……ところで……
「ヴェルディって幾つだっけ?」
「今、それ聞くのか…」
妖魔ヴェルディは15歳。妖魔の15は火の玉同然……