魔法使いヘルレイオスは、聖女ミシュラの案内でとある研究所を訪れていた。
……エピクロス科学研究所……
「これは…?」
「まだまだ実験段階。 カラクリ人形の域を出ませんが、
…魔導人形。魔科学の力で動く、機械仕掛けのしもべです。」
魔科学の力で動く…聖女はそう話したが、
ヘルレイオスの眼前に寝そべった「ソレ」は静止していた。
確かに人の形をしている。
だが人ではない。
金属なのか革なのか。冷たい色が体を覆っている。
そばには「ソレ」とは別の個体が壁際にいくつか並んでいた。
そのいくつかは骨格がむき出しで、ガイコツみたいだ。
一応、人の骨の形をしている。
だがやはり人ではない。
「再現途中」ということなのだろう。
「こんなものを造っていたのか…しかも秘密裏に。」
「もう近々、試験導入される予定です。
まずはカンタンな見張り役などから、ゆくゆくは…守護兵となってくれるでしょう。」
「人々はきっと嫌悪するぞ。最悪クーデターが起きて、
愛する国民がお前を殺しにくるかもしれない…」
「それも覚悟の上ですが、…
そうなったときは、どうかあなたの魔法の力で助けてください。」
聖女ミシュラは優しく微笑んだ。
……。
これは純粋に頼ってくれているのか、女皇サマの御命令なのか。
俺みたいな若造にはさっぱりわからないぞ…
「何故俺をここに?」
「例の妖魔。少女は『ポルカ』と呼んでいましたが、
私はあれを魔導人形と共に打倒したいと思っています。」
「!…」
「この人形があの怪物を倒すことができれば、人々は人形への嫌悪を忘れ、
人形たちは信頼を勝ち取り、楽園は完成します。
なかなか良いシナリオじゃありませんか?」
この女。いたって真面目なカオで嬉々として話しているが…
「まあ、キライではないかな。
そんなに上手くいくとは思えないが…」
何はともあれ、まずは捜索だ。
探さなければ。
マダラけもののポルカと少女…
◆◆
科学研究所の実験開発棟から煙が立ち上る。
排気ガスというやつだ。
それが天空の雲を汚して、いつか雨となって魔法画に降り注がれる。
その結果、魔科学反応の末に 【幻魔ポルカ】 は生まれたのだ。(魔”化”学反応か?)
このまま聖女の思惑通りに行くのなら、
まあ良いシナリオと言えるのだろうか……?
◆◆
……コモレビの森……
都市からどれだけ離れたのか。
森の中に幻魔とテオリアは退避していた。
完全なコントロール下ではないが、ある程度、
幻魔は少女テオリアの言うことを聞いてくれるようだ。
幻魔はテオリアの言うとおり、森に帰ってきた。
さて、ここで今更、幻魔の心情を記述する。
その心情とは素直で切なるものだ。
大きく二つ。
「少女を助けたい」、そして「少女を食べたくない」、というものだ。
前者はもちろんポルカのアイデンティティそのもの。
後者は、いろいろなものを食べ・飲み込み・吸収したせいで自意識が溶け始め、
主人テオリアをテオリアと認識できなくなりつつある
自分自身への恐怖だ。
幻魔の本能は食料を欲しているが、
ポルカの心はただひたすら慌てふためき、怯えていた…
この数日間、ご主人様はグミを数個と、川の水をすすっただけ。
テオリアはすっかり衰弱していた。
ポルカは意識のあるうちに人里に下りたが、
幻魔の本能にジャマされて、ご主人様を町人に預けることには先程失敗したところだ。
「ごめんねポルカ…町の人にいっぱい…槍でいじめられちゃったね…」
少女の謝罪。
それによってポルカの悲しみは一層深まり、血管の中を暴れた。
アイデンティティは壊れて、けものの本性が主人を喰い殺そうとしている。
この弱弱しい心は今にも潰れて消えかかる。
そんなことさせるか……!!!
…ポルカのねがいを神が聞き入れたのか。通り雨が魔力でその体を燃やしたか。
そんな理屈はどうでもいいことだ。
まるで溶けゆく氷のように、幻魔の巨体はじわじわと縮まり、
まるで神の彫刻のように、みごとな人の形を成した。
彼は人間ではない。
だが確かにポルカは人の形となった。
「…テオ、リア。 キコエルか、テオリア。ワタシの、声ガ…
…ミロ、テオリア。コノ弱弱シイ身体を…
人の形ダ!!
…こレなら人に槍でつつかレることもナい。
…お前を喰って飲み込むようなこともできナい。しないで済ムぞ……!!!」