テトラ一味は海を渡り、西の大地ワイルドヴェルトに降り立った。
ワイルドヴェルトはその半分以上が荒野。砂嵐にまぎれて妖魔盗賊が行き交う、
とても暮らしやすいとは言えないダーティな世界だ。
魔導器の材料やら燃料やらがたくさん採れるため、内陸の町には魔導器職人や
売り買いする者たち、そしてそれを奪い盗るワル…
いろんな人たちが集って割と賑わっているらしい。
テトラたちはたった今、町に到着したところだ。
…………荒野の町ミザール…………
「やっと、着いた、…………よし、……み、水……。
ヴェルディ、直近で水が飲めるトコに早急に導きなさいワレワレヲ…………」
「オウ……マカセロ…………!」
一味のリーダー・テトラは大きな筆に体重を預けて杖の代わりにしつつ、
使い魔(?)ヴェルディに案内を命じた。
井戸は、蛇口は、湧き水は。命うるおす水いずこ…
「!?」
ヴェルディが駆け出そうとしたところに突然、見知らぬ男が現れぶつかりそうになった。
「……おお、てめえは、なんだ、ヴェルディだっけか!?」
「…? あんた、誰?」
木造の建物と建物のスキマから出てきた謎の男。 男はボロいポンチョに身を包み、
黒い帽子をかぶった黒ひげ。少し息を荒らげているが…
「おい、いたぞッ!! こっちだッ!!」
今度は遠くの方から、黒ひげとはまた別のヤツの声。なにやら結構な数の対魔士が
押し寄せてくる…!
黒ひげは立ち去ろうとするも何故かその場でガクリと膝を落とす。
「……ケガしてる……?」
魔筆ノクティルカのざわめきが、テトラに黒ひげの流血を気づかせた。
乾いた地面にぽつりぽつりと赤い血痕。
テトラ一味と黒ひげは、あっという間に大勢の対魔士たちに包囲されてしまった。
「コリャまいったゼ…よォヴェルディ、助けてくれや。」
「助けるったって、あんた……(誰だ)」
「貴様ら仲間かッ、全員引っ捕らえろッ!!」
「!?…………」
…………
……
…
◆
さて。 我らがリーダーによれば「話せばわかるでしょ」とのことだったが……
「どうしてこう、厄介なことに…」
ヴェルディ少年は薄汚れたベッドに座ったまま呟く。
そこは暗く冷たい真四角の空間。 正面に鉄格子が取り付けられており、その向こう側…
通路を跨いだ反対側には同じような真四角の空間がキレイに並んでいるのが見える。
なんというかまあ、テトラ一味(+黒ひげ)は対魔士たちに捕らえられ、
ベーシックな作りの牢屋に一人一人バラバラに入れられてしまったのだ!
…………ミザール地獄牢…………
しばらく通路を観察したところ、どうやら等間隔で魔導人形がテクテクと巡回している。ふむ。
ヴェルディがあれこれ考えていると、壁をスルリとすり抜けて精霊ルナが入室してきた。
ルナだけはその霊体のおかげで捕まらずに済んだのである。
(お待たせしました。)
(テトラはなんて言ってる? 「すぐ出してくれるでしょ」ってか?)
(! まさに、そう言ってました。)
(大人しく待てってか。そんなオキラクな…)
ヴェルディとルナがコショコショバナシをしていると、となりの牢屋から男が壁越しに、
やはり巡回人形にバレない程度の声で話しかけてきた。
(ヴェルディ、聞こえるか。力を貸せ。脱獄する。)
(!? 黒ひげのオッサンか?そもそも、あんたに巻き込まれて俺らはッ……)
(まあ待て。聞けよ。…もし脱獄に失敗したら、オレに脅されてイヤイヤ協力したと言えばいい。
その時は今度こそオレもしっかり「コイツラはオレとは無関係の一般人だ」と、
対魔士共に分からせてやるゼ。)
……う~~む……
(ヴェルディよォ、頼む。行かなきゃなんねェトコがあるんだ。…「時間が無ェ」……
妖魔のお前ならわかるだろう?)
(!………)
ヴェルディは黒ひげの言葉に何かを察した。
(…よし、ルナ。テトラに伝えてくれ。)
(? はい。)
(「おそらくこの地下牢獄は心無い操り人形たちに任せっきり。なんとか地上に出ないと
話も聞いてもらえないまま永久に監獄生活だ。」ってな。)
(では伝えてきますっ……)
(待った。あともう一つ、「俺はこんなトコで死にたくない。」)
◆◆
(そう…だよね。………)
テトラは伝言を聞き終えるとやがて立ち上がる。
(しょーがない。ルナちゃん、ワルいけどヴェルディに伝えてきて。「オーダー、
脱獄を遂行しろ!!必ずわたしを救い出して、青空の下に送り届けること!!
よろしくドウゾ!!!」)
◆◆◆
精霊ルナは再び妖魔ヴェルディの牢屋にオジャマした。
(了解した…よしルナ、巡回人形の数はどんくらいだ?)
