「めし、や。飯屋、か…」
「ほらポルカもいっしょに来て…?
私を置いて、どっか行ったらダメなんだよ!?」
「うム…」
ご主人サマを餓死させるわけにはいかない。
幻魔ポルカは少女テオリアと飯屋に入店した。
……飯屋・たべ砲台……
なるホど。
ドウブツは、オスが食料ヲ狩りとって、メスや子にエサヲやる。
ヒトも同じように仲間にエサヲやるのだ。
ここはきっとそういう場所なノだ。
「ちょうどいいじゃん、ポルカ、アレやろう…(一応まだ衰弱中)」
テオリアの手はとある貼り紙を指し示していた。
テオリアは幻魔ポルカに 【大食いチャレンジ】 を提案した。
テオリアの所持金は心もとなく、幻魔は無一文だからだ。
ポルカの大食いチャレンジ。
…幻魔ポルカはヨユウでたいらげた!
相手は惑星の半分を持ってきたようなチャーハンだったが、
幻魔にとって食べることなど朝飯前だ。
ついでにちゃっかりテオリアもチャーハンをもりもりと食い、幻魔のあるじは死を回避した。
「毎日来ちゃダメですか?」
「ダメに決まっとろうが!! まったく、よく食うガキ共だな。」(店主)
ポルカはLv2にあがった!
「テオリア。 お前は、イエに帰らなくていいノか?」
「まだいいよ。 だって帰って寝たら、ポルカ逃げそうでしょ。」
「逃げるとはナンダ…?」
どこへ逃げろと言うのだろうか…
イチレンタクショウだよ。とテオリアは言った。
彼女も覚えたてのその言葉は、ポルカには解るわけなかった。
……宿屋・北まくら……
「おや。家出か、それとも駆け落ちかね? 安くしたげるよ♪」
宿屋のおかみは何故か妙にゴキゲンでふたりを招き入れた。
夜。
ひとつ屋根の下にふたり。
恐ろしいことに、テオリアはまったく危機感を抱いていなかった。
それでもなにも問題は無かった。
幻魔ポルカは性別はおろか、生き物かどうかもアヤフヤなので、
女子を襲ったりする道理はまったく無いのだ。
「ポルカって、声はおとこっぽいけど。どっちだろね。」
「…」
「ここのおフロが混浴でよかったねっ。」
なるほど。
ここは、からだを休める場所なノか。
ふたりは湯船につかると大きく息をはく。小さめの露天風呂だった。
ここ数日、最強生物のようにふるまってきたポルカも疲れは溜まっていた。
材質不明の肉体が癒される。
この肉体は、なンだ?
槍で刺されたときには、たしかに血のようなものが流れ出ていタが。
わたしは、なンだ?
生きているのか?
湯気の中にふわふわ、雑念が浮かんでは消えた。
テカテカとご満悦なテオリアの面持ちを見て、
今はあれこれ考えるのはよそうと、ポルカは思った。
ポルカはLv3にあがった…
……翌朝……
「ポルカ、この帽子あげる。」
「帽子…?」
テオリアは自身がずっとかぶっていた帽子を、ポルカの頭に乗せた。
「耳 丸出しだと、よくない…かもしれないもん。」
「よくない、とは?」
「妖魔だと思われて、嫌われちゃうかも。今更だけど。」
「ようま…」
「"ようま"って、ヒトから嫌われがちなんだって。シスターが言ってた。」
その血に多量の魔力が宿れば、野蛮な獣だろうが温厚な人間だろうが妖魔になる。
つまり妖魔になったその瞬間。 野蛮な獣と一緒くたにされてしまうのだ、とのこと。
「ポルカは、ヒトになれるのかなあ…?」
…なるほど。
人の形になろうとも、未だわたしは野蛮な獣。憎しみの火を焚きつける妖魔?
あるじは私に、ヒトになってほしいようだ。
どうすればヒトになれるのだ?
難問がのしかかる。重荷でもあり、希望でもある。
ポルカはLv4にあがった。
……服屋・七服神……
ふたりは宿屋にて、皿洗いとフロ掃除を手伝ってこづかいを得ていた。
それで服を買おうということだった。
「ポルカって着てるんだか着てないんだか、よくわかんないカッコだもんねっ。」
幻魔ポルカは数日間の暴走のあいだに動植物や動植物タイプの妖魔を食べたが、
幸いヒトは食べずに済んでいた。
だが、だからこそポルカには人間的感性が欠如している。
服とはなんだ?
自然界に服なんてものは無い。
いや待てよ。…なるほど。
人間は毛が生えにくい体質なのかもしれない。
毛のかわりに布をかぶって、身を守らねばならんのだ。
と、ポルカは心の内でわかったような気になった。
ポルカはミノムシなりきりセットみたいな、モサモサした服ばかり買おうとしたが、
テオリアにすべて却下された。
「なにが一体ダメだというんだ…?」
ポルカはLv5にあがった。
◆◆
「…あ、いました! あそこです…」
「…たしかに似てるな。しかし…」
兵士が二人。
急接近し、話しかけてきた。
「ちょっと良いかな?、お嬢さん。」
「この 【手配書】 、なにか心当たりはあるかね?」
……手配書?
はて。 心当たりは無いと言いたいが、なにか見覚えがあるような…。
【金髪の少女と、まだら模様の妖魔】
…なるほど。
この手配書はわたしたちを捜している。
よくよく思い返してみると、ポルカは昨日から何度もソレを見ていた。
・大食いチャレンジの貼り紙、の隣!
・妙にゴキゲンなおかみの手元!
・服屋の、服と服のあいだのスキマ!…
一晩どころか当日のうちに手配書を貼り出している!! エストルーズ騎士団おそるべし!
「この 【金髪の少女】 はキミのことだよね?」
「妖魔はどこへやったのだ…??」
若干ベテラン風な方の兵士がテオリアの腕を引こうと近づいた、その刹那。
幻魔ポルカは反射的に兵士の手を蹴とばし、
テオリアを抱きかかえていた。
「あっ。しまった…」(ポルカ)
テイルズオブノワールの基本所作。殴って逃げる。
絶対に真似してはいけない、反逆者の為のバトルマナーだ!!
… vs エストルーズ兵x2 …
人間態ポルカの初戦闘は、残念ながら数秒で決着する。
まず、ひとりは右脚。
ポルカはテオリアをかかえたまま右脚を繰り出す。
その脚は一瞬。竜の頭のような残像を見せると、兵士をふっ飛ばして服屋に入店させた。
もうひとりは左脚。
回し蹴りのベクトルがしなやかに翼を広げ、近くの噴水にベテラン兵士を叩き込む。
水しぶきがはじけると、簡易的な虹がポルカの勝利を祝福した。
ポルカはLv6にあがった…!!
噴水の虹を尻目に逃走するポルカ。
抱きかかえたテオリアはなんだか楽しそうである。
「わたしは、何をやっているんだ…?」
「演劇みたいですごいねポルカ!
それに、"変身"してからまだ一度も暴走してないね!?」
……たしかに。
幻魔の本能を、ヒトの理性とやらが抑え込んでいる?
わたしは、ヒトになれるのか?…
幻魔ポルカは二本足で石畳を踏みしめながら、淡い希望を抱いていた。
人間になるための旅。
そんなものにハッピーエンドはありうるのか?