テイルズオブノワール ー君を見届けるRPGー   作:ピコラス

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第0話 夜風

落ちこぼれの出来そこないのコシヌケ。

かと言って愛されるだけの愛らしさも、思いやりの心というやつも無い。

信念とかシュウチャクシンの様なたくましさも無い。

…………なにも無い…………

 

盗賊の少年ヴェルディは暗黒の中にいた。

眼前には中々立派な白い建物。

その中には高価な毛皮や光る宝石が眠っている……かもしれない。

大きな金庫が待ち構えているかもしれない。

白い息がフッと生まれてすぐ消えた。

盗賊ヴェルディがここを訪れたのは、しかし盗みをはたらくためではないのだ。

ひんやりとした夜風の感触を背に、

ヴェルディはこっそりと白い建物の中へと忍び込んでいった。

 

「……描けない!!」

少女テトラは白い部屋の中、ひとり闘っていた。

絵筆で紙の上を描き殴ってはクシャクシャと丸めて投げる。

投げた先には同じ様なクシャクシャが無数にあった。

悔しそうな表情で今度は金色の髪をクシャクシャと引っ掻き、

ついにテトラは絵筆を投げようとした。

……その時。

突然ドアが開かれ、振り向くテトラ。

「誰……!?」

「勝手に入り込んですまない……あんたがテトラなのか?」

赤茶色の髪の少年は一応、両手を上げて

『ワルい事をするつもりはない』という風なポーズをとっていたが、

背中には大剣みたいなものが見えていた。なんだこいつは。

「死ぬ前に会っておきたかった、会いたかったんだ……テトラという絵描きに。」

 

今、この世界は光の時代を迎えようとしていた。

どういうワケなのか魔の力は弱まり、多くの魔物や精霊が姿を消し始めていた。

魔の力無くしては生きられない者達。

音も無く消えていく者達。

ヴェルディもその内の1人だった。

彼は妖魔なのだ………

 

「いろんなものを盗んだ。キレイな指輪だとか、胡散臭いツボとか……

その中でも一番のお気に入りはあんたの絵だった。それだけ言いたかったんだ。」

「……死ぬしかないの?……どうして………」

素直な人だなと、ヴェルディは少女の曇った顔を眺めていた。

もう少し年の離れた、あるいは老人の画家を想像していたというのもあって、

ヴェルディは不思議な気分だった。

俺が死んだ後も…

彼女は絵を描き続けるのだろうか。

 

テトラはしばらく固まったままだったが、何も言わず急に絵を描き始めた。

盗人には目もくれずに筆を動かす。なんだこの女。

いつの間にやら窓の外は夜明けを迎えていた。

長い時間揺れ続けた筆は動きを止めた。

だが……

とうとう絵は、完成しなかった。

紙は一面、真っ黒になっていた。

 

「もう少し早く来てくれれば、

あなたが好きになってくれたような楽しい絵が描けたんだけど……

もう、描けなくなっちゃったんだ。

もうずっと真っ黒だ……

夜が明けてもずうっと真っ黒…………」

テトラは笑顔だった。少し寂しそうな笑顔。

かつて魔法の力を借りて絵を描いていた

魔法画家テトラは『死んだ』のだと、彼女は言うのだ。

『死んだ』のだと………

 

「違う!!!」

ヴェルディは叫んだ。

テトラは驚きつつ少年の方を見ると、彼自身も自分の声に驚いているようだった。

「そんな簡単に死なれたら困る!!まだ、絶対に描ける!!

……会いたかったなんて嘘だ……本当は描いてほしかったんだ。

俺は描いてほしいんだ。このまま死ぬなんて絶対に駄目だ!!!」

ヴェルディは衝動的にテトラの腕を掴んでいたが、

少しの沈黙の後すぐに手をはなした。

一瞬。

ふいに何者かがヴェルディを襲った!

 

素早く背中の大剣…みたいなものを取って迎撃。

そこには刺突剣を握った人形が立っていた。

「テトラ、無事か!?」

「えっと……無事だよ。」

目つきのワルい人形はテトラの身を案じているようだ。

部屋の隅で眠っていたそいつは少年の大声で目を覚ましたらしい。

(人形がそもそも眠るのかという事については今は考えないでおく)

二人よりもひと回り小さいが、人形にしてはだいぶ大きめの白い人形……

おそらく魔力で動く、魔導人形とかいうのだろう。

魔力で動いているのなら、こいつの命もそう長くはない……

 

再度襲い来る刺突攻撃。

ヴェルディは武器を床に投げた。

人形の剣はヴェルディの腕をつらぬく。

「人形、俺たちが死ぬのはここじゃない……」

「レジン、この人はワルい人じゃないよ……いや、ワルい人かもしれないけど。

でも、わたし、この人の為にもう一度絵を描きたい……

このまま死なせたくない!!」

 

魔導人形レジンはゆっくりと剣を収めた。

テトラは真っ黒になった紙を拾うと、真っ二つに破いた。

 

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