(10数人くらいかと…。ヴェルディさんのおっしゃった通り、等間隔で通路をグルグル歩いている
みたいです。通路は真四角。一ヶ所、上階へ続いているであろう階段がアッチの方に…)
と、キレイな指で指し示すルナ。
ふむふむ。
ま、なんとかなるかな。
ヴェルディは一息ついて、さあ行きますかとルナの目をチラと見た。
「オッサン!! 行くぞ!!!」
ヴェルディはフェンリル化! ベッドを蹴っ飛ばして鉄格子をガブガブと破った。
妖狼ヴェルディが通路に出ると、となりの牢屋から同じようにして赤黒い妖魔が出てきた。
『オッサンじゃねェ。オレはガストロ……昔会ってるんだがなあ……まあいいか。』
一応はヒトの形をしているが、ツノや翼や尻尾を持った「魔界の住人」のような出で立ち。
ヴェルディをケモノ型妖魔とするならガストロはまさしく「アクマ型」。
チャームポイント(?)の黒ひげは消え失せすっかりアクマ化・臨戦態勢。
『ガストロ。人形を片付ける。』
『オウまかせろ!』
……vs.ハートレスドール×13!……
ヴェルディとガストロは一瞬、背中合わせになると勢いよく反対方向へと進撃!
『……幻竜拳』
『爆竜拳!』
『……飛燕連脚』
『割破爆葬!』
『……灼風狼火!』
『灼地滅穿!!』
オオカミとアクマは電光石火の如く、人形を蹴散らしていく!
地上に居るであろう衛兵に人形たちが脱獄を知らせるスキを与えない。
すぐに二人の妖魔は通路をグルリ半周。反対側で再会する。ラスト一匹を挟み撃ちだ。
『大したことなかったな…デェヤッ!!』
『くたばれッ……陽炎!!!』
オオカミの突進攻撃で吹き飛んだ人形に、アクマが上空からトドメの一撃!
アクマの爪に裂かれた人形は機能を停止した……
『フゥ。ひとまず一掃したかな…』
『中々やるじゃねェかヴェルディ!』
『あんたも結構なオテマエで。』
◆◆◆◆
オオカミはテトラを閉じ込める鉄格子を蹴り破った。
『出るぞテトラ。』
「お疲れ様ヴェ……その後ろのコワイヤツ何!?」
『あぁ、ホレ。』
オオカミ・ヴェルディの背後にいたアクマ・ガストロは、ぞわぞわと身体を波打たせて
人のカタチ…黒ひげのオッサンの姿をテトラに見せた。
「ワルかったな嬢ちゃん。巻き込んじまって。」
「いえいえ。さあさあ、脱獄しましょう!」
そう言ってテトラは黒ひげ…妖魔ガストロと握手した。
テトラは滅多に味わえない「脱獄」というものに、ほのかに興奮気味のようだ…
◆◆◆◆◆◆
ヒューマン組(テトラ・ニーキス・ナラシノ)と合流すると、精霊ルナが先行する。
「皆さまコッチです!」
階段近くの牢屋に武器や魔導書など、没収された品々がゴチャゴチャと押し込まれていた。
そこの牢屋には結界が張られているようだ。
「この結界、私ではどうにも出来なくて…」
そう聞くや否や結界をどつくアクマとオオカミ。しかし結界は破れてくれない。むむ。
「ナラシノ! なんか、『泥酔拳』とか出せないのか? コブシの方のケン。」
「御免、出せない…興味はあるけどね。」
「これくらいならワタシに任せろ!」
魔女ニーキスは指先を噛み切り、流れ出た「血」で地面に魔法陣を書いた。
すると地面が割れて砕ける!
「ストーンザッパー!!…どうだ?!」
砕けた地面が魔力を帯びた石つぶてを飛ばす! 魔石の雨が結界にヒビを作り、
そこへ再びオオカミが蹴りを浴びせると結界は破れコナゴナに散った!
「よしッ!!」
一同は牢屋を漁り、愛用の武器たちを取り戻した!
皆が回収し終えたのを見届けると、ヴェルディは話し始めた。
「これでもう、この地下世界に用は無い。誰にも見つからず地上に、いや町の外に
出られたらパーフェクトだが…」
「ヴェルディよォ。ココの地下牢は盗賊ナカマの間じゃ、『ちょっとやそっとじゃ出られねェ』
メンドクセェトコだって言われてんだゼ……」
「確実に『なんかある』な…」
憂鬱の雲がヴェルディの頭のまわりを流れだした。
と、その時。どこか遠くから声が…
……た……たすけて……くれ…………
「あっ!?」
テトラが没収品の山のふもとに注目すると、そこにはガチャリガチャリと
山の中から這い出てくる、魔導人形レジンキッドの姿が……。
レジンキッドは全身を鎖でぐるぐる巻きにされ、埋もれていたようだ。
「ごめん忘れてた……」
「忘れてくれるな……」
◆◆◆◆◆◆◆
何はともあれ、一味は難無く再結集。
青空もしくは夜空を目指して螺旋階段を駆け登る…