すごく簡潔に表すと、怪物をヒトに転生させようという話だ。
……エストルーズ宮殿・神託の間……
広間というよりは展望スペース。
屋上に屋根だけ付けたような、風通しの良い儀礼場。
神託の間からは、いわゆる城下町や円形闘技場・城壁の向こうの山河。
そして天空の星々の動きが一望できた。
修学旅行キブンでそこらをひととおり見回った後(主にテトラが。)、
一同は中央に集まる。
ここでいよいよ人体錬成を行うのだ。
:幻魔ポルカ
「仮に儀式が失敗に終わった時。
わたしはお前たちによって倒されるのだろう。
それはもはや、やむなし。
だから今のうちに感謝を述べておきたい…皆ありがとう。
わたしが生き延びる道をわざわざ探してくれて。…テオリアもな。」
:テオリア
「…ポルカ…」
:画家テトラ
「成功するよ。大丈夫だよ。」
少女テオリアは頭を撫でられると、その場をゆっくり離れて安全地帯まで退いた。
テトラたちは念のため武器を持って待機する…
:太陽神エンテラス
「では、始めるぞ。 精霊諸君!!」
… vs 生命のことわり …
太陽神エンテラスが精霊言語をささやき始めると、
周囲に結界が張られたのか、景色は屈折して夜中のように暗くなる。
そしてホタルが群がるように、
エンテラスの前方に光が集まる。魔力が集まってゆく。
テトラたちが収集した素材も、浮かび上がって光の中に吸い込まれる。
【バジリスクのうろこ】 は人体骨格に。
【メリクリウスゼリー】 は筋肉に。
【女王茸】 は内臓に。
【かめにんの涙】 は血液になりかわる。
【肖像画】を参考に
具象の精霊マクスウェルが各々を造形し、
治癒の精霊ウンディーネが、立体パズルのようにつなぎ合わせていく。
【転生石】の魔力がその縫合を助ける。
光の中で人体が生成されていく。
幻魔ポルカはその様子を怯えながら凝視する。
自分への憐れみの心がこの儀式を行わせている。
テトラたち・精霊たちの良心が自分を救おうとしている。
それはこの上ない幸福のはずだ。しかし、
生物のなりそこないであるポルカ。
彼ですら今の状況が常軌を逸していると理解できた。
:精霊セルシウス
「もしかすると痛むかもしれん。覚悟せよ。」
冷たい声がポルカの獣耳を撫でる。
人体模型のとなりに寝かされた幻魔ポルカは、唐突に心臓をまさぐられる。
冷凍精霊セルシウスの白い腕はポルカの胸を貫通すると、
心臓を握りつぶすようにして彼の精神を"こおりづけ"にした。
セルシウスは慎重にその精神を抜き出す…
失敗は許されない。
ポルカは初めて、精神が肉体から離れてゆくのを感じた。
肉体…今まで自分の体だと思っていたものが、突然風景の一部となる。
もしくは自分自体が風景の一部となる。
目に映るものすべてが、違ってゆく。
それは世界から見放されたようで悲しかった。
セルシウスはポルカの精神をそっとイフリートに手渡した。
:精霊イフリート
「さあいくぜ、ヤケドするなよ!?」
火の精霊イフリートはポルカの精神を炎であぶる。
すると精神は炎と一体となり、
マクスウェルたちが生成した人体の内部に流れ込んでいく。
イフリートの巨腕は人体を押さえつけて、ポルカの精神を焼き付ける。
さながら心臓マッサージのようだ。
爆炎が人体を轟轟と焼く。
めらめら揺らめく炎の光はイフリートを一層凶悪に演出する。
そして。
人体模型はいつの間にか、ポルカの体だった。
つないだばかりの関節。
縫ったばかりの筋肉。
初めて光を通す眼球。
全身を激痛に襲われる。めまいもする。呼吸もままならない。
「なんだッ…これはッ…!!」
彼は必死に思考を巡らせる…だか何もわからない。
「わたしはッ…誰だッ…!?」
この新たな肉体にキオクはまだ無い。
ポルカは混乱したまま意識を失った…
:少女テオリア
「ねえ! ポルカは無事なの!?
ポルカ!! 聞こえる!? ねえ起きて!!」
:太陽神エンテラス
「安心せい、眠っておるだけじゃ。 あと少しで儀式は完了するぞ。」
◆◆
「…」
「…なんだ?」
「…」
「…なんだ、これは。」
「…ここはどこだ? わからない。」
「…わたしは何をしている? わたしは何を慌てているんだ?」
あたりを見回してもわからない。
ケムリの中に浮かんでいるようだ。
ここには自分以外なにもない…
いや。
ケムリの中に映像が映り始めた。
いくつもの映像がそこらに映る。
それらのほとんどには同じ 【少女】 が登場している。
この映像作品群の主人公だろうか?
そうか、なるほど。
わたしは、この映像作品の作者なのだ。
なかなか愛くるしいキャラクターを造形したな、わたしは。
「…」
いや。
それは逆な気がする。 逆とはなんだ?
ポルカは生まれてまだ一年弱。
その短い生の、短いキオクを取り戻すのはそう難しいことではないだろう。
地の精霊ノームが地脈からキオクを引用。
雷の精霊ヴォルトが電気信号のキオクを送信する。
そして最後に太陽神エンテラスが、
ポルカに生命を付与した…
:???
「起きて!! 起きてポルカ!!」
:???
「ポルカ?…そうだ、…わたしはポルカ…」
:少女テオリア
「ポルカ、死んじゃダメだよ!!」
:ポルカ
「ああ… わたしは今、生まれ変わった…!
わたしは死なないぞ!!」
意識を取り戻す人間ポルカ!
精霊たちは人体錬成と精神移植を成功させた!!
これでもう妖魔と精霊が死ぬことはない…
星の破滅も回避できたのだ。
ついに彼らは成し遂げた。
ポルカを殺さずに世界を救ったのだ。
そして幻魔の抜け殻は動き出した。
ようやくささやかな物語は終わりを迎えるということである!!